

1975年にCTI レーベルからリリースされたモダンジャズ・ギタリストの筆頭、ジム・ホールの代表作です。
ジム・ホールのギター・プレイの特徴は、繊細で一見控えめながら実は内部で熱く燃えていると言われています。
よくピアニストのビル・エヴァンスと同じようなイメージで語られるミュージシャンです。
その二人が共演した「アンダー・カレント」というアルバムがあるのですが、ジャズ・ピアノの詩人と名ギタリストの対話によるジャズが表現しうる最高の美しさを捉えた名盤などと言われます。
(ただし、個人的にサスペンス・ドラマみたいなジャケットデザインはどうだかなあと思っておるところです。)

さて、このアルバム「アランフェス協奏曲」がリリースされた当時、世の中はクロスオーバー、フュージョンといったジャンルが出てきた頃でした。
このアルバムのリリースされた翌年にはそのジャンルを象徴するようなアルバム、ジョージ・ベンソンの「ブリージン」がリリースされることになります。
しかもそういったジャズの傾向はすでに1972年にチック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエバー」あたりから顕著になってきていました。
今で考えればジム・ホールはどちらかといえばクール・ジャズの範疇に入りますが、当時はフュージョン、クロスオーバーの波に乗っていました。
アルバムはCTIレーベルからのリリースということもあって、日本でも結構な話題となります。
何よりクールな質感、哀愁を感じる切ないメロディ、さらには高音質な録音ということで、オーディオマニアや都会でハイ・ソサエティな生活を楽しんでいる人たちが聴いている印象です。
(若干偏見が入っています)

このアルバムのリリースされたのはまだLPレコードの時代でした。
A面はジャズ・スタンダードのコール・ポーター作「ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」で始まりジム・ホールのオリジナル、そして奥方のジャーン・ホールの曲と続きます。
オープニングの「ユー・ビー・ソー・ナイス・・・」は1943年に書かれた古い曲ですが、日本ではヘレン・メリルのヴォーカルバージョンがSEIKOのコマーシャルで使用され有名でした。
ジャズ・ヴォーカルのヘレン・メリルとトランペッター、クリフォード・ブラウン名義で1955年にリリースされた名盤です。
この頃のテレビの視聴率はものすごく高かったので、多分50歳以上の日本人でこの曲を聞いたことがない人はほとんどいないのではと思われるほどです。
ヘレン・メリルがノイマンのマイクロホンの前で顔をしわくちゃにしながら歌っているとってもかっこいいジャケットです。
音も1955年とは思えない名録音となっています。
(フルアルバムですが2曲目です)
そしてB面を丸ごと使って泣く子も黙る超有名曲「アランフェス協奏曲」をジャズで演奏しています。
マイルス・ディヴィスの1960年にリリースした「スケッチ・オブ・スペイン」のバージョンも有名です。
ここではチェット・ベイカーとマイルスのメロディ解釈、アプローチの違いも楽しめます。
このアルバムのレーベルはクリード・テイラーという悪魔のの独裁レーベル、CTIです。
(わたくしごとで申し訳ありませんがクリード・テイラーは歴史に残る偉大なジャズ・ギタリスト、ウエス・モンゴメリーをサツタバで引っ叩いて無理やりブルーズ演奏を禁止し、イージーリスニング路線に変更させました。
その一点でここ数十年は私の中では悪魔ということになっております。
詳しくはウエス・モンゴメリーの「インクレディブル・ジャズ・ギターをご参照ください。)
レコーディング・エンジニアは、ジャズ名盤と言われるアルバムのレコーディングには常連となっているルディ・ヴァン・ゲルダーです。
ここでは柔らかながらもクールなサウンドで録音してあります。
バックを支えるのは
デイヴ・ブルーベック・カルテットで有名なアルトサックスのポール・デズモント、
クールでイキな顔立ちは女性のファンも多かったのですが、破滅的な人生を選んでしまったトランペットのチェット・ベイカー、
エレクトリック・マイルスのバンドでも有名なベーシスト、ロン・カーター、
ドラム界の大御所中の大御所、スティーヴ・ガット、
そして
この超一級のメンツをまとめるバンマスのピアニスト、ローランド・ハンナです。
レコーディングはルディ・ヴァン・ゲルダーのスタジオがあるイーストコースト、ニュージャージー州のイングルウッド・クリフスですが、西海岸のクール・ジャズの精鋭が集まってレコーディングすることになります。
ちなみにジャズのレコーディング・エンジニアとして有名なヴァン・ゲルダー氏は1946年からニュージャージーのハッケンサックというところにある両親の家をスタジオにしてレコーディングを開始しました。
1959年にフルタイムのレコーディング・エンジニアとなって同州のイングルウッド・クリフスにレコーディング・スタジオを構えました。
アルバムは1975年の4月16日と23日の2日間でレコーディングされました。
(今から思えばこれだけ濃密なアルバムを2日間で録音したということだけで驚異です)
ここにはアーシーでエネルギッシュでファンキーなジャズではなく、本当にクールで美しく、楽しい、知的なジャズが詰まっています。
そして聞き込むほどに想像力を広げてくれるような素晴らしいメロディにたくさん出会えます。
もちろん悪魔、金の亡者と言われる(?)クリード.テイラーの息がかかっていますから、当然の如く聞きやすく客層を選ばない、狙い通りの売れるジャズ・アルバムとなっています。
(また余計なことを)

アルバム「アランフェス協奏曲」のご紹介です。

演奏
ジム・ホール ギター
ポール.デズモンド アルトサックス
チェット・ベイカー トランペット
ローランド・ハンナ ピアノ
ロン・カーター アップライト・ベース
スティーヴ・ガッド ドラム
ドン・セベスキー 編曲


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, You Be So Nice To Come Home To ユー・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ
(コール・ポーター)
軽快にジム・ホールのギターが歌って始まります。
ポール・デズモンドのアルトサックス、チェット・ベイカーのトランペットと繋いで行きますが途中、アルトサックスとトランペットが同時にアドリブを展開する場面があります。
この全く違うアプローチの中でも相手の、いやみんなの音を聞きながら演奏しているのがわかる、というのがジャズの醍醐味ですね。
ポール・デズモンドはデイヴ・ブルーベックのカルテットで有名で代表曲「テイク・ファイヴ」の作者でもあります。
チェット・ベイカーは1970年にドラッグが原因での喧嘩で前歯を折られて3年ほど演奏活動の中断を余儀なくされていました。
このアルバムは復帰してからの演奏です。
だんだんと軽快さを増していくローランド・ハンナのピアノソロの後にロン・カーターのベース・ソロも聞けます。
2, Two’s Blues トゥーズ・ブルーズ
(ジム・ホール)
ジム・ホールのオリジナルです。
聞いているとドラムのスティーヴ・ガッドがリズムで面白い煽りを入れています。
ロン・カーターの前乗り気味のウォーキング・ベースもいい味わいです。
ホーンの入ったジャズでブルーズを演奏するとハードバップな感じになります。
3, The Answer Is Yes アンサー・イズ・イエス
(ジェーン・ホール)
楽器の音を綺麗に聞かせるメロディです。
ジム・ホールのギターもチェット・ベイカーのトランペットも素晴らしく綺麗なトーンを出しています。
このアルバムにおけるチェット・ベイカーの貢献度はかなり高いものがあります。
ジム・ホールのソロに続いて、ローランド・ハンナのピアノもいい感じで彩りを添えます。
4, Concierto de Aramjuez アランフェス協奏曲
(ロドリーゴ)
ギター演奏のために書かれた有名曲です。
ゆったりとした流れの中にも緊張感が感じられます。
途中、3:40あたりからベースに誘われてドラムが入ってくるところが、シンプルながらもあまりのかっこよさに痺れます。
そこから最後まで続くシンプルなドラムは録音レベルも小さいのですが異様なまでの才能を感じてしまうのです。
柔らかく優しいトーンのあるとサックスとトランペット。
繊細に歌うピアノとギター。
決してでしゃばることのない、しかし見事に曲を引っ張っていくシンプルながら深いドラムとベースのリズム。
20分近い演奏ですが各メンバーの歌心が十分に感じられて時間を忘れられます。


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