ブルーズ界では超が付くほど有名なライヴ盤です。なぜ有名かというと理由は2つあります。
一つはブルーズという音楽の迫力、熱気が完全に納められています。そのパッケージによってすごい追体験ができます。
そしてもう一つは、でも音がとんでもなく悪いということです。
間違っても “ワタシ、パワーアンプの電源ケーブルを変えて音の違いを楽しんでマス” なんて言っているオタクが人様に勧めるようなアルバムではありません。
スティーリーダンとかジェニファー・ウォーンズとはわけが違うのです。
でもあえて言わせて貰うと、「ブルーズを語るには避けて通れない名盤です」。
その昔ブルーズを聴きあさっている時代にバイブルの如く参考にしている本がありました。「ブルースレコード・ガイドブック」です。何人かの著名な解説者がブルーズのジャンルごとに名盤を紹介して、そのアルバムごとにちょっとしたコメントがついていました。
言うなら私のブルーズに対する情報はほぼそこからいただいたものです。
CD時代になってから引き続き「ブルースCDガイドブック」も出版されました。
その本にマジックサム・ライブはこう書かれていました「100点満点で1万点」。いやこれはなんとしてでも手に入れて聴いてみない訳にはいきません。
でも当時はamazonもRakutenもヤフオクもありません。ひたすら時間を見つけてレコード屋さんを回るしかないのです。
20代の頃、ちょっと遠出をして横浜六角橋の今はなき有名なラーメン屋さんに行った時、お店の近くのレコード店で偶然見つけて手に入れたのを思い出します。
レコードでは2枚組でした。1963~4年のシカゴのアレックス・クラブでのライブと1969年のミシガン州アン・アーバー(アナーバー)でのアン・アーバー・ブルース・フェスティバルのライブです。
アレックス・クラブの方もすごい熱気は感じられます。これも悪くはありませんが2枚目のアン・アーバーのライブを聞いたときの衝撃は凄まじいものがありました。
このアルバムのレコーディングされた1969年と言えばウッドストック・フェスティバルが開催され、サイケデリックも華やかなりしで、ロックもかなり多様化してきた時代です。
その時期のブルーズといえば、カントリーブルーズはピュアな点からフォークミュージック方面から支持されていたと思います。
シカゴブルーズ、モダンブルーズなどの大物ミュージシャンはロック方面から尊敬を集めていました。
そういう中で若手のブルーズマンとしてマジック・サムやフレディ・キングなどはモダンブルーズからさらに進化した、幾分ソウルやロックを取り入れたアーバン・ブルーズへと進化して行きます。
当時のハードロックやブルーズロックの養分となっていました。
影響を受けたミュージシャンはクリーム、テン・イヤーズ・アフター、ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンド、フリートウッド・マック、ローリング・ストーンズ、フリー、ロリー・ギャラガーなど挙げたらキリがないくらいです。
しかし反面、当のブルーズマンたちは劣悪なビジネス環境だったようです。
来歴
マジック・サムは1937年2月14日にミシシッピ州グレナダで生まれました。本名はサミュエル・ジーン・マゲットと言います。マジック・サムという名前は幼なじみのベーシスト、マーク・トンプソンという人がレコーディング時にマゲット・サムにひっかけて命名したそうです。1957年からコブラ・レコードでレコーディングを始めましたがたいしてヒットも出ませんでした。1959年にコブラ・レコードは倒産します。
それからサムは兵役につきますが脱走し、捕まって6ヶ月間刑務所に収監されたそうです。不名誉除隊となりました。
1963年から音楽活動を再開、デルマーク・レコードと契約し2枚のアルバムをリリース、ライブも順調に活動していました。1969年にデルマークでの2枚目のアルバム「ブラック・マジック」をリリースしてかの有名なアン・アーバー・ブルース・フェスティバルにも出演します。
しかし1969年12月1日に突然、心臓発作で亡くなられました。享年32歳です。
サムは悪徳プロモーターによってひどい契約で働かされていたということも有名です。過労死とも言われています。
40年ほど前にジャズ批評という雑誌(だったと思いますが)にブルーズギタリスト特集があって、このマジック・サム・ライブのレビューがあり「あ、これやってたら死ぬわ。というポテンシャルです」と紹介されていました。いやもう激しく同意します。
サムさんは本当にもうちょっとでも長生きできていたらと悔やまれます。32歳は早すぎます。あと10年生き延びられたらきっとブルース・ブラザーズとか、エリック・クラプトンとか、ローリング・ストーンズらの有名ロック勢のサポートを受けて、偉大なるブルーズ ・レジェンドとしてもっと余裕ある音楽活動ができたことでしょう。
アルバム「マジック・サム・ライブ」のご紹介です。
演奏
*アレックス・クラブ
ヴォーカル 、ギター マジック・サム
ドラムス ボブ・リッチー (Tr 1,2,4,6 & 9)
ドラムス ハックルベリー・ハウンド(ロバート・ライト)(Tr 3,5,7,8 & 10)
ベース、ヴォーカル マック・トンプソン
テナー・サックス エディ・ショウ
エレクトリック・ピアノ タイロン・カーター (Tr 1,2,4,6 & 9)
*アン・アーバー・ブルース・フェスティバル
ヴォーカル 、ギター マジック・サム
ドラムス サム・レイ
ベース ブルース・バーロー
曲目
*最後部にyoutube音源をリンクさせていただきます。(ライブですが同じ内容ではありません。これもなかなかですが、やはりアン・アーバーのライブは特別です)
オリジナルアルバムと同じ音源はこちらから探してみてください。
<アレックス・クラブ シカゴ>
1, Every Night About This Time エブリー ・ナイト・アバウト・ディス・タイム
(作 デイヴ・バーソロミュー、ファッツ ・ドミノ)
Yeah, Yeah と煽りまくって始まります。はい、ツカミはOK。ソロも快調に飛ばします。
2, I don’t Believe You’d Let Me Down アイ・ドント・ビリーヴ・ユー・レット・ミー・ダウン
シャッフルです。演奏は素晴らしいのですが、改めて音は悪い。
3, Mole’s Blues モールズ・ブルーズ
インスト曲で、途中オウッとかイエーとかしか聞こえません。B.B.キングばりの泣きのギターが堪能できます。
4, I Just Get To Know アイ・ジャスト・ゲット・トゥ・ノウ
如何にもホーンが入ったブルーズ という感じで、ゴージャスに聞かせます。
5, Tore Down トア・ダウン
(作 ソニー・トンプソン)
かっこいいロックロールです。フレディ・キングを思い出します。
6, You Were Wrong ユー・ワー・ロング
ソロの中でピッキング・ハーモニクスを使ったような音が出てきますがよくわかりません。最高に音の悪い瞬間です。でも力強い演奏であることは感じます。
7, Backstroke バックストローク
エリック・クラプトンで有名なフレディ・キングの「ハイダウェイ」調の曲です。音は前の曲に比べればクリアーになっています。
8, Come On In This House カム・オン・イン・ディス・ハウス
(作 ジュニア・ウェルズ)
楽曲がいいのも相まって質の高い演奏です。ライブハウスの楽屋で聞いているような音ですけど。
9, Riding High ライディング・ハイ
ちょっと肩慣らしといった感じの曲です。
<アン・アーバー・ブルース・フェスティバル>
1, San-Ho-Zay サン・ホー・ゼイ
インストの挨拶がわりのような曲ですが、ここからスリーピース・バンドなので、スリーピースならではのシンプルながらも個性出まくりの演奏が堪能できます。いよいよ本領発揮です。
2, I Need You So Bad アイ・ニード ・ユー・ソー・バッド
(作 B.B.キング、サム・リング)
1曲目から続き、ハイテンションで飛ばします。ドラムも煽ってます。
3, Strange Things Happenning ストレンジ・シングス・ハプニング
(作 パーシー・メイフィールド)
ヴォーカルの音質は酷いのですが、熱気は伝わります。スローなギターソロも気合が入ってます。
4, I Feel So Good (I Wannna Boogie) アイ・フィール・ソー・グッド(アイ・ワナ・ブギ)
ファンキーです。これでもかとたたみかけてくる壮絶ギターはとんでもないものを聴いてしまったという感覚に囚われます。エレキギターを持っている人は分かるでしょうがこれをピックなしで指で弾いているとは思えません。なんというかこのリズム感がすごいのです。何か次元が違います。
5, All Your Love オール・ユア・ラヴ
同じコブラレコードにいたオーティス ・ラッシュの代表曲です。いろんな人にカバーされているブルーズ・スタンダードです。本家と同じように粘っこく演奏しています。
6, Sweet Home Chicago スウィート ・ホーム・シカゴ
(作 ロバート・ジョンソン)
マジック・サムが最初なのかは知りませんが、このロバジョンの有名曲は今やこのように跳ねるシャッフルで演奏するのが定番です。エルモア・ジェイムスともちょっと違います。ブルース・ブラザーズでは “サムの” といってスイートホーム・シカゴを紹介して演奏しました。
7, Lookin’ Good ルッキン ・グッド
ブルーズとかロックとかファンクとか関係なく、とにかくこのグイグイと持って行き方は凄い。伝説になる訳です。最後はブレイクというか時間切れというか。
8, Lookin’ Good (Encore) ルッキン ・グッド(アンコール)
もうなんも言えません。しばらくリフが耳に残ってループします。
「とにかく俺の歌を、・・・魂のギターを聴いてくれえぇええ」というのがどんな人でもわかるほどの説得力です。
マジック・サムは指弾きでピックを使っていない奏法です。
エレキギターの指弾きのギタリストと言えばジェフ・ベック、マーク・ノップラー、ウィルコ・ジョンソン、ライ・クーダー、ウエス ・モンゴメリー など思い浮かびますが、みんな相当に個性的です。私はギタリストの視点からも、みんな好きです。
おすすめのデルマーク盤もご一緒に。
同じ1969年のライブ音源です。アン・アーバーとは違います。
アン・アーバーのライブの公式のものは見つかりませんでした。
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