「ブルーズの巨星ハウリン・ウルフ、最後の咆哮」The Back Door Wolf : Howlin’ Wolf / ザ・バック・ドア・ウルフ : ハウリン・ウルフ

 ブルーズ、ロックンロール、ロックの歴史において、非常に重要なアイコンであるハウリン・ウルフです。
1950年代初期からシカゴブルーズを成立させ、中心の一人として活躍していましたが、惜しまれつつも1976年1月に亡くなられました。
最後のアルバムがこの1973年リリースの「ザ ・バック・ドア・ウルフ」です。

聴いていただければ、最後まで自分のブルーズを貫き通したことがわかります。。

1973年といえばすでにLPレコードの時代となって久しく、このアルバムも最初からアルバムとして企画されました。そこが重要です。
シングルレコードの曲単位としての時代からトータルとしてのアルバム単位のブルーズです。

音もハイファイの時代となって結構きれいです。
でもそこは天下のハウリン・ウルフです。あの強烈な音楽内容は変わりません、変わりようがありませんでした。

このアルバムはハウリン ・ウルフが最後まで変わらぬ姿勢で音楽を続けた証明ともなっています。

その内容とともに、もう一つ特筆すべきはジャケットの良さです。横顔の大写しです。
これが全てを語っています。

ブルーズアルバムには同じようなデザインでマディ・ウォーターズの世界的文化遺産とも言われる「ザ ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」があります。
こちらは見ようによってはブルーズの苦悩や希望、儚さとか怒りまでも表現しているような、まるでモナリザのような芸術性までも感じさせてくれるものです。
代わってこちらの「バック・ドア・ウルフ」は、なんというかただの頑固で偏屈な職人の横顔、という以外に例えようがありません。

(上記 : マディ・ウォーターズ様の定番です。ローリング・ストーンズ好きを公言するなら持っていないと「フッ」と鼻で笑われ、何を言っても信用してもらえません。長らくブルーズの世界では一家に一枚というキャッチコピーがありました。これも異論はありません)

ウルフのアルバムに「リアル・フォーク・ブルース」というこれまた名盤がありますが、このジャケットではちょっと斜め右からの思い切り笑顔のアップとなっています。

でもこれがまた、現場で若い衆の話も聞かないで “いいか若えの、しのごの言わずに俺のいう通りにやりゃあいいんだよ。わかったか。がっはっは・・” と言っているようにしか見えません。

(これは批判ではありません。こういうめんどくさそうな人は大好きです。)

(このアルバムもおすすめです。始まるとすぐにレッド・ツェッペリンの「レモン・ソング」の元ネタが出てきます)

そういう個性丸出しの頑固職人、ハウリン・ウルフです。
日本ではそうそう高く評価されているブルーズマンとは言えませんが海外、特にアメリカのロックミュージシャンからは広く支持されています。(「モーニン・イン・ザ・ムーンライト」ご参照ください)

若い頃から「Bigfoot Chester」とか「Bull Cow」と呼ばれ、身長191cm、体重130kgくらいあったようです。
ギターとハーモニカを演奏します。バンドスタイルで公演する場合は、基本ギタリストに任せてヴォーカルとハープに専念します。
しばらくは文盲だったそうですが、40代で学校に入り直して生活に必要なことはマスターしています。
若い頃からプロとして音楽活動をしていましたが、レコードデビューは40代とかなり遅咲きでした。苦労人です。
そして見かけによらずバンドメンバーを大切にするリーダーだったようで、本当は義理と人情の人だったのだと思われます。

1976年1月10日に癌、心不全、腎臓病合併で65歳で亡くなりました。シカゴ郊外のオークリッジ墓地に埋葬され、墓石には彼の得意だったギターとハーモニカが描かれています。

ハウリン・ウルフのブルーズは日本人のイメージするB.B.キングやロバート・ジョンソンとか、エリック・クラプトンのような哀しみ、切なさを搾り出すようなイメージのブルーズとは違います。

しかしこの脳髄を掻き回されるような圧倒的な迫力は他では味わえません。

アルバム「バック・ドア・ウルフ」のご紹介です。

演奏

ハウリン・ウルフ  ヴォーカル 、ハーモニカ

ヒューバート・サムリン  ギター

ウィリー・ウィリアムズ  ギター

SP  Leary ドラムス

アンドリュー・“ブルー ブラッド”・マクマホン  ベース

ジェームス ・グリーン  ベース

デトロイト・ジュニア  ピアノ、ハープシコード

エディ・ショー  テナーサックス  Tr.

曲目
*参考までに最後部にyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Moving  ムーヴィング

ヒューバート・サムリンらしい凶悪ギターで始まります。リズムが面白い曲です。


2,    Coon OnThe Moon  クーン・オン・ザ・ムーン
(作 エディー・ショー)

しみじみと聞かせあげるブルーズです。ギターもヴォリュームをちょっと絞ったような音色(小さいということではありません。音質です)で合わせます。


3,    Speak Now Woman  スピーク・ノー・ウーマン
(作 ジェームス ・オーデン)

ハープシコードが頑張ります。


4,    Trying To Forget You  トライング・トゥ・フォーゲット・ユー
(作 エディー・ショー)

これも途中にモーンが入り、ハウリン・ウルフらしいサウンドです。


5,    Stop Using Me  ストップ・ユージング・ミー
(作 ハウリン・ウルフ)

コロコロと転がるピアノで始まるブルーズです。さすがにサウンドがよくまとまっています。


6,    Leave Here Walking  リーヴ・ヒア・ウォーキング
(作 エディー・ショー)

シャッフルのノリの良い曲です。ベースがいいんだよなあ。


7,    The Back Door Wolf  ザ・バック・ドア・ウルフ
(作 エディー・ショー、ラルフ・ベース)

インストです。アーバンな雰囲気たっぷりのサックスが登場です。ギターソロもいつものブルーズとは一味違った感じで歌い上げます。


8,   You Turn Slick On Me  ユー・ターン・スリック・オン・ミー
(作 エメリー・ウィリアムス・ジュニア)

渋いブルーズです。ギターソロにぞくっとします。


9,    The Watergate Blues  ザ・ウォーターゲイト・ブルーズ
(作 エディー・ショー)

これも渋いブルーズです。シカゴブルーズらしい構成です。


10,   Can’t Stay Here  キャント・ステイ・ヒア
(作 アンドリュー・マクマホン)

最後も力強く、ブルーズの枠を超えたような曲で終わります。


1973年といえばロックはすでに熟し、ピンク・フロイドの「狂気」が発売された年です。そんな時代にこういう変わらぬハウリン・ウルフのアルバムがリリースされたことは本当にいい時代だったと思います。(私も小学生くらいなので、リアルタイムで聞いたわけではありませんが)

Bitly
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