「シカゴブルーズの巨星、ハウリン・ウルフの初期傑作集」Moanin’ in the Moonlight : Howlin’ Wolf / モーニン・イン・ザ・ムーンライト : ハウリン・ウルフ

 ブルーズの歴史において、アメリカ、イリノイ州シカゴのレコードレーベル、Chess Record(チェス・レコード)は重要です。アメリカ南部のプランテーションで働いていたアフリカン・アメリカンは工業の発展とともに北部の工業都市へ移住し始めました。そこではミュージシャンも南部のアコースティックなカントリーブルーズを発展させ、バンドとしてのブルーズを築き上げました。それがシカゴブルーズ です。

シカゴブルーズの中心人物はマディ ・ウォーターズ、サニーボーイ・ウィリアムソンⅡ、そしてハウリン・ウルフです。

ハウリン・ウルフは図体がでかい、声が濁声、名前が変、さらには経験上いきなり女性に聞かせると「うわあ、気持ち悪い」などと評されるなかなかの個性の持ち主です。洗練されたB.B.キング、Tボーン・ウォーカーなどと違い日本人としては非常にとっつきづらいブルーズ とも言えます。

でもロック関係では信望者が多く、リトル・フィートのローウェル・ジョージやジミ・ヘンドリクスは尊敬を公言していますし、ローリング・ストーンズやクリームもカバーしています。そしてレッド・ツェッペリンとザ ・キンクスに至っては知らなかったとは言えないような体裁で、ちゃっかりとフレーズをいただいています。

その昔、ジミ・ヘンドリクスは憧れのハウリン・ウルフに会って、尊敬の念を述べたのですが、ウルフからはカネのために白人に魂を売りやがって・・・などと言われたという話があります。多分、ではなく間違いなく相当に頑固者です。

本名はチェスター・アーサー・バーネットといい、ミシシッピ州ウエストポイントで1910年6月10日に生まれました。若い頃からメンフィス で音楽活動を始めましたが、レコードデビューは1951年で、もうすでに41歳と随分遅咲きです。

ご紹介する「モーニン・イン・ザ・ムーンライト」はシングルを集めたデビューアルバムで1959年、メンフィス録音も含まれますが、シカゴのチェス・レコードからのリリースです。
一見ちょっとロマンチックなタイトルですが、聞いた途端に地獄から湧いてきたような呻き声(モーン)が耳を襲いそんな甘っちょろい幻想は吹っ飛びます。
メンフィスで録音されましたが、シカゴのチェス・レコードよりリリースされました。

ウルフはメンフィス時代はウィリー・ジョンソンというギタリストがついていました。この人もブルーズギタリストとしては人気があり、以前に元ザ ・バンドのロビー・ロバートソンが影響を受けたギタリストとして、彼の奏法を解説している映像を見たことがあります。
1952年にシカゴに移住するときにギタリストにヒューバート・サムリンを迎えました。この人は年齢的にはウルフより20歳くらい若いので親子ほど歳は離れています。でも最後までウルフとともに活動しました。この人のギターがまた個性的です。私はロクな再生機材もない頃に聞いていた時はとってもイタイ音だと思ってましたが、これがまた慣れるとなかなか快感です。

ウルフは1976年1月10日、イリノイ州ハインズで亡くなられました。

アルバム「モーニン・イン・ザ・ムーンライト」のご紹介です。

演奏
ハウリン・ウルフ  ヴォーカル 、ハーモニカ
ウィリー・ジョンソン  ギター
ウィリー・スティール ドラムス
ヒューバート・サムリン  ギター
ウィリー・ディクソン  ベース
Hosea Lee Kennard  ピアノ
アール・フィリップス  ドラムス
ジョディ・ウィリアムス  ギター
オーティス ・スパン  ピアノ
リー・クーパー  ギター Tr. 5
アイク ・ターナー  ピアノ Tr. 1.2
フレッド・ビロウ  ドラムス Tr. 6
S.P.  Leary  ドラムス Tr. 8
Adolph  “Billy”  Dockins  テナーサックス Tr. 9
Otis “Smokey” Smothers  ギター Tr. 10


曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   Moanin’ At Midnight  モーニン・アット・ミッドナイト

いきなり強烈な呻き声(モーン)で始まります。歌詞とサウンドで不安を煽ります。


2,    How Many More Years  ハウ・メニ・モア・イヤーズ

これもねぇ、また悲惨な状況の歌です。
ピアノが軽快で、Tボーン・バーネットは「ある意味、ロックンロールの最初の曲」と評しています。
この曲でギタリストのウィリー・ジョンソンが弾いているのがこの世で初めて使用されたロックギターの代名詞ともいえる “パワー コード” と呼ばれる奏法です。

*パワー コードとはエレクトリックギターで5弦と6弦、もしくは4弦、5弦、6弦のみでコードを押さえて弾く奏法です。高音弦は弾かないため、ギターの場合セヴンスとかナインスとかの細かなコードバリエーションは表現できません。しかし迫力のあるパワフルなサウンドとなり、ハードロックのように音圧で表現する音楽にはオーバードライヴしやすいこともあって、とってもマッチします。


3,    Smokestack Lightnin’  スモークスタック・ライトニン

これもまた・・・呻き声が。有名どころではイギリスのバンド、ヤード バーズ がカバーしています。


4,    Baby How Long  ベイビー・ハウ・ロング

これはシカゴブルーズらしいサウンドです。


5,    No Place To Go  ノー・プレイス・トゥ・ゴー

あと何回、俺の人生を台無しにする気だ。と歌います。これもシカゴブルーズ・サウンドです。


6,    All Night Boogie  オール・ナイト・ブギ

ノリの良い曲が出てきました。全員で盛り上がります。


7,    Evil  イーヴル

ウィリー・ディクソンによる力強い曲です。たたみかけるようなリズムがかっこいいのです。


8,   I’m Leaving’ You  アイム・リーヴィング・ユー

如何にもシカゴブルーズですが、なんかほっとします。良い曲です。


9,    Moanin’ For My Baby  モーニン・フォー・マイ・ベイビー

得意の呻き声で始まるハウリン・ウルフらしい曲です。


10,   I Asked For Water (She Gave Me Gasoline)  アイ・アスクド・フォー・ウォーター(シー・ゲイブ・ミー・ガソリン)

水を頼んだらガソリンを持ってきたというすごいタイトルですが、真意はわかりません。


11,   Forty – Four  フォーティフォー

これも有名なルーズベルト・サイクスの曲です。チャーリー・パットンから続くミシシッピ・デルタ・ブルースの型です。
タイトルは拳銃の口径、列車番号、刑務所の独房の番号、などの意味があるとされています。


12,   Somebody In My Home  サムバディ・イン・マイ・ホーム

最後も何か不安を煽るような曲で終わります。

通して聴くとこの超個性は忘れ難くなります。
ハウリン・ウルフにしか表せない世界を感じます。

とんでもない頑固おやじです。

Bitly
Bitly


貴重なハウリン・ウルフの1971年のライブ映像です。(直接リンクできませんでした)

Howlin Wolf - Live 1971

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