「湧き出る創作意欲はLP1枚では収まりきれません。ロック初の2枚組アルバムとなりました」Blond On Blond : Bob Dylan / ブロンド・オン・ブロンド : ボブ・ディラン

 2016年にはめでたくノーベル文学賞まで受賞したボブ・ディランです。

ディランの一番有名な曲というと「風に吹かれて」か「ライク・ア・ローリング・ストーン」あたりになるだろうと思います。

次に一番評価の高いアルバムとなりますと、昨今の事情やいろんな方面の評価から見てこの「ブロンド・オン・ブロンド」ということになるのだろうと思います。

アコースティックギターにハーモニカを咥えてのフォークの弾き語りがメインだったディランが「ブリング・イット・オン・バック・ホーム」から徐々にエレクトリック化を初めました。
次の「追憶のハイウェイ61」で全てをぶちまけるような「ライク・ア・ローリング・ストーン」をかまして晴れて正真正銘ロック・ミュージシャンとなりました。

エレクトリック化もそうですが、それと同時に特筆すべきは「サブタレニアン・ホームシック・ブルーズ」に代表される、まるで言葉が次々に湧き上がってくるかのような歌詞、そして詩的表現です。

そして本作でも何かに取り憑かれたような創作意欲は止まることを知らず、通常のLP1枚というサイズでは足りず2枚組アルバムとしてリリースしました。

ロックにおいてはこれが初めての世に出た2枚組のLPでした。

以前にも言及したことがありますが、何十年も第一線で活躍してきた、もしくはいまだに影響力を持って歴史に名を残しているようなミュージシャンがその歴史の中でリリースした2枚組は時間をかけて名作と言われるようになりがちです。

ただしそういうのは最初に聞くべきアルバムかというと微妙です。

もしあなたが何らかの啓示を受けて最初から一生付き合う覚悟であれば2枚組から入るのも大賛成です。
あの声であの歌い方では2枚組は絶対無理、と思われる方にはお勧めしません。

そういうディランは今年2024年の時点で83歳となりました。
いまだ現役で「ネバー・エンディング・ツアー」なるコンサートツアーを続けています。

しかも今世紀に入ってからもアルバムをリリースすればまだヒットチャートの上位に入る現役です。

もうどこに向かっているか、何を目指しているかは本人にしか判らない状況になっています。

まさにロック誕生から全てを見て、体験してきた生き神様の状態です。

その長い音楽歴の中でもこの2枚組アルバムは別格と言われます。

確かに創造力のピークにいる時期です。
でもディランを象徴するような「風に吹かれて」とか「時代は変わる」とか「「ライク・ア・ローリング・ストーン」みたいな大定番曲はありません。

ヒットした曲というと「女の如く」という今の時代、ポリコレ的にこれアウトじゃね、と言われそうなタイトルの、しかもなんかベターっとした歌い方の曲です。(褒めてます、名曲です。)

他にもいろんなジャンルの音楽の要素が散りばめられディラン流に味つけられています。

「ブロンド・オン・ブロンド」は1966年6月20日にリリースされた7枚目のスタジオアルバムです。

アルバムジャケットはディランがスエードジャケットを羽織って仏頂面で立っている写真です。
ちなみにこのスエードは翌年リリースの「ジョン・ウェズリー・ハーディング」と3年後の「ナッシュビル・スカイライン」のアルバムジャケットでも着用しているようです。

何と言いますか物持ちがいいのか無頓着なのか。
同じ服でアルバム3枚通した人は他に知りません。

ディラン自身は創作意欲はピークにあったと思われますが、レコーディングはやたらと時間がかかってしまい難産でした。

これはディランの頭の中にあるサウンドと実際の演奏がなかなか重ならなかったせいだと思われます。

まず1965年10月から翌年の1月までニューヨークでホークス(のちのザ・バンド)などとレコーディングセッションを重ねましたが、ここからは結局「スーナー・オワ・レイター: One of Us Most Know(Sooner  Or Later)」1曲しか採用されませんでした。

その後ニューヨークセッションからはギターのロビー・ロバートソンとオルガンのアル・クーパーを連れてテネシー州ナッシュビルのCBSスタジオに入ります。
2月、3月の2ヶ月間レコーディングをしました。

ここのセッションから収録曲のほぼ全てのバージョンが収録されています。

そう言われて聴いてみると確かにその1曲だけ雰囲気が違います。
いやいや、それは最初からそういう情報を入れられているからだよ。と言われればそうかもなのですが、演奏がこじんまりした感じを受けます。
ディラン流に歌い上げるいい曲ですけどね。一般的評価も高いです。

アルバムタイトル「ブロンド・オン・ブロンド」の由来はいくつかあり、当初は金髪モデル2名、ディランと交際していたエディ・セジウィックとローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズと交際していたアニタ・バレンバーグのことを指しているとも言われていました。

しかし最近になって変わります。(と言っても20年前です)

2004年に刊行されたディランの回想録「クロニクルズ」より、ミュージカル作家ベルトルト・ブレヒトのミュージカル「ブレヒト・オン・ブレヒト」に引っ掛けたものだろうということになっています。
ディランは1963年に鑑賞して影響を受けたそうです。

これならもっと早く気づいてよ、と思いますが自分だって聞いたこともない作品なのでさすがにここには考えが及びません無理です。

ベルトルト・ブレヒトさんは「トゥーランドット」とか「3問オペラ」とかで有名な方です。
ディランは若干22歳でウディ・ガスリーに憧れて「風に吹かれて」などを歌っている時代です。
なぜミュージカルなんかを鑑賞しているんだと思ってしまいますが、天才の考えていることは解りません。

ということで個性が強すぎるために時代も時間も関係なく、フォロワーも生まれないというボブ・ディランの深遠な世界をご堪能ください。

しかしこのところ、ルシンダ・ウィリアムスとかジョーン・オズボーンとかベティ・ラヴェットなど女性アーティストのディランのカバー集とかニッティ・グリッティ・ダート・バンドのディランのカバーアルバムなどリリースされて定期的に盛り上がっています。
極め付けはオールド・クロウ・メディシン・ショーというカントリーバンドが「ブロンド・オン・ブロンド」の全曲カバーしたライブアルバム「50 Years of Blond on Blond」という力作もリリースしております。

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演奏

ボブ・ディラン  ヴォーカル、ギター、ハーモニカ、ピアノ
ビル・エイキンス  キーボード
ウエイン・バトラー  トロンボーン
ケネス・バトリー  ドラムス
リック・ダンコ  ベース(ニューヨーク)
ボビー・グレッグ  ドラムス(ニューヨーク)
ポール・グリフィン  ピアノ(ニューヨーク)
ジェリー・ケネディ  ギター
アル・クーパー  オルガン、ギター
チャーリー・マッコイ  ベース、ギター、ハーモニカ、トランペット
ウエイン・モス  ギター、ヴォーカル
ハーガス・ピッグ・ロビンス  ピアノ、キーボード
ロビー・ロバートソン  ギター、ヴォーカル
ヘンリー・ストルゼレッキ  ベース

ジョー・サウス  ベース、ギター

テクニカル
ボブ・ジョンストン  レコードプロデューサー
ジェリー・シャッツバーグ  フォト

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Rainy Day Women #12&35 雨の日の女

ニューオリンズ・スタイルというかマーチング・バンド風です。歌詞は何とも意味深です。ドラッグについてとも言われています。

2,   Pledging My time プレッジング・マイ・タイム

ブルーズスタイルの曲です。シカゴ・ブルーズを彷彿とさせます。ハーモニカソロで長いブレッシングが出てきます。

3,   Visions of Johanna ジョハンナのビジョン

最高傑作とされる向きもあります。ディランにしか表現できない世界です。シンプルな演奏で7分30秒もあるのですがなぜか飽きません。聞くたびに意味もよくわからないのに物語を一つ読み終えたような気になります。

4,   One of Us Most Know (Sooner or Later) スーナー・オワ・レイター

唯一のニューヨーク録音です。ディランのヴォーカルの良い部分が出ている曲です。

5,   I Want You アイ・ウォント・ユー

ある意味カントリータッチ、珍しくリフが入る軽快な曲です。この曲はなぜか最近特に評価が上がっている感じがします。タイトルはそのものずばりの求愛の歌ですが、

“罪深き葬儀屋がため息をついて、オルガン弾きが一人涙を流す。”という歌詞で始まります。

なるほど詩人です。

6,   Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again  メンフィス・ブルース・アゲイン

タイトルにブルーズが出てきますが、曲はブルーズではありません。最高にかっこいいロックです。
ディランを聞き始めた高校生の頃、なんか聴いたことある感じの曲だなあ、と思っていましたがふと思いついたのは中学生の頃聞いていた吉田拓郎の「春だったね」でした。

7,   Leopard-Skin Pill-Box Hat 豹柄の縁なし帽

ディランは特定個人を謳ったものではないと言っていますが、一頃一緒にいたエディ・セジウィックという女優のことではないかと言われています。
曲調はブルーズです。ライトニン・ホプキンスの「オートモービル・ブルーズ」が元ネタと言われています。
冒頭のギターはディランです。たどたどしいところが微笑ましく感じます。
左サイドに聞こえる途中のギターソロでギターの弾き方でフランジャー効果を作っているような音を出しているのがザ・バンドのロビー・ロバートソンです。

8,   Just Like a Woman 女の如く

一見辛辣そうで、でもなぜか愛情を感じられる歌詞がすごいと思います。これもエディ・セジウィックのことかもと言われています。ディランの詩は女性蔑視的なものが多いと言われますが、ブルーズの歌詞と同様の手法を使っていると思います。(そうする必要は全くありませんけどね)
シングルカットしてヒットしました。と言っても最高33位です。

9,   Most Likely You Go Your Way and I’ll Go Mone 我が道をいく

8年後の1974年リリースのザ・バンドとのツアーを記録した「ビフォア・ザ・フラッド」のオープニングで「ロックで行くぜ」とばかりにノリの良いアレンジで披露した曲です。このアルバム、邦題は「偉大なる復活」でした。

10,  Temporary Like Achilles 時にはアキレスのように

ゆったりのんびりした感じで切々と愛を歌います。歌詞を見ていて感じるのは、このシチュエーションだともう振られているから身を引いたほうがいいんじゃないかと。

11,  Absolutely Sweet Marie アブソリュートリー・スウィート・マリー

ディランらしいノリの曲です。いろんな単語が矢継ぎ早に出てきます。これも愛の歌です。

12,  4th Time around フォース・タイム・アラウンド

ちょっとワルツ調です。このアルバムはマシンガンの如くディランの口からいろんな言葉が発せられますが、この曲の歌詞の出だしは「言葉を無駄にしないで、それはただの嘘よ」と彼女に言われます。「私は彼女が耳が聞こえないと言って泣きました」と続きます。

13,  Obviously 5 Believers 5人の信者たち

ブルース形式です。メンフィス・ミニーの「ショーファー・ブルーズ」が元だとも言われています。歌詞の内容もブルーズ風です。一部の評論家に「内容が薄い」と評価されたそうですが、そんなことあなたに言われても、ですな。
アルバム中最高のR&Bソングという評価もあります。

14,  Sad Eyed Lady of the Lowlands ローランドの悲しい目の乙女

ジョーン・バエズのことを歌っていると言われていましたが、奥方のサラのことだそうです。
ワルツのリズムで紡いでいく歌は綺麗ですが歌詞は難解です。
ディランが真剣に愛を歌うとこうなるのでしょう。

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