「夏だ!、バンドだ!、南十字星だ!。ということでザ・バンドの魅力を語ってみます」Northern Lights – Southern Cross / The Band / 南十字星 : ザ・バンド

 ザ・バンドの6枚目のスタジオアルバムは邦題「南十字星」原題「Northerm Lights – Southerm Cross」、直訳すると北極星と南十字星です。

アルバムジャケットはメンバーが火を囲んでキャンプしている風景です。
ちょっとクサイ絵ヅラじゃね、という意見もあります。
とは言ってもですね。ザ・バンドの今までのアルバムジャケットで良かったものがあるのでしょうか。

デビューするにあたりジャケットのイラストをボブ・ディランに頼んでしまった時から延々と駄作が続いています。
(間違っても音楽についてではありません)

それに比べれば今回は幾分マシという評価にならざるを得ません。

このジャケットを眺めているといつも思い出すことがあります。

子供の頃、夏休みにキャンプや合宿のことです。

あの自然の中で家族以外の大人、友人たちと過ごした体験は一生の思い出になっています。

私の生まれたところは田舎で田んぼや畑や山に囲まれた生活でしたがそれでも非日常の体験でした。
それを思えば都会で生まれ育った子供が山奥でキャンプや合宿などを体験するとなると私以上の強烈な体験になるかと思います。

そういう子供の時の思いでは貴重ですね。

さらに「南十字星」というワードです。

小学生の頃、家の近くに親戚の戦没者の墓がありました。
夏休みにお盆の墓掃除をしながら、墓標にブーゲンビル島で亡くなったと書いてあるのを読んでいました。

そして一緒に墓掃除をしていた近所のお爺さんと話したら「俺も行ったんだよ。ラバウルとかブーゲンビルとかまで行くと南十字星が見れるんだよ」と言ってました。

それも遠い夏休みの思い出です。

さて、本題に戻ります。

アメリカのロックバンド、ザ・バンドのオリジナルメンバーでのアルバムは7枚あります。

1968年デビュー作の「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」から1977年の「アイランド」までです。

さらにこだわれば本人たちの意思でリリースしたのは1975年の「南十字星」までです。

「アイランド」は「ザ・ラスト・ワルツ」をワーナーからリリースするために契約中のキャピトルとの契約履行のために短期間で今までのアウトテイクを寄せ集めてリリースした、という実に不本意なものだったのです。

そういうレコード会社との契約の関係で無理やり作った黒歴史もののアルバムでした。

今ではロックの歴史の一翼を担うザ・バンドです。

代表作を考えるとデビュー作のわたくし的には「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」と「南十字星」になります。

世界的にはデビュー作の評価は満場一致で高いものの「南十字星」は意見の分かれるところです。

内容はというとロビー・ロバートソンが全曲書いており、サウンドも仕切っています。

ロビー・ロバートソン・&・ザ・バンドという感じです。

そこがどうもという方も多いようです。

でも私は元からバンドの音楽の方向性、イメージはロビーによって作られたものであると思っていますので、そこは気にしません。

しかもこの時期はすでにメンバー間のいざこざは絶えず、バラバラでいがみ合っていたとも言われます。

ところがアルバムを聴いてみる分には全体に流れる統一されたイメージとガース・ハドソンによる緻密なアレンジでそういう雰囲気は微塵も感じられません。

ですが実際のところ、このアルバムはリリース時には大して売れませんでした。

結果に落ち込んだロビー・ロバートソンは限界を感じて解散を決意したとも言われています。

しかし私からすると決して失敗作でも駄作でもありません。

いかにもバンドらしい作品が多く聴いていて飽きることもありません。
聴くたびに新しい発見があるアルバムです。
しかもファーストアルバムから脈々とつながるテーマがここにもあります。

私がザ・バンドを他のロックバンドとは分けて考える理由でもあるのですが、それというのはザ・バンドの、ロビー・ロバートソンの書く曲はいつも敗者、弱者の視点で語られていることです。

そしてザ・バンドにはレヴォン・ヘルム、リチャード・マニュエル、リック・ダンコという素晴らしい3人のヴォーカリストがいました。

その3人のむさ苦しい男たちがかわるがわる哀愁を帯びた声で歌ったのです。

それはいつも負け組の視点からの歌なのでした。
まるで負けっぷりを競っているように身に降りかかった不運や世の不条理、報われない人のことを歌ったのでした。

そこが世界中で世代を超えて共感されている理由だと思うのです。

このアルバムでもリック・ダンコが珠玉の負け節を披露しています。「It Make No Defference 邦題 : 同じことさ」です。

わかっていながらもこの曲を聴くたび涙腺が崩壊しそうになる私がいます。

順風満帆でイケイケで何ら苦労のない、という人はザ・バンドのきっと音楽はわかりませんし、おすすめもしません。

きっと「なにこれ、ジミでクライ音楽ですなあ。ノリも悪いし、つまんねえわ」で終わってしまいます。

今年2025年、1月21日にオリジナルメンバーの最後の一人、最も年長者だったガース・ハドソンも亡くなられました。
享年87歳でした。

でも時代に流されないザ・バンドの強い音楽は今後も残っていくことと思います。

晩年までもつれた関係、特にレヴォン・ヘルムとロビー・ロバートソンは解散時からの不仲が修復することはありませんでした。

これを勝手な想像で考えてみたことがあります。

カナダ人とアメリカ人の混成バンドを結びつけていたものには理由がありました。

キーワードはブルーズ、R&B、ボブ・ディランです。

中でもアメリカ南北戦争で負けた南部人のレヴォンとアメリカ先住民族の血を引くロビーは歴史的に言えば反目する立場です。

バンドのメンバーは全員ブルーズやR&Bで結ばれ、バンドを始めた時はみんな目的が一緒でした。

そしてボブ・ディランに出会います。ユダヤ系のディランもまた民族的に苦難の歴史を持っていますので、ある種共通の感覚を持てたのではないかと思われます。

しかしバンドも大成功して大物ロックバンドとなると、そこでいろいろと摩擦が生じてきたのです。

表現が適切かどうかはわかりませんが、出生が違う以上、相手の立場や視点を全肯定すれば自分や自分の周囲を否定することと同じになる、という感覚です。

これが私が勝手に想像する理由なのですが、真偽は定かではありません。

ほとんどの楽曲を手掛けていたロビー・ロバートソンは2002年にレヴォン・ヘルムを除くメンバーからグループの権利を買取って楽曲の発表に関する主要な権限を獲得しました。

そしてザ・バンドのアルバムのリマスター、リミックスなどでブラッシュアップしていましたが初期三枚をアップデートしたところで2023年8月9日に80歳で亡くなってしまいました。

さぞ心残りだったであろうと思われます。

最後に手がけた「ステージ・フライト」を聴くと、この音の延長で「南十字星」も聴きたかったと思う今年の夏です。

アルバム「南十字星」のご紹介です。

Amazon.co.jp: 南十字星+2 - ザ・バンド: ミュージック
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演奏

ザ・バンド
リック・ダンコ
ベース、ギター、ヴァイオリン、ハーモニカ、ヴォーカル、ミキシング

レヴォン・ヘルム
ドラム、ギター、パーカッション、ヴォーカル
ガース・ハドソン
オルガン、キーボード、アコーディオン、サックス、シンセサイザー、ピッコロ、金管楽器、木管楽器、ちゃんたー、ベース、ミキシング

リチャード・マニュエル
アコースティックピアノ、エレクトリックピアノ、キーボード、オルガン、ドラム、クラヴィネット、パーカッション、ヴォーカル

ロビー・ロバートソン
ギター、ピアノ、クラヴィネット、メロディカ、パーカッション、ミキシング

ゲストミュージシャン
バイロン・バーリン  フィドル(Tr.4)

プロダクション
ナット・ジェフリー  エンジニア、ミキシング
ロブ・フラボニ  エンジニア、ミキシング
エド・アンダーソン  エンジニア

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Forbidden Fruit 禁断の木の実

アダムとイヴのリンゴを思い出させるタイトルですが、現代のニューヨークのことを歌っています。
ヴォーカルはレヴォン・ヘルムです。
安定のザ・バンド・サウンドで、ここでの聞き物はロビー・ロバートソンのコキコキ、ペキペキのワウペダル・ギターと何気に重要なガース・ハドソンのキーボード関係です。

2,   Hobo Jungle 浮浪者の溜まり場

リチャード・マニュエルが歌います。
ドラマティックな曲なのですが「浮浪者の溜まり場」なんてタイトルを曲につけるロックミュージシャンは他に知りません。
大体においてHoboとは移民労働者というさすらいながら仕事をしている人で、浮浪者とはまた乱暴な翻訳でありますな。

3,   Ophelia オフェリア

レヴォンのヴォーカルです。
タイトルはちょっとシェイクスピアを思いださせますが、ロビーによるとミニー・パールと言うコメディアンを意識してのことだそうです。
サウンドはディキシーな雰囲気も感じられ、ここでも素晴らしいギターソロが聴けます。
ライブでもよく演奏されていました。

4,   Acadian Driftwood アケイディアの流木

三人(マニュエル、レヴォン、リック)で歌う珠玉の名曲です。
自分たちのことを歌ったような詩の世界も素晴らしく、北アメリカのフランス人入植地、ルイジアナ州のアケイディア人の移民、ケイジャン、クレオールなどといくらでもイメージが広がっていきます。

5,   Ring Your Bell ベルを鳴らして

これも3人でヴォーカルを回していきます。
シンプルな曲調と思ってもよく聴くと細かなアレンジが凄まじいです。

6,   It Makes No Difference 同じことさ

この喪失感。うーん、何も言えん。
「違わなくなる」を「同じことさ」とした邦題もいい感じで内容を表しています。

7,   Jupiter Hollow ジュピターの谷

SFチックな世界です。歌詞は意味深です。
サウンドがユニークでバンドが演ると何とも捉えどころがありません。

8,   Rags and Bones おんぼろ人生

リチャード・マニュエルが歌います。
タイトルからのイメージでしょうがまた何とも直球な邦題です。演歌みたいです。
でも古くからある街のことを歌っていて、そんなに悲壮感のある内容ではありません。
サウンドもミディアムテンポで情感豊かに進みます。

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