ニューオリンズ・セカンドラインファンクの象徴、ザ・ミーターズの1974年リリースの5枚目のスタジオアルバム「リジュベネーション」です。
直訳すると「若返り、元気回復」、邦題は「ニューオリンズ・ファンクの覇者」となっています。
ミーターズのデビューは1969年で、初期のジョシー・レーベルでリリースした3枚は前編インストルメンタル・アルバムでした。
1972年、リプリーズ・レーベルになってからの通算4枚目となるアルバム「キャベジ・アレイ」からヴォーカルを入れるようになりました。
基本的にはオルガンのアート.ネヴィルが歌うことが多いようです。
ただし全員本職がヴォーカルではなく楽器演奏であるため、当初はヴォーカルと言っても添え物的な印象は拭えませんでしたが、だんだん進化し、迫力も増して来ました。
本作では結構ソウルフルに歌い上げています。
でもミーターズの場合、キモはやっぱりサウンドです。
セカンド・ライン・ファンクと言われるバックビートの絶妙なグルーヴから繰り出されるノリが一度ハマると抜け出せなくなるという人が後を絶えません。(個人の感想です)
しかしながらこの頃、1970年代の主流であったのはジェームス・ブラウンやスライ・アンド・ファミリー・ストーンなどの先進的都会派ファンクで、それに比べれば田舎っぽい、垢抜けない、土着的と言われてしまいます。
ただ、見方を変えればそういうプリミティヴな面があるからこそ、時代に移り変わりに負けない強さがあると言えます。
実際に今の音作りで聞けばスカスカ、ペラペラであり得ないサウンドなのですが、だからこそ強烈な印象を残し、特別な個性を感じてしまうということになりかねないのです。
私も最初に聞いた時は「こんなのアリか?」と衝撃を受けたものです。
このアルバム「ニューオリンズ・ファンクの覇者」になるとかなり洗練されてきた感じも出てきますが、ミーターズの場合は基本が変わりません。
ある意味特別な安心感があります。
変に色気を出すと大概において失敗するのですが、まず不器用そうなのでいきなり垢抜けたサウンドは無理です、きっと。
初期のヒット曲「シシー・ストラット」や「ルッカ・パイ・パイ」も今やニューオリンズを代表する古典ファンクとなっておりますが、このアルバムや次の「ファイヤー・オン・ザ・バイユー」ではミーターズはロックの世界でも認められるようになります。
ここが重要なところですが、まず彼らの経歴からサラっておきます。
ザ・ミーターズは1950年代半ば、まだ高校生だったグループのリーダー、アート・ネヴィルはニューオリンズ周辺で音楽活動を開始したところから始まります。
そして1965年に
キーボード兼ヴォーカル=アート・ネヴィル、
ギター=レオ・ノセンテリ、
ベース=ジョージ・ポーター・ジュニア、
ドラムス=ジョゼフ・「ジガブー」・モデリステという布陣でザ・ミーターズを結成しました。
そしてこれまたニューオリンズ・ミュージックの重鎮、アラン・トゥーサンに見出され、自身のレーベル、サンスゥ・エンタープライズと契約して専属バンドとなりました。
1969年にデビューして「ソフティケイテッド・シシー」や「シシー・ストラット」をヒットさせます。
1972年にはレーベルをリプリーズに変更します。
ここから2〜3年、チャートでは結果を出せませんでしたが重要な時期で、ドクター・ジョン、ポール・マッカートニー、ロバート・パーマーなどと仕事をしています。
そして1975年、ポール・マッカートニーがカリフォルニア州ロングビーチのクイーン・メアリー号でウイングスのアルバム「ヴィーナス・アンド・マース」のリリース記念パーティを開き、ミーターズを招待しました。
さすがはポール・マッカートニー、昔からモータウンのベーシスト、ジェイムス・ジェマーソンなども研究していたと言われる慧眼です。
そこにミック・ジャガーも招待されておりました。
ミックはミーターズのサウンドがいたく気に入ってローリング・ストーンズの1975年のアメリカツアーと1976年のヨーロッパツアーに前座で起用しました。
この流れによってミーターズの名前はR&Bの世界だけではなく、ロックの世界でも浸透することになります。
そして1976年には彼らの最大のヒットアルバムとなった「ファイアー・オン・ザ・バイユー」をリリースしました。
その後のミーターズは1970年代後半から解散、再結成、他のバンドへ移籍、ファンキー・ミーターズで再始動などを繰り返していきます。
たとえバンド内で確執があって離れてもすぐに忘れて懐かしくなってまた一緒に演る、みたいなノリです。
なんかニューオリンズ特有の「ビッグ・イージー」な感覚を感じさせてくれる人たちでもあります。(個人の感想です)
このアルバム「ニューオリンズ・ファンクの覇者」のジャケットですが、ミーターズらしからぬポップアートでとっても良いセンスを感じます。
アフロヘアーの女性がレコードを持っている姿は1970年代のブラック・ニュージックの雰囲気を見事に捉えています。
サウンドはゴスペル、R&B、カントリーなどのニューオリンズ風味付けです。
リリース当時はファンクとスワンプロックの融合と評する人もいました。
次作「ファイアー・オン・ザ・バイユー」もおすすめですがこの「ニューオリンズ・ファンクの覇者」の方が音の間があって、そこがよりファンキーに感じます。
ローリング・ストーン誌の「史上最高のアルバム500選」では2003年に138位、2013年版で139位にランクされています。
アルバム「ニューオリンズ・ファンクの覇者」のご紹介です。
演奏
アート・ネヴィル キーボード、作曲、プロデューサー、ヴォーカル
ジョゼフ・「ジガブー」・モデリステ ドラム、作曲、プロデューサー、ヴォーカル
レオ・ノセンテリ ギター、作曲、プロデューサー、バックヴォーカル
ジョージ・ポーター・ジュニア ベース、作曲、プロデューサー、バックヴォーカル
ローウェル・ジョージ スライドギター(Tr.3)
プロダクション
アレン・トゥーサン プロデューサー
ティム・リヴィングストーン プロジェクトマネージャー
ボブ・アーウィン マスタリング
アル・クアグリエリ マスタリング
ケン・ラクストン エンジニア
リッチ・ラッセル デザイン
バニー.マシューズ ライナーノーツ
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, People Say ピープル・セイ
かっこいいギターのカッティングで始まります。音数の少ないベースとこの間(ま)が好きになるともうニューオリンズファンクの虜です。ホーンセクションも入りますがカウンター気味でサウンドが厚くなることはありません。バックビートで跳ねる感じが最高です。
2, Love Is for Me ラヴ・イズ・フォー・ミー
ソウルバラードを歌い上げます。ベースも歌っています。
3, Just Kissed My Baby ジャスト・キッス・マイ・ベイビー
リトル・フィートのローウェル・ジョージがスライドギターで参加しています。スライドギターとワウペダルでファンキーギターとは恐れ入ります。ドラムとベースのリズム隊が素晴らしいの一言です。
4, What’cha Say ホワッチャ・セイ
オルガンで始まるロック調のナンバーです。なぜかノスタルジックな気持ちになります。
5, Jungle Man ジャングル・マン
テンポを落としたドラムですが、なおかつテンションいっぱいのところがかっこいいです。
6, Hey Pocky A-Way ヘイ・ポッキー・アウェイ
ニューオリンズ・クラシックです。ザディコのリズムと言われています。リズムの元はバックウィート・ザディコというクリオールのアコーディオンを演奏しながら歌うミュージシャンです。ザディコとはニューオリンズ・ミュージックの一種ですが大きくはブルーズに分類されます。クリオールとはルイジアナに住むフランス人と黒人の混血でまた独特の文化があります。
7, It Ain’t No Use イット・エイント・ノー・ユーズ
ハードボイルドな雰囲気のナンバーでカーティス・メイフィールドを彷彿させます。ニューオリンズっぽくはないのですが、これはこれでアリです。途中からはまんまジャムセッションで、ドラムソロも出てきます。ミーターズにしては珍しく12分近い大作です。
8, Loving You Is on My Mind ラヴィング・ユー・イズ・オン・マイ・マインド
この曲は最初に聞いた時、幼い時に聞いたことがあるような感覚でした。なんか郊外のショッピングモールとかスーパーマーケットなどでBGMに使われているようなナンバーです。思わず顔が綻びます。
9, Africa アフリカ
最後はうねりまくる太いリズムのメッセージで終わります。アフリカ回帰を歌います。
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