これはロック界一の鬼才、フランク・ザッパのデビュー・アルバムです。
聴き直してみたのですが、改めてすごいことを演っていたもんだと感心します。
というのもリリースは1966年6月27日、ロックはまだ黎明期とも言える状況でした。
その1週間前にはボブ・ディランが「ブロンド・オン・ブロンド」をリリースしています。
2ヶ月後にはビートルズが「リヴォルバー」を、ローリング・ストーンズが「アフターマス」をリリースするという時代でした。
後世、このアルバムはロックにおいて初のコンセプト・アルバムとも言われています。
またロックにおいて初のダブル・アルバム(LP二枚組)はディランの「ブロンド・オン・ブロンド」ですが、なんと1週間遅れでフランク・ザッパの「フリーク・アウト」も二枚組LPとしてリリースされました。
この時ディランはすでに「フォークの神様」を経て「ライク・ア・ローリング・ストーン」の大ヒットとともに “時代を代表するロック・アーティスト ”という立場でした。
しかしフランク・ザッパについてはこれがデビューアルバムです。
通常、そんな先の見えないド新人が異例の二枚組アルバムでデビューなどできるわけがありません。
その辺りはプロデューサーのトム・ウィルソンの存在も大きかったのではないかと想像されます。
トム・ウィルソンはボブ・ディランとの関係も深く、前年にリリースされた「追憶のハイウェイ61」ではプロデューサーに名を連ねています。
「ロックミュージック初のダブル・アルバム」という称号はもしかしたら敢えてディランのセールスポイントにしたかったのかも知れません。
というか、もしかするとザッパがその二枚組アイデアを提案して、ストック曲もいっぱいあるので全員超乗り気で承諾し作成したのですが、最後にレコード会社から、「でも君らは新人なんだから、リリース時期はこちらに任せなさい」ということだったかも知れません。
なんて大人の事情を邪推してしまうのでした。
1966年のロックは英国「リヴォルバー」+「アフターマス」 対 米国「ブロンド・オン・ブロンド」+「フリーク・アウト」と考えるとなんとも凄い時代だったわけです。
いや、正道で言えば1966年なら「フリーク・アウト」はビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」に譲って、ザ・フーの「クイック・ワン」と組み合わせる方が正解かもしれません。
ということで、今あげた歴代のアルバムはロックの歴史に燦然と輝いている訳ですが、例外としてフランク・ザッパはこれ以降もさほど売れるとか、世界中の人々に熱狂的に受け入れられるという存在にはなりませんでした。
どちらかといえばニッチなところで、でちょっと変わった感覚の人に支持される存在です。
私も若い頃、20歳代でこのアルバムに触れた記憶はあるのですが、正直いまひとつハマりませんでした。
数十年経って久しぶりに聞いてみて、このアルバムの凄さを再認識した次第です。
そして改めてフランク・ザッパという人は生涯ずっと変わらず、同じスタンスで音楽に向き合っていたということを痛感しました。
いや、むしろだんだん深みに入っていったのです。
そういう意味ではこのファーストアルバム「フリーク・アウト」が一番毒気が薄いということもあり、聴きやすいかもしれません。
ザッパを聴くにあたり、まず気をつけていただきたいことは、フランク・ザッパに自分が思うロックの理想とかかっこよさとか完璧さを求めてはいけません。
そういうのを見越したように嘲笑って(あざわらって)徹底的に外してくるのです。
常に “まったく、もう” というちょっと離れた感覚で向き合わないとザッパの無駄にカラダをはったようなジョークにはついていけません。
(めんどくさい人なんです)
だいたいバンド名からして当時話題になっていたスラング「マザーファッカー」からとったそうですし。
例えばこのアルバムのオープニング「ハングリー・フリークス・ダディ」です。
とってもカッコいいハードなサウンドで始まります。
しかしヴォーカルが入ると、これがまたいい加減というかやる気がないというか、言ってしまえば下手なんです。
もしこの曲をジム・モリソンとかデヴィッド・ボウイあたりが歌ったらそれは素晴らしいロックナンバーになると思いませんか。
わざとカッコ悪い方へ外している、と思えるような歌い方なのです。
(もちろん試聴に値するギリギリのサジ加減がザッパのすごいところです)
途中に何回か出てくるヴァース間のツナギも(きっと)わざとダサいリズムで演っています。
そしてこのアルバムの内容です。
まず2曲目、4曲目の恋人との関係を聞いて、なんか違和感を感じます。
基本、このアルバムは男性だけのドゥーワップ風コーラスが全編に流れています。
だんだん違和感を感じて来ると、ついに
「これって全体に共通しているのは同性愛の、オカマさんの恋物語?」
「ったく、もう」
と、その視点で全体を聴けば内容はとってもわかりやすいものになります。
全てにおいてこのスタンスでいけばフランク・ザッパの世界はそんなに得体の知れないものではありません。
(いや、気持ち悪くて得体の知れない世界でも正解です)
補足しておきますと、ザッパ自身は奥様も娘様もいらっしゃるので至ってノーマルです。
(違うかも知れません)
認めざるを得ないのはザッパの時代を先取りした世界です。
サウンドで言えば、例えば「ハングリー・フリークス・ダディ」の1:20あたりからのギターソロを聴いてみていただきたい。
この時代にこういうフレーズを弾いていたのは誠に素直にすごいことです。
またビートルズの「サージャント・ペパーズ」より前にコンセプトアルバムのを提示していたことや、その内容含め全てが王道ロックの一歩先を行っていたことがわかります。
(しかも「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドがリリースされ、絶賛されるとみるや、そのパロディみたいなアルバム「We are Only for the Money」という超悪ノリなアルバムを作ります)
このアルバムタイトルの「Freak Out」とは「パニックになる」とか薬物による「バッドトリップ」という意味もあるそうです。
また1960年代のロサンゼルスのフリーク・シーンとも関連づけられ、それは「サイケデリック・フリークアウト」とも呼ばれていました。
サンフランシスコのサイケデリック・ムーブメントとも近いものです。
ただしザッパがこういうムーブメントを肯定的に捉えていたとは思えません。
基本、ザッパはマリファナやコカインなどには手を出さず、バンドメンバーにも禁じていました。
(そこからして変わっています)
レコーディング時にプロデューサーのトム・ウィルソンがLSDをやっているのを発見しましたが、否定的な発言しかしていません。
薬物をやめなかったローウェル・ジョージはバンドをクビにしました。
(結果的には「自分のバンドを作れ」と「リトル・フィート」結成に一役買った形ですが)
なので薬物トリップと切っても切れないようなサイケデリックとかフラワー・ムーブメントを支持しているとは思えません。
「流行のフリーク・シーンからアウトする、そんなハヤリモノには乗らないぜ」というのが正解かも。
デビューアルバムにしてはゲストミュージシャンも多く、豪華です。
LAの職人演奏集団レッキング・クルーやなぜかドクター・ジョンなども参加しています。
最後にフランク・ザッパ自身によるアルバム評
「収録曲はすべて何かしらについて歌っている」
「ヒットシングルがあって、その周りに埋め合わせの曲を作る必要があったというわけではありません。それぞれの曲は、全体的な風刺的なコンセプトの中で役割を果たしていました」
「Freak Out!アルバムに収録されているすべての曲の方向性をグラフィカルに分析すると、誰にとっても何かが見つかるはずです。
少なくとも 1 つの楽曲は、6 歳から 80 歳までの顧客層のあらゆる社会的指向に合わせたものになっています。
なぜなら、6 歳児が「Wowie Zowie」を演奏してくれと叫ぶなど、私たちの音楽を気に入ってくれる人がいるからです。
私は、さまざまな仕事をしている経営者と会いますが、彼らはうちの子はこのレコードを持っていて、『Wowie Zowie』が一番好きな曲なんです」と言います」
アルバム「フリーク・アウト」のご紹介です。
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
(89曲も入った60周年記念盤の音源です)
1, Hungry Freaks, Daddy ハングリー・フリークス、ダディ
「アルバムの中で数少ないストレートなロック・トラックの一つであるこの曲は、貧困層、若者、そして虐げられた人々のニーズに対するアメリカ政府の政策や姿勢を痛烈に批判している。」
などと深い考察もありますが、最後のコーラスは
「彼らはもう、中西部の偉大な金物店の哲学には興味がない。自分の考えを言うことを恐れない人々から背を向ける哲学。偉大な社会の取り残された人々から。」
となっています。
これは古い慣習にこだわる田舎の人々に対する同性愛者の苦悩ではないか?
2, I Ain’t Got No Heart アイ・エイント・ガット・ノー・ハート
クリームの「ゾーズ・ワー・ザ・デイズ」に似ています。
えっと、もちろんこちらが先です。
3, Who Are the Brain Police フー・アー・ザ・ブレイン・ポリス? (ボスは誰だ)
このナンバーがあるのでコンセプトがより鮮明になります。
4, Go Cry on Somebody Else’s Shoulder ゴー・クライ・オン・サムバディ・エルセズ・ショルダー(捨て去った恋)
普通にいいメロディです。「誰か他の人の肩で泣いて」というタイトルですが、やっぱりおかまさんの話です。
ちなみにこういう歌詞です。
[イントロ]
ちょうど1年前の今日、あなたは去って行ったでも今、あなたは戻ってきて私のドアをノックするそしてあなたは戻ってきてずっといると言うけれど、私は言う
[コーラス]
他の誰かの肩で泣いて私は今、少し賢くなって、丸1年年を取った今はあなたが必要ないし、もうあなたを愛していない
[ヴァース1]
あなたは私を裏切って、私について汚い嘘をついた他の男たちと浮気しただから私はあなたを自由にしなければならなかった今はあなたが必要ないし、もうあなたを愛していない
[プレコーラス]
ちょうど1年前の今日、あなたは去って行ったそして今、あなたは泣きながら戻ってくる「ダーリン、お願い、私を入れてくれ!」と泣きながらでも、もうあなたなんて必要ない、愛してもいないのだから、誰か他の人のドアにもたれて泣いてちょうだい
[コーラス]
誰か他の人の肩で泣いてちょうだい私はもう少し賢くなって、一年年を取ったの今はもうあなたなんて必要ない、愛してもいないの
5, Motherly Love マザリー・ラヴ
この頃ロサンゼルスやサン・フランシスコで流行っていた音楽をパロっています。
意訳すると、世の中のロック野郎はマザコンと言いたいらしい。
6, How Could I Be Such a Fool ハウ・クッド・アイ・ビー・サッチ・ア・フール(何と馬鹿なこと)
「なんて私は愚かだったのだろう」というタイトルです。
ドラマチックな展開を持つこの曲もザッパですから裏を感じます。
7, Wowie Zowie ウォウィー・ゾウィー
ビートルズを揶揄しているとの話もあります。
コーラスはビーチボーイズ風だったりしますが、最後はフォー・シーズンスの「シェリー」のフレーズで終わります。
8, You Didn’t Try to Call Me ユー・ディドゥント・トライ・トゥ・コール・ミー(君は電話をしようとしなかった)
はい、あの世界の話でございます。
9, Any Way the Wind Blows エニー・ウェイ・ザ・ウィンド・ブロウズ(風は変らず)
ボブ・ディランに絡んでいるのか。
10, I’m Not Satisfied アイム・ノット・サティスファイド(満たされない日々)
ローリング・ストーンズに絡んでいるのか。
11, Your Probably Wondering Why I`m Here ユーアー・プロバブリー・ワンダリング・ホワイ・アイム・ヒア(俺は邪魔者)
謙虚か。
12, Trouble Every Day トラブル・エヴリー・デイ(つらい浮世)
みんなそうです。
13, Help, I’m a Rock (Suite in Three Movements) ヘルプ、アイム・ア・ロック(助けてくれ、俺はロックだ)
またビートルズに絡む。
14, It Can’t Happen Here イット・キャント・ハプン・ヒア(起り得ないこと)
自己紹介か。
真面目な解説としてはこうです。
「シンクレア・ルイスの同名のディストピア政治小説からタイトルを取っている。
この小説は、架空のアメリカ人政治家がアメリカ初のファシスト独裁者へと成り上がっていく様を描いている。
小説のタイトルは、そのような出来事がアメリカでは決して起こり得ないという信念を反映している。
しかし、ザッパはこの物語を、アメリカで台頭しつつあったフリークシーンの物語と重ね合わせ、一般の「ストレート」な人々が彼らを若者やアメリカ文化に悪影響を与える存在と見なしていたことへの風刺として用いているように思われる。
皮肉なことに、この歌詞は、来るべき「愛の夏」にロサンゼルスのフリークシーンから現れたヒッピーたちが、全米のカウンターカルチャーを席巻することになるのを予見していた。
だそうです。
15, The Return of the Son of the Monster Magnet (Unfinished Ballet in Two Tableaux) ザ・リターン・オブ・ザ・サン・オブ・モンスター・マグネット(怪人マグネットの息子の帰還)
真面目な楽曲紹介としてはこうです。
「ミュジック・コンクレート作品である「モンスター・マグネットの息子の帰還」は、(ザッパによれば)意図した通りには完成せず、副題(2つのタブローによる未完成のバレエ)にも示されているように、単なるリズムトラックに過ぎなかった。
ザッパは、自身のスタジオを持っていた時期でさえ、多くの長編作品とは異なり、この作品を完成させることはなかった。
この作品は、歌の主人公であるスージー・クリームチーズが(少なくとも一時的に)正気を失っていくときの、彼女の精神状態を表現しているはずだ。
これは、ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのアルバムでスージーについて言及された最初の例である。
これは、ザッパがこのような長めのタイトルを好むようになった始まりを示している。
彼は後に、自身のキャリア初期のこの曲に敬意を表してアルバム「シャット・アップ・アンド・プレイ・ヤー・ギター・シリーズ=邦題 : 黙ってギターを弾いてくれシリーズ」の3枚目のアルバムを『リターン・オブ・ザ・サン・オブ・シャット・アップ・アンド・プレイ・ヤー・ギター=邦題 : 黙ってギターを弾いてくれのセガレの帰還』と名付けた。」
だそうです。
はい、良い子の皆さんはあまり深く関わらない方がいいかもしれません。
演奏
ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション
- フランク・ザッパ –ギター
指揮、ボーカル - ジミー・カール・ブラック
パーカッション、ドラム、ボーカル - レイ・コリンズ
ボーカル、ハーモニカ、シンバル、効果音、タンバリン、フィンガーシンバル、ヘアピン、ピンセット - ロイ・エストラーダ
ベース&ギタロン、ボーイソプラノ - エリオット・イングバー
クリアホワイトライトを使用した、リードギターとリズムギターの交代演奏
ゲスト・ミュージシャン
- ジーン・エステス
パーカッション - ユージン・ディ・ノヴィ
ピアノ - ニール・レヴァング
ギター - ジョン・ロテラ
クラリネット、バスサックス - キャロル・ケイ
12弦ギター - クルト・レーハー
チェロ - レイモンド・ケリー
チェロ - ポール・ベルグストロム
チェロ - エメット・サージェント
チェロ - ジョセフ・サクソン – チェロ
- エドウィン・V・ビーチ
チェロ - アーサー・メーベ
フレンチホルン - ジョージ・プライス
フレンチホルン - ロイ・ケイトン
トランペット - ヴァージル・エヴァンス
トランペット - デビッド・ウェルズ
トロンボーン - モーターヘッド・シャーウッド
ノイズ - キム・フォウリー
ハイポフォン - マック・レベナック
ピアノ - ポール・バターフィールド
ボーカル - レス・マッキャン
ピアノ - ジニー・ヴァソワール
スージー・クリームチーズの声
プロダクション
- 音楽監督、編曲家、編曲者:フランク・ザッパ
- プロデューサー
トム・ウィルソン - エンジニアリングディレクター
ヴァル・ヴァレンティン - エンジニア:
アミ・ハダニ、トム・ウィルソン、ヴァル・バレンティン - アシスタント:
ユージン・ディノヴィ、ニール・ルヴァン、ヴィトー、ケン・ワトソン - 表紙デザイン
ジャック・アネシュ - ヘア・スタイリスト
レイ・コリンズ
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