

個人的に大好きなんですが、なぜか日本では人気がイマイチな、フォーク・ロックでお馴染みのアメリカのロックバンド、ザ・バーズの1967年リリースの四枚目のアルバムです。
ちょっと変なジャケットは写真家フランク・ベズによる多重露光(重ね録り)のメンバー写真です。
1965年に「ミスター・タンブリン・マン」でデビューして順調に売り上げを伸ばしてきましたが、次第にバンド内はいろんな問題が噴出してきたようです。
デビュー以来2年経過したこの時点で音楽性もかなり変わってきています。
前作「フィフス・ディメンション」から新しい路線に入りました。
それはセカンドまでのフォーク・ロック路線を抜け出して、新しいことを演ろうとする意欲的なアルバムでした。
今の視点ではあまりそういうふうにも感じませんが、サイケデリック・ロックの起源として有名です。
前2作ほどのヒットとはならなかったものの、今ではロックの歴史的に重要なアルバムと位置付けられました。
また「ラーガ・ロック」という言葉を生み出しました。
(これについては今はとっくに死語となって庵ますけどどね)
1970年代を知っている今の耳で聞けばさほどサイケ感はなく、カントリーやフォークっぽいナンバーも多い感じです。
でも1966年当時としてはかなり攻めたサウンドでした。
明らかにティーンエイジャー向けの音楽を脱して次に進もうとする意図が見えていました。
マッギンもこの頃、ジャズのジョン・コルトレーンやモード、ドローン・コードなどにハマっていたと答えていた記憶があります。
あれほど好調だったボブ・ディランのカバーをなくしたことからも気合の入れようが違いました。
しかしこのアルバムを最後に曲作りの要だったジーン・クラークが脱退します。
セールスも好調とはいえない状況でした。
その状態でこの「昨日より若く」は制作することになります。
当初はこのアルバムのタイトルは「サンクチュアリ」としたかったそうです。
(マイルス・デイヴィスが「ビッチェズ・ブリュー」でウエイン・ショーター作の「サンクチュアリ」をレコーディングする2年前だぜ、と感慨深く思うのは私だけでしょうか)
ここではデヴィッド・クロスビーとクリス・ヒルマンが作詞作曲面で大活躍です。
デヴィッド・クロスビーはデビューアルバム以降は曲を提供してきました。
彼の作る曲はあまりリズムを強調せずに独特の浮遊感のあるサウンドで、詩の内容も精神世界を表したものが多いように感じます。
そういう芸術性を重んじるクロスビーの姿勢はフォークロックからカントリーロックへ移行していくザ・バーズのサウンド指向とは次第に合わなくなっていきます。
このアルバムでもディランのカバー「マイ・バック・ペイジズ」を入れることに反対したそうです。
加えて次のアルバム「The Notorious Byrd Brothers=名うてのバード兄弟」でゴフィンーキング(ルイーズ・ゴフィンとキャロル・キングの作詞作曲ユニット)の「ゴーイン・バック」のカバーを入れることに反対したとか、
マイケル・クラークのドラムにクレームをつけて他のドラマーを起用したりとか、
1967年6月モンタレー・ポップ・フェスティバルでバンドを無視してJFK暗殺とか「警官にLSDを」などと長々と演説をぶったとかあってのこと、
とうとうヒルマンとマッギンに解雇を言い渡されるされることになります。
このバンド、当初ドラマーのマイケルクラークだけはルックス重視で入れたアマチェアだったので、クロスビーの不満はわからないではありません。
でもデビューしてから人気が出るまではマイケルの功績も大きかったので、ちょっとかわいそうな気もします。
とあれ、プロのミュージシャンという視点で見れば2年間で日進月歩、死ぬほど練習して、もっとみんなが必要とするような演奏技術を身につけるべきだったのかもね。
最終的にマイケルも次作「名うてのバード兄弟」を最後にバンドを離れることになるのでした。
1998年のインタビューでデヴィッド・クロスビーは次のように語っています。
「『Younger Than Yesterday』は、僕にとってバーズのアルバムの中で一番のお気に入りです。
本当に気に入っていましたし、素晴らしい出来だったと思っています 。
あの頃は僕たちの才能が成熟しつつあった時期だったと思いますし、あのアルバムでは本当に良い仕事ができたと思っています」
— デヴィッド・クロスビー
そのデヴィッド・クロスビーも2023年1月18日、81歳で亡くなられました。

時は1967年、「昨日より若く」をレコーディングするときの話です。
ジム・マッギン
「みんな聞いてくれ、ジンちゃんがやめちゃったけどぼちぼち次のアルバム作らなきゃなんだぜよ」
デヴィッド・クロスビー
「そうか、じゃあその分僕が曲を出そうか?」
ジム・マッギン
「いや、君の書いたのはウケが悪・・・じゃなかった音楽的に高尚すぎて一般ピーポーがイマイチわからないんだぜよ。
アルバムのアクセントにはいいけど全曲あんたのってやばいって。
クリちゃんはどう、曲作ってみない?」
クリス・ヒルマン
「俺さあ、ジンちゃんみてたらこれだったら俺でも書けるって思っちゃったよ。
俺も大好きなブリティッシュ・ビートとカントリーの出来損ないみたいな曲だったら結構作れるかもだぜ。
あっ言っとくけどこれ謙遜だから」
ジム・マッギン
「じゃあクロちゃんとクリちゃんで4曲くらいづつ持ってきてよ。
あとはおいらもアイデアがるからそれで行くぜよ」
ということでコロンビア・スタジオでレコーディングが始まりました。
ジム・マッギン
「いやびっくりだぜよ。クリちゃんこんなにちゃんと歌えるとは思わなかったぜよ。
無理言って弾いてもらったクラやん(クラレンス・ホワイト)と相性バッチリじゃん」
デヴィッド・クロスビー
「うん、思ったより曲もいけるな。芸術性ないけど」
ジム・マッギン
「クロちゃん、芸術性出すのはもっと売れてからのついででいいよ。
とりあえずもうちょっとビートルズみたいに好きにできるよう、足場を固めようぜよ」
デヴィッド・クロスビー
「それとさあマッさん、またディランのカバー入れるのは僕ハンタイっす、今更昔の路線に戻るなんて芸術的じゃねえっす」
ジム・マッギン
「いや待て、今度の『マイ・バック・ペイジズ』は今までのとはちょっと違うぜよ。
イントロからして完璧なんぜよ。
1992年にボブ・ディランの30周年記念コンサートやるんだけど、その時はラストに錚々(そうそう)たるメンバーでこのアルバムのおいらのアレンジで演るんだぜよ。
ディランのオリジナルより全然いい感じでさ、ディランなんかもう拗(す)ねちゃって当日はいつも以上にゲロゲロ言いながら崩して歌うもんで、一人だけもうなんの曲歌い出したか分かんないような感じなんだぜよ。
苦笑いしているクラプトンのアップもちゃんとあるぜよ」
(時系列は気にしないでください)
*その模様はyoutubeで確認できますが大物ミュージシャンが勢揃いでライセンス上オフィシャルなものはありません。
youtube「 bob dylan 30th anniversary my back pages 」 で映像は検索してみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=_6gEjX2QObw&t=9232s 4Kバージョンです。
映像を見ているとロジャー・マッギンのヴォーカルに始まって、ジョージ・ハリスンで閉めることで曲のメロディが生きるなあ、と改めて思います。
音はこちら
マイケル・クラーク
「そういえばマッさん、アルバムのオープニングの「ロックンロール・スター」って僕のこと歌ってるって噂があんだけど、それってホント? あんまりじゃない」
ジム・マッギン
「ち、ちげーよ、マイキー。あれはモンキーズのこと歌ってんだよ。
ねっクロちゃん、クリちゃん?」
デヴィッド・クロスビー、クリス・ヒルマン
「う、うん、そ、そうだったかも・・知れ・・ない」
マイケル・クラーク
「なんか最初に女の子の人気取るためだけに利用されて、そのうち捨てられるような気がするんだよなあ」
ジム・マッギン
(心の中でつぶやく)
「実はこの曲、ジーン・クラークとバーズを作るときに考えていたことなんだけどね・・・」
というわけで無事「昨日より若く」はめでたくリリースされることになりました。

このアルバムは当初、過渡期のアルバムとして評論家も賛否両論、セールスもそこそこといった感じで見過ごされがちなアルバムでしたが時間経過とともに評価が上がってきたアルバムです。
個人的には「フィフス・ディメンション」よりもこちらの方が印象に残っています。
なんと言っても「マイ・バック.ペイジズ」とクリス・ヒルマンの書いた「「ハヴ・ユー・シーン・ハー・フェイス」が好きでした。
特にあの12弦ギターのソロが素晴らしいと思います。
タイトルはディランの「マイ・バック・ペイジズ」のサビの
“Ah, but I was so much older then
I’m younger than that now”
にインスパイアされたものです。
2003年、ローリングストーン誌の「史上最高のアルバム500枚」リストで124位
2012年、127位
コリン・ラーキンの「史上最高のアルバム1000枚」第3版(2000年) では197位に選ばれています。

アルバム「昨日より若く」のご紹介です。

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, So You Want to Be a Rock ’n’ Roll Star ロックンロール・スター
(ジム・マッギン、クリス・ヒルマン)
So you want to be a rock ‘n’ roll star?
Then listen now to what I say
Just get an electric guitar
Then take some time and learn how to play
And with your hair swung right
And your pants too tight
It’s gonna be alright
Then it’s time to go downtown
Where the agent man won’t let you down
Sell your soul to the company
Who are waiting there to sell plasticware
And in a week or two
If you make the charts
The girls’ll tear you apart
ロックンロールスターになりたいの?
なら俺の言う通りにすれば大丈夫
まずエレキギターを手に入れろ
時間をかけて弾き方をマスターするのさ
髪をうまく振り乱して
タイトなパンツ
これできっとうまくいく
さあ、街の中心部へ行こう。
そこではエージェントが君を裏切らない。
会社に魂を売り渡せ。
プラスチック製品(ちっぽけな大量生産品)を販売するためにそこでみんな待ってるよ
そして1週間か2週間後には、
もし君がチャート入りしたら、
ファンの女の子たちが君を掴んでめちゃくちゃにするんだ。
という内容でございます。
アメリカ的な皮肉の効いた歌詞でこの手の内容はいつの時代でも出てきます。
音楽の大量消費とマネーゲームについてです。
1980年代にトム・ペティ&ハートブレイカーズが「パック・アップ・ザ・プランテーション・ライヴ」のオープンングでカバーしていたのを思い出します。
2, Have You Seen Her Face あの子を見なかったかい
(クリス・ヒルマン)
モントレー・ポップ・フェスティバルでデヴィッド・クロスビーがメンバードン引きの中、政治的なアナウンスをかました後に演奏したのがこの曲だそうです。
この曲はシングルカットされたのですがほとんど見向きもされませんでしたが、ライブではよく演奏されていたようです。
実は私の中ではお気に入りの曲でした。
なんと言っても12弦ギターがのサウンドが最高です。
イントロも素晴らしいのですが、特にギターソロ。
通常のエレクトリック・ギターではベンディングやハンドビブラートなどで歌わせる、泣かせるができるのですが、12弦ともなるとそうはいきません。
しかもリッケンバッカーというほとんどサステインを考えていないギターでソロを取るにはアルペジオ主体とかハミングバード奏法しか考えられません。
ここでのそれらを混ぜた突っかえてむせるようなギターが最高なのです。
これぞ12弦ギターでソロを演るときの見本です。(と勝手に思っています)
3, C.T.A – 102
(ジム・マッッギン、ロバート・J・ヒッパード)
ネットで調べたところ、このタイトルにこういう解説がありました。
「CTA-102」は、ロジャー(ジム)・マッギンとロバート・ヒッパード(マッギンの旧友で、かつて彼がクラブ、トルバドールで演奏できるよう手助けをしていた人物)によって書かれた曲です。
この曲はCTA-102と名付けられたクエーサーのために作られました。
当時、科学者たちはクエーサーから発せられる電波信号を完全に理解していなかったため、ソ連の天文学者ゲンナジー・ショロミツキーは、それが地球外生命体からの信号である可能性を提唱しました。
宇宙、SFファンとして知られるマッギンはこの説に着目し、真剣にこの曲を作曲しました。
この曲は今でも天文学者の間で人気があり、カール・セーガンも1995年の著書『悪魔に取り憑かれた世界』の中でこの曲について簡単に触れています。
科学雑誌でCTA-102クエーサーについて言及されている記事があれば、必ずと言っていいほどこの曲についても触れられています。
とのことです。
で、音楽的にはまあギミックを使った実験と遊び半分な感じですが、1967年ということを考えるとかなり前衛的です。
4, Renaissance Fair ルネッサンス・フェアー
(デヴィッド・クロスイビー、ジム・マッギン)
イントロの楽器の絡みとか、これ結構名曲だと思います。
5, Time Between タイム・ビトウィーン
(クリス・ヒルマン)
カントリーです。この後のバーズの路線がわかります。クリス・ヒルマンはポール・マッカートニーの影響を受けた曲と言っています。
もしかしたら3曲目の「ハヴ・ユー・シーン・ア・フェイス』もビートルズの「ヘルプ」に入っているポール作の「アイヴ・ジャスト・シーン・ハー・フェイス」を真似たものかもしれません。
左チャンネルから聞こえるクラレンス・ホワイトの演奏も最高です。
6, Everybody’s Been Burned 燃え尽くせ
(デヴィッド・クロスビー)
激しいタイトルとは裏腹に重苦しい雰囲気のナンバーです。
ネットでクロスビーのヴォーカルとマッギンのギターソロがとても評価の高いという意見を見たのですが、本当にそうかと思わずにいられません。
それよりも単調な音の隙間を埋めるようにドライブするベースがいいと思います。
今後のデヴィッド・クロスビーの方向性がわかります。
7, Thoughts and Words 思想と言語
(クリス・ヒルマン)
この時代のクリス・ヒルマンの書く曲は大名曲ではないにせよ、よくできていると思います。
時代的にもサウンドはサイケデリックに攻めています。
8, Mind Gardens マインド・ガーデンズ
(デヴィッド`クロスビー)
このナンバーは他のバンドメンバーから否定的な意見が多かったようです。マッギンは「リズムも韻も韻もない」と酷評しました。
1980年にバーズの伝記作家ジョニー・ローガンとの会話の中で、クロスビーはこの曲を擁護し、「それは異例で、誰もが理解できるものではなかった。なぜなら、それまで誰もそんな曲を聴いたことがなかったからだ。当時は、すべてに韻とリズムがあるべきだと考えられていた。しかし、この曲には韻もリズムもなかったので、彼らの経験の範囲外だった。それはただの小さな物語で、そこに書かれていることは真実だ …人生の虐待や厳しさ、痛みを遮断するために心の周りに壁を築けば、喜びや愛も遮断してしまうことになる」と述べています。
個人的には今聞いてもバーズらしいナンバーとは思えません。マッギンもヒルマンもカントリー指向が強くなっていくのでクロスビーがバンドを離れるのは時間の問題だったようです。
これを聴いていて「ビートを感じないサウンドは自分には向いてないなあ」と思ったことがあります。
9, My Back Pages マイ・バック・ペイジズ
(ボブ・ディラン)
名曲です。
メロディといい情感といい、全てにおいてオリジナルのスケールを超えています。
いつも「マインド・ガーデンズ」を我慢して聴き終えたかいがあったなあと思う自分がいるのでした。
これは若い頃、ビートルズの「サージャント・ペパーズ」の「ウイズイン・ユー・ウイズアウト・ユー」を聴いている時と同じ感覚なのでした。(個人的な感想です)
10, The Girl with No Name 名もない少女
(クリス・ヒルマン)
「タイム・ビトウィーン」に続いてクラレンス・ホワイトのギターが素晴らしいナンバーです。
11, Why 何故
(デヴィッド・クロスビー)
ギターカッティングとベースのドライブが効いています。浮遊感のあるサイケなギターソロもいいと思います。
演奏
ザ・バーズ
- ジム・マッギン
リードギター、ボーカル - デヴィッド・クロスビー
リズムギター、ボーカル - クリス・ヒルマン
エレクトリックベース、ボーカル(「It Happens Each Day」ではアコースティックギターを担当) - マイケル・クラーク
ドラム
ゲスト・ミュージシャン
- ヒュー・マセケラ
トランペット (「So You Want to Be a Rock ‘n’ Roll Star」と「Lady Friend」で演奏) - セシル・バーナード(ホテップ・イドリス・ガレタ)
ピアノ (「Have You Seen Her Face」にて) - ジェイ・ミグリオリ
サックス (「ルネッサンス・フェア」にて) - ヴァーン・ゴスディン
アコースティックギター(「タイム・ビトウィーン」にて) - クラレンス・ホワイト
ギター(「Time Between」と「The Girl with No Name」で使用) - ダニエル・レイ(ビッグ・ブラック)
パーカッション



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