「ファンク、ゴスペル、レゲエのニューオリンズ風味、1980年代を代表するニューオリンズの老舗バンド」Yellow Moon : The Neville Brothers / イエロー・ムーン : ザ・ネヴィル・ブラザーズ

 ニューオリンズのリズムといえばセカンドラインです。
そのセカンドライン・ファンクの雄、ザ ・ミーターズから派生したバンド、「ザ ・ネヴィル・ブラザーズ」はこの1989年にリリースした4枚目の名盤「イエロー・ムーン」で世界的にブレイクしました。

1981年にリリースした2作目の「ファイヨー・オン・ザ・バイユー」はニューオリンズ・クラシックスを取り入れて好評でした。
しかし前作「アップタウン」はカルロス・サンタナ、キース・リチャーズ、ジェリー・ガルシア、ブランフォード・マルサリスなど豪華なゲストで、個人的にはなかなかの好アルバムでしたが、一般的な評価は「ちょっと中途半端なロック寄りで今ひとつ何か・・・」と言われていました。

そこで今回はプロデュースにダニエル・ラノアーを迎えてのオリジナリティ丸出しで堂々たる中央突破を果たします。

当時の日本でも大変話題になりましたが、これについては良質な音楽解説で定評あるピーター・バラカンさんのイチオシということが大きい要因だったと思われます。

ピーター・バラカンさんは英国出身で音楽関係のビジネスで来日し、テレビ、ラジオなどでブラックミュージック、ワールドミュージックを中心に海外の音楽を紹介されてきました。今でも現役です。
バラカンさんの音楽においての日本への功績はとんでもなく大きいものです。気がつけば私も音楽の幅の広さのみならず、音楽の向き合い方まで20代の頃から色々と教えていただきました。

小ネタとして、なんでもピーターさんの姉はキンクスのレイ・ディヴィスと付き合っていたとか聴いたことがりますし、弟さんはギタリストでアメリカで当時評判だったマリア・マッキーのバンド、ローン・ジャスティスに参加していました。

さて本題のネヴィル・ブラザーズです。これぞニューオリンズです。ファンクです。各自芸歴長いので実力は折り紙付きです。以上、あとは存分に音楽をお楽しみください。で終わりたいところですが、そういうわけにはいきません。

私はここあたりから、ここあたりを中心に泥沼のセカンドライン・ファンク に入り込みました。



思えば10代の頃、ロックしか聴いていない頃は “レッド・ツェッペリンもニューオリンズの影響がある”、と言われても “そんな馬鹿な、ご冗談を”、くらいにしか思っていませんでした。
でもそのうちリトル・フィートのニューオリンズとの邂逅、ツェッペリンのジョン・ボーナムはリトル・フィートのドラマー、リッチー・ヘイワードに憧れていた。などと聞けば繋がりが見えてきて、なるほどとうなづける形になります。

ただしジョン・ボーナムにニューオリンズのノリを感じるかというと「そう言われれば、ですかね」という程度になりますが。

ネヴィル・ブラザーズの前身はザ ・ミーターズです。そこを突くとアラン・トゥーサン、ドクター・ジョン、プロフェッサー ・ロングヘアー、ザ ・ワイルド・チャピトゥーラスなどに繋がります。
もうこれだけでニューオリンズ・セカンドライン・ファンクのエッセンスは十分に感じられます。

ニューオリンズはハマると奥が深いものです。ジャズ発祥の地ともブルーズの発祥の地とも言われます。その昔、アフリカからの奴隷船の港があったところであり、コンゴ・スクウェア、フレンチ・クォーター、朝日の当たる家、奇妙な果実、などのキーワードとともに悲喜交交(ひきこもごも)、いろんな想いが浮かびます。
今までジャンルを問わず、いろんなミュージシャンにアイデアを与えてきました。


ハリケーン・カトリーナによって大打撃を受ける2005年以前にニューオリンズに1回だけ行くチャンスに恵まれました。そこでニューオリンズらしい “Big Easy” という感覚が体験できました。

バーボンストリートを歩くとライブハウスからいろんなごった煮の音楽が聞こえてきます。
ニューオリンズとはアフリカンリズムと西洋音楽のごった煮です。

ただ現地で演奏している人たちはそういう細かなことは一切考えておらず、喜んでくれるならマイケル・ジャクソンでもマドンナでもなんでも演ってやるよ。ゆうてみ。みたいなノリでした。
本当はもっと街のはずれのTipitina’sなどネイティブなところへも行きたかったのですけど、予定が合わず惜しいことをしました。

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演奏
アーロン・ネヴィル  ヴォーカル 、キーボード、パーカッション
アート・ネヴィル  ヴォーカル 、キーボード
チャールズ・ネヴィル  サックス、パーカッション、コーラス
シリル・ネヴィル  パーカッション 、コーラス
ウィリー・グリーン  ドラムス
トニー・ホール  ベース、パーカッション 、コーラス
ブライアン・ストルツ  ギター、パーカッション 、コーラス

*アディショナル・ミュージシャン
ダニエル・ラノア  ギター、キーボード、コーラス 
マルコム・バーン  ギター、キーボード、コーラス
ブライアン・イーノ  キーボード、サウンドエフェクト
ダーティ ・ダズン ・ブラス・バンド  ホーンセクション
テリー・マニュエル  キーボード Tr.5
アーシッド・ヒモンズ  キーボード Tr.5
ケニヤッタ・サイモン  パーカッション Tr.1
ラファル・ムートン  パーカッション Tr.1

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   My Blood  マイ・ブラッド

パーカッション主体の音が厚くないこの曲で始まるため、全体に統一感が感じられます。次の曲、展開を聴きたくなるような構成です。
ネヴィルの場合、各人の音楽歴が長く、さらには1970年台後半から活動を始めたバンドでもあるため、リズムの引き出しが豊富です。
ニューオリンズ だけではなくアフリカとかレゲェのリズムも取り入れています。


2,    Yellow Moon  イエロー・ムーン

ダニエル・ラノア らしいというか、怪しい雰囲気です。


3,    Fire And Brimstone  ファイア・アンド・ブリムストン

やっとニューオリンズ っぽい感じになってきました。ノリがさすがです。


4,    A Change Is Gonnna Come  ア・チェンジ・イズ・ゴンナ・カム

素晴らしすぎて言葉がありません。安定の名曲にアーロン・ネヴィルのシルキーヴォイスです。


5,    Sister Rosa  シスター・ローザ

続いてこの曲となると公民権運動を連想します。時代は違いますが。
歴史とか音楽とかについてアルバムに対する本気度が出ています。


6,    With God On Our Side  神が味方

これもそうです。ボブ・ディランの初期の作品です。アーロン・ネヴィルが情感込めて歌います。


7,    Wake Up   ウェイク・アップ

この曲はニューオリンズでもなく、アフリカでもない、カリブ海のリズムです。


8,   Voo Doo   ヴードゥー

怪しい感じが充満しています。ある意味、妖しいサイドのニューオリンズです。


9,    The Ballad Of Hollis Brown  ホリス・ブラウンのバラッド

これもボブ・ディランの曲です。この時期、ダニエル・ラノアはディランの「Oh Mercy」もプロデュースしていたので、ディランの曲をやって欲しかったのかもしれません。


10,   Will The Circle Be Unbroken  ウィル・ザ・サークル・ビー・アンブロークン 

ジャンル的にはカントリーでよく歌われる曲で信仰の歌ですが、こういう曲があると、アルバムに崇高さが増してきます。


11,   Healing Chant  ヒーリング・チャント


タイトルはそうですが、歌は出てきません。ジャングルの夜明けみたいに聞こえます。なんとなく次の曲へのプロローグのように感じます。土着リズムを聞いているだけで面白い曲です。


12,   Wild Injuns  ワイルド・インジュンズ

これぞ必殺のネヴィル節です。


このアルバムはいろんなリズムがありながらも統一感があり、ある種の真面目さ、真剣さが感じられます。


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