「続、今だからこそ評価されるべきストーンズのポップでちょっとレイドバックしたサウンドのアルバム」Goats Head Soup : The Rolling Stones / 山羊の頭のスープ : ザ・ローリング・ストーンズ

 1973年8月にリリースさえたローリング・ストーンズの11枚目のアルバムです。

「山羊の頭のスープ」というと、なにやら中世の怪しげな儀式とか黒魔術とかおどろおどろしい世界を連想させるタイトルだよなあ、と長年思っていたのですが、つい最近分かったことは実はジャマイカの料理だそうです。
(といっても一般的な料理ではなく、滋養強壮の媚薬みたいなものらしいです)

ジャマイカのキングストンにあるダイナミック・サウンド・スタジオでレコーディングされました。
このアルバムはローリング・ストーンズの中でも特に評価が高いわけではありません。
もちろんストーンズを代表するアルバムなんて言われません。
実際「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」とか「サティスファクション」とか「スタート・ミー・アップ」みたいな特大の有名曲もありません。

強いていえば「悲しみのアンジー」でしょうか。
これも名曲なんですが、にしても常にコンサートツアーのセットリストに入るような曲ではありません。
だいたいストーンズはライブのおいてのバラードは弱いです。(言っちゃったよ)

このアルバムからのベスト盤などの選出も少ないのです。
しかも前作が今ではストーンズの代表作とも言われる「メインストリートのならず者」でした。
ブルーズやソウル、カントリーなどアメリカの音楽を取り入れて独自に消化した傑作と言われています。

そして今度はジャマイカ録音にも関わらず何かヨーロッパ的で、泥臭い雰囲気というより軽くポップな感覚を取り入れています。
ブラックミュージックとの関わりを好んできたストーンズファン層にはあまり刺さらなさそうです。

では長寿バンドによく言われる名盤と名盤をつなぐ過渡期の作品かと言われれば、「はいそうです」と思わず言ってしまいそうですが、いやいやそうではありません。

このアルバムはもっと評価されるべきと常々思っています。

個人的な感覚では「メインストリートのならず者」よりは音が綺麗に録音されています。
全体のトーンが明るく穏やかで夏に聴くには最高です。
しかも聴き込むほどに隠れたメロディが聞こえてきそうになります。
そしてここには珍しく、ちょっとレイドバック方面に向かっているストーンズがいます。

1970年代のローリング・ストーンズはアルバムごとにコンセプトを変えていい具合に時代と、ブラックミュージックと付き合っていました。

しかしこのアルバムはいつものブルーズやソウルなどのブラックミュージックやカントリーなどのアメリカン・トラディショナルの影響はあまり強く感じられない代わりに、今までになかったストーンズを感じられます。

それはヨーロッパのポップな感覚です。
それにリラックスしたテンポで綺麗なメロディを歌っています。

ここらあたりは時代の先端を走っていたデヴィッド・ボウイやエルトン・ジョンなどの影響と思われます。(個人の見解です)

例えばオープニングナンバー「ダンシング・ウィズ・ミスターD」はデヴィッド・ボウイのことだそうです。

デヴィッド・ボウイといえばこの時期は「ジギー・スターダスト」に代表されるグラムロックのイメージがあるのですが、ストーンズはオープニングでそれに寄せてきました。
すでにグラムロック的なものは1968年の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」などで提示済みではあります。
ここではボウイのヨーロピアン・デカダンスみたいな部分に興味を持っていたと思われます。

そしてこの頃飛ぶ鳥を落とす勢いのエルトン・ジョン。
彼のメロディアスでポップセンスに溢れたロックンロールに触発されていたようです。

それに乾いた明るめのサウンドはレコーディングしたジャマイカの空気がそこはかとなく感じられます。

ただし、まだジャマイカのリズムは会得していません。

レゲエといえばローリング・ストーンズが「ブラック・アンド・ブルー」で「チェリー・オー・ベイビー」を演るのが1976年、キース・リチャーズがジャマイカのミュージシャン、ジミー・クリフの「ハーダー・ゼイ・カム」をカバーするのは1978年になってからです。

もっと言うとエリック・クラプトンが「アイ・ショット・ザ・シェリフ」をカバーして全世界にレゲエを知らしめたのが1974年、ボブ・マーリー・アンド・ウェイラーズがヨーロッパで大ブレイクするのは1975年のライブアルバムでした。

そういう視点で聴くと、先取り感覚でアメリカの音楽から一歩踏み出そうとしている感じが見えてきます。

全体的にギターよりキーボードが目立つサウンドと相まって良いメロディがいっぱい詰まった癒しのアルバムです。

なんてほめようとしても、アルバムジャケットのデザインが足を引っ張ります。

フロントはミックジャガーがセロハンや透明ビニールに包まれている感じです。
今の感覚で言えばサイコパスのシリアルキラーに殺された死体にしか見えません。(Netflixの洋物ドラマの見過ぎです) 

リアジャケはキースの顔ですがまるで黒い人魂です。
他のメンバーも同じで決してかっこいいデザインとは言えません。
山羊の頭のスープも描かれていますが、リアルで趣味悪いことこの上ありません。


ローリング・ストーンズの場合、オープニングにはノレる、キャッチーなナンバーを持ってくることが多いのですが、今回は何だかネチャーっと始まる「ダンシング・ウィズ・ミスターD」です。
「ブラウン・シュガー」や「スタート・ミー・アップ」のような問答無用で「さあ、行くぜ」、と言う感じではありません。
ちょっと変わったオープニングナンバーです。

オープニングにぴったりな「ドゥー、ドゥー、ドゥー」で来なかったところに今回のこだわりを感じていただきたいものです。

結果としてはリリース時にはアメリカ、イギリス含めオーストラリア、カナダ、オランダなどで1位となり、当時の評論家からも良い評価を得ていました。

これは当時のロックが常に変わっていくこと、前作と同じようなアルバムを作らないことが進化とされ尊ばれていたという時代背景もあります。

その証拠に1980年代以降はストーンズの代表的アルバムに名を連ねることはありませんでした。

「まず、ザ・ローリング・ストーンズを聞いてみよう」という人に「これこそがストーンズの真髄です」などというつもりはありません。
でも今の時代だからこそもっと評価されるアルバムのような気もします。

ザ・ローリング・ストーンズを聴くということはロックの歴史に触れることでもあります。
今からローリング・ストーンズを聴いてみようと思っておられる方がいましたら、是非とも3枚目か4枚目くらいには手にして欲しいアルバムです。

演奏
ザ・ローリング・ストーンズ
ミック・ジャガー  リードヴォーカル(Tr.3以外全て)、バックヴォーカル、リズムギター(Tr.6,8)、ハーモニカ(Tr.6)、ピアノ(Tr.7)

キース・リチャード  エレクトリックギター&バックヴォーカル(Tr .1,3,4,6,9,10)、ベースギター(Tr.2,4,6,7)、アコースティックギター(Tr.5)、リードヴォーカル(TR.3)

ミック・テイラー  エレクトリックギター(Tr .1,2,4,6,7,8,9,10)、バックヴォーカル(Tr .1,4,6)、ベースギター(Tr .1,3,9)、アコースティックギター(Tr.5)

ビル・ワイマン  ベースギター(Tr.5,8,10)

チャーリー・ワッツ  ドラムス

ゲストミュージシャン
ニッキー・ホプキンス  ピアノ(Tr .1,3,5,8,9)
ビリー・プレストン  クラヴィネット(Tr.2,4)、ピアノ(Tr.4)
イアン・スチュアート  ピアノ(Tr .6,10)
ボビー・キーズ  テナーサックス(Tr.4)、バリトンサックス(Tr .3,7,10)
ジム・ホーン  アルトサックス(Tr.3,4)、フルート(Tr.9)
チャック・フィンドリー  トランペット(Tr.4)
ジム・プライス  ホーンアレンジ(Tr.4)
ニッキー・ハリソン  ストリングス・アレンジメント(Tr.5,8)
アンソニー・「リバップ」・クワク・バー  パーカッション(Tr.1,9)
パスカル(ニコラス・パスカル・ライチェビッチ)  パーカッション(Tr.1,9)
ジミー・ミラー  パーカッション  パーカッション(Tr.9)

プロダクション
チーフエンジニア、ミキサー  アンディ・ジョンズ
アシスタント・エンジニア  カールトン・リー、ハワード・キルガー、ダグ・バーネット
フォト、ジャケットデザイン  デイヴィッド・ベイリー

アルバム「山羊の頭のスープ」のご紹介です。

Amazon.co.jp: 山羊の頭のスープ 2CDデラックス(通常盤)(2SHM-CD): ミュージック
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曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Dancing with Mr.D ダンシング・ウィズ・ミスターD

今までと一味違うぜ、とばかりに粘っこいサウンドです。
今までのようにギターが前面に出てこないオープニングも珍しい感じです。

2,   100 Years Ago 100年前

これもちょっと変わった曲調ですが、何を隠そう私には個人的に刺さる曲です。
全然ストーンズらしくありませんが、ストーンズへのイメージが今までより広がってきます。

3,   Coming Down Again 夢からさめて

続いてまたらしくないストーンズ流レイドバック・サウンドの時間です。
ストーンズファンからは評価が割れる曲かもしれませんが、こういうメロディは個人的には大好きです。

4,   Doo Doo Doo Doo (Heartbreaker) ドゥー・ドゥー・ドゥー(ハートブレイカー)

ストーンズらしいハードなロックンロールです。
ブラスも加わってゴージャスなサウンドです。ギターソロのところで盛り上げずにクールダウンさせていくところもなかなかの聴きどころです。

5,   Angie 悲しみのアンジー

「あえんじぃ、あいえーんじぃ」と見事なバラードを歌ってくれます。名曲です。
一見ガサツで野蛮なようなこの集団が「あれ、もしかしたら俺と同じで本当は結構繊細なのかも」と思ったらあいつらの思うツボです。
そういうのも全部見越して60年以上演技をしているのですから。

6,   Silver Train シルバートレイン

オープニングの「ダンシング・ウィズ・ミスターD」でも感じたのですがこのアルバムでのストーンズのロックンロールは一聴すると単調に感じますが、じっくり聴けばなかなかのものです。
ブルースと列車の組み合わせは昔からあって力強く畳み掛けるリズムで列車の推進力を、ハーモニカやスライドギターで汽笛を表します。
そういう「ミステリー・トレイン」系の曲を意識しているのだと思います。
上下に上昇、下降を繰り替えしながらうねるベースがかっこいいと思ったらブル・ワイマンではなくてキースが引いているのでした。

7,   Hide Your Love お前の愛を隠して

お得意のR&B路線の曲です。初っ端からストライドを感じるようなかっこいいピアノが入ってきますが、資料によるとミック・ジャガーが弾いています。
終わり方からして気晴らしにセッションして遊んでいたら面白い感じにまとまってきた、という感じでしょうか。なのでリードギターとかも割と適当です。

8,   Winter ウインター

この曲にはキース・リチャードは参加していないそうです。
ミック・ジャガーとミック・テイラーによって書かれました。
ストリングスも入ってドラマチックな曲となっています。
ミック・テイラーもブルーズ系のギターは封印しています。
タイトルの「冬」に反してジャマイカでレコーディングされました。

9,   Can You Hear the Music 全てが音楽

インドとか中東とか極東などを感じさせるサウンドです。
しかもそれをダルなストーンズサウンドで演ってます。
なにこれと思っているととっても素敵なサビのメロディが出てきます。
でも何だか、もうちょっと作り込めば壮大なワールドミュージックの世界ができたかも、と思ってしまうのでした。

10,  Star Star スター・スター

ストーンズ得意の悪ガキロックンロール・サウンドが気持ちいいナンバーです。
タイトルは本当はスター・ファッカーにしたかったのでしょうがビジネス的に止められたということが偲ばれます。

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