もう今年、2025年には80歳となってしまったエリック・クラプトンです。
今回はエリック・クラプトンのソロ3作目、1975年にリリースされた「ゼアズ・ワン・イン・エブリークラウド=邦題;安息の地を求めて」をご紹介します。
レコーディングはマイアミのクリテリア・スタジオ、ジャマイカ、キングストンのダイナミック・サウンド・スタジオで行われました。
よってレゲエ・スタイルのリズムも多くなっています。
でもここで聞かれるのはイギリス人クラプトンの解釈で緊張感のあるレゲエではなく、ゆったりのんびりしたレゲエ・サウンドです。
それをベースにブルーズ、ゴスペル、レゲエなどを素材にゆっくり、訥々と繰り広げています。
ライ・クーダーが示してくれたテックス・メックス、ケイジャン、ザディコなどのアメリカ南部音楽、J.J.ケイルのタルサ・サウンドなどが混ざり合って感じられるという、なかなかな味わいでクラプトンのアルバムの中でも突出してレイドバックしたアルバムとなっております。
しかしその前年にリリースした「461オーシャン・ブールバード」ほどは売れませんでした。
イギリスで15位、アメリカで21位止まりとなっています。(それでも結構売れたものだと思いますが、クラプトンにしては、という見方ですね)
このアルバムを買った高校生の頃を思い出します。
その頃はクリームはすでに知っていて、友達に「レイラ」と「461オーシャン・ブールヴァード」を聞かせてもらった直後でした。
じゃ、それ以外のちょっと新らし目のクラプトンのLPを買おうと思ってレコード屋さんに行ったのです。
茶色のバックに犬がなんか咥えているジャケットが目に止まりました。
なんかザ・バンドみたいな地味な佇まいです。
でももし、このジャケットで中身がすごいハードなロックだったらめちゃカッコよくないか。
などと都合のいいことばかり考えながら「これください」と買っていそいそと帰りました。
当然その時代はネットもなければサブスクもありません。
しかもレコードというものはよほど親しいお店とかでないと試聴させてもらえません。
ましてや高校生が買うかどうかもわからないのに試聴させてくれとはなかなか言い難いものです。
お店の人に嫌われたらそれはそれで後々入り浸ってジャケットを眺めることもできなくなりそうです。
そんなこんなで事前に内容を押さえて買うのは困難な時代・・というのがあったんですよ。
で、初めて「ゼアズ・ワン・イン・エブリー・クラウド」を聞いた時は衝撃でした。
「何これ」
「地味」
「ヌルい」
「音が少ない」
「適当にやってる感しかしない」
「眠くなるような音楽だ」
高校生に大人のレイドバックな感覚を解れというのもなんですが、そんな感じで損した気分になっていました。
さっきまで友達とユーライア・ヒープの「対自核」が最高とかレッド・ツェッペリンの「永遠のうた」がかっこいいとか話していた高校生でしたので、ここはしょうがありません。
高校生の小遣いからすればとんでもなく高い勉強代でした。
それからしばらく経って1980年代となり、エリック・クラプトンはあまり興味もなくなりました。
20代も後半になった頃です。
ブルーズやカントリーなどを一通り聞き漁ってふとこのアルバムを聴いたところ、とってもいい雰囲気のアルバムということに気づきました。
うん、確かに若いうちには良さなんてわからないアルバムです。
ロックに熱い情熱を感じたい年頃にはわからないと思いますが、ふと一人、落ち着いてゆったりしたいという時には最高のアルバムです。
今では私の中ではエリック・クラプトンでは一番聴いたアルバムとなっています。
一番落ち着いて身を任せられるアルバムです。
アルバムジャケットは痩せた犬が棺桶を加えてこちらを見ている写真です。
このちょっと不気味な感じがいいではないですか。
サウンドはシンプルながらとってもバランスよく録音されています。名録音の一つだと思います。
そういえば数年前、私のスピーカーはこのアルバムを聴いていたときにいきなりビリつき始めました。
両チャンネル同時だったので電気機器系統の不具合かと思いきや、なんとスピーカーのウーハーのエッジがボロボロになっていました。
よくあるウレタンエッジの加水分解というやつで、15年くらい経つとウレタンをエッジに使用しているスピーカーはほぼ例外なく劣化して剥がれ落ち始めます。
でもなんと言いますか、最近はいい時代になったものです。
正規にメーカーにメンテナンスに出すと私の持っている機種だと他にもオーバーホール、チューニングが必要などとなってしまいそうです。
確実に数十万円はかかってしまうのです。(実は調べたことがあります)
とりあえずエッジの張り替えに関してだけであればAmazonで必要な材料を仕入れられました。
あとは時間をかけて丁寧に作業すれば、ということで自分で修理対応が可能でした。
聴いた感じ、昔に比べて音が変わったという感じはありません。
いやきっと前より良くなっているに決まっています。(そんなワケあるかい)
加水分解という現象については、昔から業界内では話題でした。
スピーカーといえども10年以上経てば対応年数を超えたということで保証とかリコールの対象にはならない、というのもわからない話ではありません。
ですが世の中には40年、50年経っても使えるスピーカーもたくさんある訳で、大切に使用している人にとってはこれもどうかなと思う次第です。
といってもこの話はもう遅かりしです。
スピーカー設計者もこうなることは見越せなかったんだろうしね。
アルバム「安息の地を求めて」のご紹介です。
演奏
エリック・クラプトン
リードヴォーカル、エレクトリックギター、アコースティックギター、ドブロ、アレンジ(Tr.1,2)
ディック・シムズ ハモンドオルガン、ピアノ、フェンダーローズ
アルビー・ガルーテン シンセサイザー
ジョージ・テリー エレクトリックギター、アコースティックギター
カール・レイドル エレクトリックギター、ベースギター
ジェイミー・オルダカー ドラムス、パーカッション
イヴォンヌ・エリマン リードヴォーカル、グループヴォーカル
マーシー・レヴィー グループヴォーカル
プロデューサー トム・ダウド
エンジニア(キングストン)
Graeme Goodall、カールトン・リー、ロニー・ローガン
エンジニア(マイアミ)
ドン・ジャーマン、スティーヴ・クレイン、カリ・リチャードソン
フォト ヘンリー・デシャティオン(フロント)、ロバート・エリス(バック)
インナー・スリーブの絵 エリック・クラプトン
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, We’ve Been Told (Jesus Coming Soon) ジーザス・カミング・スーン
(トラディショナル、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、アレンジ;エリック・クラプトン)
1930年代に活躍した盲目のギター・エヴァンジェリスト、ブラインド・ウィリー・ジョンソンで有名なゴスペル曲です。
もちろんここではジョンソンのような鬼気迫る演奏ではなくゆったりとした感じのアレンジです。
2, Swing Low Sweet Chariot 揺れるチャリオット
(トラディショナル、アレンジ ; エリック・クラプトン)
この曲もゴスペルを軽くレゲエアレンジで聞かせます。
クラプトンらしくポップでメロディアスなアレンジです。スライドギターが良い感じです。
3, Little Rachel 小さなレイチェル
(ジム・バイフィールド)
落ち込んでブルーズを歌うのに高いIQは必要ない、で始まります。
セッション風の演奏も肩の力が抜けていてこのアルバムらしい感じです。
4, Don’t Blame Me ドント・ブレイム・ミー
(エリック・クラプトン、ジョージ・テリー)
レゲエです。内容は「アイ・ショット・ザ・シェリフ」と同じ、というか同じ登場人物のジョン・ブラウンをサポートする感じです。
5, The Sky is Crying ザ・スカイ・イズ・クライング
(エルモア・ジェイムス)
評論家の評価は高くて、このアルバムの最も重要な曲という風にも言われていますが、すいません、エルモア・ジェイムスのファンとしてはここは本家エルモアに軍牌を挙げます。
6, Singing the Blues ブルーズを歌って
(メアリー・マクリアリー)
J.J.ケイルのようなギターリフで作られた曲です。
メアリー・マクリアリーはスワンプ系の歌手、ピアニストです。
7, Better Make It Through Today メイク・イット・スルー・トゥデイ
(エリック・クラプトン)
この時期、アルコールとドラッグでコンディションは最悪だったと思われるエリック・クラプトンの内省的なバラードです。
「人生は自分で作るものと人々は言う。明日をのり越えられなければ、今日を乗り越えた方がいい」と歌っています。
8, Pretty Blue Eyes 可愛いブルー・アイズ
(エリック・クラプトン)
言うてしまえば展開はブラインド・フェイス時代の「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」みたいです。
雰囲気はだいぶ違いますが、途中のリフがメインになるところについてはこちらの方が深いです。
9, High 心の平静
(エリック・クラプトン)
タイトル「ハイ」がなぜ「心の平静」になるのか、と思われそうです。
多分、この時期クラプトンがアルコールと薬物依存からの脱却を決意したことから静かな決意表明を周りが察してのことなんだろうなと勝手に思っています。
フォーク調に始まりレゲエを組み合わせたリズムが絡んできます。
凝ったアレンジがまたいい感じです。
途中のスライドギターのフレーズにレッド・ツェッペリンを思い出すのは私だけ?
10, Opposites オポジット
(エリック・クラプトン)
はい、得意のレスリースピーカーにエレキギターを突っ込んだアルペジオです。
演奏が素晴らしくいつまでも聴いていられそうです。
で、最後に「蛍の光」が登場します。
海外では船の出航などでよく使用される曲だそうですが、日本でのイメージは卒業式です。
また別の意味で琴線に触れそうな曲なのです。
コメント