

元祖AORと言われるボズ・スキャッグスは1976年にこの「シルク・ディグリーズ」で特大ヒットを飛ばして、そこから一気に大物アーティストの仲間入りをしました。
もう50年ほど前の話です。
しかし何を隠そう、その頃の私はといえばコッテコテのロック少年でありました。
当然こういったAOR系は一切興味がありませんでした。(若気の至りです)
ボズ・スキャッグスがいいなと思ったのは2000年代に入って、40歳を超えた頃からです。
この辺もやはり一度ブルーズを深く経由した状態では違って聞こえるようになったものです。
その辺りは後ほど話します。
ボズ・スキャッグスのミュージシャンとしての活動歴は意外に古く、1960年代から音楽活動をしていました。
意外なところでは1967年から1年ほどかの有名なアメリカン・ロックのスティーヴ・ミラー・バンドのメンバーだったりもしました。
1969年からソロ活動に移り長い下積みの後、有名となったのがこの1976年の「シルク・ディグリーズ」です。
ボズの経歴をさらっておきますと生まれは1944年6月8日、オハイオ州カントンというところに生まれました。
父親が陸軍航空隊関係のセールスマンだったため、仕事の都合でそこからオクラホマ州マカレスター経由で、最終的にテキサス州プレイのというところに移って育ちます。
12歳の時にダラスのセント・マークス私立高校でスティーヴ・ミラーと出会ってギターを習ったとのことです。
1963年19歳の時に音楽を志すことを決めて学校を中退、陸軍予備役に入隊してバンド活動を始めます。
1965年にイギリスに渡り、おりしのブリティッシュ・バンドブームに乗っかろうとしますが、全くうまくいかずバンドも解散します。
それからヨーロッパ中を旅して路上ライブなどをしていたそうです。
1965年にソロアルバム「ボズ」でデビューしましたがこれまた散々な結果でした。
そういう訳で失意のどん底だったと思いますが、なんとその時旧知のスティーヴ・ミラーからバンドへの参加を求める手紙をもらいました。
アメリカに戻り、サンフランシスコでスティーヴ・ミラー・バンドに加わります。
デビュー作「チルドレン・オブ・ザ・フューチャー」とセカンド「セイラー」に参加しますが、意見の対立などでバンドを離れることになります。
スティーヴ・ミラー・バンドがヒットを飛ばして商業的に成功するのは1973年の「ジョーカー」あたりからなのでボズの在籍した時代はまだバンドの成功とは程遠い時期でした。
1968年にはアトランティック・レコードと契約して1年後に「ボズ・スキャッグス」をリリースします。
このアルバムにはマッスル・ショールズ・リズム・セクションとかのオールマン・ブラザーズ・バンドで大ブレイクすることになるデュエイン・オールマンが参加しています。
もちろん業界内での評価は高かったものの売り上げには結びつきませんでした。
このように何かと苦労していたボズ・スキャッグスですが、1971年にコロンビア・レコードに移ってから徐々ではありますが上向きとなります。
そしていよいよ、満を辞して1976年の「シルク・ディグリーズ」でブレイクとなります。
また、このアルバムはもう一つの副産物として、1980年代のアメリカのロック界を牽引するTOTOの結成に貢献することにもなりました。

「シルク・ディグリーズ」が出た時は私は高校生くらいでした。
「ウイ・アー・オール・アローン」は大ヒットしていて、当然曲は知ってはいました。
でもロック少年だった私には縁のない音楽だと思っていました。
ボズ・スキャッグスなんてポップスのフリオ・イグレシアスなどと同じようなジャンルの人だろう、なんて勝手に思っていたくらいです。
そういう余裕ある大人ののための音楽という認識でした。
その後も「ミドル・マン」などのヒットが続きますが偏見は変わりません。
「『中年』なんてタイトルのアルバムなんか聴いてられるかい。しかもおっさんが女の膝枕でタバコ吸ってんのって趣味悪すぎじゃね」なんて思っていました。
(ミドル・マンは「仲買人」「ブローカー」「仲介人」の意味で、間違っても「中年=ミドル・エイジ」ではありません、悪しからず)
時代はAOR、産業ロック全盛でしかも世の中はバブル到来で浮かれたっている時です。
ハイソな人種が聞く音楽は私には関係ない世界と感じていました。
それから40年弱経過した時、すごく音のいいアルバムに遭遇しました。
なんといってもベースとドラムが素晴らしく、レイドバックしたミドルテンポでのビートの心地よさはこれ以上ないくらい快感です。
ヴォーカル良し、曲良し、サウンド良しでとってもいい時間が過ごせそうなアルバムです。
それは何とボズ・スキャッグスの「メンフィス」というアルバムでした。
アルバムを聴いているとボズ・スキャグスというミュージシャンの本当の姿がわかるような感じがしました。
このアルバムは最初のレイドバックした雰囲気もいいし、後半のブルーズもいけてます。
この手の歌手は歳を取ったらラスベガスあたりのディナーショーでスタンダードばかり歌うようになると勝手に思い込んでいたのです。
「もしかしたら俺は、僕は、アタイは、わたくしは・・・ボズ・スキャッグスというミュージシャンを全く理解できない狭量で貧相な感性をしていただけではないか」と思った次第です。
そして「シルク・ディグリーズ」をちゃんと聞き直してみました。
そういえば昔、LPレコードを貸してもらった時は1曲目のオーケストラアレンジと女性コーラスを聞いて「うわあ、これムリ」と思ったもので、そこで聞くのをやめてしまった思い出があります。
今聞くと、確かに1曲目はさほどいいとは思わないものの、2曲目以降は普通に、いや結構いい感じのブルー・アイド・ソウルではないですか。
それから彼の経歴を眺めてみたところ結構な苦労人でソウル、R&B、トラディショナルが好きな、そして歌うことが何より好きな人だと分かりました。
ベンチの右の方に女性の手だけ写っているアルバムジャケットも「なんじゃこりゃ、気色悪い」くらいにしか思ってなかったものの、今見ると「遊んでくれなくてふてくされたワンちゃん」みたいで、なかなかいいではないですか。(大前提、これでも褒めてます)
ちなみにここ数十年はTOTOも見直しています。
デビュー当時はこれまた産業ロック、金儲け主義の音楽くらいにしか思っていなかったのですが、R&B、バーナード・パーディ、ハーフタイム・シャッフル、などとくるとジェフ・ポーカロにたどり着いたり、アメリカ版の坂崎幸之助さんみたいなスティーヴ・ルカサー(どんな曲でも知っている、弾けるという意味です。見た目ではありません)などその後の音楽界を牽引していくすごい人たちがいるバンドなのでした。

アルバム「シルク・ディグリーズ」のご紹介です。

演奏
- ボズ・スキャッグス – リードボーカル、ギター、バックボーカル(Tr.4、7、8)
- デヴィト・ペイチ – アレンジ、アコースティックピアノ (Tr. 1-4, 7-10)、ホーナークラヴィネット(Tr. 2)、フェンダーローズ(Tr. 5-8)、モーグシンセサイザー(Tr. 5, 6, 9)、ARPシンセサイザー(Tr. 6)、ミニモーグ(Tr. 6, 8, 9)、ハモンドオルガン(Tr. 6, 9)、ウーリッツァーエレクトリックピアノ(Tr. 7, 8)、ハープシコード(Tr. 7)
- フレッド・タケット – ギター
- レス・デュデック – スライドギター(Tr. 3)
- ルイス・シェルトン – ギター、スライドギター(Tr. 8)、アコースティックギター(Tr. 10)
- デヴィッド・ハンゲイト – ベース
- ジェフ・ポーカロ – ドラム、パーカッション(Tr. 4)、ティンパレス(Tr. 8)
- ジョー・ポーカロ – パーカッション (Tr. 1、3)
- ブラス・ジョンソン – テナーサックスソロ(Tr. 1)、サックス(Tr. 8)
- ジム・ホーン – テナーサックス (Tr. 4)
- バド・シャンク – サックス (Tr. 8)
- チャック・フィンドリー – フリューゲルホーン・ソロ (Tr. 5)
- シド・シャープ – 弦楽指揮者兼コンサートマスター
- ヴィンセント・デローザ、ジム・ホーン、ポール・ハビノン、ディック・ハイド、プラス・ジョンソン、トム・スコット、バド・シャンク – ホーン
- ジム・ギルストラップ – バックボーカル (Tr. 1, 6)
- オーギー・ジョンソン – バックボーカル (Tr. 1, 6)
- マーティ・マッコール – バックボーカル(Tr. 1、6)
- キャロリン・ウィリス – バックボーカル (Tr. 1, 6)
- マキシン・グリーン – バックボーカル (Tr. 4、7、8)
- ペッパー・スウェンソン – バックボーカル (Tr. 4)
制作
- ジョー・ウィッサート – プロダクション
- トム・ペリー – エンジニアリング
- ダグ・サックス – The Mastering Lab (カリフォルニア州ロサンゼルス) でのマスタリング。
- ロン・カロ – デザイン
- ナンシー・ドナルド – デザイン
- モシェ・ブラカ – フォト





曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, What Can I Say 何て言えばいいんだろう
1曲目はブラック・コンテンポラリー路線というか無茶苦茶その辺を意識してそうな曲調です。サウンドに時代を感じます。
ただボズがこれをやらなくても(本人が演りたかったのかもしれませんが)と思うのは私だけ?
2, Georgia ジョージア
いきなり「ジョージア・オン・マイ・マインド」を想像してしまうのですが、AORとしていい感じです。
個人的には名曲度が高いです。
3, Jump Street ジャンプ・ストリート
ノスタルジックなピアノに乗って始まりますがハードな曲に変わります。R&Bとロックをうまくミックスした曲調がいい感じです。スライドギターもご機嫌です。
4, What do You Want the Girl to Do あの娘に何をさせたいんだ
曲調がまた反転します。バラエティに富んだ内容です。なんかとんでもない邦題ですがニューオリンズの才人アラン・トゥーサンの名曲です。
5, Harbor Light ハーバー・ライト
はいそこの50過ぎの人、タイトルを見て渡辺真知子さんの歌を思い出してはいけません(当たり前です)。
個人的にこの曲にはムード歌謡の世界を感じてしまうのですが若い人はまた違った感覚かもしれません。
6, Lowdown ローダウン
これは当時かなりヒットしたそうですが、アレンジがディスコに寄せていて私的には古臭く感じてしまうのです。
7, It’s Over イッツ・オーバー
これまたディスコです。個人的には好きなジャンルではありませんが今の人が聞いたらもしかして新鮮かも。
8, Love Me Tomorrow 明日に愛して
こういうある種シンコペイトしたリズムを聴くとなぜか安心します。
9, Lido Shuffle リド・シャッフル
これはロックよりのアレンジです。普通にいい曲で、歌い方がキマッています。TOTOっぽいサウンドです。ここにスティーヴ・ルカサーのギターがあれば完璧です。
10, We’re All Alone ウイアー・オール・アローン
ジャンル云々に関係なくまごうかたなき不滅の名曲です。
今となってはボブ・スキャッグスはこういうのを望んでいたのか、などと考えてしまいますがこの曲によって腰を据えて音楽活動ができるようになりました。
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