「J.J.ケイルによる自然体のレイドバック・サウンドがAORに近づきました。そして癒しの名盤誕生です」Grasshopper : J.J.Cale / グラスホッパー : J.J.ケイル

 アメリカン・ロックというとハートランド・ロックとかアリーナ・ロックというのが思い浮かびますが、もう一つの大きな支流として「レイドバック」と呼ばれるものがあります。(大きいか?)

もとは1973年のグレッグ・オールマン(サザン・ロックで有名なオールマン・ブラザーズ・バンドのリーダーです)の初ソロアルバムが「Laid Back」で初めて「レイド・バック」という言葉が使用されました

グレッグは「曲のテンポを緩めるために表現した造語」と語っています。

レイドバック・サウンドとは一般的にゆったりと、穏やかで、リラックスしたという感じのものです。
基本としてはブルーズやフォークなどをベースとしたトラディショナルな音楽がベースとなります。
あまり革新的、前衛的な音楽ではありません。

日本では特にソロになったエリック・クラプトンあたりから頻繁に使用されるようになり、有名になりました。

そのクラプトンに影響を与えたJ.J.ケイル。

同様のんびりとしたリズムで、歌詞の内容も生活に密着した内容のものがほとんどです。
必然的に日常のちょっとした風景や生活を歌ったものが多くなります。

アドレナリンが出まくりの血気盛んな状態にマッチする音楽ではありませんが、長い人生でふと立ち止まった時、こういう音楽を聴くと心に沁みます。
落ち込むこともなく、心身をリフレッシュ、リセットさせるのに有効です。

そういう音楽の達人として有名なアメリカのシンガー・ソングライター、ミュージシャン、J.J.ケイルです。

J.J.ケイルについては、まずロックスターらしくないのです。
どの時代を見ても普通の髪型で普通の格好で、オシャレに気を遣っているふうにはとても感じられません。
言わせて貰えばスーパースター特有のオーラなど全く感じられず、私なんぞアメリカの街ですれ違っても絶対気づかない自信があります。

ロックに象徴されるエネルギッシュで血気盛んなところは全くもってありません。
コンサートで「おーいえーっ!」「ろっくんろーるいずふぉーえばーっ!」などとシャウトすることは絶対ありません。
(即、病院に連れて行かれそうです)

活動拠点は西海岸、ロサンゼルスだったりしたのですが、心はいつもオクラホマ州タルサという田舎町にありました。

そういう貴重な存在だったJ.J.ケイルも2013年7月26日にお亡くなりになりました。
まだ74歳でした。

没後にエリック・クラプトンが中心となって、J.J.ケイルを慕っているミュージシャンに声をかけてトリビュート・アルバムが企画されました。

2014年にリリースされたアルバムに参加したのはエリック・クラプトンはもとより、トム・ペティ、マーク・ノップラー、ウィリー・ネルソン、ジョン・メイヤーなどです。

かなり個性的な人ばかりとなっています。

日本では全くと言っていいほどギタリストの文脈でJ.J.ケイルが語られることはありませんが、彼のブルースのブギーやカントリーなどをミックスしたギター奏法に影響を受けた人は意外と多いようです。

J.J.ケイルについては、彼の呟くようなヴォーカル、とつとつと演奏するギターなど、いろんなことを総合して感じることは己を知り、我が道をいく、まるで「人生の達人」です。

そういう俗世間とは離れたような達人がどういうわけか時代にマッチしそうになった時期がありました。
(もちろん完全に波に合わせられることはなく、オレは乗るぜビッグウェイブとなったわけではありません)

それは1970年代の終わりくらいからのことでした。

ハードロックや最先端のパンク、ニューウェイヴやテクノ・ミュージックとはかけ離れた、というかそれの揺り戻し的なところで年配の、大人になったロックファン向けに落ち着いた雰囲気のロックが別の視点で注目を集め、徐々に流行り始めました。

それがAORと呼ばれるジャンルです。

「アダルト・オリエンテッド・ロック」と言われるこのジャンルには、有名なところでボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェル、クリストファー・クロス、スティーリー・ダンなどが挙げられます。

J.J.ケイルもこの路線に最も近づいていました。

1981年の「シェイズ」や今回紹介する1982年の「グラスホッパー」はまさにそういうAORな感じのするアルバム・・・と言えなくもない・・・感じに仕上がっています。

ただしJ.J.ケイルの場合、そんな時代に合わせられるような器用さは持ち合わせておらず今まで通りです。

音楽の内容も今までとほぼ変わっていません。
いつもの通り、2、3分でサラッと終わる曲ばかりです。

ただ「シェイズ」とこの「グラスホッパー」に関しては、いつになくゲストミュージシャンも多く、いろんなスタジオを使ったりと時間をかけて作られています。

レコード会社としてはもしかしたら第二のボズ・スキャッグスあたりを狙っていたのかもしれません。
日本でも邦題が「シティ・ガールズ」となっていました。

しかしながら現実はそう甘くありません。
J.J.ケイルにボズ・スキャッグスのようなイケオジを求める方が無謀というものです。

とはいえ、ここで思惑がいい方向へ作用したことがありました。

音質です
こだわりの音響特性で、いつもより良質な香りのするサウンドとなっています。
エコーのかけ方などからして、いつもよりちょっとこだわった姿勢を感じます。

というのもオーディオに凝り始めて感じたことですが、ここでのJ.J.ケイルのサウンドはいい再生装置で聴くととってもダイナミックでリアルなサウンドなのです。

その昔はシンプルで気を使ってない、そっけない音だと感じていたのですが、改めて聴いてみるとそのバランス、ダイナミクスなどに改めて感動した次第です。

まだこの時代は本格的なデジタルレコーディングが始まる直前でした。
ちょうどアナログを追求し尽くした時代の録音ですので、リアルで過不足のない特性で素晴らしい音質に仕上がっています。

ぜひいいリスニング環境で堪能していただきたいと思います。

アルバムジャケットは「glasshopper」と書いてあるだけのシンプルなものです。

草色の色合いからしてバッタのことかと思っていたのですが、カクテルの名称でもあるようです。

このカクテルについて解説しておきます。

ニューオリンズのフレンチクォーターにある「Tujague’s」というバーのオーナーのフィリップさんが1918年に作り始めたそうです。

ミントとカカオとクリームを氷と一緒にシェイクして作ります。
ミントのグリーンの色からそう言われるようです。
1950年台から1960年代にかけてアメリカ南部で流行りました。

AORとしては虫よりカクテル名称で行きたいところですね。

ちなみに個人的にはAORにそんなにこだわりありませんが、好きなミュージシャンは年と共に増えたりもしています。

「グラスホッパー」と聞くとなぜか昔読んでた伊坂幸太郎の小説が浮かんだりするのです。
(名前が同じだけで内容は全く関係ありません)

アルバム「グラスホッパー」のご紹介です。

Amazon.co.jp: シティ・ガールズ(限定盤): ミュージック
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演奏
・J.J.ケイル

 ヴォーカル、エレキギター、スライドギター(Tr.1)
 ベース、ヴォーカル(Tr.2)
 エレキギター、ヴォーカル(Tr.3,4,6,9,11,13)
 エレキギター、ガット弦ギター、ヴォーカル(Tr.5)
 エレキギター(Tr.7,14)
 ギター、ヴォーカル(Tr.8)
 エレキギター、オルガン、ヴォーカル(Tr.12)

・レジー・ヤング

 エレクトリックギター(Tr.1)、
 リズムギター(Tr.14)

・クリスティン・レイクランド
 エレクトリックギター、オルガン(Tr.5)
 ヴォーカル、ギター、オルガン(Tr.10)
 エレクトリックギター(Tr.11)
 リズムギター、パーカッション(Tr.12)
 パーカッション(Tr.13)

・デヴィッド・ブリッグス  ピアノ(Tr.3,4,6,13)、エレクトリックピアノ(Tr.1)
・マイク・ロウラー  シンセサイザー(Tr.3,13)
・ジム・カースタイン  コンガ(Tr.5)
・ビル・ボートマン  タンバリン(Tr.5)、ドラム(Tr.2,5,10,12)
・テリー・マクミラン  ハーモニカ(Tr.9)
・ロバート・グリーンニッジ  スティール・ドラム(Tr.7)
・ゲイリー・アレン  ドラム(Tr.11)
・チャールズ・ダンジー  ベースギター(Tr.14)
・ファレル・モリス  コンガ、ヴィブラフォン(Tr.14)
・カール・ヒンメル  ドラム(Tr.7,14)
・ニック・ラザー  ベースギター(Tr.5,10,11,12)
・トミー・コグビル  ベースギター(Tr.1,3,6,7,13)
・ケン・バトリー  ドラム(Tr.1,3,6,13)
・スティーヴ・ギブソン  エレクトリックギター(Tr.3,6,13)
・ジョニー・クリストファー  リズムギター(Tr.1,3,4,6,13)
・ボビー・エモンズ  オリガン(Tr.1,3,4,6,13)
・ボブ・ムーア  ベース(Tr.9)
・バディ・ハーマン  ドラム(Tr.9)
・ハロルド・ブラッドレイ  エレクトリックギター(Tr.9)
・トニー・ミリオリ  ピアノ(Tr.9)
・レイ・エデントン  リズムギター(Tr.9)
・デニス・ソリー  ホーン

テクニカル
・オーディ・アシュワース  プロデューサー、エンジニア
・チャド・ヘイレイ  エンジニア、ミキサー
・チップ・ヤング  エンジニア
・リック・ホートン  エンジニア
・ロン・レイノルズ  エンジニア、ミキサー

曲目

*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   City Girls シティ・ガールズ
 (J.J.ケイル)

力を抜いたいい感じのサウンドです。内容は田舎の貧しい少年が都会の華やかな女性たちへの憧れが歌われています。

2,   Devil in Disguise 悪の仮装
 (J.J.ケイル)

2曲目は軽いリズミカルなサウンドです。アメリカをツアーするロックンロールバンドを歌っています。

3,   One Step Ahead of the Blues ブルーズの向こうに
 (J.J.ケイル、ロジャー・ディリソン)

エリック。クラプトンが歌っても全く違和感ありません。というかクラプトンの元はここ、こういうサウンドなのです。

4,   You Keep Me Hangin’ On 任せてごらん
 (J.J.ケイル)

これ1曲のためにアルバムを買ってもいいと思います。普通に愛の歌なんですが不器用な漢(おとこ)の世界です。チキン・スキンなギターソロで終わりますがもっと聴いていたくなるような名曲です。
全く関係ありませんがシュープリームスでも同じタイトルの大ヒットしたモータウン・サウンドがありました。
あ、そこのあなた「ヴァニラ・ファッジ・・・」なんて思ってますね。

5,   Downtown L.A ダウンタウンLA
 (J.J.ケイル)

アップテンポのナンバーです。この辺はマーク・ノップラーが参考にしているサウンドです。ダウンタウンLAは憂鬱な場所だと都市の悲惨な状況を歌います。

6,   Can’t Live Here 脱出
 (J.J.ケイル)

若い女の子に生活を考え直すように訴える内容です。

7,   Grasshopper グラスホッパー
 (J.J.ケイル)

アルバムタイトルのインスト曲です。中央、南アメリカあたりの伝統を感じさせるものがあります。

8,   Drifters Wife ドリフターズ・ワイフ
 (J.J.ケイル)

弾き語り風の曲です。放浪者の俺なんかにあなたを愛する資格はない、みたいな内容です。しみじみとした情感が浮かびます。

9,   Don’t Wait ドント・ウエイト
 (J.J.ケイル、クリスティン・レイクランド)

どったんどったんのリズムでとにかく始めようと歌います。「Don’t Wait]から始まって「Goin’ Back」「Walk On」「Fly away」と続いて「Bye Bye」で終わります。

10,  A Thing Goin’ On 終わる時まで
 (J.J.ケイル)

シンプルなビートでこれもJ.J.ケイルらしいサウンドです。
俺たちは持ってるはず、最後までやってみようと言った内容です。
訥々と歌っていて陽気でアメリカンな雰囲気ではありません。

11,  Nobody But You ノーバディ・バット・ユー
 (J.J.ケイル)

割と激しいサウンドで(これが?)あなたしかいないと歌います。
ホーンのアクセントがいい感じです。

12,  Mississippi River ミシシッピ・リバー
 (J.J.ケイル)

ミシシッピ川を遡ってメンフィスに行き、好きな人に会いたいという内容です。

13,  Does Your Mama Like to Reggae ママ・レゲェ
 (J.J.ケイル、クリスティン・レイクランド)

あまりタメのある本格的なリズムではないのですが、レゲエを取り入れています。

14,  Dr.Jive Dr.ジャイヴはMr.スウィング
 (J.J.ケイル)

ジャイヴとは1940年代から1950年代にかけて、スゥイングに合わせて踊るダンススタイルです。そのほかにもスラン技で「意味のない」とか「価値のない」という意味で使われることもあるらしく、ジャイヴ・トークというと「からかう」ことだそうです。
ヴィブラフォーンによる速いパッセージでちょっとおしゃれなサウンドにも感じます。
なるほどジャイヴ、これがJ.J.ケイルの真骨頂かもしれません。

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