プログレッシブ・ロックの最高到達点と言われるアルバムがあります。イギリスのバンド、イエスが1972年にリリースした「Close To The Edge /邦題 : 危機」です。
リリースされたのはまだCDの無い時代でした。
アルバムA面1曲、B面2曲という構成は、まだ3分間ポップス全盛の時代にプログレとはいえ、なかなかのチャレンジャーです。
またYes-日本語で「はいそうです」というなんでも肯定的するようなバンド名は当時の反骨と反逆のロック精神とは相入れません。
でもそれって一回りしてロックらしいかなとも思えますね。
このアルバムはアメリカ、ビルボード200で3位、イギリスのオフィシャルチャートでも4位となりリリース当時も大ヒットしましたが、その後長らくロック愛好家によって語り継がれます。
聴きはじめると中毒性を持つ、というか単純に頭の中でメロディがループし始めます。
小鳥の囀りから不穏な感じで始まりますが、全体を通してメロディアスで重苦しくありません。
危機を歌っているのになぜかとっても爽やかです。ヴォーカル が開放的で、癒し感もあり、聴き終わるとポジティブな感覚にもなれます。(個人の感想です)
イエスの「危機」の魅力、聞きどころは
*壮大な音の世界とジョン・アンダーソンのハイトーンながら優しく癒し系のヴォーカル
*クリス・スクワイヤの弾く輪郭のくっきりしたリッケンバッカーの強力ベース
*スティーヴ・ハウの伝統的、技巧的なギター
*リック・ウェイクマンのクラシックアレンジで全体を印象を決定づけるようなオルガンとシンセサイザー
*ジェネシスだろうがキング・クリムゾンだろうがどこでも即戦力の超絶ドラマー、ビル・ブルフォード
などと聞きどころ満載です。
当時の記録を見るとバンドは長時間スタジオに缶詰め状態で、雰囲気はだんだん悪くなり、長時間費やしてセッションするものの曲は一向に完成せず、ということを繰り返していたそうです。
ということは前作「こわれもの」の延長、深化を考えていたのかもしれません。
曲は仕上がらないのですが、各パートの演奏の出来はいいのでボツにするのはもったいないと思ったエンジニアが組曲にすることを提案して、出来上がりました。
実際聴いてみるとそういうことは一切感じさせない、パーフェクトな構成に感じます。
演奏者とは別の視点で見てみることも重要なんですね。と改めて思います。
マイルス・デイヴィスと編集の鬼テオ・マセロの関係もそうか。
曲のタイトル及び歌詞についてはとっても難解です。でもこのアルバムの世界観からすれば歌詞は奥ゆかしく、どうとでも解釈できるほうが合っています。
ということでこのアルバム「危機」をご紹介となります。
演奏
ジョン・アンダーソン ヴォーカル
スティーヴ・ハウ ギター、バッキングヴォーカル
クリス・スクワイヤ ベース、バッキングヴォーカル
ビル・ブラフォード ドラム、パーカッション
リック・ウェイクマン エレクトリックピアノ、メロトロン、ハモンドオルガン、ミニムーグ、パイプオルガン
エディ・オフォード プロデュース、エンジニア
ロジャー・ディーン ジャケットアート
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Close To The Edge 危機
ⅰ)The Solid Time Of Change 着実な変革
ⅱ) Total Mass Retain 全体保持
ⅲ) I Get Up, I Get Down 盛衰
ⅳ) Seasons Of Man 人の四季
始まると一気に最後まで聞き通せますが、昔からどこからテーマが変わるのかわかりません。
2, And You And I 同志
ⅰ)Cord Of Life 人生の絆
ⅱ) Eclips 失墜
ⅲ) The Preacher The Teacher 牧師と教師
ⅳ) The Apocalypse 黙示
これも同じです。アコースティックギターに続いていかにもミニムーグらしい音が出てくるのに時代を感じます。
3, Siberian Khatru シベリアン・カートゥル
タイトル通り、雄大な滑空を感じる曲です。アルバムを通して言えることですが、各自の演奏レベルがすごいです。
昔、1970年代の終わりに入った頃、日本の田舎町で学生服に安全ピンを付け、「Close To The Edge」と書いた学生鞄を持ったヘンな高校生がいました。(私です)
10年ほど経過して、東京の街を歩いていたら学生カバンに「Close To The Edge」と書いた少年を見かけました。電車でバッグにアルファベットのシールで「CLOSE TO THE EDGE」と貼った女子高生を見たこともあります。
きっとこのアルバムはティーンエイジャーに作用する何かを持っています。(個人の感想です)
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