ビートルズ関連というものは、解散後50年以上経った現在でもまだまだ話題に事欠いておりません。
いまだアルバムはリマスターされ、売れ続けていることからも偉大さ、影響の大きさ、普遍性がわかります。
またソロ活動になってからもジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリソンは音楽界に影響を与え続けてきました。
今回はビートルズの中でも一番年下で「クワイエット・ビートル」と言われたジョージ・ハリソンについてです。
ジョージの活躍は主にビートルズ後期において顕著です。「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」や「サムシング」、「ヒア・カムズ・ザ・サン」などのスタンダードとなるべく名曲を提供していました。
そのビートルズが解散してしまった1970年、その時点でジョージは音楽的にはとっても充実している時期だったので、いっぱい曲のストックがありました。
「よっしゃ、もう思いっきり好きなもの作ろうっと」といきなりLPレコード3枚組のアルバム「オール・シングス・マスト・パス」をリリースしてしまいました。
英国っぽいと言えばそうですが皮肉屋のジョージらしくタイトルは「全てのものは過ぎ去らなければならない」です。
私はその昔「全部合格して通されるべき」みたいな意味かと思って、そうか、ビートルズでは使ってもらえなかった曲がこんなにいっぱいあったんだね。と思ってしまったものでした。
ジャケットにジョージ・ハリソンと4人のガーデン・ノームと言われる小人?(妖精?)が描いてあることも、今までの自分とはおさらばする、もう夢の国の4人のうちの一人じゃないよ。という意思表示に見えます。
でもビートルズの場合、本気でみんなが反発しあっているようには見えません。なんだかんだ言っても兄弟喧嘩なのです。でなければ最後に「アビー・ロード」みたいな結束した妥協のないアルバムは作れません。
そこにはジョージも名曲2曲を提供しています。
ジョージはビートルズというバンド内でも末っ子的な扱いです。ある意味可愛がられていました。
ビートルズ中期においてインド音楽にハマりすぎになりそうな時も、ポール・マッカートニーなどはチッと舌打ちしながらも暖かい目で見守っていました。
映画「レット・イット・ビー」で厳しく当たっていたのも音楽的なものを認めていて、妥協することを許さなかったからだと思われます。(良きに計らっています)
ビートルズの中ではジョージが一番、精神世界、哲学、思想的なものにハマる性格でした。そういう悩める優しく真面目な部分も相待って、ジョンよりポールよりジョージのファン、という人も結構多くいます。
ビートルズのメンバー解散発表とともに各自、ソロアルバムを発表します。
改めて1970年のビートルズ関連のリリース状況を見ると
2月ジョージ・ハリソン「オール・シングス・マスト・パス」、
3月リンゴ・スター「センチメンタル・ジャーニー」、古いスタンダードのカバー集
4月ポール・マッカートニー「マッカートニー」、私小説風
5月ビートルズのラストアルバム「レット・イット・ビー」、ビートルズのの終焉を描いた映画のサウンドトラック
12月ジョン・レノン「ジョンの魂」、自分の内面を赤裸々に表現
最初にソロをリリースしたジョージは今までの鬱憤を晴らすかに如く3枚組超大作です。
アルバムを通してサウンドの統一感はありますがコンセプトアルバムではありません。
まとまっている、統一感があるという理由は、一つはプロデューサーがフィル・スペクターだったことです。
これは賛否分かれるところだと思います。
リンゴはプロデューサーに付き合いの長いジョージ・マーチンを選びます。
ジョージとジョンはフィル・スペクターを選びました。
ポールはソロ第一弾はセルフプロデュースでした。フィル・スペクターに任せた「レット・イット・ビー」を汚点のように思っていました。
おかげで「アビー・ロード」の制作エネルギーとなったわけですから何が功するかわからないものです。
でも最近感じるのは「オール・シングス・マスト・パス」はリマスターされる都度にフィル・スペクター色が薄れていってる感があります。「ジョンたま」もそうです。
そしてジョージは最初は乗り気でしたがフィル・スペクターサウンドにしたのを後悔するようになっていったと言われています。音の厚みは好きでしたが、アメリカンロック的指向からか深すぎる残響感(リバーブ感)は好きではなかったようです。(私感です)
その要因でもあり、統一感のあるもう一つの要因としてバックにアメリカのスワンプロックのミュージシャンを選びました。
スワンプロックにもハマっていたジョージはデラニー・アンド・ボニーにも接触し、そこにいたベンドメンバーでのちにデレク・アンド・ザ・ドミノスになるにミュージシャンを中心にサポートしてもらいました。
そうして出来上がったものは、イギリス人ジョージ・ハリソンが作った優しく綺麗なメロディを、スワンプロック的なサウンドで、腕の立つミュージシャンが演奏し、ウォール・オブ・サウンドで包み込む、という明らかに今までのビートルズの音とは質感の違うサウンドのアルバムが出来上がりました。
そのアルバムは各国でヒットチャート1位を席巻し、当時もいろんな方面から絶賛されました。
面白いのはアメリカでは当時も1位でしたが2001年のリマスター時にはビルボードで3位、2021年の50周年記念盤はビルボード200で7位、ビルボードトップロックアルバムではまた1位を獲得しています。
このアルバムは「クワイエット・ビートル」と言われたジョージの性格が出ていて、雰囲気が最高です。
折に触れて聴きたくなる、なかなか飽きのこないスルメ盤です。
私が今持っているのは2014年リマスター盤です。
演奏
ジョージ・ハリソン ヴォーカルズ、ギター、スライドギター、ハーモニカ
George Harrison: vocals, guitar, slide guitar, harmonica
エリック・クラプトン バッキング・ヴォーカルズ、ギター
Eric Clapton: backing vocals, guitar
ピーター・フランプトン、デイヴ・メイソン ギター
Peter Frampton, Dave Mason: guitar
ピート・ドレイク ペダル・スティール・ギター
Pete Drake: pedal steel guitar
ピート・ハム、トム・エヴァンス、ジョーイ・モランド アコースティック・リズム・ギター
Pete Ham, Tom Evans, Joey Molland: acoustic rhythm guitar
ビリー・プレストン ピアノ、キーボード、オルガン
Billy Preston: piano, keyboards, organ
ゲイリー・ライト ピアノ、エレクトリックピアノ、キーボード、オルガン
Gary Wright: piano, electric piano, keyboards, organ
ゲーリー・ブルッカー、トニー・アシュトン ピアノ
Gary Brooker, Tony Ashton: piano
ボビー・ホイットロック バッキングヴォーカル、ピアノ、オルガン
Bobby Whitlock: backing vocals, piano, organ
クラウス・ヴーアマン ギター、ベースギター
Klous Voormann: guitar, bass guitar
カール・レイドル ベースギター
Carl Radle: bass guitar
ジム・プライス トランペット
Jim Price: trumpet
ボビー・キーズ サキソフォン
Bobby Keys: saxophone
リンゴ・スター ドラムス、タンバリン
Ringo Starr: drums, tambourine
アラン・ホワイト、ジム・ゴードン、ジンジャー・ベイカー ドラムス
Alan White, Jim Gordon, Ginger Baker: drums
フィル・コリンズ パーカッション
Phil Collins: percussion
マイク・ギボンズ トロンボーン
Mike Gibbins: tambourine
マル・エヴァンス ヴォーカル
Mal Evans: vocals
エディー・クライン ヴォーカル
Eddie Klein: vocals
クレジット無し シロフォン、ハーモニウム
Uncredited: xylophone, harmonium
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1-1. I’d Have You Anytime アイド・ハブ・ユー・エニタイム
(ジョージ・ハリソン、ボブ・ディラン)
静かに始まりますがサビがドラマチックに展開します。いかにもこの頃のボブ・ディランらしい曲です。
1-2. My Sweet Lord マイ・スウィート・ロード
オープニングのアコースティックギターのストロークから興奮します。ジョージを代表する大ヒット曲です。印象的なジョージ・ハリソンらしいスライドギターのイントロもいいです。
コーラスが「ハレルヤ」から「クリシュナ、クリシュナ」「ハレ、ハレ」と変わっていくところが面白いと思っていました。
1-3. Wah-Wah ワー・ワー
ジョージには珍しく歪んだギターで始まり、ぶちかまし感のある曲です。キーボードのアクセントもカッコよく、バンド全体のドライヴ感がすごいのです。フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」を感じます。
1-4. Isn’t It A Pity イズント・イット・ア・ピティ
ちょっと「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を思い出すイントロです。ただしそれとは違って曲は静かに美しく進みます。
1-5. What Is Life ホワット・イズ・ライフ
ポップでいい感じです。シングルカットされ、ヒットしました。
1-6. If Not For You イフ・ノット・フォー・ユー
(ボブ・ディラン)
ボブ・ディランの「新しい夜明け」に収録されているヴァージョンと聴き比べると、お互いの表現する世界が違うのを感じられて面白いのです。どちらが演っても名曲です。
1-7. Behind That Locked Door ビハンド・ザッツ・ロックド・ドア
ジョージの性格が滲み出ているような優しくじっくりと語りかける曲です。
1-8. Let It Down レット・イット・ダウン
アコースティックギターで歌うヴァージョンもありますがこれは分厚いロックなサウンドです。
1-9. Run Of The Mill ラン・オブ・ザ・ミル
メロディアスでドラマチックな、なんとも言いようのない広大な感じがします。人生の選択を誤らないでと歌う名曲です。
1-10. I Live For You アイ・リブ・フォー・ユー
スティールギターが印象的でこれもいい感じです。出だしの不安定なところはご愛嬌。
1-11. Beware Of Darkness ビウエア・オブ・ダークネス
(1st Recorded at Abbey Road Studio)
ボーナストラックです。これもファーストテイクで弾き語りです。
1-12. Let It Down レット・イット・ダウン
(Original Guitar and Vocal)
これもボーナストラックで、ギター2台による弾き語りです。
1-13. What Is Life ホワット・イズ・ライフ
カラオケでございます。
1-14. My Sweet Lord (2000) マイ・スウィート・ロード
ここまでボーナストラックとなっています。これはこれで味のあるアレンジです。
2-1. Beware Of Darkness ビウエア・オブ・ダークネス
完成形です。ジョージらしい曲調です。
2-2. Apple Scruffs アップル・スクラップス
軽いジャムセッションみたいな感じで演ってます。タイトルはスタジオの前で待っているビートルズファンのことだそうです。
2-3. Ballad Of Sir Frankie Crisp (Let It Roll) バラッド・オブ・サー・フランキー・クリスプ
カントリーなどによく出てくるビリー・ザ・キッドみたいな無法者の歌かと思ったら、イギリスの弁護士のことでした。
ドラムが左に定位していて音が独特です。
2-4. Awaiting On You All アウエイティング・オン・ユー・オール
ベースのみが若干左に定位しています。宗教的な内容です。
2-5. All Things Must Pass オール・シングス・マスト・パス
名曲です。いきそうでいかない、盛り上がりそうで盛り上がらない感じがジョージの独特の世界です。
これだから徹底的にこれでもかというくらい歌い上げるという胃もたれ感がなくて好まれるのかもしれません。
2-6. I Dig Love アイ・ディグ・ラヴ
変わった曲調です。
2-7. Art Of Dying アート・オブ・ダイング
最初からノっていきます。ベースのノリがいいです。ギターも弾きまくります。
2-8. Isn’t It A Pity イズント・イット・ア・ピティ
バージョン2です。まだ手探り状態を感じます。
2-9. Hear Me Lord ヒア・ミー・ロード
懺悔の曲です。個人的なことですが、なぜかサウンドにビートルズを感じる瞬間があります。
2-10. It’s Johnny’s Birthday イッツ・ジョニーズ・バースデイ
(ビル・マーティン、フィル・コールター、ジョージ・ハリソン)
モロにスタジオに来たジョンの誕生日を祝った曲です。
2-11. Plug Me In プラグ・ミー・イン
スタジオでのジャムセッションです。
2-12. I Remember Jeep アイ・リメンバー・ジープ
これも同じくジャムセッションです。接触不良ノイズも効果的に入れてあります。
2-13. Thanks For The Pepperoni サンクス・フォー・ザ・ペペローニ
まんま「オー・キャロル」で始まるロックンロール・ジャムセッションです。
2-14. Out Of The Blue アウト・オブ・ザ・ブルー
11分を超えるジャムセッションです。ちょっとしたきっかけでバンドが一気に違う方向へドライブしていく様子が記録されています。
ただ最後の4曲についてはジャムセッションですので、音楽としてはプレイヤー目線でないと面白くないトラックかもしれません。
私としてはスタジオに見学に行ったらみんなで遊んでた、という感じで流して聞けばそれなりに面白いのですが。
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