「誰もブラインド・ウィリー・マクテルのようにブルーズは歌えない by  ボブ・ディラン」The Early Years 1927-1933 : Blind Willie McTel / アーリー・イヤーズ 1927-1933 : ブラインド・ウィリー・マクテル

 戦前ブルーズ、古典ブルーズと言われる中にも重要人物はいっぱいいます。というより今でも名前が残っている人は全て重要人物です。その中でもとびきり有名で影響力の大きい大物ブルーズマン、ブラインド・ウィリー・マクテルをご紹介いたします。

有名なところでは1971年にオールマン・ブラザーズ・バンドの「フィルモア・イーストのライブ」で「ステイツボロ・ブルーズ」を思いっきりブルーズロックにしてライブのオープニングに演奏しました。
このアルバムは後々歴史に残るロック名盤として語り継がれるようになるため、ブラインド・ウィリー・マクテルのロックファンの浸透度合いは完璧でした。
他にもボブ・ディランが「追憶のハイウェイ61」でジョージア・サムを登場させたり(マクテルの別名です)、1980年代にはそのものズバリの「ブラインド・ウィリー・マクテル」という曲を書いています。
“Nobody can sing the blues,Like Blind Willie McTell” 「誰もブラインド・ウィリー・マクテルのようには歌えない」、という歌詞は音楽ファンの興味をそそりました。
なおこの曲はディランにとっては低迷期だった1980年代のベストソングとする声も多いようです。

かように何かと想像力を掻き立てるブルーズマンです。

本名はウィリアム・サミュエル・マクティアといい、1898年5月5日にジョージア州トムソンに生まれました。
最初はハーモニカとアコーディオンを演奏していましたが、10代前半でギターを手にします。
家はわりあい裕福で音楽一家だったようです。
なんとブルーズマンでゴスペルの父と言われるリー・ドーシー(トーマス・アンドリュー・ドーシー)は親戚だったとか。

1920年代母親が亡くなった後はマクテルはソングスターとなり、アタランタやオーガスタなどのジョージア州の街で大道芸人として生計を立てていました。

ソングスターというのはブルーズ、ラグタイム、宗教音楽など幅広いジャンルを歌っていたからです。
1927年ビクターレコードで初録音をします。

そのあとはいろいろと名前を変えながらブルーズの世界では有名な老舗のコロンビアやオーケー、ヴォカリオンなどで録音をしていきます。

1940年、テキサス大学教授のジョン・A・ローマックスと妻のルビー・テレル・ローマックスはアトランタのホテルで米国議会図書館のアメリカ民謡アーカイブ用に2時間ほどマクテルの録音をしました。

この時ローマックスはマクテルに “complaining song” = “不平、不満を歌っている歌”はないかと聞いたところ、マクテルは返事を適当にはぐらかしたとされています。

ローマックスとしてはリアルな生活感のある歌を録音したかったのでしょうが、時代が時代なので差別についての不満など残そうものなら、後でいつしょっ引かれるかわかったものではないとマクテルは警戒したのかもしれません。

この時の模様は1960年に断片的ながらLPレコード化されています。
このセッションでマクテルに支払われたのは10ドルだったそうです。2011年の時点での換算で154.56ドルだそうです。
今のレートで日本円に換算すると2万数千円ですので、考えるとバイト君並みとまでは言わないまでも・・・というくらいの金額ですね。

1956年に最後のレコーディングをしてブルーズヴィルからリリースされました。
この時はアトランタのレコード店の支配人エドワード・ローズが路上で演奏しているマクテルを見つけ、バーボンのボトルを見せて誘い録音したそうです。1961年にリリースされました。

1959年にジョージア州ミレッジビルで脳卒中により61歳で亡くなりました。

死後、業績は認められ1981年にブルーズの殿堂入り、1990年にはジョージア音楽の殿堂入りを果たしています。

ブラインド・ウィリー・マクテルは基本的に他のカントリー・ブルーズマンと同じくギター弾き語りのスタイルです。

歌い方はデルタ・ブルーズのチャーリー・パットンやサン・ハウスなどのように気合の入った迫力ある歌い方ではありません。
イースト・コーストのブラインド・ブレイクやタンパ・レッドのように軽く歌い、ほのかに哀愁を感じるような個性的な声です。

使用しているギターはこの時代には珍しく12弦のギターが中心でした。
この時代のブルーズマンの定番はとっても安いステラの6弦のギターがほとんどだったことから彼なりのこだわりが感じられます。

同時代の12弦ギターの使用者としてレッドベリーがいます。
同じように音楽性が広くブルーズのみならず宗教家や労働歌、時事系などを歌う人でした。
またマクテルはブルーズ的な演奏はもちろんのこと、ピードモント・スタイルと言われるラグタイムブルーズやスライドギター・ブルーズなどいろんなスタイルを持っていました。

また、ブルーズマンとしては結構長生きできて、活動期間も長かったので他の戦前カントリーブルーズマンと比べると写真等も多く残されています。

ご紹介するのはYazooレーベルからの初期録音集「The Early Years 1927-1930」です。
私はCDでしか持っていませんが、これは1990年くらいに購入したものにしてはとっても録音がいいのです。
イタオコシによるスクラッチノイズがあまり気にならずリアルな音質となっています。

ヤズー・レコードのデザインも最高です。

現在入手できるCDはこれくらいしかありません。

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曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

01.Broke Down Engine Blues ブローク・ダウン・エンジン・ブルーズ

朴訥とした声でブルーズが始まります。これがブラインド・ウィリー・マクテルです。
胸を掻きむしるというようなが解しい感情をこめた、というような歌い方ではありませんが、この人にしかない味を感じます。
内容はギャンブルで全てを失ってしまった男の歌です。

02.Mama ‘Tain’t Long For Day ママ・テイント・ロング・フォー・デイ

スライドギターによるブルーズです。この人はスライドギターも達人です。
そしてこのちょっと鼻にかかったような声がまた程よいブルーズを感じさせます。

03.Georgia Rag ジョージア・ラグ

ブラインド・ボーイ・フラーとかブラインド・ブレイクを思い浮かべるような軽快なラグタイム・ブルーズです。
こういうのはミシシッピやテキサスとはまた違った味わいで、ピードモント・スタイルと呼ばれます。
ピードモント・ブルーズ、イースト・コースト・ブルーズ、サウスイースタン・ブルーズなどとも言われます。
幅の広いブルーズマンです。

04.Love Changing Blues ラヴ・チェンジング・ブルーズ

またしても超絶スライドギターが活躍します。歌うようなスライドギターのフレーズです。
この人は本当に器用で、いろんなスタイルを持っています。

05.Statesboro Blues ステイツボロ・ブルーズ

オールマン・ブラザーズ・バンドのバージョンとはかなり違った印象ですが、その中間にタジ・マハールのバージョンがあり、それにインスパイアされたものだと思われます。
一説によるとタジ・マハールのバンドでジェシ・エド・デイヴィスがこの曲を弾いているのを見て、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュエイン・オールマンが練習を始めたとのことです。
マクテルはオールマン・ブラザーズ・バンドにとってはご当地ブルーズマンであり、敬意を評したかったのだと思います。
ちなみにステイツボロとはジョージア州の町の名前です。

06.Stomp Down Rider ストンプ・ダウン・ライダー

軽快な曲です。ラグタイム・ブルーズ・ギターとはピアノのフレーズをギターに置き換えたと言われていますが、ここでは本当にピアノみたいにギターを弾いています。
アクセントでスライドも入ります。このバージョンはほとんどスクラッチノイズを感じません。

07.Savannah Mama サヴァンナ・ママ

ゆうくりしたリズムでスライドギターの表現が本当に素晴らしい曲です。
「私の愛する女性は私を犬のように扱う」「私はあなたのやり方に我慢できない」という歌詞についてですが、この時代のほとんどの黒人は奴隷であり、地主である白人にいろんな不満を持っていたことは想像できます。
人種差別が激しい時代では大ぴらにそういうことを表現することは許されませんでした。
それでブルーズマンはその状況を「悪い女」として歌いました。これなどはその典型かと思われます。

08.Travelin’ Blues トラヴェリン・ブルーズ

トーキング・ブルーズです。スライドも登場します。とっても器用にギターで列車を模したり、ギターと掛け合ったりします。
聞き手に面白がってもらおうというエンターテインメント気質に溢れており、こういうところに表現の深さが見られます。

09.Drive Away Blues ドライヴ・アウェイ・ブルーズ

ブラインド・ウィリー・マクテルらしいブルーズです。

10.Warm It Up To Me ウォーム・イット・アップ・トゥ・ミー

ブラインド・ブレイク調の軽快な曲です。

11.Three Women Blues スリー・ウーマン・ブルーズ

スライドギターで奏でるブルーズです。情感が溢れています。
この人のスライドギターはとても丁寧で綺麗な音をしています。

12.Writing Paper Blues ライティング・ペーパー・ブルーズ

勘当されて家を出て行く男の歌だと思われます。
気持ちを表すようにわざと遅らせて引きずるようなギター演奏をしています。

13.Southern Can Is Mine サザーン・キャン・イズ・マイン

やや明るめで都会的な、というか新しい感覚のブルーズです。この感じは他のカントリーブルーズマンにはないものです。歌詞についてはなんとも難解です。

14.Talkin’ To Myself トーキン・トゥ・マイセルフ

「いわわわわーん」というなんとも独特のスキャットで始まります。訥々と歌うブルーズですが、これまた歌詞は意味深です。

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