「ヨーロッパの伝統に加えツェッペリン流儀のファンクやレゲエも、音楽性をさらに広げた4枚目。それとアート・デザイン・グループ『ヒプノシス』」Houses of the Holly : Led Zeppelin / 聖なる館 : レッド・ツェッペリン

 今年(2025年)に入ってからレッド・ツェッペリン関連のニュースが多くなってきています。
まず映画ではジミー・ペイジの完全再現に人生をかけたジミー・桜井さんのドキュメンタリー映画「MR. JIMMY レッド・ツェッペリンに全てを捧げた男」が公開されました。
もうすぐ私の地元、横浜にもやってきます。
さらにはアメリカでは初期ツェッペリンに焦点を当てた「Becoming Led Zeppelin」が公開されています。
まだ日本公開は未定ですが、東北新社さんが受注したとのことですので、近々公開になると思われます。

そして今回はそのつながりでレッド・ツェッペリン五枚目のアルバムで1973年3月リリースの「聖なる館」のご紹介です。

今までの四枚のアルバムはは単純にⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ でしたが、このアルバムで初めてアルバムにタイトルがつきました。

前作の「天国への階段」で有名な「Led Zeppelin Ⅳ」が1971年11月のリリースなので役1年半ぶりとなります。

前作までと比べるとここで作風というかアルバムのイメージが大きく変わりました。
今まで当たり前にあったブルーズの影響が希薄になっているように感じます。
その代わりケルティックな雰囲気によるヨーロッパ伝統音楽的なものとか、ジャマイカのレゲエのリズムとか、ジェームス・ブラウンばりのファンクのリズムなどを取り入れて今までよりさらに世界を広げました。

いつまでも同じことを演っていてはダメだ、常に進化していくのがロックだ。というビートルズやディランが示したロックの一つの原則です。

聞いてみるとまず各楽曲の完成度が高いことに驚かされます。
1stや2ndアルバムのように気合一発、足りない部分はスタジオで捻り出しました、というような感じではありません。
1曲1曲納得できるまでアレンジしてみました、というのが感じられます。

この頃になるとレコーディング技術も進化して、ジミー・ペイジやジョン・ポール・ジョーンズは自宅にスタジオを構えていました。
さらにローリング・ストーンズの移動スタジオとかパイ・モービル・スタジオなどを利用して時間をかけてじっくり丁寧に作り上げられたアルバムです。

ツェッペリン・サウンドの核となるギターの音色が今までと違っています。煌(きら)びやかになった印象です。
このサウンドはいろんな時代を寄せ集めた次作の「フィジカル・グラフィティ」では感じませんが、その次の「プレゼンス」に引き継がれます。

ただ、「プレゼンス」はギター中心のサウンドですが、対してこの「聖なる館」はジョン・ポール・ジョーンズのオルガン、シンセも大活躍している印象です。

アルバムジャケットはかの有名なアートデザイングループ、ヒプノシスによるもので、背景は北アイルランドのジャイアンツ・コーズウェイで撮影されたものだそうです。

描かれている女の子のモデルはヴォーカルのロバート・プラントの娘というのを以前に聞いたことがあるのですが、(ずっとそう言われていました)それは間違いでステファン・ゲイツとサマンサ・ゲイツという子供のモデルだそうです。
サマンサの方はのちのアルバム「プレゼンス」の裏ジャケにも登場してます。



ヒプノシスといえば今年2025年に「ヒプノシス レコードジャケットの美学」という映画が公開され、近所で見る機会がありました。

内容は1960年代後半から1980年代にかけてLPレコードのジャケットデザインで人気のあったデザイングループ「ヒプノシス」のドキュメンタリーです。

ヒプノシスはストーム・トーガソンとオープリー・パウエルという二人の若者(ピンク.フロイドなどと同年代)によって始められました。

映画では2003年に故人となったストームとの関係などを相棒のオープリーが語ることを軸として、ピンク・フロイドの関わりに始まり、レッド・ツェッペリン、ポール・マッカートニー、10CCのメンバーを中心にインタビュー形式で思い出を語っていきます。

彼らはロックミュージシャンの成功と相まって有名になり、とてつもない高額な費用をかけても納得してもらえるくらいの巨大ブランドになっていきます。

ヒプノシスは自分たちで作品については純粋に芸術と言えるかどうかわからないが、何か深いものがあるのでは?ということを感じさせることが大切だというようなことも語っています。

しかし1980年代になってMTVの時代となり、映像にも挑戦しますが、その分野では成功することはできませんでした。

最後はノエル・ギャラガーがヒプノシスに敬意を表しつつ、「なぜオアシスのアルバムジャケットをヒプノシスにオーダーしなかったんですか?」という質問の答えが・・・。(あえて伏せます)
そうか、ここで本来の、というか時代に要求されるクリエイターのためのクリエイターではなくなっていたのか。

結局、1970年代までは良くも悪くもそういう時代だった。若者にチャンスもあるけど長期的に第一線を維持していくことはもっと難しかったようです。
そしてLPレコードからCDへのメディアの移行とかも関係すると思いますが、そこには特に触れられていません。

代表作のピンク・フロイドの「原子心母」「狂気」やウィッシュボーン・アッシュの「100眼の巨人アーガス」そしてツェッペリンの「聖なる館」などについて語られていく中で、驚いたのはポール・マッカートニーに依頼された「WINGS GREATEST」というベストアルバムの件です。

1978年にリリースされたアルバムのジャケットデザインの話です。

ポールが手に入れた高名な彫刻家デメトル・チパルス制作の像をアルプスの山の頂上にヘリコプターで運んで、何日もかけて相当な苦労の末、撮影したそうです。
そうして出来上がったものがこれです。

すいませんが私はずっとただの絵だと思っていました。

依頼したポールとリンダからは気に入られたようですが、他からは「撮影スタジオで塩でもあれば同じようなものが撮れたんでは」などとも言われてました。

良くも悪くもそういう時代を駆け抜け、ロックの視覚的イメージを確立した紙一重の天才たちの話です。


アルバム「聖なる館」のご紹介です。

Amazon.co.jp: 聖なる館: ミュージック
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演奏
ロバート・プラント  ヴォーカル
ジミー・ペイジ  ギター
ジョン・ポール・ジョーンズ  ベース、キーボード
ジョン・ボーナム  ドラムス

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   The Song Remains the Same 永遠の詩
 (ジミー・ペイジ)

この時期、同名のレッド・ツェッペリンのマジソン・スクエアー・ガーデンでのライブを中心にしたドキュメンタリー映画があります。1970年代のMTVもyoutubeもない時代、動くレッド・ツェッペリンの初体験となった映画でした。
この曲と「天国への階段」をライブで演奏するためにジミー・ペイジはギブソンのEDS-1275という6弦と12弦のダブルネックギターを使用するようになりました。
ロック小僧はみんな憧れましたが、なんせアマチェアには取り扱い、維持、管理が難しいギターです。ツェッペリンのカバーバンドでもここまで揃えているのは相当に気合が入っています。

ギブソン、ジミー・ペイジ・モデルです。

ライブバージョンです。

2,   The Rain Song レイン・ソング
 (ジミー・ペイジ)

全曲からの繋がりが見事で、ジョン・ポール・ジョーンズの弾くメロトロンもいい感じのアレンジです。ほかのハードロックバンドにはない音世界だと思います。
最初に聞いた時はあまりいい曲とは思っていなかったのですが、学生寮の先輩がレギュラーチューニングでこの曲を弾いているのを見てあまりのかっこよさに好きになった思い出があります。

3,   Over the Hills and  Far Away 丘の向こうに
 (ジミー・ペイジ)

アコースティックな感じで始まって、優しい曲調なのでサードアルバム路線なのかと思いますが、途中からハードに展開します。
ただ今までのギターリフとはイメージが違っています。なんとなくアメリカ、というかブルーズ色を感じません。

ライブバージョンです。

4,   The Crunge クランジ
 (ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム)

ツェッペリンのファンクです。ジャムセッションを繰り返しながらジョン・ボーナムが中心で作られたようです。最初に聞いた時は正直「ナニコレ?」ものでした。
実際、歌詞もいい加減というか遊び気分です。こういう感覚も必要です。
もしかしたら今の人はこのタイトルを見て、クランチとグランジをかけたのかと思われかもしれませんが、この時代まだそんな言葉はありませんでした。
クランチというのは筋トレやチョコレートの世界でも使われますが、音楽的にはギターの歪み具合を表す言葉です。記憶によるとそう言われるようになったのは1980年代以降だと思います。
それとグランジという音楽ジャンルが現れた(命名された)のは1980年代後半です。

5,   Dancing Days ダンシング・デイズ
 (ジミー・ペイジ)

これもツェッペリン流のファンク・ナンバーなんですが、タイトルに反して腰が動いて踊れる曲にはなっていません。どちらかといえばヘッドバンキング向きです。でも微妙にローリング・ストーンズ的なノリも感じられます。

6,   D’yer  Mak’er ディジャ・メイク・ハー
 (ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム)

タイトルは「ジャマイカ」というのをもじったものらしい。
そして多分ディープ・パープルなどのヨーロピアンなハードロックバンドは絶対に演らないレゲエに挑戦しています。
この時代はレゲエはまだ未知の音楽で、特に大きな反響はありませんでした。
でもイギリス人が同じ感覚で演ったと思われる「イン・スルージ・アウト・ドア」の「ホット・ドッグ」は大不評でした。
まあカントリーについてはみんな深い部分で理解しており、日本人が外国人の演出したイタイ日本文化を見せられるような感覚だったのかもと。
なのでこの曲もジャマイカンが聞くと怒るかもしれません。

7,   No Quorter ノー・クオーター
 (ジョン・ポール・ジョーンズ、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント)

いかにもジョン・ポール・ジョーンズという世界です。
コンサートではじっくり聞かせる時間の曲で、ライブ映えしそうな曲調です。1973年から1979年まで全てのコンサートで演奏されたそうです。
個人的にこの曲はすごくいいと思う時期と飛ばして聴きたくなる時期が3年周期くらいで入れ替わります。

8,   The Ocean オーシャン
 (ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム)

ツェッペリンはこのドラムなんだよなあ、と思う瞬間です。このリズムとこのギターリフはどこで折り合いをつけるんだろうと思っていると気がつけばバッチリ決まってるという瞬間が気持ちよく、ハードロックのカタルシスを感じる曲です。
このナンバーは後半になるほどドゥー・ワップの要素が入ってきますので、ドゥー・ワップを思い切りハードアレンジしたものをやって見たかったのかも知れません。

ライブバージョンです。
ドラムの最初の1打でスティックが折れて飛んでいきます。

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