スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの名盤「スタンド!」に続いて、見方によっては更なる重要作とも言われる「暴動」のご紹介です。
このバンドが他のブラック・ミュージック・シーンのファンク・バンドと違いました。
この時代には珍しい黒人、白人の混成バンドです。
ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスを始め、その頃急激に進化しようとしていたロック・ミュージックのファンからも受け入れられました。
そしてその影響はロックに限らず多岐に渡ります。
この時期ジャズをエレクトリック化して、ロックの迫力と対峙しようとしていたマイルス・デイヴィスもスライのフレーズを曲に取り込んだりして研究し、影響を公言していました。
他にもプリンス、スティーヴィー・ワンダーはもとより、その後の世代となるディアンジェロ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど様々なジャンルのミュージシャンに影響を与え続けています。
スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンは1982年には解散しましたが、その後も
1993年にロックの殿堂入り、
さらに
2001年、ロックの歴史を作った500曲に「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」と「サンキュー」が選ばれ、
ローリング・ストーン誌が選ぶ「歴史上、最も偉大なアーティスト」に43位に選ばれています。
また
2006年にはグラミー賞授賞式でトリビュート・パフォーマンスが行われました。
スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンは全てがいわゆる名盤で売り上げが好調だったわけではありません。
しかしピーク時の作品によりいつまでも評価される、影響が大きく忘れられない存在となっているのです。
いろんな見方があるのでしょうが、個人的にピークと言えるのは1968年の「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」から1973年の「フレッシュ」あたりまでと感じます。
そのピーク時の中のピークを飾るのが「スタンド」と「暴動」です。
ただこの二枚は思いっきりサウンドの肌ざわり(耳ざわりというとちょっと意味が違ってきます)が違っています。
「スタンド!」の開放感あふれるポップでファンクなナンバーに対して「暴動」はなんともザラついた暗く重いファンクなのです。
連続した二枚でこの振幅の差が出るというのはスライ・ストーンがいかに繊細なハートの持ち主であるかということです。
加えて繊細ゆえに薬物に頼ってしまったのか、薬物によって精神が不安定になってしまったのか、などと考えてしまいますが、そういう過度な薬物依存の傾向も感じられました。
歌詞を見ると、平和主義者で繊細で悩み深い芸術家肌の人だったということはわかります。
「暴動」のサウンドは前述の通り、何かくぐもっただんご状の塊となった音が進んでいくファンク・サウンドです。開放感がありません。
しかしその不気味な迫力には妙に退廃的でクールなかっこよさも感じます。
このアルバムは最初は「アフリカは君に語りかける」というタイトルにしようとしていたそうですが、やはり「暴動」というタイトルの方がこのアルバムには合っています。
無音のトラック「暴動」とその時代の社会情勢を説明しておきます。
スライは1997年に「暴動が起こってはいけないと考えていたからトラックに演奏は入れなかった」と答えています。
1970年シカゴのグランド・パークで発生した暴動を指していると推測されています。
この暴動はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの責任と言われました。
当日、バンドはここで無料公演を行う予定でしたが観客が開演前に暴動を起こして、警官を含む100名以上が負傷する事態となりました。
逮捕者160名、162名が負傷、そのうち警官は126名で30名は入院となったとされています。
報道陣にはバンドの遅刻、または演奏拒否が理由と説明されたのでした。
バンドの機材はセッティングしてありスタンバイしていたとの話もありますが結果的には中止とならざるを得ませんでした。
その後の公演のいくつかは同様の暴動が起こるリスクがあるとされキャンセルされました。
スライ・ストーンはそこに居なかったと発表されましたが、本人はそこに居たと主張しています。
制御不能になった群衆を落ち着かせるためび何度かステージに立つことを申し出たのですが、シカゴ警察は彼らの身の安全と、群衆を落ち着かせるより、さらに危険な行為を扇動することになる恐れがあるとして、ステージへの登場を許可しませんでした。
という出来事、経験がこのアルバムの根底に流れています。
サウンドを象徴しているのが初期の原始的なアナログ回路のリズムボックスです。
マエストロ・リズム・キングMRK-2という機材でした。
これをドラムと併用して使用しています。
それにまとわりつきながらグルーヴを作っていくのがラリー・グラハムのベースです。
1曲目ではあまり感じませんが2局目以降、この重いだんご状の音の塊の中で唯一フレッシュで生き生きと動き回るベースがいます。
この辺がサウンド的に斬新でクール、かっこいいと感じるところです。
この路線の音作りは次作の「フレッシュ」も同じです。
ただ「暴動」比べるとよりシンプルで明るくなっている感じがします。
「暴動」ではスライはほとんどのトラックを自宅スタジオのベッドで寝ながら歌ったそうです。
そう言われれば確かに腹に力を入れ、気合を入れて出した声とは違う感じがします。
すごく気持ちのいい状態でレコーディングしたかったそうですが、出来上がったものはオープニングナンバーを除いて、そういう雰囲気は感じられません。
この時期、ラリー・グラハムとスライ・ストーンの関係はストーン兄弟含めて最悪となっていました。
1972年、コンサート終了後にスライとラリーの間で乱闘騒ぎが起こりました。
その後、ラリーがスライを殺すために殺し屋を雇ったという噂まで広がりました。
ラリーはグループに残ることはできなくなり、ホテルの窓から逃げたそうです。
ラリーは脱退後、グラハム・セントラル・ステーションというバンドを作って活動を続けます。
笑えないことを覚悟で言っておきますとこのバンド名はニューヨークの中心の駅、かのグランド・セントラル・ステーションをもじったものです・・・(泣)
ということで次作「フレッシュ」ではベースとドラムがメンバーチェンジしました。
一応言っておくと「サウンドが変わった」のはメンバーチェンジが原因ではなく、作者スライ・ストーンの体調、心境の変化によるものが大きいと思われます。
ただしアルバム「フレッシュ」においても9曲目の「ケ・セラ・セラ」と10曲目の「イフ・イット・ワー・レフト・アップ・トゥ・ミー」では不記載ながらラリー・グラハムがベースで参加しているそうです。
(ここで脱線します)
最近の人は「ケ・セラ・セラ」と言ってもミセス・グリーンアップルしか思い浮かばないでしょうが、このタイトルのオリジナルはドリス・デイの1956年のヒット曲です。
原曲は人生讃歌のポジティブな世界ですが昭和生まれの人は違います。
大きな失敗したとか、取り返しのつかないことをした、で、もう自分の力ではどうにもならない状況でお先真っ暗という時に諦めと開き直りの心境で口ずさむのです。
ペギー葉山さんの和訳バージョンです。
「ケ・セラ・セラ、なるようになる、先のことなど・・・わからない」
これが昭和のサラリーマンの仕事で大きなミスをした時の正しい反応です。
スライのバージョンはこれに近いような感じで投げやりに歌っています。
ええい、ついでにオリジナルバージョンです。
ペギー葉山さんのバージョンはトピックはあるのですが音符マークがないのでリンク貼れません。興味のある方は聴いてみてください。
話を戻しまして、「暴動」です。
前述の通りタイトル曲のトラックはあるのに無音です。
そしてジャケットは星条旗(正式なものではない)があるだけでタイトル名やグループ名も記されていません。
しかしインパクト抜群でこれ以上無いくらいかっこいいデザインです。
よく見ると星条旗の星の部分は五芒星と言われる塗りつぶされた5つの角の星ではなく9つの角になっています。
これは本人の弁によると太陽だそうです。そしてそこのバックは青ではなく黒になっています。
インタビューでこう答えています。
ジョナサン・ダックスとのインタビューで、ストーンはアルバムカバーのコンセプトについて次のように説明している。
「この旗が、あらゆる肌の色を持つ人々を真に表すものであってほしいと思いました。黒は色の不在を表しているから。白はあらゆる色の組み合わせを表しているから。そして赤は、すべての人間に共通する唯一のもの、つまり血を表しているから。星の代わりに太陽を選んだのは、私にとって星は、まるで自分の星を探すかのように、探求を意味するからです。この世界にはすでに星が多すぎます。しかし、太陽は常にそこにあり、あなたをじっと見つめています。ベッツィ・ロスは与えられたもので最善を尽くしました。私はもっと良いものができると思いました。」
(以上、WikiPediaより引用です)
ちなみにベッツィ・ロスとは星条旗のデザインをした人として知られています。
さらに内容はというとサウンドは混沌として暗く、重く、音の塊となったファンクです。
ジャケット、サウンド、歌詞、これはトータル的に完成されたものすごい作品です。
アルバム「暴動」のご紹介です。
演奏
- スライ・ストーン – アレンジ、ドラム、ドラムプログラミング、キーボードプログラミング、シンセサイザー、ギター、ベース、キーボード、ヴォーカル
- ローズ・ストーン – ボーカル、キーボード
- ビリー・プレストン – キーボード
- ジェリー・マルティーニ – テナーサックス
- シンシア・ロビンソン – トランペット
- フレディ・ストーン – ギター
- アイク・ターナー – ギター
- ボビー・ウーマック – ギター
- ラリー・グラハム – ベース、バックヴォーカル
- グレッグ・エリコ – ドラムス
- ジェリー・ギブソン – ドラムス
- リトルシスター – バックボーカル
プロダクション
- スライ・ストーン – プロデューサー
- エンジニア
クリス・ヒンショー、ジャック・アシュキナジー、ジェームズ・コニフ、ジェームズ・グリーン、ロバート・グラッツ、ウィリー・グリア、リッチ・ティレス - アートワーク(コラージュ、表紙デザイン)
リン・エイムズ、ジョン・バーグ - 写真(復刻版)
デビー・キング、ドン・ハンスタイン、フレッド・ロンバルディ、ハワード・R・コーエン、ジョーイ・フランクリン、リンダ・タイラー、リン・エイムズ、レイ・ガスパール、スティーブ・ペイリー、シルベスター・スチュワート
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Luv n’ Haight ラヴン・ヘイト
ベースが入ってドラムが加わり、ワウの効いたギターのカッティングが加わり、コーラスが入ってきます。
この曲に関しては気持ちがいい、動きたくないという歌詞の通り、まだ明るく感じられるところですが、なんか不穏な雰囲気も感じてしまいます。
Luv=Loveみたいな表現はプリンスを筆頭に引き継がれることになります。
2, Just Like Baby 子供のように
サウンドは遅いテンポですがグルーヴィーです。
タイトルに反して無垢な気持ちを歌っているようには思えません。
どちらかというと子供の頃に持っていた漠然とした恐れや不安と言った感じです。
3, Poet ポエット
続いてまたスローテンポのグルーヴが続きます。
この曲はヒップホップの教科書的存在らしく、800曲以上でサンプリングされているそうです。
またジョージ・クリントンはファンカデリックやパーラメントの創設にスライの影響があったと答えています。
The Last Soul Manと言われたボビー・ウーマックが1980年代初めに「Poet」、「Poet2」という70年代ソウル風味のアルバムを大ヒットさせましたがこの曲に触発されて・・・と思うのは私だけ?
4, Family Affair ファミリー・アフェア
最初に聴いた時はやる気の無い歌にしか聞こえませんでしたが、なぜかこれが受けてシングルは大ヒット、1位となりました。
レコーディングにはスライの他にローズ・ストーンのバックヴォーカルとビリー・プレストンがフェンダー・ローズで讃歌しているだけだそうです。
5, Africa Talks to You “The Asphalt Jungle” アフリカは君に語りかける(アスファルト・ジャングル)
ローファイで原始的なリズムマシーンの音が独特の雰囲気を作ります。
アメリカに住アフリカ系の人の恐怖を歌ったものだそうです。
ここではあえて「Stand」の逆の「All Fall Down」とバックコーラスで歌われます。
6, There’s a Riot Goin’ On 暴動
無音の4秒です。
7, Brave & Strong ブレウヴ&ストロング
勇敢で強いというタイトルです。勇敢で強いものは生き残ると歌いますが、裏を返せば弱い者(社会的弱者、ここで言いたいのはアメリカに住む黒人)は生きられないということです。
8, (You Caught Me) Smilin’ スマイリン
これもドラッグについて歌っています。明るいイントロで始まり、優しいコーラスが入ってきたと思ったらドラマチックに展開します。
声の静と動が交互に出てきて声を張り上げる時は思いっきり歪んでしまっています。
シングルカットされましたがそれほどヒットしませんでした。ビルボードホット100で42位、R&Bチャートでも21位です。
素直にシングル向けの曲とは思えません。
9, Time タイム
「タイム」というと秒針に合わせたようなリズムを連想しがちですが、(ピンク・フロイドに毒されています)ここではもっとゆったりとした時間の進み方です。
不思議な感じのソウル・バラード、スティーヴィー・ワンダーも影響されたであろうスローバラードです。
10, Spaced Cowboy スペース・カウボーイ
カントリーの大御所、ジミー・ロジャースのヨーデル唱法をソウル・バラードでやってます。
ほとんど歌詞らしいものもなくひたすらヨーデルで歌います。声のピークはめちゃ歪んでいます。
何気にこの1曲が一番すごいのではないかと思うのであります。
11, Runnin’ Away ランニン・アウェイ
サウンド的には1番ポップです。時代を超越したようなポップさです。
その雰囲気で「借金が深くなればなるほど、賭け金も大きくなる。もっと遊ぶ余裕が必要だ」とか「日が経つごとに、お前はより遠く離れていく。家への帰り道は長くなる」と悪い方の深みにハマっていくことを歌います。
12, Thank You for Talkin’ to Me Africa サンキュー・フォー・トーキン・トゥ・ミー、アフリカ
最後はミドルテンポのリズムでループ、トランスを狙ったような曲です。モロにドラッグでハイ状態になった感じです。
のちには当たり前となりますが、この時代にこの発想はすごいと思います。
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