「歌いたい、聴かせたい、届けたい、心からの生きたブルーズ。時は1963年。R&B熱量100%、観客一体となった超絶ライブ」Etta James Rocks the House : Etta James / エタ・ジェイムス・ロック・ザ・ハウス

 1963年といえばザ・ビートルズはまだデビューしたばかり、ファンク・ミュージックはまだ始まってもいない状況でした。

この年の5月、ジェームス・ブラウンがライブ名盤「ライブ・アット・ジ・アポロ」をリリースしました。
しかしJ.Bといえども、最新スタジオアルバムは「プリズナー・オブ・ラヴ」で「トライ・ミー」や「ビウィルダード」などのソウル・バラードが中心だった時代です。

そんな1963年の12月13日にアルゴ・レコードよりこれまた凄まじいライブアルバムがリリースされました。

それはエタ・ジェイムスの「エタ・ジェイムス・ロック・ザ・ハウス」です。
ジェームス・ブラウンに触発されたのかもしれません。

直訳すると「エタ・ジェイムス、会場を沸かせる」まさにそういうタイトル通りのライブアルバムでした。

ちなみにアルゴ・レコードというのはレナードおよびフィルのチェス兄弟で有名なチェス・レコードの1部門です。

エタ・ジェイムスの初めてのライブアルバムですが、レーベルにとっても初のライブ録音でした。
レコーディングは1963年9月27日と28日の夜に行われました。
場所はテネシー州ナッシュビルのニュー・エラ・クラブです。

確認できませんがきっとチトリン・サーキット・ツアーの一環だったのでしょう。

この時エタ・ジェイムスはチェス・レコードから「アット・ラスト!」と「セカンド・タイム・アラウンド」をリリースして売り上げ好調、人気も上り調子のときでした。

バックを支えるのはこの時新進気鋭のギタリスト、デヴィッド・T・ウォーカーを中心とした鉄壁のR&B職人集団です。

そしてここは音楽の都、ナッシュビル。
耳の肥えた、かつ酒癖が悪く凶暴な観客(偏見です)が相手です。

しかしここでエタ・ジェイムスは小細工なしのストロング・スタイル。
がっぷり四つの真剣勝負を挑み、開始2分で観客をねじ伏せます。

その様子を捉えたものがこの伝説のアルバムです。

オープニング(CD1曲目)
暗いステージにピンスポットがあたります。

バンド : ズダダダダダ(ドラムのロール)ジャーン(ブレイク)

MC :  「レディース・アンド・ジェントルメン さあお楽しみはこれからです」

バンド : ジャジャジャジャジャジャーン

MC :  「レディース・アンド・ジェントルマン、お待たせしました。今夜のショーの主役はこの娘、とってもキュート!、さあ、ミス・エッタ・ジェイムスの登場です!」

観客「ピーピー、ヒャーヒャー」(やれやれー、いけいけー)

バンド : ダッタラ・ダダダダ(イントロ)〜1拍置いてジャーン(ブレイク)

エタ・ジェイムス登場、後ろ向きにマイクを握って立っている。
おもむろに前を向き、歌い出す。

E・ジェイムス : 「オーオオ・サムタイム」(みんな、調子はどうだい?)

観客 : 「ピーピー・ヒャーヒャー」(いよっ、待ってました。最高でっせ〜)

バンド : ジャーン(ブレイク)

E・ジェイムス : 「さあみんな!今のあたいは、あたいは今まで無いくらい気持ちいいわ」

観客 : 「キャーキャー、ピーピー」(そうだそうだ)

E・ジェイムス : 「それでYO!、みんなもYO!、一緒に盛り上がろうYO!」
ボックスステップで両手を下に向けながらヒップホップダンスをする。(この時代そんなものはありません)

バンド : ジャーン(バンドのブレイク)
ちょっと間があり。

観客「キャーキャー、ピーピー」(どうした、どうした、待ってんだぜ、焦らさないで〜)

E・ジェイムス : 「ようーし、そうかい、そうかい、あんたらあたいについて来れんだね」

観客 : 「キャーピー、キャーピー」(姉さん、どこまでもついていきまっせ〜)

E・ジェイムス : 「オーイェイ、オーイェイ、わかった。さあ一緒に、いっちまうだお」

観客 : 「いえ〜い」

E・ジェイムス : 「信じていいかい!」

観客 : 「いえ〜い」(もちろんだぜ)

E・ジェイムス : 「今だけは信じ合おうぜ!」

観客 : 「いえ〜い」(よっしゃあ)

エタ・ジェイムス : 「オーイェイ、オーイェイ、ウォー、ウォー、ウォーオーイエイ」
デヴィッド・T・ウォーカー : 「キュイーン、キュイーン、クイッ、クイッ、クキキキキーン」
(ここはデヴィッド・T・ウォーカーのギターとコール・アンド・レスポンス)

男性客 : 「ピーピー、ギャーギャー」(抱いて)
女性客 : 「ピーピー、キャーキャー」(もう、抱いて)

そしてオープニング・ナンバー「サムシンギ・ガット・ア・ホールド・オン・ミー」へと流れ込むのであった。

いやはや、これほど凄まじいライブの記録はなかなかお目にかかれません。
同時期にデビューしたローリング・ストーンズも可愛く感じられます。

アルバム「エタ・ジェイムス・ロック・ザ・ハウス」のご紹介です。

Amazon.co.jp: ロックス・ザ・ハウス+3: ミュージック
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演奏
エタ・ジェイムス  ヴォーカル
デヴィッド・T・ウォーカー  ギター
マリオン・ライト  ベース
フリーマン・ブラウン  ドラムス
リチャード・ウォータース  ドラムス
ヴォンゼル・クーパー  オルガン
ガーネル・クーパー  テナー・サックス

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Something’s Got a Hold on Me サムシンギ・ガット・ア・ホールド・オン・ミー
 (エタ・ジェイムス、リロイ・カークランド、パール・ウッズ)

1曲目からヴォルテージをピークに持っていきます。

2,   Baby What You Want Me to Do ベイビー・ホワット・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ドゥ
 (ジミー・リード)

のんびり癒し系ブルーズのジミー・リードの曲ですが、ここではハードなスローブルーズになっています。

3,   What’d I Say ホワッド・アイ・セイ
 (レイ・チャールズ)

ミスター・ジーニアス・レイ・チャールズの代表曲です。お約束の中間部の掛け合いもあるのですが全員一体の狂乱状態です。

4,   Money (That’s What I Want) マネー(ザッツ・ホワット・アイ・ウォント
 (ジェイニー・ブラッドフォード、ベリー・ゴーディ・ジュニア)

3曲目の「ホワッド・アイ・セイ」からメドレーで歌われます。
ビートルズも初期にカバーしていたスタンダードです。このド迫力バージョンの前ではビートルズが可愛く感じられます。
モータウンの曲でオリジナルは1959年、バレット・ストロングが歌ってモータウンの最初のヒット曲となりました。

5,   Seven Day Fool セブン・デイ・フール
 (ビリー・ディヴィス、ベリー・ゴーディ・ジュニア、ソニー・ウッズ)

エタ・ジェイムスのチェスでのセカンドアルバム「セカンド・タイム・アラウンド」に収録され、シングルカットされましたが米国ではビルボード・ホット100で95位とあまりチャートアクションはありませんでした。
しかし少し遅れてイギリスでノーザン・ソウルやモッズ・シーンで有名になります。
また2007年にカナダのジュリー・ブラックがカバーしてヒットさせました。

6,   Sweet Little Angel スウィート・リトル・エンジェル
 (ロバート・マッカラム)

怒涛の如く流れ込むのはB.B.キングの代表曲です。デヴィッド・T・ウォーカーのドライブしたブルーズギターもいい感じで絡みます。最後は観客との応酬です。

7,   Ooh Poo Pah Doo オー・プー・パー・ドゥー
 (ジェシー・ヒル)

ニューオリンズのジェシー・ヒルの1960年のヒット曲です。プロデュースはアラン・トゥーサンでした。
いきなり観客を巻き込んですごい声で始まります。
最後も「ワン・モア・タイム」と煽って盛り上げます。

8,   Woke Up This Morning ウォーク・アップ・ディス・モーニング
 (B.B.キング)

B.B.キングの書いた曲です。
「朝起きたら恋人はいなくなっていた、誰も一緒にいてくれない、ひとりぼっち」という内容ですが、ここでは「上等じゃねえか、この野郎」みたいな感じで歌っています。
巻き舌というかタンギングというかすごい声技も聞かれます。

9,   Ain’t That loving You Baby エイント・ザット・ラヴィン・ユー・ベイビー
 (ジミー・リード)

ちょっとクールダウンした感じもありますが、エタ・ジェイムスの声はもうダイナミックレンジを飛び越して歪んでいます。
2曲目に続いてこれもジミー・リードの曲です。

10,  All I Could Do Was Cry オール・アイ・クッド・ドゥ・イズ・クライ
 (ビリー・ディヴィス、グレン・フークア、ベリー・ゴーディ・ジュニア)

ここはバラードでチークダンスの時間です。
しかしだんだん熱くなってソウルフルな歌声が響きます。

11,  I Just Want to Make Love to You アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー
 (ウィリー・ディクソン)

マディ・ウォーターズの代表曲です。ここでは珍しくシャッフルアレンジでカバーしています。
これだけ観客と熱く一体となったライブアルバムはなかなか出会えません。

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