ブルーズ界に燦然と輝く巨人、エルモア・ジェイムスの後期、Fire / Enjoyのセッションです。
プロデュースはボビー・ロビンソン、本当にいいものを残してくれました。
ボビー・ロビンソンはニューヨークを拠点としたレコードプロデューサーです。
ブラックミュージックの歴史においても重要で、このエルモアやライトニン・ホプキンス、リー・ドーシーなどのグレードの高いアルバムをリリースしています。
アーティストの最高に部分を引き出す能力に長けていた、と評価されます。
彼のプロデュースによるこの「I Need You」と「The Sky Is Crying」はどちらも甲乙付け難い素晴らしいものです。
私のエルモア体験とは「I Need You」に収録された「Something Inside of Me」を初めて聴いた時で、その凄まじい情感に全身鳥肌が立ちました。
エルモア・ジェイムスにはマディ・ウォーターズともハウリン・ウルフとも違った魅力があります。個人的にはこの「Something Inside of Me」の印象が強くて、エルモア・ジェイムスを象徴する曲となっています。
エルモア・ジェイムスは本名エルモア・ブルックスといい、1918年1月27日ミシシッピ州ホームズ郡リッチランドというところで生まれました。
12歳の時にディドリー・ボウという板に糸を貼っただけの楽器で音楽を始めました。
こういうものです。
(WikiPediaより引用です)
そしてブルーズの先輩である、ロバート・ジョンソン、ココモ・アーノルド、タンパ ・レッドなどの影響を受けてブルーズを始めます。
一見洗練された軽いスタイルのタンパ ・レッドと重量級の力技で押さえ込むようなストロング・スタイルのエルモア・ジェイムスは共通性があまり見られないように思います。
でもエルモアのバンド「ブルームダスターズ」にはタンパ・レッドのバンドにいたジョニー・ジョーンズ(ピアノ)とオーディ・ペイン(ドラムス)も参加しています。
きっと私らには考えの及ばないような繋がりがあるのでしょう。
第2次世界大戦中は海軍で働き、除隊後の1951年からエレキギターで活動を開始、そして1952年にトランペットレコードよりかの有名な「ダスト・マイ・ブルーム」がリリースされます。
バックバンドはこの時「ブルームダスターズ」と名付けられます。
ここからエルモアはマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフと並びシカゴブルーズの顔として躍進を続けます。
しかし残念なことに持病の心臓疾患もあり、1963年5月24日にシカゴで心臓発作でなくなりました。
若い頃のエルモアは見た目もがっちりしていて図太い感じですが、後期はメガネをかけてガリガリになってしまいます。
でも音楽は最後まで男らしい唯一無二の図太いブルーズでした。
ミシシッピ州エベニーザーの教会に埋葬され、墓石には「King Of The Slide Guitar」と記されました。納得です。文句は言えません。
代表曲にロバート・ジョンソンでお馴染みの「ダスト・マイ・ブルーム」があります。エレキギターのオープンEという野太いチューニングで、ガッツガッツとたたみかけるリズムにジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャジャジャ、ジャジャーンと3連符でしかも複数の弦をかき鳴らします。
これが「ブルーム調」と言われるスタイルですが、聞き手にものすごい厚みと迫力で迫ってきます。
さらにソウルフルなヴォーカルと相まって「エルモア・ジェイムスの世界」が味わえるのです。
これと「スカイ。イズ・クライング」関連のバラードと、単音弾きのシカゴ・ブルーズがエルモア・ジェイムスの世界です。
ブルーム調を聴くと、みんな一緒じゃんと言う人もいますが違います。
それはそれは奥行きのある偉大なるワンパターンなんです。
エルモア・ジェイムスの影響力は絶大でブルーズ 系、ロック系のギタリストにはたくさんいます。
エリック・クラプトンもたくさんの曲をカバーしていますし、ライ・クーダーもエルモアのスライド奏法については詳細に言及していました。
ビートルズのアルバム「レット・イット・ビー」に収められているジョージ・ハリソンのブルーズ風の構成をした「For You Blue」でジョンの弾くスライドギターを「もっとエルモアみたいに」、とジョージが煽ります。
エルモアの生きていた時代というはアルバム単位のリリースは時代的に無く、他のブルーズ・レジェンド の例に漏れず1950年代まではシングルを寄せ集めたものが大半です。
また、そのころはHi-Fi の時代でもないので、音質が悪く残念に思うこともしばしばでした。
しかしこの1959年のニューヨーク録音は違います。何やら暗くあやしいリアルさもあって音質も良好です。
同じような経緯のテキサス・ブルーズマン、ライトニン・ホプキンスの「Mojo Hand」もおすすめです。
ミュージシャン
エルモア・ジェイムス ヴォーカル 、ギター
ブルームダスターズ 詳細不明
曲目
*内容は違いますが、参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Make My Dreams Come True メイク・マイ・ドリームズ・カム・トゥルー
ブルーム調です。ブラスも入ってご機嫌です。
2, Got To Move ガット・トゥ・ムーヴ
後半に行くほどノリがすごくなっていきます。ブラスアレンジがあるためマディ・ウォーターズのバンドとは違って雰囲気がソウルっぽくなります。
3, I Need You アイ・ニード・ユー
これぞというくらいのエルモアのバラードです。
4, Something Inside Me サムシング・インサイド・ミー
必殺のバラードが続きます。歌とスライドがとにかくすごい切れ味で迫ってきます。
この心を鷲づかみされるようなブルーズはもう人類遺産と言えます。
5, Look On Yonder Wall ルック・オン・ヤンダー・ウォール
単音奏法のシカゴブルーズです。これもエルモアの魅力です。
6, Shake Your Money Maker シェイク・ユア・マネー・メイカー
ノリの良いロックンロールです。スライドソロがかっこいいナンバーです。
7, Strange Angels ストレンジ・エンジェルズ
力強いリズムで攻めます。よく聞くとホーンアレンジも素晴らしいものがあります。
8, Early One Morning アーリー・ワン・モーニング
はい、待ってましたのブルーム調です。
9, She Done Moved シー・ダン・ムーヴド
インストです。低音弦で聞かせます。
10, Baby Please Set A Date ベイビー・プリーズ・セット・ア・デイト
凶悪なフレーズで始まる文句も言えないナンバーです。バンドがまとまりを感じます。
続けて同時代の同じセッションのアルバム「ザ・スカイ・イズ・クライング」です。
「アイ・ニード ・ユー」とは甲乙つけられません。このニューヨークセッションについてはコンプリート物も結構出ていますので、実際は分ける必要も感じませんが元々は違うアルバムとしてリリースされて、そのオリジナルアルバムを今味わえる状態ですので、手に入らなかった時代を考えればこれはこれで素晴らしいことです。
曲目
*内容は違いますが参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, The Sky Is Crying ザ・スカイ・イズ・クライング
「サムシング・インサイド・ミー」と対をなす名曲です。歌唱力もすごいのです。
2, Dust My Bloom ダスト・マイ・ブルーム
エルモアのトレードマークとなった曲です。ロバート・ジョンソン版とは趣が違います。
3, I Held My Baby アイ・ヘルド・マイ・ベイビー
これも必聴曲です。バンドのまとまりもいい塩梅でございます。
4, Fine Little Mama ファイン・リトル・ママ
エルモアにしては軽やかな曲調です。
5, Bobbie’s Rock ボビーズ・ロック
インストです。ボビー・ロビンソンに敬意を込めて、肩慣らしついでに演ったと思われます。ギターの弦を摘んで引っ張って弾く感じです。
6, I Can’t Stop Loving You アイ・キャント・ストップ・ラヴィング・ユー
エルモアにしては珍しいリズムです。
エルモアは曲のタイトルだけを見ると相当なロマンチストなんですね。
7, I Done Somebody Wrong アイ・ダン・サムバディ・ロング
これもエルモアらしくないビートです。
8, Rollin’ And Tumblin’ ローリン・アンド・タンブリン
マディ・ウォーターズ・バージョンとは大分違いますが、これはこれでOK
9, One Way Out ワン・ウェイ・アウト
鬼気迫るヴォーカル が味わえます。
10, My Bleeding Heart マイ・ブリーディング・ハート
必殺のバラードです。
11, I’m Worried アイム・ウォリッド
必殺のフレーズです。バックもいい感じです。
12, Standing At The Crossroad スタンディング・アット・ザ・クロスロード
ロバート・ジョンソンの曲ですが大分イメージが違っています。攻めてます。
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