「Nothing But The Blues」という魅力的なタイトルは続きます。最後はイギリスの1960年代から第一線で活躍しているエリック・クラプトンです。
2022年9月リリース、1994年のサン・フランシスコのフィルモア・ウエストのライブです。Bru-rayもリリースされています。
エリック・クラプトンとブルーズの関係は深く、デビュー当時からクラプトンいえばブルーズロックでした。
日本でも昭和のギターキッズは懸命にクラプトンのいたバンド、クリームの「クロスロード」をコピーしました。
かくいう私もチャーさんの「エリック ・クラプトン奏法」という本を買って勉強したクチです。
エディ・ヴァン・ヘイレンでさえも「クロスロード」がロックギターの基本と言ってるとまことしやかに囁かれたものです。
この関連でブルーズマン、ロバート・ジョンソンを知った人は相当な数に上ると思われます。
でも80年代に入ると、時代も平成となり、テクノ、ニューウェイブが流行します。
クラプトンさんは好奇心旺盛なので、そっちに寄っていったのです。確かYMOの「ビハインド・ザ・マスク」もカバーしていました。
個人的にはブルーズロックからレイドバック期までのクラプトンは聞いていましたが、ここで離れてしまいました。
そのうちにまたロバートジョンソンのカバー集をリリースしたり、B.B.キング と共演したりとブルースに戻ってくるのですが、この頃になるとビッグネームになりすぎて私には近寄りがたい存在でした。(自分で言うのもなんですが、こんなことだからひねくれ者は困ります)
このライブは全曲有名ブルーズカバーの「フロム・ザ・クレイドル」の時期のものです。この時は「クラプトンが帰ってきた。これはいいぞ、いいぞ」と私の周りも絶賛していました。
・・・ので、私は買いませんでした。(だからひねくれ者は困ります)
これを機会に心を入れ替えて、ちゃんと買って聴いてみなさい。ということで今回はBru-Layのライブ映像も買いました。映像も一級品です。なにせ監督があのマーチン・スコセッシですから。
ご覧の貴兄もサンプル動画や音源を聴いていいと思ったら、正規版のbru-rayやCDを購入することをお勧めします。アーティストへのリスペクトを兼ねた支援になりますし、何より未来の自分への投資になります。(きっと)
演奏
ボーカル、リードギター エリック・クラプトン
ギター アンディ・フェアウェザー・ロウ
ベース デイヴ・ブロンズ
ドラムス ジム・ケルトナー
キーボード クリス・ステイントン
ハーモニカ ジェリー・ポートノイ
テナー ティム・サンダーズ
トランペット ロディ・ロリマー
バリトン サックス サイモン・クラーク
リズム隊は安定のドラムス 、ジム ・ケルトナーとベース、デイヴ・ブロンズです。この前ネットでジム・ケルトナーの仕事をかなり細かく網羅したホームページを見つけました。この人はクラプトンからビートルズのソロ関連、ボブ・ディラン、ライクーダー、J.J.ケイル、スティーリー・ダンなどと洋の東西を問わず見事に網羅しています。この人を中心にアルバムを聴いて行っても素晴らしいコレクションとなること請け合いです。
ご紹介させていただきます。
というところで、このライブの私なりの感想を入れた解説をしてみます。
曲目
*参考としてyoutube音源と動画等をリンクをさせていただきます。
1, ブルース・オール・デイ・ロング (Jimmy Rogers)
発音が日本人的には同じのカントリー 初期のヨーデル唱法で有名な人がいますがそちらはJimmie Rodgersさんです。こちらのジミーさんはマディ・ウォーターズバンドでも活躍していました。代表作として「シカゴバウンド」というブルース界では有名なアルバムもあります。
ジミーさんはボーカルは実に味がある感じで雰囲気最高です。軽い歌い方ですが奥深いです。・・・ヘタウマとも言います。
まず最初の曲、ハープ入りでクラプトンはマディ・ウォーターズのようなシカゴブルース・スタイルで歌います。ギターは白のストラトキャスター(レースセンサー ピックアップ付きなので、たぶんフェンダー 旧エリック・クラプトンストラトキャスター)をクリアーな音色で弾いています。
2, スタンディン・ラウンド・クライング (Muddy Waters)
巨匠マディ/ウォーターズの作品です。「The Best Of Muddy Waters」に収録されています。これも当然のごとくシカゴブルース・スタイルです。ギターは黒のストラト(これもたぶんクラプトンモデル)でスライドギターのソロが出てきます。
3, フォーティ・フォー (Roosevelt Sykes, Howlin’ Wolf)
戦前ブルースでピアノ・ブルースのルーズベルト・サイクスの作品です。「Rollin’ And Tumblin’」と同じ系統の曲です。マディと同じくブルース界の巨匠ハウリン・ウルフのバージョンも有名です。ブルース名盤「Mornin’ At Moonlight」に主録されています。
映像ではハウリン・ウルフについて語ります。ハウリン・ウルフはとにかく表現力がすごいので最初はウルフの曲を演奏しようとは思わなかったそうです。
この曲は44口径のピストルのことを謳っていますがブルーズですので、当然ダブルミーニングで性的な意味も持ちます。マグナム44が有名ですが50年代からの生産なので歌が作られた頃にはまだありません。でも44口径の銃はあったようです。とりあえず「でかい」ということを言いたかったのでしょう。
4, イット・ハーツ・ミー・トゥー (Elmore James)
またまた巨匠の一人、エルモア・ジェイムスの代表的作品です。エルモアさんはエレキギター でオープンEというチューニングでスライド奏法です。基本のオープンDチューニングの1音上げですね。チャーリー・パットンの「Some Summer Day」から繋がっている「Sitting On The Top Of The World」調の曲です。ギブソン フルアコのスライドソロで終わります。
この曲はギターはギブソン ES-350 P90 Dogyear Pickup です。
5, アーリー・イン・ザ・モーニング (Sonny Boy Williamson)
ブルース・ハープの第一人者としてサニー・ボーイ・ウィリアムソンという人が二人います。活動時期は重複しないのですが、紛らわしいので区別して1世、Ⅱ世と分けて呼ばれます。Ⅱ世の方がちゃっかり名前を拝借したようですが、経済的にはこちらの方が成功したようです。この曲は1048年に34歳で刺殺された1世の代表曲です。
映像ではシカゴブルースの大物ハーピスト、リトル・ウォルターについて語ります。額に傷がある強面ジャケットで有名な、尚且つミュージシャンとしても超一流です。
1曲目と同じ、白のストラトです。
当然、ブルース ハープが大活躍の曲ですが、硬いギターの音で、ソロの時はバックが引いてほぼギターのみになります。引き込まれます。終盤からホーン登場してそのままエンディングに向かいます。
6, ファイヴ・ロング・イヤーズ (Eddie Boyd , Junior Parker)
これもピアノブルーズのエディ・ボイドの作品です。50年代のジュニア・パーカーのバージョンが有名です。
これぞクラプトンのブルーズという雰囲気 「E.C Was Here」の頃を彷彿させます。最後にクロスロードの歌詞も登場。ドットポジションのセミアコ ギブソン ES-335がいい音出してます。
7, クロスロード (Robert Jonson)
説明不要のロバート・ジョンソンの作品です。クリームのライブバージョンが有名です。ロックギター奏法のバイブルとさえ言われています。有名過ぎて再演しづらいと思いましたが、流石にアレンジを全く変えてきました。ボー・ディドリーを感じるビートになってます。ソロはハープに任せました。ちょっとでもクリームの時のフレーズを入れれば受けるのでしょうが、そういう方へ行かないところに好感が持てます。クリームの頃の映像が挟まれ、その頃ロバート・ジョンソンの1節を参考にしてリフを作ったことが語られます。
クラプトンはアコースティックギターに持ち替えて座って弾きます。
8, モルテッド・ミルク・ブルース (Robert Jonson)
同じくロバート・ジョンソンの作品です。
Molted Milk = 麦芽ミルク ≒ ミロ かな。
ここもアコースティックギターで通します。
9, マザーレス・チャイルド (Gospel)
ゴスペルの曲です。「時には母のない子のように」です。クラプトンは以前に「461 Ocean Boulevard」でマザーレス・チルドレンを演っていました。彼の生い立ちから感じるところがあるのでしょう。
ここは12弦アコースティックギターのカッティングで通します。
10, ハウ・ロング・ブルース (Leroy Carr )
戦前のピアノブルーズ、リロイ・カーのナンバーです。軽快にシャッフル気味にアレンジしたナンバーです。この人は1935年に30歳の若さで亡くなっていますので、よほどブルーズに詳しくないとこの人までたどり着けないと思います。
ドブロギターでのスライドが登場です。
11, リコンシダー・ベイビー Lowel Fulson Freddie King T-Bone Walker
さすがクラプトン、やっぱりギターアイドルののマナーでカバーしています。ゴージャスなブルースバンドの感じです。
映像ではT-Bone Walkerについてなど語っています。
ドットポジションのセミアコ ギブソン ES-335の指弾きがいい音出してます。
12, シナーズ・プレイヤー (Gospel)
ゴスペルです。どこからこんな曲を持ってきたんだろうと思ったら、レイ・チャールズの「Genious Loves Company」というアルバムでB.B.キングと演ってました。私も持ってはいますがすぐには思い出せませんでした。ゴスペルの世界では有名なのかもしれません。
13 エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース (B.B. King)
B.B.キングの名刺がわりのような曲です。クラプトンは早めのリズムでカバーします。
白のストラトで、このエンディングのソロもなかなか良いです。
14, サムデイ・アフター・ア・ホワイル Freddie King
クラプトンの大好きなフレディ・キングの曲がここから3曲続きます。いよいよ泣きのギターが出てきました。ブロックポジションマークでチェリーレッドのギブソン ES-335です。
15, ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン (Freddie King , Lightnin’ Hopkins)
映像では動くフレディ・キングが長めに出てきます。いかに影響されたかをクラプトンが語ります。この曲は今まで何度も取り上げています。安定の泣きのギターが続きます。最後のギターソロ、ここがハイライトです。
16, アイム・トア・ダウン (Freddie King)
アップテンポのシャッフルリズムです。このソロもかっこいいですよね。
17, グロー二ング・ザ・ブルース Otis Rush
祭りの後の雰囲気になってきました。オーティス ・ラッシュばりの粘っこいボーカルとギターです。
オーティス ・ラッシュさんは80年代に渋谷のライブ・インがまだあった時にみました。右利き用のギター(エピフォン カジノ)をそのまま左利き用として抱えて弾いていました。ブルーズの世界はなんでもありだなと思った次第です。CDにはありませんが、映像版ではアルバート・キング(フレディ、B.B.とともにブルース界の3大キングが揃いました)のクロスカット ソウが見られます。アルバート・キングも同じく右利き用のギターを左に抱えて演奏します。ベンディングの雰囲気が変わってくるのですが、クラプトンもそのことに触れて「コピーするには左利きになるしかないと思った」と語っています。
クラプトンはギターから全てを教わったと語っています。
この曲のギターは白のストラトです。
以上がアルバムの曲目です。
全曲ともライブでよくありがちな長いギターソロとかもなく、割とコンパクトで丁寧にアレンジしてあります。本当にブルーズが好きなんだなあというのが伝わります。ブルースマンにきちんと敬意を払っていますし、例えばギタリストがピアノブルーズの曲をカバーするとかよほど好きでないとやりません。また、ステージもエフェクターなど置いていなくてほぼ直アンプイン状態と思われます。そこからも偉大なブルーズギタリストへのリスペクトを感じました。
こういう風にクラプトンがブルーズを広めてくれていることは、とても素晴らしいことだと思います。いろいろと教えてもらいました。
黒くないブルースもいいものです。
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