「『カインド・オブ・ブルー』でモードジャズ完成、そして次なるステップに進むマイルス。それがこのクラシックとジャズとエキゾチックな音楽を組み合わせた傑作」Sketches of Spain : Miles Davis / スケッチ・オブ・スペイン : マイルス・デイヴィス

 マイルス・デイヴィスの1960年7月18日にリリースされたスタジオ・アルバム「スケッチズ・オブ・スペイン」です。

このアルバムはシンプルにいえばマイルスとオーケストラの共演です。

と言ってもマイルスの演ることですのでよくある豪華なオーケストラをバックにトランペットで歌い上げる、といった類のものではありません。

ギリギリまで贅肉を削ぎ落として凛とした音を奏でるマイルスがここにはいます。

オーケストラ・アレンジはギル・エヴァンス。
マイルスはギル・エヴァンスと一緒に何枚ものオーケストラ共演アルバムを発表してきました。

このアルバムでは(でも)譜面が細かすぎて(音数が多いということではありません。注文が多いということです)何人ものミュージシャンが入れ替わったと聞いたことがあります。

そういえばマイルス関連では「ザ・コンプリート・マイルス・デイヴィス・&・ギル・エヴァンス」という120曲を超える恐ろしげなボックス・セットも存在しております。

プロデューサーはアナログ・テープの編集オタク、テオ・マセロです。

テオ・マセロはこれが初めてのマイルス・デイヴィスのプロデュースでした。

テオ・マセロといえばこれ以降にマイルスがエレクトリック化してからというもの、マイルスの延々と続くスタジオでの実験セッションを編集してたくさんの名盤をつくりあげていった人です。

のちのエレクトリック・マイルス時代のテオさんの苦労を考えると涙なしには語れないところがあり、不幸の始まりとしか考えられません。
もちろんこの時はそんな悪魔に魅入られていたとは考える余地もありませんでした。
(そういうふうに思っているのは私だけかもしれません)

題材はタイトルから伺える通りスペインの偉大なる盲目の作曲家、ホアキン・ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」を筆頭にスペインの風と大地を感じさせるナンバーで埋められています。

このアルバムもまた評価が高くマイルスの代表作の一つに数えられることが多い名盤です。

個人的にも格調の高さを感じさせる音楽であり、ジャズファンで無くてもマイルスの世界に触れられる利点もあり、人におすすめもしやすい名盤となっています。

そして驚くことにこのアルバムのレコーディングは1959年11月ですが、同年の3月にはあの歴史的アルバム「カインド・オブ・ブルー」のレコーディングもされています。

マイルスはジャズ界に今までとは全く別の「モード」奏法でジャズに今までになかったアプローチを提示しました。

ビバップ、ハードバップときたモダンジャズの流れの一大転換点でした。

モードでジャズに革命を起こしましたが、マイルスというアーティストはそこに安住することはありません。

進化を止めることなくジャズとクラシックの融合、合わせてワールド・ミュージック的アプローチも視野に入れた活動を始めたところはさすがマイルス、常人ではあり得ない発想です。

このアルバムに収録されている民謡はアラン・ロマックスがガリシアとアンダルシアで録音したものに触発さえたそうです。
(ここでも父ジョンと息子アランのロマックス親子の業績に感謝です)

このアルバムの共同制作を行なったギル・エヴァンスは次のように説明しています。

スペイン語のアルバムを作るつもりはなかったんです。
アランフェス協奏曲だけを演奏するつもりでした。
マイルスの友人が、その曲が収録された唯一のアルバムを彼にくれたんです。
彼はそれをニューヨークに持ち帰り、楽譜がなかったので、私はレコードから楽譜を書き写しました。
その頃には、スペインのクラブで演奏されているような他の民謡を聴き始めていました。
それで、そこから多くのことを学び、結果的にスペイン語のアルバムになったんです。ロドリーゴの曲は、メロディーがとても美しい。とても力強い曲です。
私はとても感動しました。

実はマイルス、「アランフェス協奏曲」の使用をロドリーゴに確認していませんでした。

コロンビア・レーベルも許可を求めていなかったようです。

ロドリーゴの妻、ヴィクトリアはこのレコーディングを「海賊行為」と非難しました。

ロドリーゴはマイルスのバージョンを許可したとしてスペイン著作権協会(SGAE)を訴えようとしました。
しかしマイルスが許可を求めておらず、勝手にやったことでロドリーゴに著作権を付与することになる、という理由で敗訴となりました。

噴飯やるかたないロドリーゴでしたが、その後は徐々にこの状況を受け入れることになります。

ギル・エヴァンス編曲版はエディシオネス・ホアキン・ロドリーゴ(正式名)が所有することになり、使用に関する法的条件は解決されたことと、何よりこのバージョンがオリジナルのギター協奏曲を蔑ろ(ないがしろ)にするどころか、さらなる普及に役立ったからということだそうです。

アルバム「スケッチ・オブ・スペイン」のご紹介です。

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曲目

*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Concierto de Aranjuez (Adagio) アランフェス協奏曲
 (ホアキン・ロドリーゴ)

問答無用の名曲です。静かにカスタネットで始まります。
オーケストラ・アレンジがまた過度にゴージャスにならず緊張感を持った感じでとっても良いと思います。

2,   Will o’ the Wisp ウィル・オ・ザ・ウィスプ
 (マヌエル・デ・ファリャ)

作者のマヌエル・デ・ファリャもロドリーゴと同じくスペインの作曲家です。
この曲は1915年、バレエ「恋は魔術師」のために描かれました。
マイルスは淡々と旋律を奏でていきます。
そして最後の部分で語りかけるようにアドリブを吹くのです。

3,   The Pan Piper (Alborada de Vigo) ザ・パン・パイパー
 (トラディショナル、Arr ギル・エヴァンス)

じっくりと聞かせるエキゾチックなナンバーです。
私にはオーケストラとコール・アンド・レスポンスをしながら展開しているように感じてしまいます。

4,   Saeta サエタ
 (トラディショナル、Arr ギル・エヴァンス)

誰もが聴いたことがあるような鼓笛隊マーチのリズムから一転してトランペットのソロになります。
バックには静かにリズムが入っています。そしてまた最初のリズムの戻ります。
為政者による争いと市井の人たちの祈りみたいなことを感じさせます。

5,   Solea ソレア
 (ギル・エヴァンス)

祈りのようなトランペット・ソロに始まり、フラメンコのリズムにウォーキングベース風のベースが絡んでいきます。ジャズとスパニッシュの融合です。
最後は消え入るようにフェイドアウトして余韻を感じさせます。

ここでオリジナルのLPバージョンは終わります。
CDではボーナストラックが3曲ほど追加されて、この後「Song Our Country」へと続くわけですが、流れで聴いていると、そこでアメリカに戻ったような感じを覚えるのでした。

演奏

  • マイルス・デイヴィス 
    アレンジャー、トランペット、フリューゲルホーン
  • ギル・エヴァンス 
    編曲家、指揮者
  • ジョニー・コールズ 
    トランペット
  • バーニー・グロウ 
    トランペット
  • タフト・ジョーダン 
    トランペット
  • ルイ・ムッチ 
    トランペット
  • アーニー・ロイヤル 
    トランペット
  • ジョン・バローズ
    フレンチホルン
  • ジェームズ・バフィントン 
    フレンチホルン
  • アール・チャピン
    フレンチホルン
  • トニー・ミランダ
    フレンチホルン
  • ジョー・シンガー
    フレンチホルン
  • ディック・ヒクソン
    トロンボーン
  • フランク・レハク 
    トロンボーン
  • ビル・バーバー 
     チューバ
  • ジミー・マカリスター
    チューバ
  • ダニー・バンク 
    バスクラリネット
  • アルバート・ブロック
    フルート
  • エディ・ケイン
    フルート
  • ハロルド・フェルドマン
    クラリネット、フルート、オーボエ
  • ロメオ・ペンケ
    オーボエ
  • ジャック・クニッツァー
    ファゴット
  • ポール・チェンバース 
    ベース
  • ジミー・コブ 
    ドラム
  • エルヴィン・ジョーンズ 
    パーカッション
  • ジャネット・パットナム
    ハープ
  • ホセ・マンガル・シニア 
    カスタネット (トラック 1-2)
  • エルデン・“バスター”・ベイリー
    パーカッション(トラック3~5)

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