「妥協と挫折が元のロック名盤」Who’s Next : The Who / フーズ・ネクスト : ザ・フー

 ビートルズ、ローリング・ストーンズと合わせてイギリスの3大ロックバンドと言われるのがザ・フー。
その彼らの一つのピークとされるアルバムがこの1971年リリースの「Who’s Next」です。
スタジオ作品としては「Tommy」以来2年ぶりの作品となります。

「Tommy」はロックの歴史上の重要作とされており、ストーリー性重視でさらにオペラの形式のトータルアルバムでした。
のちに映画化、舞台化されるほど芸術性の高いアルバムとなっていました。

さらにこの時期はライブも極めつつあり、1年前にはライヴの名作「ライヴ・アット・リーズ」をリリースしています。
ライヴでは4人ともアクションも含め、大音量でハードにドライヴし、野生的で芸術性無視、超肉体的ハードロックというスタジオとは全く正反対のパフォーマンスをやっていた時期です。

この極端な2面性がファンにはたまらないところですね。

今回、「フーズ・ネクスト」はピート・タウンゼントは「トミー」からさらにイマジネーションを増大させて「ライフハウス」というLP2枚組作品で「トミー」以上の世界を描こうとしました。

しかし、いかんせんまた悪い癖が出てしまいます。
思い込みが激しすぎて人に理解してもらえないような壮大すぎる内容だったようです。
(聴衆参加型とか舞台、オペラ的とかステージ、客席を全部包括するものだったなどと言われています。)

また一説によるとインターネットやヴァーチャル・リアリティなどを1971年の時点で構想していたようです。
結局誰にも理解されず、協力もしてもらえずに頓挫してしまったため、できている曲を集めて1枚のアルバムとしてリリースしたのがこの「フーズ・ネクスト」ということになります。
制作総指揮のピート・タウンゼントはさぞかし無念に思っているかと思えばさにあらず、今となっては結構いい思い出になっているようです。

多分当時もちゃんとした落とし所が見えてなかったのではないのでしょうか。

なるほど歌詞を見るとモバイル とか出てきますので確かに先見の明があったようです。
もしかしたら最後の「無法の世界」はAIに管理される歌か、と思ってしまいますが、そんなの深読みしすぎです。
でもピートに聞いたら何気に「そうだよ」と言われそうで怖いものがあります。

あいつらはとことん信用なりません。(褒めてます。愛情表現です、また騙されたいです)

サウンド面ではこの時代、いち早くシンセサイザーを使っています。
ただしYMOなどに代表される1970年代後半のテクノポップとは違って、シーケンサーを使用しながらもそんなに無機質にならず、おおらかで牧歌的な音色です。

ジャケットはイギリス、ダラム州のイージントン炭鉱の捨石集積場だそうです。
映画「2001年宇宙の旅」にも登場したモノリス(みたいなもの)にみんなでオシッコするという “宇宙の意思” をも恐れぬ所業をしています。
長髪にベルボトム・ジーンズでは1960年代のモッズの面影などもう全然ありませんが、壮大なスケールを感じさせるいいデザインと思います。

このアルバムは1965年のデビューアルバム「マイ・ジェネレーション」からまだ5作目です。
モッズ、サイケデリックロック、ロックオペラ、ハードロックとつかみどころのないくらい変容しています。
そこがまた面白いとことでもあり、イメージしづらいので日本では一般受けしない、支持されない理由かもしれませんね。
日本では3大ブリティッシュロックバンドと言ってもまずフーは出てきません。

アルバム「フーズ・ネクスト」のご紹介です。

演奏

ロジャー・ダルトリー  ヴォーカル、ハーモニカ
ピート・タウンゼント  ギター、ヴォーカル、ピアノ、シンセサイザー
ジョン・エントウィッスル  ベース、ブラス、ピアノ、ヴォーカル
キース・ムーン  ドラムス、パーカッション

ゲスト
ニッキー・ホプキンス  ピアノ Tr. 5,6
デイヴ・アーバス  ヴァイオリン Tr.1


 曲目(オリジナル盤)
*参考までにyoutubeの音源とシェパートン・スタジオのライヴをリンクさせていただきます。


1,   Baba O’Riley ババ・オライリー

ジャーン、ジャン、ジャンでコード3つです。パワーコードです。これが、これこそがロックと言っても差し支えないインパクトです。
ギターキッズがこの曲のビデオを見ると必ず風車奏法(ウインド・ミル奏法)を真似します。
で、大体において親指をギターのネックにぶつけて痛い目をみます。
ギターを抱えて飛び上がって膝がマイクの位置に来ることは真似できませんでした。
尊敬に値します。
最後はドタバタ喜劇みたいに終わります。



2,   Bargain バーゲン

フーのハードボイルドな雰囲気が出ています。
このアルバムに収録されている曲は、1曲のなかにハードな部分とバラードな部分が含まれているのが多い気がします。ここでも途中にメロディアスな部分があります。


3,   Love Ain’t for Keeping  ラヴ・エイント・フォー・キーピング

短い曲ですが、サザンロック風です。ロジャーが歌い上げます。


4,   My Wife マイ・ワイフ

ジョン・エントウィッスル作、ヴォーカルの曲です。とても敵わない恐ろしい奥さんのことを歌っています。
これもコメディタッチで良い曲です。ちょっとしたブレイクという感じです。
ジョンはたまに「けちのスティンジー」などいい曲を書きます。次作の「Who Are You」の「905」も歌詞、メロディともに出色の出来です。


5,   The Song is Over ザ・ソング・イズ・オーバー

バラードっぽく始まり途中でハードに転調します。強弱の対比をうまく見せています。


6,   Getting in Tune ゲッティング・イン・チューン

この曲も静かに始まり、徐々に歌い上げてハードに盛り上げます。


7,   Going Mobile ゴーイング・モバイル

アコースティックギターのカッティングで始まり、割と軽い感じで進んでいきます。
多分、これが未来世界のことを歌っていたのでしょう。


8.   Behind Blue Eyes ビハインド・ブルー・アイズ

フーらしいバラードです。ロジャーの声が似合っています。
フーの場合はストレートな泣き落としのバラードにはなりません。必ずひねりがあります。


9,   Won’t Get Fooled Again 無法の世界

ビデオを見てしまうともうダイナミックなピート・タウンゼントの風車奏法しか頭に残りません。
でもロジャー・ダルトリーの「イエー」やジョン・エントウィッスルのベースなど聴きどころ満載です。完全版では最後にドラムセットを飛び越えて出てくるキース・ムーンの生前最後の勇姿(泣)も見られます。

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