「タイトなサウンドに斜に構えたヴォーカルが炸裂、アメリカン・ロックの雄トム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズの出世作です。」Damn The Torpedoes : Tom Petty and The Heartbreakers / ダム・ザ・トルピード : トム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズ

 「ダム・ザ・トルピード」はアメリカン・ロックの正統派バンド、トム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズの1979年リリースの3枚目のアルバムです。

タイトルの意味がなかなかシャレの効いたものとなっています。
南北戦争で北軍の海軍の少将(のちに中将、提督になる)だったデヴィッド・グラスゴー・ファラガットがモービル湾の戦いで魚雷で怯み後退する船団に「魚雷なんかくそ食らえ」(海軍には伝統的に「魚雷なんかどうでもいい、全速前進」と言われているそうです)と鼓舞した言葉です。

「一か八か」「ヤケクソ」「死ぬ気で行け」ということですね。

過去2作も評価は高かったのですが、このぐっとスケール感を増したサウンドが転機となりアメリカンロックの象徴となります。

邦題は「破壊」です。
中身をうまく表したよくできた邦題だと思います。

ジャケットでトム・ペティがリッケンバッカー620というモデルを持ってハスに構えています。
これだけでギタリスト的視点では普通ではありません。
ビートルズやザ・バーズ、CCRなどに象徴される独特の感覚があります。

トム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズはアメリカを代表するロックバンドでした。
彼らは1970年代後半のパンク台頭と同時期にデビューしましたが、パンクムーヴメントの範疇としては捉えられていません。

見た目も長髪に革ジャンという従来のロックンロール路線で、音楽性もザ・バーズやボブ・ディラン、それらのアメリカン・ロック・サウンドにハードなエッジを加えたような音作りでした。

そういうロックの伝統的な部分も感じられたことがその要因です。

そこら辺が良くも悪くも同じ長髪、革ジャンのラモーンズとは違うところです。

個人的にはそうとは思えませんが一般的には “ハートランド・ロック” の範疇に入ります。

数十年前にアメリカにとある技術研修に行った際、講師がトム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズのサウンドの良さを力説していました。

本場アメリカでは根強いファンが多いのですが日本ではさほど人気がありません。

そこがなぜかと考えてみると、まずフロントマンであるトム・ペティのアイドル性のなさとか、歌い方が独特で口を曲げてひねた声で歌うとか、ウマヅラとか・・あります。(悪口ではありません)
でも一番の原因は(と勝手に思っていますが)この人は根っからのシャイなのでナルシストになりきれなく、壮大な物語の中の悲劇の主人公になりきれません。
ある意味硬派なので自分を悲劇の主人公において、愛や悲しみを歌い上げるようなことが恥ずかしくてできない性格に思えます。
常に斜に構えて世の中を見ているのです。

そこらが同じ系統とされるブルース・スプリングスティーンとかジョン・メレンキャンプとかジャクソン・ブラウンとは違います。

きっとそれがドラマチックな要素に欠けて特大ヒット曲がなく大物になれない、感じられない要因です。

本当はとっても我が強いのにうまく表面に出さずに第三者視点で自分を見れていたように思います。
なのでトラヴェリング・ウィルベリーズみたいなスーパーグループでも上手く立ち回れたのではないかと思う次第です。

そしてバックのハートブレイカーズです。

とってもまとまっていいバンドです。が、なんかスプリングスティーンさんところのEストリート・バンドみたいな大げさな演出、派手さがありません。(そういうのも好きですが)

ただし言っておきたいことがあります。

これは昔から感じていることですが、ハートブレイカーズの評価はバンド経験がある人と普通の音楽ファンとでは違ってくるのものなのです。

耳の肥えた音楽ファンから見ると演出、構成、壮大なドラマ・・・というようなとにかく表現の部分でアピールが足りないように感じてしまうかもしれません。

特にアメリカン・ロックのド派手な開放感を求める向きには特にそうです。

ただバンド経験者から見るとこの一体感、まとまりは驚異的に上手いバンドに感じます。
各自が完璧に丁寧に仕事をしています。
雑なところが一切ありません。
ライブバンドとしては最高で、理想なんです。

そしてこのトム・ペティの斜に構えた歌い方とタイトにまとまったバンドが作り出す、そういうイキそうでイキきれないもどかしさが魅力なんです。

が、そんなことをロックにのぞむ需要がどれくらいあるかといえば微妙ですな。

などと考えているとやっぱり日本では売れないのも納得です。

しかし本場アメリカでは事情が違います。

ロックバンドらしい本物のロックバンドとしてアマチェアバンドから玄人好みのロックファンまで幅広い人気を集めています。

フロントマンで作詞、作曲をするトム・ペティは実は割と器用で幅広い音楽感を持っています。
ブルーズに根差したもの、ストレートなロックンロール調のもの、フォーク、カントリー系、アヴァンギャルドなロックやポップス系も実はうまく取り入れています。

このアルバムに収録されている「ルイジアナ・レイン」は普通にポップスとしてもいい曲です。
私は最初に聞いたのはFMでボニー・タイラーという歌手がカバーして歌っているのを聞いた時です。(ボニー・タイラーは普通に美形ですがエラが張っている顔立ちなので日本人受けはしないのでした)。
ハスキーヴォイスで歌うこの歌はとってもいい曲に感じました。ただメロディが綺麗すぎてトム・ペティの曲とは思いませんでした。

こういう曲を作る時点で同期のパンクバンドとは違います。

トム・ペティが2017年10月2日に薬物の過剰摂取で急死してしまい、バンドの存続はできなくなってしまいました。
2014年の「Hypnotic Eye」がラストアルバムとなってしまいました。
あれも「American Dream Plan B」から始まる素敵なアルバムです。
当時ビジネス用語で「プランB」なる言葉が流行していました。プロジェクトを遂行する時、最初に予定していた手法(プランA)で続けると目的に達せないと判明した場合に備えて、最初から予備の手法(プランB)も策定しておいて、状況によって乗り換えられるようにするというものです。

それにアメリカン・ドリームを掛けるところになかなかの味わいを感じます。

アルバム「破壊」のご紹介です。

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演奏
トム・ペティ  ヴォーカル、リズムギター、ハーモニカ、プロデューサー
マイク・キャンベル  ギター(リード、リズム、ベース)、キーボード
ベンモント・テンチ  キーボード、バックヴォーカル
ロン・ブレアー  ベース
スタン・リンチ  ドラムス

セッションミュージシャン
ドナルド・ダック・ダン  ベース(Tr.2)
ジム・ケルトナー(クレジットナシ)  パーカッション(Tr.1)

プロダクション
ジミー・アイオヴォン  プロデューサー
グレッグ・カルビ  マスタリング
シェリー・ヤクス  エンジニア
ジョン・マティアス  アシステント・エンジニア
トム・パヌンツィオ  アシステント・エンジニア
グレイ・ラッセル  アシステント・エンジニア
スキップ・テイラー  アシスアント・エンジニア
トリ・スウェンソン  アシスタント・エンジニア

アートワーク
リン・ゴールドスミス  フォト
デニス・キャラハン  フォト
アーロン・ラポポート  フォト
グレン・クリステンセン  フォト(表紙)
トミー・スティール  アートディレクション

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   Refugee レフュジー

自由を希求するトム・ペティを代表する曲です。1980年代にボブ・ディランと来日した際、テレビの音楽番組に出演してこの曲と「サザン・アクセンツ」収録の新曲「Rebels」を演奏してくれて歓喜したのを思い出します。

2,   Here Comes My Girl ヒア・カムズ・マイ・ガール

これも評価の高い曲です。語りで進んでサビメロで落とします。

3,   Even the Losers イヴン・ザ・ルーザーズ

「負け犬でもラッキーなこともあるさ」という歌です。最初のドラムの音はおまけですね。トム・ペティ流のロックンロールです。無駄のない演奏です。

4,   Shadow of a Doubt (A Complex Kid) シャドウ・オブ・ア・ダウト

バンドの一体感が気持ちいいサウンドです。

5,   Century City センチュリー・シティ

これも疾走感あるサウンドで攻めます。シャープなボブ・ディランといった歌い方です。

6,   Don’t Do Me Like That ドント・ドゥ・ミー・ライク・ザット

トム・ペティはアルバムに一曲、こういう攻めた、変わった、普通でない感じの曲を入れてきます。スタッカートがいいアクセントになっています。シングルカットされヒットしました。

7,   You Tell Me ユー・テル・ミー

渋めの曲です。こういうタイトな音を出すバンドもいいものです。

8,   What Are You Doin’ in My Life? ホワッツ・アー・ユー・ドゥーイン.イン・マイ・ライフ

安定のロックンロールです。これもタイトな一体感が魅力です。これだよなあというピアノ、ギター、ドラム、ベースです。

9,   Louisiana Rain ルイジアナ・レイン

いつ聴いても名曲です。オープニングの遊びも含めてええ感じです。演奏が締まっているのでベッタリ感がありません。

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