ボストンに続いて1978年リリースの名盤第2弾、エルヴィス・コステロのセカンドアルバム「ディス・イヤーズ・モデル」のご紹介です。
録音は当時話題となっていた西ロンドンにあるエデン・スタジオ、プロデューサーはパブロックのミュージシャンとしても有名なニック・ロウです。
レコーディングはスタジオライヴ形式でオーバーダビングなどはほとんどなかったそうです。
スタジオライブ録音ということだけでバック(後述しますがジ・アトラクションズです)の演奏技術のグレードがわかります。
で、11日間で全て終わったようです。
ボストンと同様、ファースト、デビューアルバムは非常に玄人ウケする、業界ウケする内容でそこで名前をあげることに成功しました。
そこにはすでになんかただものではない、という感がありました。
そして当然、セカンドアルバムにはみんな期待、注目は集まります。
そしてどちらもこのセカンドアルバムでサウンド志向を明確にしてよりグレードアップすることに成功しました。
と言いつつもコステロの場合は音楽性がかなり柔軟でスタイルも次々と変えていく人です。
これを聞けばコステロの魅力が全て詰まっている、という類のものではありません。
どちらかというとブリティッシュ・ビート、およびパブロック、ニューウェイヴと言われる分野での究極を示したという感じです。
ということで、セカンドアルバムまではボストンとコステロは商業的成功という意味では同じ印象でしたが、この後の姿勢は真逆となります。
ボストンはセカンドアルバムが大ヒットした後、その路線は変わることなくめちゃくちゃこだわりを持って時間をかけて制作する寡作なバンドとなっていきます。
対してコステロは凄まじい勢いでアルバムをリリースして行くのでした。
前記ボストン「ドント・ルック・バック」の紹介で、この時代はロック、ポップスは使い捨て、大量消費の文化として見られていたので、2年で3枚のリリースなどのミュージシャンにとっては大変過酷なな契約を普通に強いられていたという話をしました。
しかしコステロの場合、この時期はアイデアがいくらでも湧き上がってきて曲が作れる状態だったようです。
翌年にはこれまた評価の高い「アームド.フォーセズ」をリリースして、1980年代に入るとほぼ年1枚のペースでアルバムをリリースしていきます。
この時代ではもうコンスタントに年1枚リリースすれば多作と言われる時代でした。
ただコステロの素晴らしいところはアルバムをたくさん作っても粗製濫造と言われるような内容ではないことです。
どちらかと言えばまだまだアイデアの半分も出していない、というくらいの余裕を感じさせます。
歌詞についてはこういう人にありがちなとっても難解、意味不明なものが多いのです。
もしかしたらネイティヴな人ならわかるのかと思ったら、ピーター・バラカンさんあたりも「難解、というより言葉遊びの世界」とおっしゃってましたので、語呂合わせかダジャレ風味が満載の歌詞内容だと思います。
ただ、ボブディランなどもそうですが次々とイメージが湧き上がっている時代は全く歌詞には悩まないようです。
思いついたワードを次々と組み上げていくだけです。
セカンドアルバム「ディス・イヤーズ・モデル」は全体を通してサウンドの統一感があります。
アルバム名義はエルヴィス・コステロと個人名のものになっていますが、ここから今後盟友となるジ・アトラクションズという専属バンドが登場し全曲に参加しています。
メンバーはキーボードのスティーヴ・ニーヴ(ナイーヴとも言われます)、ベースのブルース・トーマス、ドラムのピート・トーマス(兄弟ではありません)というソリッドで贅肉を落とした強者たちです。
多分ファンの皆さんはコステロ名義というより今後増えてくるエルヴィス・コステロ・アンド・ジ・アトラクションズのデビューだと思っているようです。
パンクをよりキャッチーにしたこのスタイルはこの後のニューウェイヴに大きな影響を与えることになります。
日本でもこの路線を狙ったアマチェア・バンドが多数出現しました。
またパブロックというジャンルはドクター・フィールグッドというこれまたニッチで味のある大先輩バンドがいらっしゃいます。
このバンドもなかなか素敵なバンドで、一回聴くと忘れられない個性があります。
参考までにドクター・フィールグッド「Riot in cell block Number Nine」です。
このメンバー全員でイッちゃってる感が・・・ええわ、と思います。
日本ではミスチルとか鮎川さんみたいに、コステロのセンスを取り入れたという感じのバンドが多かったようです。
楽曲はギターがメインのサウンドではないので、速攻バンドの音には取り入れにくいのだと思います。
もう少し広くドクター・フィールグッドを中心としたパブロックまで広げると関連で日本でもたくさんのバンドが現れました。
シーナ&ザ・ロケッツからルースターズとかハイ・ロウズ、ミシェル・ガン・エレファントなどが思い浮かびます。
初期のコステロは、パンクやパブロックのバンドと同じく怒りを感じさせる歌い方です。
でもちょっと違うのは、曲を捻っているせいかどこかクールさを感じさせる雰囲気があります。
またニック・ロウのプロデュースしたサウンドは普通のパブロックとかガレージバンドのような、とことんネイキッドな音ではありません。
スピード感はあるものの音の厚み、迫力、バンドの一体感を感じる音質です。
でもこれはアトラクションズの実力あってというべきですが。
ジャケットデザインがまた素晴らしく、ファーストのヨレた貧乏人スタイル(そうでもありません、勝手な解釈です)から粋なスーツになりました。
しかもカメラをこっちに向けて構えているというひねくれ具合です。
また敢えて文字をずらして「ELVIS COSTELLO」の「E」、および「THIS YEARS MODEL」の「T」が欠けているデザインにしてあります。(最近は訂正バージョンも見かけます。例えばこの紹介のアタマのとか)
なんとなく余裕、遊びを感じさせたものです。
(オリジナルジャケットデザインです)
初期のアルバムは何度かリマスターされましたが、時期によって音質が違うと言われています。
私が持っているものは2011年のデラックスエディションです。
これがまた私のシステムで聴くと旧盤と違って低域の迫力が抜群でめちゃ厚い迫力ある音で再生されます。
コステロのヴォーカルはどのアルバムも残響感がなくドライなのですが、それを利用してさらに迫力を増したヴォーカルと、低域を増したラウドネスなサウンドです。
ただ若い頃はキレがあって新鮮で良かったのですが、最近の、というか1990年代以降のコステロの場合はハスキーで歌がうますぎるのが返って仇になっているようにも感じます。
こってりしてもたれそうになるので1、2曲で十分、もうお腹いっぱいです、という状態になるのです。
上手すぎるのも考えものですね、危なっかしくてハラハラするくらいの方が新鮮で真摯に感じることがあるのです。(個人の感想です)
アルバム「ディス・イヤーズ・モデル」のご紹介です。
演奏
エルヴィス・コステロ ギター、ヴォーカル
スティーヴ・ニーヴ キーボード
ブルース・トーマス ベース
ピート・トーマシ ドラムス
ゲスト
ミック・ジョーンズ
プロダクション
ニック・ロウ プロデューサー、ミキサー
ロジェ・ペチリアン エンジニア
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
全てエルヴィス・コステロの作詞作曲です。
1, No Action ノー・アクション
マイクからちょっと離れたヴォーカルの発声練習みたいな感じの始まりからから一気にトップスピードまで持っていくところが快感です。
「テレフォン・ジャンキー」という歌詞が登場しますが、この時代はスマホはおろかまだ携帯もありません。一家に一台、固定電話(黒電話)という時代です。日本でも若い子同士の長電話が何かと話題になっていました。
2, This Years Girl ディス・イヤーズ・ガール
ミディアムテンポのアメリカン・ガレージポップというか個人的にはトム・ペティ・アンド・ハートブレイカーズに歌い方まで似ているように感じます。いやこれ絶対意識してそう。
3, The Beat ザ・ビート
ポップでメロディアスな曲です。バンドの演奏がかっちりしているので甘くもならずにいい感じです。
4, Pump It Up パンプ・イット・アップ
そういえばこのアルバムが普通のロックと違うところはギターがそんなに活躍しないところです。
そこはコステロですからあえて狙ってやったと思います。ギター中心ではなくてもキレのあるサウンドを。
非常に評価の高い曲です。
5, Little Triggers リトル・トリガーズ
お得意のバラードです。懐かしいオールディーズ風味も添えています。
6, You Belong to Me ユー・ビロング・トゥ・ミー
これもメロディ的にはノスタルジックな味わいがあるのですが、シンプルな演奏でよくこれだけのダイナミズムが出せると思います。
7, Hand in Hand ハンド・イン・ハンド
サウンドギミックで始まります。歌い方がアングリーを感じさせなく、ちょっと口ずさみ調の往年のコステロ節になっています。
8, (I Don’t Want to Go to) Chelsea チェルシー
ドラムソロでが時まりギターリフが出てきます。ニューウェイブ感が出ているサウンドです。
9, Lip Service リップ・サーヴィス
ポップでメロディアスないかにも1970年代ブリティッシュな感じです。ドライヴしながら上下するベースがかっこいい演奏です。
10, Living in Paradise リヴィング・イン・パラダイス
当時流行りのレゲエ、ダブのリズムをちょっと取り入れています。そういうのでも安定感がすごいのです。全員ユニゾンで参加するパンク風のコーラスもいい感じです。
11, Lipstick Vogue リップスチェィック・ヴォーグ
一番のアヴァンギャルドで挑戦的な曲です。メロディがあるのにあえて語りで通す感じです。やはり一筋縄では行かないバンドです。
12, Night Rally ナイト・ラリー
ここは安定のポップでキャッチーな甘酸っぱさも感じるコステロです。終わり方が変、というかLP世代としてはレコードが傷ついてハリが飛んでる状態です。これも狙ってやってそう。
13, Big Tears ビッグ・ティアーズ
これもコステロらしい曲調ですが、ゲストでクラッシュのミック・ジョーンズが参加しているせいかちょっとクラッシュ風味も感じます。ただギターが大活躍というわけでもありません。
14, Radio Radio レディオ・レディオ
展開がとっても面白くすごい曲だと思います。サビのところの鳴らない口笛みたいな音が印象的です。
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