「1980年代MTVを象徴する1枚です」Brothers in Arms : Dire Straits / ブラザーズ・イン・アームズ : ダイアー・ストレイツ

 1977年にデビューしたダイアー ・ストレイツはファーストアルバムの成功の後、大ヒット曲こそ無いものの着実に質の高いアルバムをリリースしていました。
サウンドも初期のパブロック・バンド的イメージから脱皮して、キーボードを加える、ギター用エフェクター を大々的に使用するなどして徐々に音も厚くなっていきます。

そして1985年、5枚目のアルバム「ブラザーズ・イン・アームズ」で再ブレイクします。というよりファーストアルバムの売り上げ、成功とは比較にならないほどの売れ行きでした。
音も重厚となり大規模イベントやアリーナ・コンサートが似合うバンドとなりました。
イギリス王室もダイアー ・ストレイツのコンサートに行きたい等のニュースも聞こえてきました。
変わらないのは歌詞の世界で、変わらず視覚的で社会性のある内容となっています。

この時期はMTV全盛で、アルバムからシングルカットされた「マネー・フォー・ナッシング」は1位となりました。
PVはMTVを見てロックスターに憧れる少年が、自宅の電気屋さんを営む「絵に描いたような堅物オヤジ」に“こんなチャラチャラした腑抜けた男になるんじゃねぇぞ” “そんなもん見てねえでオーブンやカラーテレビを運ぶのを手伝え”と怒られるアニメ仕様の傑作でした。
MTVの番組でMTVが親子断絶の象徴となるような内容のものが1位となるのですから心の中でああ、ロックだなぁと思ったものです。
(曲紹介のところでyoutube動画をリンクさせていただきます)

サウンド的には一つ前のアルバム、「ラヴ・オーバー・ゴールド」収録の「Industrial Disease」という曲との関連を感じます。
それはシンセサイザーの明るいリフによる軽快なリズムの恐ろしい歌詞の曲だったのですが、それを思い切りヘビィにディストーションしたギターで再構築したような感じです。

当時はミュージシャンの中ではMTVのように映像と音楽の融合については賛否がありました。
マイケル・ジャクソンのようにPVに映画並みのお金と時間をかけて演技をする人もいれば、単純に演奏している姿しか見せないという人もいました。
トム・ペティ なんかは映像が音楽の良さ、イメージの広がりを殺していると公言していました。
功罪ありますが、MTVによって動くミュージシャンの情報が入ってくるのは情報の少ない日本にあっては大歓迎でした。
内容が新しいものばかりではなく60年代、70年代の伝説のミュージシャン映像も「タイムマシン・コーナー」として結構紹介されていましたしね。
この状況は1979年に驚異のワンヒットワンダー(と言っていいのかしら?)バグルスの「Video Killed The Radio Star」で80年代のPV中心の音楽界を見事に予言していました。

ダイアー・ストレイツとは直接関係ありませんが、時代を象徴するプロモーションヴィデオです。

ダイアー・ストレイツはこの後、1枚のスタジオアルバムと1枚のライブアルバムをリリースして解散します。

ダイアー・ストレイツは硬派で垢抜けないロンドンのパブロック・バンドだったのが、MTVという流行の最先端をうまく使ってアリーナクラスのバンドになりました。
音楽性を変えずにできたのはプロダクションに恵まれたことと、やっぱり本物の音楽だったからだと思います。

リーダーのマーク・ノップラーは売れようが有名になろうが音楽に対するスタンスが変わることはありませんでした。
解散後はソロアーティストとして現在も定期的にアルバムをリリースし続けています。
結構地味な内容のものが多いのですが、音楽的には一級品です。
こういう音楽人生は素晴らしいと思います。

アルバム「ブラザーズ・イン・アームズ」のご紹介です。

演奏

*ダイアー・ストレイツ
マーク・ノップラー  ヴォーカル 、ギター
ジョン・イルズリー  ベース
テリー・ウィリアムズ  ドラムス
オマー・ハキム  ドラムス
アラン・クラーク  キーボード
ガイ・フレッチャー  キーボード

*アディショナル・ミュージシャン
ランディ・ブレッカー  トランペット 
マイケル・ブレッカー  サックス
マルコム・ダンカン  サックス
ニール・ジェイソン  ベース
トニー・レヴィン  ベース
ジミー・マーレン  パーカッション
マイク・マイニエリ  ヴィヴラフォン
デイヴ・ブリューズ  ホーン
ジャック・ソニ  ギター
スティング  ヴォーカル Tr.2


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   So Far Away  ソー・ファー・アウェイ

この軽くて音数の少ないレイドバックな感じもダイアー・ストレイツの持ち味です。



2,    Money For Nothing  マネー・フォー・ナッシング

あからさまなファズたっぷりのギターリフは初期にはなかったものです。でも単純にかっこいいので売れに売れました。私も一生懸命コピーしました。オープニングの声はスティングだとわかったのはだいぶ経ってからでした。




3,    Walk  Of Life  ウォーク・オブ・ライフ

PVはバスケットボール、失敗、ガムシャラなどがテーマでした。キーボードで始まるイントロは初期には無かったことです。ギターはJ.J.ケイル風です。




4,    Your Latest Trick  ユア・レイテスト・トリック

イントロはちょと今までなかったようなサックスによる綺麗なメロディです。珍しくギターが活躍しない曲です。


5,    Why Worry  ホワイ・ウォーリー

アコースティックギターで弾き語る優しい曲です。8分以上と長めですが、後半は間を生かしながら盛り上げていく得意のパターンです。


6,    Across The River  アクロス・ザ・リバー

尺八のような音色で始まる不気味な曲です。最後まであまり変わらず、展開もないので、このアルバムの中では異質です。


7,    The Man’s Too Strong   ザ・マンズ・トゥ・ストロング

70年代ボブ・ディラン風です。


8,   One World   ワン・ワールド

暗い曲が続くアルバムの後半にあってはリズミカルですが派手ではありません。80年代ボブ・ディラン風です。


9,    Brothers In Arms  ブラザーズ・イン・アームズ

はい、思いっきり暗く、重いラストの曲です。ギターは歪ませたレス・ポールの音です。こういう歌うギターに憧れていました。
私は男女、LGBTとかに差別意識はありませんが、「戦友」こればっかりはもうどうしようもなく男の世界です。


マーク・ノップラーは自分を持っている人なので、何をしても安心して見ていられます。
それはダイアー・ストレイツ解散後のソロアルバムでも同じです。
今はそういう時代ではないのかもしれませんが、聴くたびに身が引き締まる硬派の音楽です。

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