

2026年9月1日、アメリカ人ジャズ・ヴォーカリスト、カサンドラ・ウィルソンの訃報が届きました。
このところ音沙汰がなく、どうしているのやらと思っていたところにこの衝撃のニュースです。
ミシシッピ州ジャクソンの自宅で息を引き取ったそうです。
享年70歳、今の時代ではまだまだ早い年齢です。
ミシシッピ州ハインズ郡の検死曲の発表で死因は自然死ということです。
カサンドラ・ウィルソンの音楽はジャズ・ヴォーカルのジャンルに含まれますが、通常思い起こされるジャズ・ヴォーカルとは全く違っています。
フォービートに乗ってスキャットを交えながら軽やかに歌っていく、というようなスタイルではありません。
もっとカントリー・ブルーズやR&B、ゴスペルを感じさせるスタイルです。
特に1990年代に入ってからはそうでした。
私はカサンドラ・ウィルソンは1993年にブルーノート・レコードからリリースされた「ブルー・ライト・ティル・ドーン」から聴き始めたクチなので、全キャリアがわかっているわけではありません。
と言いますか初期の頃(M-Base時代)は後追いで聞いてみたのですがあまり引き込まれることはありませんでした。
やはりいいと思ったのは「ブルー・ライト・ティル・ドーン」以降のアコースティックでアーシーなサウンドになってからです。
しかも各アルバムに1、2曲くらい他のミュージシャンのカバーが入るのですが、それがロバート・ジョンソンやサン・ハウスを中心にザ・バンドだったり、ニール・ヤングだったり、ヴァン・モリソンだったりするものですから、もう単純な私のハートを鷲掴みです。
あの異常にシンプル、音数の少ないバックの演奏と共に味わいのあるヴォーカルがのって、素晴らしいアレンジの世界が展開されるのでした。
そういえば2009年に「Closer to You : The Pop Side」というコンピレーションアルバムがリリースされ、そういう有名曲のカバーはここでほとんど聴けます。
これはカサンドラ・ウィルソンの世界を手っ取り早く知るにはいいコンピものですが、本当の魅力は各アルバムごとのサウンドの流れにあります。
そして極め付けはこの1999年リリースの「トラヴェリング・マイルス」、全曲あのジャズ・トランペッター、マイルス・デイヴィスの演奏したナンバーのカバーで構成されています。
マイルスへのトリビュート・アルバムという側面もあります。
しかもマイルスの演奏には基本ヴォーカルは入らないのですが、そこをあえて歌詞をつけて歌っています。
ちょっとした言葉のディテールに不世出のアーティスト、マイルス・デイヴィスへの敬意と愛情が感じられる逸品です。

カサンドラ・ウィルソンは1955年12月4日、ジャズギタリスト、ベーシストで音楽講師でもあるハーマン・フォークス・ジュニアと教育学博士号を取得した小学校教師のメアリー・マクダニエルとの間に3番目の末っ子として生まれました。
この音楽的にも恵まれた環境で6歳から13歳までクラシックピアノやクラリネットを習っていたそうです。
この頃父親にギターを教えて欲しいと打ち明けたそうですが、「『メル・ベイの教則本』で練習しなさい」、と言って直には教えてもらえなかったそうです。
というわけで独学でギターは練習しました。
ミルサップス大学とジャクソン州立大学に通い、卒業すると1年ほどニューオリンズのテレビ局で働きますが、翌年にはニューヨークに移り、M-Baseと呼ばれるスタイルで音楽活動を始めます。
1986年から1992年まで、この時代にも数枚アルバムをリリースしているのですが、今現在youtubeのtopicを見ても1993年以降の音源しかありません。
もしかすると本人ともども今となってはあまり価値を感じていないのかもしれませんね。
本格的に名が知れ渡るようになったのはやはりブルー・ノートと契約してからです。
ここから唯一無二のスタイルでジャズ界での地位を占めるようになりました。
ブルーズやカントリーを独自に解釈してカサンドラ・ウィルソンならではの世界を作っていきます。
カサンドラの代表作といえばスタイルを確立した「ニュー・ムーン・ドーター」とか出世作のブルー・ライト・ティル・ダウン」ななるかと思いますが、個人的に思い入れがあるのがこのマイルスへのトリビュート・アルバムです。
賛否あるアルバムでもあるのですが、このチャレンジ精神は流石です。
彼女の作った音世界に触れられたことは貴重な体験でした。ご冥福をお祈りいたします。
ありがとうございました。

アルバム「トラヴェリング・マイルス」のご紹介です。

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Run the Voodoo Down ラン・ザ・ヴードゥー・ダウン
マイルス1970年の大傑作、「ビッチズ・ブリュー」からの1曲です。
オリジナルよりは速いリズムとなっています。
最初にこのナンバーを持ってくるのはかなりのチャレンジャーです。
多分このタイトル「Voodoo Down」にインスパイアされたのだと思います。
2, Traveling Miles トラヴェリング・マイルス
これはカサンドラ・ウィルソンのオリジナルです。
旅行について、マイルス・デイヴィスと距離の単位(マイル)を掛けています。
稲妻と雷鳴と共に生まれ
誇り高く輝く音が降り注ぐ
風の中を歩き
夜に神を歌う
と始まります。
3, Right Here Right Now ライト・ヒア・ライト・ナウ
1971年のアルバム「ア・トリビュート・トゥ・ジャック・ジョンソン」より
あの激しいサウンドからこの世界を作れるのは流石です。
4, Time After Time タイム・アフター・タイム
オリジナルは1983年のシンディ・ローパーの代表曲です。
マイルスは1985年のアルバム「ユア・アンダー・アレスト」でカバーしていました。
ところどころで強引に心を掴んで持っていくような歌唱はカサンドラならではです。
5, When the Sun Goes Down ホエン・ザ・サン・ゴーズ・ダウン
マイルスに同名のナンバーをレコーディングしたものはありませんが、オマージュとして取り入れています。
6, Seven Steps セブン・ステップス
マイルス1963年のアルバム「セブン・ステップス・トゥ・ヘヴン」のタイトルナンバーです。
ベースのフレーズを元に展開していきます。
なんと言いますかあのテーマ部分の3連で落とした後の加速感がいいのです。
オリジナルももちろん素晴らしいのですがわたくし的にはこのアルバムで一番好きな曲です。
7, Someday My Prince Will Come いつか王子様が
ディズニー映画のタイトル曲です。
マイルスは何度もレコーディングしており、1961年に同タイトルのアルバムもリリースしています。
8, Never Broken ネヴァー・ブロークン
タイトルはマイルス1965年のアルバム「E.S.P」のことです。ウエイン・ショーターの作です。
もちろん歌詞はカサンドラのオリジナルです。
ESPというと超感覚を連想するのですが、歌詞もそういう感じになっています。
こちらはオリジナルよりもゆったりしたリズムで奏でられています。
ESPとは「Extrasensory Perception=超感覚」なんですが、昭和生まれの私は小さい頃は「Extra Special Perception=超能力」とマンガ雑誌などで訳されていたのを思い出します。
9, Resurrection Blues レザレクション・ブルース
マイルスの1986年のアルバムタイトルで、マーカス・ミラーの書いた「Tutu」のことです。
ここではオリジナルの雰囲気を踏襲しています。
10, Sky & Sea スカイ・アンド・シー
マイルス1959年の大名盤「カインド・オブ・ブルー」に収録された「ブルー・イン・グリーン」がモチーフとなっています。
ここでもオリジナルの雰囲気を壊さずにアレンジしています。
11, Piper パイパー
1960年のアルバム「スケッチズ・オブ・スペイン」の「パン・パイパー」です。
ギターが印象的なアレンジになっています。
12, Voodoo Reprise ヴードゥー・リプライズ
あまり関係ないのですがジミ・ヘンドリクスの「ヴードゥー・チャイル(スライト・リターン)」を感じていただきたいと思います。
演奏
- カサンドラ・ウィルソン
ボーカル、左アコースティックギター (5、11) - エリック・ルイス– アコ
スティックピアノ(1、6、10、12) - ケビン・ブライト
エレキギター(1、12)、エレクトリックEBowギター(4)、ブズーキ(4)、エレクトリックマンドリン(7)、リゾフォニックギター(8)、マンドチェロ(8)、アコースティックギター(10)、マンドリン(10) - マービン・シーウェル
エレキギター(1、5、9、12)、クラシックギター(2、8、11)、右アコースティックギター(3、5)、アコースティックギター(4、7、8)、ブズーキ(11) - ダグ・ワンブル
アコースティックギター(2、9)、左アコースティックギター(3) - パット・メセニー
クラシックギター (10) - デイブ・ホランド
アコースティックベース (1、10、12) - ロニー・プラキシコ
アコースティックベース (2–9) - マーカス・ベイラー
ドラム(1、6、7、12)、パーカッション(6) - ペリー・ウィルソン
ドラム(2、3、9) - ジェフ・ヘインズ
パーカッション(1、3~5、7、8、10、12) - ミノ・シネル
パーカッション(2) - セシリア・スミス
マリンバ(3, 9) - ステフォン・ハリス
ヴィブラフォン(6, 8) - オル・ダラ
コルネット(1, 12) - スティーブ・コールマン
アルトサックス (2) - ヴィンセント・ヘンリー
ハーモニカ(5) - レジーナ・カーター
バイオリン(6~8) - アンジェリーク・キジョ
ボーカル (12)
プロダクション
- カサンドラ・ウィルソン
プロデューサー - エド・ジェラード
アソシエイト・プロデューサー - レイ・バルダニ
レコーディング、ミキシング - ダニー・コペルソン
レコーディング - スコット・ゴームリー
レコーディングアシスタント、ミキシングアシスタント - ジェイコブ・ホランド
レコーディングアシスタント - ダグ・ウィン
レコーディングアシスタント - イアン・ダルセマー
レコーディングアシスタント(2、3、9) - ロブ・マーフィー
ミックスアシスタント - ダミアン・シャノン
ミックスアシスタント - グレッグ・カルビ
スターリング・サウンド(ニューヨーク州ニューヨーク市)にてマスタリングを担当 - アレクサ・バードソング
プロダクションコーディネーター - ゴードン・H・ジー
アートディレクション - グリーンバーグ・キングスレー
デザイン - リサ・ボウマン
表紙裏のコラージュ - ジョアンヌ・サヴィオ
写真家 - トレイシー・カルピーノ
スタイリスト、マイルス・デイビスのコンセプト - ドニャール・マクレー
メイクアップ - ドリームストリートマネジメント
マネジメント




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