みなさん映画「Blue Giant」を見られましたか?
ということで上原ひろみさんについて語らせていただきます。(ミーハーです。単純なのです)
すでに彼女のピアニストとしての技術、表現力については世界でもトップレベルとの評価が与えられています。
デビュー当時から、彼女の演奏を聞くたび「ピアノを思いのままに鳴らしきっている」と感じていました。
楽器を演奏したことがある人はわかるとい思いますが、どんな楽器でも奥が深いものです。
大概の人は楽器に操られるだけで終わります。
うまくなってくると楽器と対等になり、お互い操れるようにもなります。
楽器との相性なども感じるようになり、同じ楽器でも個体差を感じるため機器にこだわるようになります。
さらにもっと行くと楽器のポテンシャルを最大限発揮させて鳴らしきれるようになります。
ホントにすごい人になると、技術的に云々とかではなく余裕で楽器の弱点までもカバーして逆に利用するとか、頭に浮かんだ音、メロディを瞬時に表現できるとか、今まで誰も知らなかった楽器のポテンシャルを引き出してあげるとかまでもできてしまうようです。
と、その域まで感じさせてくれるのが上原ひろみさんです。
特に彼女の場合、他の人には感じられないほどの色彩感をピアノで出しています。
ライブでは大西順子さんにも感じましたが、同じかそれ以上に問答無用でピアノを存分に鳴らしきる上原さんは見ていて痛快です。
ピアノソロになると「いや、そこまで行ったらもう戻って来れなくなっちゃうよ」というところまで行ってますが、あっちの世界で迷子になって壊れることなく、最後はちゃんと元の曲に戻って来れるところがなんともすごいと思います。
もうすでに海外でも有名なジャズ・ピアニストとなっていますが、特筆すべきは2012年「MOVE」から2016年「SPARK」までピアノトリオで「The Trio Project」と名付けられた活動をしていた頃です。
ベースはアンソニー・ジャクソン、ドラムスはサイモン ・フィリップスというとんでもいなくスペシャルな編成で甲乙つけがたいレベルの3枚のアルバムをリリースしました。
上原さんのやることですから、「ピアノトリオによるジャズ演奏」という枠はありません。フュージョンともロックともカテゴライズできないのが彼女の作る世界です。
メインはピアノですが、サイドメンがまたとんでもなくやばい連中です。(褒めてます)
ドラムのサイモン ・フィリップスさんは長い音楽歴がありますが一つのバンドにいることはなく今までザ・フー、ジェフ・ベック、ミック・ジャガー、TOTO、エイジア、ゲイリー・ムーア、ジューダス・プリースト、マイケル・シャンカー、ジャック・ブルースなどと錚々たる大物ロックアーティストとレコーディングしてきました。
よくもこんな個性的な人たちと合わせられるもんだ・・・と思うとほんと器用すぎます。
何も予備知識なく最初に1曲目を聞いた時に ”なんてあつかましい前に出てくるドラムなんだ” と一瞬眉を顰めました。
チラッとメンバーを見るとなんとサイモン・フィリップスさんではないですか。
「そうか、サイモン・フィリップスじゃそうだよね。これでいいじゃん」となったのです。
私はいったい何を基準に音楽を聞いているのかと思います。
なので、普通にジャズを聴くスタンスでこのアルバムを聞いてはいけません。
ベースのアンソニー・ジャクソンさんも一筋縄ではいきません。
その昔、知り合いの半分プロのベーシストさん(演奏活動のみで食べているわけではないのですが存在感のある音を出すベーシストです。そういえばベースでパガニーニ、カプリス24に挑戦すると言ってました)に教えてもらったのですが、アンソニーは普通のベースアンプを使用していません。
SR用の、それもかなりきっちりと全帯域を癖なく出力すると評判のプロ用パワードスピーカーをベースアンプとして使っています。
これだと指先の細かなニュアンスとか指板の押さえ方とかで細やかに音量、音質が劇的に変化するので相当なテクニックがないと使えないシロモノです。
使いこなすのに相当な技術を要するのでしょうが、逆にいえば表現力は段違いです。
あえてそこを狙うとは、恐ろしく常識には拘らず音にこだわる人なのです。
セッションミュージシャンとしては最も信頼されているベーシストのひとりです。
ちなみに共演した人はアル・ディ・メオラ、リー・リトナー、ステイーリー・ダン、ロバータ・フラック、チャカ・カーン、ポール・サイモン、矢野顕子、ミシェル・ペトルチアーニなどなど。
この人もジャンルを問わないオールラウンドなプレイヤーです。
アルバム「アライヴ」のご紹介です。
演奏
ヒロミ・ウエハラ ピアノ
サイモン ・フィリップス ドラムス
アンソニー・ジャクソン ベース
曲目
*参考までに最後部にyoutube音源等をリンクさせていただきます。
1, Alive アライヴ
やたらと思わせぶりなイントロからブレイクして軽快に始まります。カラフルな展開で最初の曲から3人のインタープレイの応酬となります。
2, Wonderer ワンダラー
いくぶん静かに始まります。アンソニーのエレクトリックベースならではの深い低音が堪能できます。
3, Dreamer ドリーマー
割と軽いタッチで続いていきます。リリカルで綺麗な曲です。1曲目の「アライヴ」のような展開が続くと流石にもたれると思いましたが、そこはみなさん並の音楽家ではありません。表現の引き出しが多いのです。
4, Seeker シーカー
ミドルテンポで間をうまく使っています。(と思います)メロディがポップで聴きやすい曲です。彼女の中ではいつもよりブルーズに寄っているように感じます。ドラムもベースもメロディをたてて、ヴォーカルのバックみたいな演奏をしていますが、それが超絶うまいです。
5, Player プレイヤー
攻めた演奏に戻ります。聴いているとベースのアンソニーさんがすごいのなんのって。
6, Warrior ウォリアー
タイトルの「戦士」には似合わないようなリリカルな演奏で始まります。徐々にハードボイルドを感じる演奏になっていきます。よく合わせられるな、さすがプロと感じる部分が随所に出てきます。
7, Firefly ファイアフライ
ピアノソロ曲です。Firefly=ファイアーフライって蛍のことだそうです。全編にノスタルジックなメロディが展開されます。
8, Spirit スピリット
スケールの大きいゴスペルチックなナンバーです。ピアノが唄っています。伝統を感じさせるメロディがたくさん出てきます。アンソニーさんのソロもあります。絶妙に曲調を大切にしたソロです。
9, Life Goes On ライフ・ゴーズ・オン
唯一、ワンワードではないタイトルです。アップテンポながら丁寧にメロディを紡ぎます。なんかこのアルバムは後半になるほどメロディが綺麗です。
このプロジェクトでの後2枚のアルバムもおすすめです。
いつも感じるのは3人とも引き出しの中身が多すぎます。
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