

1965年6月にデビューアルバム「ミスター・タンブリン・マン」でヒットを飛ばして快調に発進したザ・バーズです。
半年後の同年12月にはセカンドアルバム「ターン!・ターン!・ターン!」をリリースします。
これは長い目で見ればザ・バーズのフォークロックの集大成と言える内容でした。
というのもこの後はサイケデリック・ロックを経由してカントリー・ロックなどへスタイルを変えていくことになるからです。
そしてこのセカンドアルバムもヒットしました。
イギリスでは11位、アメリカでは17位と瞬間風速としてはヒットチャートを駆け上がってトップに上り詰めるということはなかったものの、チャートに40週間インするという息の長いアクションとなったのです。
この初期の二枚は特にハートランド・ロックと言われるようなアメリカンロックにおいてその後のバンドにかなりの影響を与えました。
トム・ペティ&ハートブレイカーズやブルース・スプリングスティーン&Eストリートバンド、ジョン・クーガー・メレンキャンプやジャクソン・ブラウンなどです。
ファーストアルバムでは当然実績もなく発言権もなかったためレコード会社の意向に沿ってジム・マッギンのヴォーカルと12弦ギター以外はほとんどの曲でバックをレッキング・クルーが演奏しました。
レッキング・クルーとはビーチ・ボーイズや一部モータウンのバックなども支える職人音楽集団で実力は折り紙付きではあったのですが、バーズのメンバーはバンド志向であったため自分たちの演奏以外でのサウンドは不本意だったことだろうと思われます。
念願かなってセカンドアルバムでは全曲オリジナルメンバーによる演奏となりました。
ここでもジム・マッギンによるリッケンバッカー12弦ギターの「ジングル・ジャングル・サウンド」がトレードマークとなっています。
そう言う目で見ると(耳で聴くと)若干演奏が不安定と感じなくもないのですが、その方が勢い、新鮮さを感じられると言うのがまたロックの醍醐味です。
アルバムタイトルにもなっているシングルNo.1ヒットとなった「ターン・ターン・ターン」はフォークシンガー、ピート・シーガーの作品で、歌詞は最初と最後の1節を除いて聖書(伝道の書第3章」からの抜粋となっているそうです。
また、ファーストに続いてボブ・ディランを2曲カバーしています。
アルバムジャケットのデザインも素晴らしく、色合いも含めてこの時代のフォークロックを表している感じです。
と言いつつも順風満帆な状況ではなく、アルバムの爽やかな印象と違ってレコーディングの現場ではいろんな不満が溜まっていたようです。
ファーストアルバムに続きジム・マッギンとジーン・クラークの会話を見てみましょう。(勝手な妄想です)

1965年6月ごろ
マッギン:「へへっ、目論見通りファーストアルバムは売れたぜ。レコード会社のお偉いさん相手じゃ思い通りにいかなくてストレスはたまったけどな」
クラーク:「とりあえず実績作れたから、次からは俺たちの思い通りにレコーディングできそうだな」
マッギン:「そうぜよ、ということで今年中にセカンドアルバムもリリースしようと思ってんだ。黒歴史は早めに塗り替えとくぜよ」
クラーク:「あと半年もないぜ。でもそうだな、ビジュアル用に誘っただけの、一番経験のなかったドラムのマイケルもフォークロックだったら叩けるようになってるしな」
マッギン:「そう、次からは俺たちだけのバンドサウンドで行くぜ、お前のストックしている曲と名曲カバーアレンジで十分ぜよ。ただし、そしていつまでも同じことやってらんないから次はもうバーズ流フォークロックの集大成、総集編だぜよ」
クラーク:「また、ディランの曲を美メロに仕上げて目玉にすんのか」
マッギン:「いや、実はもう次のアイデアが決まってるぜよ。ジュディ・コリンズのセッションで知って、後でドライヴ中に閃(ひらめ)いたんだけど、今度はピート・シーガーのカバーでいくぜよ」
クラーク:「えっ、この前ニューポートのフォーク・フェスでディランのロック・アレンジにブチ切れて斧を振り回してケーブルを切ろうとしてた、あのおっさんか。エレクトリックバンドでやったら俺たちも狙われるぞ」
マッギン:「いやホントはすごく真面目でいい人なんだよ。だってこの前見た映画『名もなき者』であの優男(やさおとこ)のエドワート・ノートンがあえて頭を禿げあがらせて、本人そっくりにして演技してたくらいなんだぜ。ついでに言うとエドワード・ノートンに関しては、リチャード・ギアと一緒に出てた『真実の行方』の頃の少年から考えると隔世の感があるぜよ」
(時代、時系列の考証をしてはいけません)
クラーク:「それでいい人の説明にしちゃってるところ・・すごいよ」
そして半年後
マッギン:「ジンちゃん、やっとセカンドのリリースもできたことだし。たまにはラーメンでも食いに行こうぜ。奢るから付き合ってよ」
クラーク:「おかのした」
“いらっしゃいませ”
クラーク:「じゃあ、並で油少なめ、野菜増しで」
マッギン:「(あっ、なんかこいつ変わった。こういうのが余裕が出てきたって言うんだろうな) じゃ、おじさんそれ二つね」
クラーク:「お前もカロリー意識してんな、今のバーズは結構見た目もイケてるからね、お互いロックスターらしい体型は維持しときたいもんだ」
マッギン:「セカンドアルバムのジャケットもいい感じで撮れたしな。みんなビートルズやストーンズ風なんだけどデヴィッド・クロスビーだけ、いきなりメルヘンの世界にいっちゃってる感じがまたオツなもんぜよ」
クラーク:「そこについては一つ、問題あんだよ。お前は歌って、俺は結構曲書いてるから他のみんなよりギャラ高いじゃん、結構みんな不満を持ってんだよ。
特にデヴィッド・クロスビーなんかは音楽にも詳しいし、ギターも上手い、曲も作れるけど使ってもらえないってんで相当鬱憤(うっぷん)溜まってるみたいよ」
マッギン:「そうなんだよ。あいつと一緒に『ウェイト・アンド・シー』って曲を作ってわかったんだけど、その時デヴィッドが結構スゲーことやり始めたんだ。
『異星人の異邦人』なんて曲を弾いて見せてくれてさ、アイツの世界に引き摺り込まれて思わず『それで行こう』なんて言いそうになっちゃったよ。
なんとか気を取り直して、というよりもう訳がわからなくなって、しまいには『オー・スザンナ』なんか歌っちゃった」
クラーク:「また黒歴史にならないといいな。でもあいつはどこ行っても即戦力で通用するよ。そのうち自分でバンド作った方がいいかもな」
マッギン:「そこはわかってる、バッファロー・スプリングフィールドの連中とも仲良いみたいだし。これからバーズも展開も変わってくるからな」
クラーク:「あと、オレの問題もあんだよ。オレってステージではメインヴォーカルでもないし、ただ肩を揺らして歌っているフリしながらタンバリン叩いてるだけじゃん、見てる人みんな思っていると思うよ。
『この人なに?、要(い)る? 必要?』ってね。ほとんどザ・タイガースの岸辺シロー状態だよ。
しかもそんなんで他よりいいギャラ貰ってるんだぜ」
(はい、時代、時系列の考証をしてはいけません)
マッギン:「・・・」(ゴルゴ13状態です)
クラーク:「ということでバンドも軌道に乗ったところなんで、この辺でオレ抜けるよ」
マッギン:「わかった、バーズはこの後、時代を先取りしてサイケな世界に行くよ。その後は本当にやりたかったカントリー・ミュージックを取り入れたいと思う。ただそれ演るにはもう一捻り必要なんだ。フォーク・ロックから直行カントリーだと単なる先祖返りだしな」
ということでアメリカン・ロックの雄、ザ・バーズの活躍は次作、サードアルバム「フィフス・ディメンション」へと続いていくのでした。
以上、全て根拠のない妄想でございます。

アルバム「ターン!・ターン!・ターン!」のご紹介です。

演奏
ザ・バーズ
ジム・マッギン リードギター、アコースティックギター、ヴォーカル
ジーン・クラーク リズムギター、ハーモニカ、タンバリン、ヴォーカル
デヴィッド・クロスビー リズムギター、ヴォーカル
クリス・ヒルマン エレクトリックベース、バッキングヴォーカル(Tr.4)
マイケル・クラーク ドラムス、タンバリン(Tr.5)



曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Turn! Tern! Turn! (To Everything There is a Season) ターン・ターン・ターン
(伝道の書、ピート・シーガー)
このバーズのバージョンはめでたくNo.1ヒットとなりました。
5日間かけて78テイク録って完成させたそうです。
弾き語りのフォークソングにビートをつけるという典型的なアレンジが功を奏して楽曲に新しい魅力が出ています。
オリジナルを聴いてみると悪くはないのですが、大ヒットするようには思えません。また自分の心の内を歌っているヒットを狙った曲ではありません。
オリジナル・バージョンです。
エド・サリヴァン・ショーのザ・バーズです。
ここでも不良クリス・ヒルマンがおぼっちゃまデイヴィッド・クロスビーを睨んでいます。
2, It Won’t Be Wrong 悪くはないぜ
(ジム・マッギン、ハーヴェイ・ガースト)
サウンドからしてビートルズ風です。
きっとビートルズの1963年リリースのアルバム「ウィズ・ザ・ビートルズ」のオープニング・ナンバー「It Won’t be Long」に掛けているんだろうと思うのは私だけ?
3, Set You Free This Time セット・ユー・フリー
(ジーン・クラーク)
ちょっとディランに寄せているような感じの曲です。キンクスの「セット・ミー・フリー」にも美ています。
B面「悪くはないぜ」でシングルカットされましたがビルボード・ホット100で63位までしか上昇しませんでした。
4, Lay Down Your Weary Tune レイ・ダウン・ユア・ウィアリー・チューン
(ボブ・ディラン)
ディランがアルバム「時代は変わる」の時にレコーディングされましたが、当時アルバムには収録されず、公式に発表されたのは1983年「バイオグラフ」でした。バーズのバージョンを聞いたディランはロジャー・マッギンに「これを聞くまでは、君たちはただの模倣者だと思っていたが …これは本物の感情がこもっている」と言ったそうです。
オリジナル・バージョンです。
5, He Was a Friend of Mine 友達だった彼
(トラディショナル、アレンジ : ジム・マッギン)
元々は1939年に民族音楽学者アラン・ロマックスによって収集された伝承歌です。
バーズは1963年のジョン・F・ケネディ事件に被せて歌っています。
その後はいろんなアーティストがジョン・レノンやジョージ・フロイドなど殺人事件によって亡くなった人に向けてアレンジして歌っています。
ディランもデビューアルバムでこの曲をカバーしたナンバーをレコーディングしましたがアルバムには収録されなかったそうです。
デイヴ・ヴァン・ロンクのとっても渋いバージョンです。
6, The World Turns All Around Her 彼女は世界の中心
(ジーン・クラーク)
内容は男の子はみんな経験したような世界です。
片思いの彼女が付き合っている男に向けて歌っています。
これもビートルズっぽさが沢山あります。
7, Satisfied Mind サティスファイド・マインド
(レッド・ヘイズ、ジャック・ローズ)
カントリーのスタンダードでカントリー・ミュージシャンはもとより、ゴスペルのマヘリア・ジャクソン、ジャズのエラ・フィッツジェラルド、他にもボブ・ディラン、リンジー・バッキンガムなどもカバーしています。
日本語でいうところの「足るを知る」という人生訓ですね。
マヘリア・ジャクソンのバージョンです。
8, If You’re Gone イフ・ユーアー・ゴーン
(ジーン・クラーク)
これもジーンによる青春ラヴソングです。個人的にはビリー・ジョエルのあの「ピアノ・マン」を思い出してしまうのでした。
9, The Time They Are a-Changin’ 時代は変わる
(ボブ・ディラン)
言わずと知れたディランのフォーク時代の代表的なナンバーです。トーキングブルーズに近いような原曲をカバーするチャレンジ精神がステキです。
オリジナル・バージョンです。
10, Wait and See ウエイト・アンド・シー
(ジム・マッギン、デヴィッド・クロスビー)
デヴィッド・クロスビートの共作曲です。
最初は「なんだかなあ」と思っていたのですが、なぜか聴き込むほどに味わいを増す曲なんです。
11, Oh Susannah おお スザンナ
(スティーヴン・フォスター)
日本人でも昭和生まれの人ならみんな知っているであろうアメリカン・スタンダードです。
ここでは敢えてこのギターフレーズで演っていることにジム・マッギンのパンク精神を感じていただければと思います。
コニー・フランシス・バージョンです。
ジェームス・テイラー・バージョンです。
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