2023年10月20日、イギリスの最古参ロックバンド、ザ・ローリング・ストーンズのニューアルバムがリリースされました。
12曲を収録したアルバムのタイトルは「ハックニー・ダイヤモンズ」です。
ハックニーとはロンドンの治安の悪い地域名で、ダイヤモンドは窓を割って侵入された時のガラスの破片を意味しているとのことです。
オリジナルアルバムとしては2005年の「ビガー・バン」以来となり、18年ぶりです。普通だととっくに過去の人たちになっているはずですが、さすがストーンズは違います。
2016年に「ブルー・アンド・ロンサム」というブルーズをカバーしたアルバムをリリースしていましたし、ここ数年すごい量のフルコンサート動画がyoutubeに上がっていました。
それをみると、まだまだツアーをすれば観客動員数はすごいのです。映像はクオリティが高く、カメラワークなども凝っています。
こんなにちゃんとしたコンサート映像を無料で配信ていいの?、と思えるくらいの出血大サービスです。
みなさんもう御年80歳ですが、まだまだ若々しくてかっこいい爺さん達です。
そんなこんなでいよいよこのアルバム登場です。
先行して2曲ほどリリースされた曲のプロモーションを見ると、今回のアルバムはなんか最近のとは違う感じなのでは、という予感はなんとなくありました。
先行リリースの「アングリー」はタイトなリズムとシンプルなリフで、昔の演奏シーンが切り抜きで挟まれます。もう一つは「スウィート・サウンズ・オブ・ヘヴン」というバラードで最初聞いた感じ、「あっ、ブラック・アンド・ブルーとレット・イット・ブリードが混ざっている」と思ってしまいました。
もしかしたらローリング・ストーンズは本当に古くからのファンが望んでいることをやろうという気になったのではないかと思えました。
あの下世話でごちゃごちゃで、他人におもねることなく好き放題やらかして、それでいてナイーヴなローリング・ストーンズです。
で、早速ハイレゾ音源をダウンロードして聴いてみました。
サウンド面においては
まず音質が今までと違います。前作の「ブルー・アンド・ロンサム」とも違って聞こえます。
これは好みの問題かもしれませんが、1980年の「タトゥー・ユー」以降、ストーンズのサウンドは時代に合わせて厚く、太くなりました。
それが好きという人もいるかもしれませんが、私はそこらあたりからのストーンズを聴くことが少なくなりました。もっぱらそれ以前のストーンズばかり聴いていました。
なぜだろうと考えてみると、こうなんです。
ブルーズやトラディショナル、カントリー、R&Bなどのサウンドは編成がシンプルでアコースティックな楽器の音であり、音圧が高くなく音密度が低いことが特徴です。
特に弦楽器、ピアノやギターは弾いた途端に音圧はピークに達しそのまま減衰していきます。よくそのトラディショナルなジャンルで使用される楽器、ギターではそこをカバーしようとハンドビブラートをしたり、音を歪ませたり、スライドバーを使ったりします。その方が音声やホーン楽器に近くなり表現方法が増えるからです。
などと考えると、その手の音楽のの特徴として雑にいえば「音がスカスカで乾いた感じのサウンド」ということになります。
昔のロックには技術的、機材的なな限界で太い音や厚く隙間のない音は難しかったのです。初期のロックにはそういう雰囲気が残っていました。
それでカントリーやブルーズとの親和性が自然とありました。ストーンズやビートルズなどはそれをうまく利用して独自の音楽を作り出していました。
そういうところに魅力を感じる層も一定数いるのです。ストーンズにハードロックは求めていないのです。
では現在のブルーズやカントリーミュージックは昔のままかといえば違います。
ブルーズは音が太くなりロック、R&Bに近づきました。
カントリー、ブルーグラス界隈はよりダイナミックレンジを広げて、リアルで迫力あるサウンドにしようとしています。オルタナ系はロックとカントリーなどをうまくミックスさせています。
そしてローリングストーンズです。
80年代以降はいかにもロックな音となってしまいました。音が厚く重く、昔の間がある乾いた感じはなくなりました。見方を変えれば、いいじゃないか最新の音を取り入れているんだ、となります。
それが今回はちょっと感じが違います。
音はさすがに時代に合わせてリアルで厚いのですが、不必要に密度を高めて隙間を埋める感じではなくなりました。なので聴いていると昔のイメージが蘇ります。「ダイスを転がせ」とか「ギミー・シェルター」みたいな空間を感じさせてくれます。
そういう雰囲気をよみがえらせてくれた今回のアルバムは、私みたいなローリング・ストーンズ・ファンにとってはとても嬉しい贈り物です。
ちなみにこのアルバムに関してはハイレゾ音源とyoutube音源ではやっぱりエッジの鋭さと迫力が違います。
アルバム「ハックニー・ダイヤモンズ」のご紹介です。
*演奏
ザ・ローリング・ストーンズ
ミック・ジャガー ヴォーカル、ハーモニカ、ギター、パーカッション
キース・リチャーズ ギター、ベース、ヴォーカル
チャーリー・ワッツ ドラムス Tr.7,8
ロン・ウッド ギター、ベース、バッキングヴォーカル
*客演
マット・クリフォード キーボード
エルトン・ジョン ピアノ Tr. 2,8
ダリル・ジョーンズ ベース
スティーヴ・ジョーダン ドラムス
レディー・ガガ ヴォーカル Tr.11
ポール・マッカートニー ベース Tr.3
スティーヴィー・ワンダー キーボード・アンド・ピアノ Tr.11
ビル・ワイマン ベース Tr.8
*プロダクション
プロデューサー ドン・ウォズ
ミキシング・プロデュース アンドリュー・ワット
ミキシング セルバン・ゲニア、ポール・ラマルファ
マシタリング マット・コルトン
アートワーク Paulina Aimira
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Angry アングリー
シンプルなリフです。今までこういうのなかったかな、と思いますが、似たようなのはあるけど、同じ曲は思い浮かびません。
「スタート・ミー・アップ」と同様、コンサートのオープニングに最適です。
2, Get Close ゲット・クローズ
こちらもシンプルなギターカッティングの曲です。サックスソロのバックに往年のストーンズらしさを感じます。
2014年に亡くなってしまったストーンズの重要なサポートメンバーだったボビー・キーズを思い出してしまうのでした。
ピアノはエルトン・ジョンです。
3, Depending On You ゲィペンディング・オン・ユー
スローな曲になります。ちょっと遠くで鳴らすスライドギターが「レット・イット・ブリード」あたりを思い出します。
安心の70年代を彷彿させるストーンズ・サウンドです。ベースはポール・マッカートニーが弾いています。
4, Bite My Head Off バイト・マイ・ヘッド・オフ
キレのいいサウンドで突っ走ります。80年代っぽい感じです。ギター・ベース・ドラムスのみなのに不足を感じません。途中出てくるのは思いっきりファズをかけたベースなのか。
5, Whole Wide World フォール・ワイド・ワールド
これも同じようにシンプルなリフでできた曲です。トーキング調で歌っていきますが、サビでのメロディアスになって「クーッ」という感じになります。
6, Dreamy Skies ドリーミー・スカイズ
アコースティックギターのスライドで始まって雰囲気たっぷりです。なんか「レット・イット・ブリード」に入ってても違和感ありません。こういうのがある一定層のストーンズファンはたまらないのです。
7, Mess It Up メス・イット・アップ
なんとなくアルバム「イッツ・オンリー・ロックンロール」風の感じで始まります。
ドラムは2021年に亡くなったチャーリー・ワッツです。
8, Live by the Sword ライヴ・バイ・ザ・スウォード
ドラムスティックのカウントで始まります。これもチャーリーのドラムです。ベースは元メンバーのビル・ワイマン、ピアノはエルトン・ジョンです。
個人的にはパンクのノリを感じさせます。
9, Driving Me Too Hard ドライヴィング・ミー・トゥー・ハード
一瞬「ダイスをころがせ」が始まったかと思いました。終盤のコーラスにも出てきます。わたくし的にはこの辺のサウンドがツボです。最高です。
10, Tell Me Straight テル・ミー・ストレイト
お約束のキース・リチャーズ・タイムです。割と淡々と歌います。この人は何をやらせても味があります。文句は言えません。ロン・ウッドかもしれませんがなかなかいいギターソロも聴けます。
11, Sweet Sounds of Heaven スウィート・サウンズ・オブ・ヘヴン
レディ・ガガとスティービー・ワンダーも加わります。
これです。これなんです。「愚か者の涙」です。「無情の世界」です。これがストーンズしか表現できない世界です。
12, Rolling Stone Blues ローリング・ストーン・ブルーズ
いかにも狭いスタジオで演った雰囲気です。ミックとキースだけの世界です。ストーンズの原点なんです。と思うと泣けてきます。
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