「万年赤字経営だったザ・フーがやっと世界的なロック・バンドとなったアルバムで、起死回生のロック・アンセムです。」Tommy : The Who / トミー : ザ・フー

 このアルバムはイギリスのロックバンド、ザ・フーが1969年5月19日にリリースしたオペラを意識したトータル・コンセプト・アルバムです。

ブリティッシュ・ロック・バンド、ザ・フーの代表作とされることも多い大作であり、ロックの名盤です。
全英2位、全米4位という大ヒットとなりました。

実はこのアルバムのビッグ・ヒットによってやっとザ・フーは借金生活から逃れることができました。
それまでステージごとにギターやアンプやドラムセットを破壊したりしていたので、相当に経費がかかっていたようで、マネージャーは資金繰りに頭を悩ませていました。

そこそこヒット曲は出すものの、経費が膨らみ常に赤字状態、火の車だったそうです。
(それでもやり続けたことはすごいのですが)

このアルバムはリリース時から評論家のウケもよく、ビートルズの「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を超えるほどの文学性、芸術性を感じさせるコンセプト・アルバムなどとも言われておりました。

当時はまだキング・クリムゾンやピンク・フロイドなどのプログレッシブ・ロックが出現以前の出来事だったため、かなり新鮮な驚きを持って体験できました。

まさに1970年代に全盛となる、アルバム1枚で一つのテーマを表現する大作プログレッシブ・ロックのハシリであったとも感じます。

「トミー」は今までのザ・フーのアルバムとはサウンド、質感ともに違いました。
ザ・フーは今までブリティッシュ・インヴェンションの中のビートバンド、モッズの象徴という位置付けでしたが、ここで認識が変わりました。

サウンドも今まではR&Bやロックンロールを主にベースにおいたものでしたが、ここでクラシックやオペラ、ヨーロッパのフォークなどを感じるサウンドも加わりました。

かように文学的、哲学的なものも感じられる内容のアルバムは今までロックとは無縁だった層にも触手を伸ばし、ロックの表現する世界を広げて見せたのです。

レコーディングはピートが持ってきたデモ音源をもとに、みんなでアレンジを考えたそうです。
収録曲はほぼピート・タウンゼントによって書かれましたが、トミーがいじめや性的虐待に遭うところは「自分には欠けそうもない」からといってジョン・エントウィッスルに手伝ってもらったそうです。
(そういうところは変に繊細なのです) 

長らくオリジナルのマスターテープはキッド・ランバートが破棄してしまい現存していないという噂でしたが、レコード会社の倉庫に無傷で保管してあるのが確認されました。
2003年以降のリイシューはこのマスターテープから起こされた音源が使用されています。

内容についてはなんとなくフランク・ザッパとの類似性を感じさせるものがあります。
フーの場合、ザッパよりはサウンド構成がシンプルでストレートであり、ザッパ御大みたいに、いきなりとんでもなくお下劣な方向へはいきません。
印象的なメロディと哲学的内容は、より広範囲に大衆にアピールしたのでした。

「トミー」のリリースに合わせて北米、ヨーロッパに向けてコンサートツアーを行いました。
このツアーはかなりの時間をかけて、入念にリハーサルが行われたようです。

そしてかの伝説となった大型野外フェス、1969年のウッドスットック・フェスティバルへも出演しました。

この時のツアーはアルバム「トミー」を網羅する内容のステージのためフェスの出演などは避けていましたが、例外的にウッドストックは出演することにしたのでした。
ギャラは12,500ドルだったそうです。
1ドル150円の現在のレートでは1,875,000円です。(安い!)

その頃アメリカではヒッピーやサンフランシスコのフラワー・ムーブメントなどが花盛りで、「トミー」の示した世界観は「ラヴ&ピース」に妙に親和性があり共感されました。

今までのイギリスの労働者階級の若者ウケ中心と違って、「トミー」はアメリカの若い世代に広く受け入れられたのです。

ウッドストックのザ・フーのステージはジミ・ヘンドリクスと並んで伝説となり、以後は超一級ライブバンドとしてアメリカでの人気が定着します。

ザ・フーの、特にバンドリーダーであるピート・タウンゼントはもしかしたら最初は
「俺たちは馬鹿騒ぎするだけじゃなくて、こういうのもできんだぜ」
くらいの意味合いだったのかも知れません。

しかしこの成功により、当然周囲は次々と次回作へのハードルを上げてきます。
普通に考えてそのプレッシャーは相当なものだったと思われます。
(とはいえ、ザ・フーの連中は元々労働者階級であり、コンプレックスの塊なので開き直りも早いんですけどね。というかうまくいかなければ僻(ひが)んでいじけるだけです。そこがまたステキなところなのです。)

そしてザ・フーの素晴らしいところはビートルズやマイルス・デイヴィスなどと同様、ウケたからと言って同じ場所にはとどまりません。

この後、これまたロック名盤との誉高い「フーズ・ネクスト」、「四重人格」とトータル.コンセプト・アルバムをリリースすることになります。
(諸事情により「フーズ・ネクスト」はトータルになりませんでした。詳しくはこちらの記事をご覧ください)

「四重人格」ではまた初心に戻ったように英国のモッズ少年の生活を描いたものですが、この頃になると世界的なビッグネームとなっており、アメリカでは受けそうもない内容ながら英米ともに2位まで浮上する大ヒットとなっています。

私はリアルタイム(1969年)に接したものではなく、ピンク・フロイドの「狂気」やキング・クリムゾンの「宮殿」と同じ時期に聴いたので、コンセプト・アルバムという点ではすでに馴染んでおり、特に驚くこともありませんでした。

しかしリアルタイムで接していたらその驚きは相当なものだったと思われます。
ともあれこのアルバムによってザ・フーは世界的に認知されロックのビッグ・アイコンとなりました。

作品はバレエ、舞台、オーケストラ、映画、ミュージカルなどでリメイクされる芸術作品となっていきます。

映画については1975年に映画版の「トミー」も制作されました。
前編にわたってセリフはなく、歌だけで構成されたsung-throughという形式の映画です。

必ずしもオリジナルアルバムと同じ内容ではないのですが、ピートの描きたかった世界をわかりやすく解説してくれるものとしてこの映画の存在は大きいものと言えます。

監督はケン・ラッセル、出演はアン・マーガレット、オリバー・リードなど著名な俳優が出演、主人公のトミーはフーのロジャー・ダルトリーが演じています。

またゲストにエルトン・ジョンやエリック・クラプトン、ティナ・ターナーなどが参加していて結構楽しめる内容となっていました。

DV、ネグレクト、いじめ、新興宗教などの現代にも通じるようなテーマが描かれています。

十代後半の頃、初めてみた時は衝撃でした。
水に沈められても顔色ひとつ変えない、視覚、聴覚を失い、さらに発音もできなくなったトミーという青年を演じるロジャー・ダルトリーに役者としての才能も感じたのでした。

ピート・タウンゼントはミハー・ババの影響などが失われてしまって失望したと語っていますが、映画によってストーリーがはっきりしたという功績もあります。

この映画、エリック・クラプトンもピート・タウンゼントも変な短髪で「ちょっと似合わない」などと思って見ていたものでした。

アルバム「トミー」のご紹介です。

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*演奏
ロジャー・ダルトリー  
ヴォーカル、ハーモニカ

ピート・タウンゼント  
ヴォーカル、アコースティック・ギター、エレクトリック・ギター、キーボード、バンジョー

ジョン・エントウィッスル
ベースギター、フレンチホルン、トランペット、フリューゲルホルン、ヴォーカル

キース・ムーン
ドラムス、ティンパニ、ゴング、タンバリン、ヴォーカル 


*ストーリーと解説 
参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

  • Overture(序曲)/ It’s a Boy(イッツ・ア・ボーイ)

    第1次世界大戦時の話です。
    イギリス軍パイロット、ウォーカー大佐は戦闘中に行方不明となり、実家には戦死と報告されました。
    ウォーカー夫人は悲報を聞き、失意の中で息子のトミーを出産します。


    序曲なのでこの物語に登場する旋律をミックスしたものになっています。
    ただしストリングスやオーケストラを使ったアレンジではなく、あくまでライブを見越してバンドで演奏することを考えていると思います。
    アコースティックギターがメインなど、今までのザ・フーのサウンドとは全く違っています。
    制作時、マネージャーのキッド・ランバートは全編でオーケストラを使いたかったそうですが、ピートは拒否したそうです。

  • 1921(1921)

    ところがウォーカー大佐は生きており、4年後、自宅へ戻ってくるのですが、夫人にすでに新しい夫がいるのをを目撃します。
    そしてその夫を殺害してしまうのでした。
    トミーは鏡越しにこれを目撃していました。
    そのトミーに対し、両親は「あなたは何も見なかったし、何も聞いていなかった」(you didn’t see it, didn’t hear it)、そして「このことを一生誰にも話さないように」(You won’t say nothing to no one ever in your life)と言い聞かせます。
    これがトラウマとなり、トミーは視覚・聴覚・発音障害を負ってしまいます。

    一見爽やかなサウンドから一転、急展開を迎えます。

  • Amazing Journey(すてきな旅行)/ Sparks(スパークス)

    荒廃したトミーの潜在意識が、銀色に輝くガウンを着て金色のあご髭を生やした見知らぬ長身の男(He’s dressed in a silver sparked glittering gown and his golden beard flows)として現れ、異常な精神世界への「すてきな旅行」を誘いかけます。
    続くSparks(スパークス)は、トミーが垣間見た精神世界を表現しているようです。


    優しげなヴォーカルながらバックはフーお得意のハードなサウンドになってきました。「スパークス」はフーの自伝映画「ザ・キッズ・アー・オールライト」で見れるウッドストックでの熱量100倍で行っちゃてるようなライブ・パフォーマンスが忘れられません。

  • Eyesight to The Blind (Hawker)(光を与えて)

    両親は彼を治療するためにカルト教団の教会を訪れます。

    このナンバーもシングル向けではありませんが楽曲的には硬軟混ぜ合わせたフーらしいサウンドです。

  • Christmas(クリスマス)

    子供達が楽しみにしているクリスマスの季節となりました。
    両親は、今日が何の日か理解できないばかりか、神の存在も神に祈ることも知らない(Doesn’t know who Jesus was or what praying is)トミーの境遇に嘆き悲しみます。
    「トミー、聞こえるかい?」と語りかける両親に対し、表には出せませんが彼の内なる心がはじめて「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」と答えるのでした。

    クリスマスの楽しい笑い声とトミーの心の中を対比させています。この辺りはもうロジャー・ウォーターズ的なプログレの世界です。

  • Cousin Kevin(従兄弟のケヴィン)

    外出する両親は従兄弟のケヴィンにトミーの子守を託します。
    二人きりになったところで、いじめっ子を自認するケヴィンは抵抗できない彼に対し執拗な虐待、拷問を加えるのでした。


    ここのヴォーカルはジョン・エントウィッスルです。映画で見ると忘れられない光景が出てきます。

  • Acid Queen(アシッド・クィーン)/ Underture(アンダーチュア)

    トミーの両親は再度治療を試み、アシッド・クイーンを名乗るジプシーの元へトミーを連れて行きます。
    彼女は幻覚性薬物を使って彼をドラッグ漬けにしてしまいます。
    Underture(アンダーチュア)はトミーの見た幻覚を表現しているとされています。

    映画ではティナ・ターナーさんの熱演が光ってました。ドラッグ漬けにする方法がまたすごいのですが、普通にオーバードースで死んでしまいます。
    「アンダーチェアー」は「オーバーチェアー」の続きです。レコードではここで1枚目が終わります。

  • Do You Think It’s Alright?(大丈夫かい)/ Fiddle About(フィドル・アバウト)

    両親は今度は叔父のアーニーにトミーの子守を託します。異常性愛者のアーニーは抵抗できないトミーに性的虐待を加えるのでした。


    ここもジョンがヴォーカルを撮っています。
    映画ではキース・ムーンが大活躍です。なんと言いますか、ヤバそうな人がヤバい人を演じていているというところが見ものです。


  • Pinball Wizard(ピンボールの魔術師)

    トミーはピンボールをやってもみたところ、突如としてその才能を開花させます。
    彼は大会でチャンピオンを負かし、一躍“ピンボールの魔術師”と呼ばれるスターになりました。
    人々は三重苦の青年が確実なプレイをすることに驚き、彼は突っ立ったまま機械と一体化し(He stands like a statue, becomes part of the machine)“匂い”でプレイしているのではないか(Plays by sense of smell)と訝しみながらも彼の奇蹟を賞賛したのでした。


    映画ではなんといってもエルトン・ジョンのパフォーマンスが見ものです。フーの演奏シーンも出てきます。これはアルバムの中でも屈指の名曲です。

  • There’s a Doctor(ドクター)/ Go to the Mirror!(ミラー・ボーイ)

    両親は彼を治療できるという医師を見つけ出します。
    病因を解明するために数多くの試験を試みた結果、医師は、彼の肉体は完全に健常で病因は精神性のものである(Needed to remove his inner block)と結論づけました。
    彼の内なる心は再び「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」と語りかけます。


    これもトミーの外の世界と内の世界を描いています。ここでアルバムを象徴する旋律、See me, Feel me・・・とListening to You・・・が登場します。

  • Tommy, Can You Hear Me?(トミー、聞こえるかい)/ Smash the Mirror(鏡をこわせ)

    「トミー、聞こえるかい?」と熱心に呼びかけるものの、それに応えずただ鏡を見つめるだけの彼に業を煮やした母親は鏡を壊してしまうのでした。

    物語が佳境に入ってきました。鏡を壊す音で終わります。

  • Sensation(センセイション)/ Miracle Cure(奇蹟の治療)

    鏡を壊したはずみにトミーは覚醒しました。
    彼が完治したというニュースは世界を駆け巡り一世を風靡しました。
    導師のような立場に祭り上げられた彼は、教祖としてファン達を教化するようになります。

    ここでのヴォーカルはピートです。

  • Sally Simpson(サリー・シンプソン)

    この曲のみ、トミーの熱心な信者の一人であるサリー・シンプソンを扱ったスピンオフ・エピソードです。
    彼女は聖職者の娘だったが家出してトミーの説教を聞きにやってきました。
    トミーに触れようと手を伸ばした彼女は警備員によりステージから投げ出され、顔に傷を負ってしまうのでした。


    スピン・オフの内容ですがこのアルバムの中では明るい曲調で、悲惨な内容にも関わらずなぜかポジティブな感じで歌われます。
    普通にいい曲です。

  • I’m Free(僕は自由だ)

    トミーは治癒によって得られた自由を満喫し、説教を聞きに来た人々を教化しようとし始めます。

    この展開が一筋縄ではいかないところです。

  • Welcome(歓迎) / Tommy’s Holiday Camp(トミーズ・ホリデイ・キャンプ)

    トミーは自宅を教会として開放し、より多くの信者の獲得を命じます。
    すぐに自宅が一杯になってしまったため、彼は誰でも参加できるホリデイ・キャンプを開設し、その運営を叔父のアーニーに託しました。
    しかし、アーニーは信者を教化するというキャンプの目的を無視して私腹を肥やし始めたのです。


    人間の性(さが)・・・と言いますか世の中そういうもの、そういう人が必ず出てくるんですねえ。

  • We’re Not Gonna Take It(俺達はしないよ)

    トミーは信者達を境地へ導くために、飲酒や喫煙者を排斥し、目と口と耳をふさいた状態でピンボールをプレイするよう命じます。
    しかし、このような無茶な教義や彼の一族による搾取に反発した信者達は、「もうついていけない、こんなことはもうご免だ(We’re not gonna take it, Never did and never will)」と、彼に反旗を翻し、キャンプは崩壊しました。
    何もかも失った彼の発する内なる声「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」とともに物語は終わるのです。

結局、トミーは救われて覚醒したのですが、そうしたところで、人生はうまくいくものではありませんでした。

結末をどう解釈するかはあなたにお任せします。


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