「ニューオリンズの音楽職人、偉大なる裏方、アラン・トゥーサンの代表的名盤」Southern Night : Allen Toussaint / サザン・ナイツ : アラン・トゥーサン

 アラン・トゥーサンは “One  of popular musics’s great backroom figures” と呼ばれています。
直訳すると「ポピュラー音楽界の偉大なる裏方」です。

生涯を通じてあまり前面に出て目立って活躍するという人ではありませんでしたが、周囲の人(ニューオリンズで活動するミュージシャンや仕事仲間)の才能や技術を最大限引き出してやることが得意な人だったように感じます。

なんとも会社などで上司にするには最高の人です。

こういう人が上司でいれば部下は最大の力を発揮して最高の仕事ができるというものです。
そしてそういう存在である彼は当然の如くミュージシャンから尊敬を受ける存在でした。(細かいことを言えば諸説ありでしょうが)

本人はもちろん作詞作曲、アレンジも得意で、ピアノを中心に楽器も使いこなし、歌も歌います。なのでリーダーアルバムをかなりの数、と言ってもトゥーサンの長い音楽歴を考えればアルバムとして紹介されるのは10枚程度と少なめです。

ただこの人の場合、廃盤になったりとか企画ものが数多くあったりとかで、実際のところはどうかわかりません。
そしてもちろん隠れ名曲度が高く、生涯を通じてジャンルを問わずいろんなミュージシャンからカバーされてきました。

アラン・トゥーサンの作る音楽は基本的にニューオリンズの伝統に則ったものです。

音楽環境には恵まれていて、子供の頃からピアノを習って10代の頃からギタリストのスヌークス・イーグリンなどとバンド「フランミンゴス」を組んだりしていました。

最初に影響を受けたのはニューオリンズ・セカンドライン・ピアノスタイルの重鎮、プロフェッサー・ロングヘアーでした。

世にでるきっかけとなったのが17歳のときです。

アラバマ州プリチャードでアール・キングの演奏中にヒューイ・ピアノ・ルイスの代役で演奏したことをきっかけとなって、デイヴ・バーソロミューのバンドを紹介されました。
そしてニューオリンズのクラブで定期的に演奏するようになります。

レコードデビューは1957年、ファッツ・ドミノ(ロックンロール・ピアニストです)の「I Want You to Know」で代役でピアノを弾いたのが最初です。

ピアニストの代わりにピアノを演奏するとは凄いことですね。

その場、その瞬間で柔軟に、的確に求められていることが理解して実行できる、期待に沿えるテクニックと知識があったことが伺えます。
それで各方面からの要望にすべからくうまく対応できたということです。

これは凄いことなのですが、いかんせん音楽の世界はオリジナリティ最優先なので強烈な印象を持って力技で我を通す人の方が記憶に残り成功することが多いようです。(もちろん私はそういう人も大好きです)

なのでトゥーサンみたいに器用でプロデューサーやミュージシャンの潤滑剤となれる存在は重宝されますが、超売れっ子にはなれないという世界でもあります。
アラン・トゥーサンはニューオリンズの一流ミュージシャンの引っ張り凧となり数多くのレコーディングに参加するようになりました。

1960年代に入るとプロデューサーとしても頭角を表します。
1960年にミニット・レコード(のちのインスタント・レコード)のジョー・バナシャックがトゥーサンをA&R兼レコード・プロデューサーとして雇いました。

A&Rとはアーティスト・アンド・レパートリーの略で、レコーディング・アーティストやソングライターの発掘と芸術的発展の監督、ビジネスの調整が仕事です。

ここから本領発揮、ニューオリンズで作詞作曲アレンジ、プロデュースと活躍するようになります。
同時にロック方面からも注目されるようになりました。

一例としてトゥーサンの作った「Fortune Teller」ははローリング・ストーンズ、ザ・フー、ホリーズなどにカバーされています。
オーティス・レディングのデビュー曲「ペイン・イン・マイ・ハート」はトゥーサンが書いてアーマ・トーマスがう当たってヒットした「ルーラー・オブ・マイ・ハート」が原曲です。
さすがにこれには訴訟を起こして、共同名義としています。

作者ナオミ・ネヴィルというのはアラン・トゥーサンのペンネームです。トゥーサンはペンネームとして母親の「ナオミ・ネヴィル」という名前を使ったりしています。

1963年にはアメリカ陸軍に徴兵されます。
1965年に除隊した後、マーシャル・シホーンと共同でサンス・エンタープライズを設立してニューオリンズを代表するプロデューサーとして活躍しました。

この時期にサンス・レーベルの専属スタジオミュージシャンだったのが、後のザ・ミーターズの面々です。

アラン・トゥーサンの音楽は正当ニューオリンズ節ではありますが、他に人にはない繊細さや知性を感じます。

いや別に土着型のプロフェッサー・ロングヘアーさんやワイルド・マグノリアスさんたちに知性を感じないと言ってるわけではありません。(何をおっしゃいますか、失礼な。)

*上記、プロフェッサー・ロングヘアーさまの「Rock ‘N’ Roll Gumbo : ロックンロールごった煮」とワイルド・マグノリアスさまの「They Call Us Wild : 俺たちゃ野生と呼ばれる」です。両方とも名盤です。

トゥーサンのバックボーンにはクラッシックの素養や音楽理論に通じている、西洋の音楽も体得していてその上でニューオリンズを感じるような音楽を演っているのです。
それはトゥーサンが厳格なカトリック教徒として育てられたことに起因しているような気がします。

今回は彼の4枚目のアルバムでおそらく最も有名であろう「サザン・ナイツ」のご紹介です。
1975年にリリースされたトゥーサンの代表作です。
ジャケットに描いてある「落日の中のおじいさんとワンちゃん」がイメージを膨らませます。

アルバムのタイトルとなっている「サザン・ナイツ」は1977年にカントリーのグレン・キャンベルがカバーしてカントリー、ポップ、AORのチャートでトップとなるヒットとなりました。

もちろんオリジナルのトゥーサンのバージョンはそれほど売れていません。そういう人なんです。

聞けばオリジナルバージョンもしみじみといい感じで捨て難い魅力があります。

ちなみにトゥーサンには「フリーダム・フォー・ザ・スタリオン」という超絶名曲もあるのですが、これもまた本人よりもリー・ドーシーやヒューズ・コーポレーション、スリー・ドッグ・ナイトなど他の人が歌ったバージョンが有名です。

誰が歌っても名曲ですが、個人的には日本のジャズ・ヴォーカリスト(一応そのジャンルの括り)、アン・サリーさんの2003年リリースの「Day Dream」収録バージョンがなかなかの味わいです。(探してみましたが残念ながら紹介できる音源はありません)

これが音楽番組、トップポップでの1973年のヒューズ・コーポレーションのパフォーマンスです。


ともあれアラン・トゥーサンの作る音楽はめちゃくちゃ完成度が高いものです。彼の音楽にインスパイアされたであろうヒット曲はいっぱいあります。
私はCDで「サザン・ナイツ」と「コンプリート・ワーナー・レコーディングス」というのも持っているんですが「コンプリート・ワーナー」の方がよりタイトで力強い音になっていて非常に気持ちよく聞けます。
(ただ素材が古いので「サザン・ナイツ」も2000年以降のリマスター版はもっとよくなっているのだろうと思います)。

アルバム「サザン・ナイツ」のご紹介です。

Bitly

演奏

カール・ブルーイン  バリトンサックス
ゲイリー・ブラウン  テナーサックス
レスター・カリステ  トロンボーン
ジョーン・ハーモン  バッキングヴォーカル
スティーヴ・ハワード  トランペット
クロード・カー・ジュニア  トランペット、フリューゲルホーン
ジギー・モデリスト  ドラムス
チャールズ・ビクター・ムーア  ギター
ジム・ムーア  フルート・テナーサックス
シャロン・ナボンヌ  バッキングヴォーカル
アーサー・レッド・ネヴィル  オルガン
レオ・ノセンテリ  ギター
デボラ・ポール  バッキング・ヴォーカル
ジョージ・ポーター・ジュニア  ベースギター
ロン・プライス  フルート・アルトサックス、テナーサックス
アルフレッド・「ウガンダ」・ロバーツ  コンガ
テディ・ロイヤル  ギター
アラン・トゥーサン  ギター、ハーモニカ、ピアノ、キーボード、ヴォーカル
クライド・ウィリアムス  ドラムス

プロダクション

グレッグ・バージェス  ライナー・ノーツ
ロバーラ・グレース  エンジニア
ゲイリー・ホピッシュ  リイシュー・マスタリング
ケン・ラクストン  エンジニア
ボブ・メリス  フォト
パトリック・ロケス  リイシュー・アートディレクター
フィリッポ・サルバドーリ  リイシュー・プロデューサー
マーシャル・シホーン  プロデューサー
ジョージ・スタブリノス  カバーイラスト
エド・スラッシャー  アートディレクション
アラン・トゥーサン  アレンジャー、プロデューサー

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   Last Train ラスト・トレイン

ピアノのスタッカートな音で始まります。スケールが大きくいろんな要素が感じられます。グルーヴするドラムとベースが最高です。

2,   Worldwide ワールドワイド

何気にファンキーで音も凝っています。リズムセクションが素晴らしい。

3,   Back in Baby’s Arms バック・イン・ベイビーズ・アームス

これも名曲です。アラン・トゥーサンはコッテリ感はないのですが慈愛溢れる声をしています。この曲もベースが引っ張っていき、身を任せたくなるサウンドです。

4,   Country John カントリー・ジョン

ノベルティソングっぽい曲調なんですが、サウンドが一筋縄でいかないくらい凝っていますのでお子様向けにはなりません。この曲のシングルバージョンはよりポップでノリノリな感じになっています。

5,   Basic Lady ベーシック・レディ

無駄のないタイトな音が次第に気持ちよくなる曲です。

6,   Southern Nights サザン・ナイツ

名曲です。ここではレスリースピーカーを通したトゥーサンの声が印象的です。アメリカ南部の夜をうまく描いています。アラン・トゥーサンにしか書けない曲です。

7,   You Will Not Lose ユー・ウィル・ノット・ルーズ

これまたタイトなリズムで進んでいく気持ちの良い曲です。“心配しないで、あなたは負けない”、というポジティブな歌詞といかにもブラック・コンテンポラリー・サウンドが気持ちよくなる曲です。

8,   What Do You Want  the Girl to Do? ホワット・ドゥ・ユー・ウォント・ザ・ガール・トゥ・ドゥ

これも「サザン・ナイツ」みたいな感じがいい味わいです。ボニー・レイット、ボズ・スキャッグス、ヴィンス・ギル、ローウェル・ジョージなどからもカバーされた名曲です。

9,   When the Party’s Over フェン・ザ・パーティーズ・オーバー

本当に、何も足さなくていい、シンプルで必要十分というサウンドです。ノスタルジックな雰囲気もあり最高に心地よいリズムです。

10,  Cruel Way to Go Down クルーエル・ウェイ・トゥ・ゴー・ダウン

最後は孤独についての歌です。シンプルで尚且つ奥深いサウンドで終わりとなります。

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