ジョン・コルトレーンの「ブルー・トレイン」に続いて “これぞブルー・ノートの代表作” と言われるキャノンボール・アダレイ名義の「サムシン・エルス」です。
主役はマイルス・デイヴィスです。訳あってマイルスの名前ではリリースできませんでした。
それは後述いたします。
このアルバムは世界的に評価され、現在もモダンジャズを象徴するアルバムとして決して廃盤になることなく売れ続けています。
いろんなジャズに関する文献でも高評価が与えられています。
まずこのアルバム制作に至る過程として有名な話があります。
1950年代初期からマイルスはおクスリの依存症でした。
そういう苦難の時代に何だかんだと仕事をもらって世話になったのがブルーノートのアルフレッド・ライオンでした。
1958年にマイルスは3日間部屋にこもって自力で麻薬を克服したとのことです。
世話になったライオンに音楽で返そうと思いましたが、コロンビアと専属契約をしていて他のレーベルではリーダーアルバムをレコーディングできません。
そこでキャノンボール・アダレイのリーダー作にして客演で演奏するという体(てい)にしました。
選曲などのプランニングもマイルスが仕切ったと言われています。
1曲目の「枯葉」を聞けば主役はマイルスだとわかります。これぞというべき泣きのトランペットです。
コルトレーンの「ブルートレイン」にも感じたことですがマイルスは
「アルフレッド・ライオンの考えている理想のマイルス・デイヴィスを今から俺が全力で演じてやるぜ」
とでも思っているかのような演奏です。
マイルスはこの時、生涯で唯一自分以外の人のために演奏したのかもしれません。(勝手な解釈です)
ライオンもスタジオのヴァン・ゲルダーも建前と本音はわかっていてマスターテープには「マイルスー キャノンボール」と書いて保存されました。
この時期のマイルスはものすごい創作意欲がありました。
1958年はコロンビアレコードから「マイルストーンズ」「1958マイルス(日本編集盤)」「ポーギーとベス」「アット・ニューポート」「ジャズ・アット・ザ・プラザ」がリリースされ、翌年には歴史的重要アルバム「カインド・オブ・ブルー」をリリースします。
遅くなりましたが、このめんどくさい名義貸しに快く応じた懐の深いキャノンボール・アダレイについてもご紹介します。(先輩風を吹かせて脅したマイルスのただのパワハラだったのかもしれません)
ジュリアン・“キャノンボール”・アダレイとも言われます。
キャノンボールもジョン・コルトレーン同様、1950年代中期のマイルス黄金のクインテットに加わってメキメキと実力をつけました。
キャノンボールの真価はこのアルバムのちょっと後から発揮されます。
もちろんここでもいいアルトサックスのプレイが聞かれますが、この後のムーヴメントであるソウル・ジャズ、ファンキー・ジャズで花開きます。
もし、ソウル、ファンクは好きだけどジャズはねえ、と思ってらっしゃる貴兄にはぜひキャノンボールの「マーシー・マーシー・マーシー」だけは聴いてみていただきたい。クラブでのライヴアルバムですがめっちゃすごいです。
何がすごいかって観客の歓声、奇声、一体感です。見事に音楽にハマっています。4分25秒あたりのキャノンボールと同じトーンの観客の絶叫が曲にものすごい生命力を与えています。
仕事で身も心もどろどろに疲れ果てた日の夜に聞いてみてください。音楽療法にも最適です。
かようにキャノンボールアダレイ様はマイルスのパワハラにもめげず、マイルスが多分一番嫌っているであろう方向で突き進み、名声を手に入れます。
心の中で「マイルスさん、あんたにこういうノリは絶対無理だろ。悔しかったらやってみな」なんて思ってそうです。(全くもって個人の感想です)
アルバム「サムシン・エルス」のご紹介です。
演奏
マイルス・デイヴィス トランペット
キャノンボール・アダレイ アルトサックス
ハンク・ジョーンズ ピアノ
サム・ジョーンズ ベース
アート・ブレイキー ドラムス
プロデューサー アルフレッド・ライオン
レコーディング・エンジニア ルディ・ヴァン・ゲルダー
ライナー・ノーツ レーナード・フェザー
ジャケットデザイン リード・マイルス
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Autumn Leaves
アーマッド・ジャマルを参考にしたというイントロで始まり、マイルスの独壇場です。キャノンボールはあえて軽いフレーズでマイルスの世界を盛り上げます。
2, Love For Sale
スタンダードです。リリカルなピアノで始まり、リズムが変わってまたマイルスの世界です。
3, Somethin’ Else
まさにハードバップです。これでもかというほどアルトサックスとトランペットが絡み、聞き応えがあります。
4, One for Daddy-O
キャノンボールの弟、ナット・アダレイがシカゴのDJのために作曲した曲だそうです。くつろいだブルージーでいい感じです。
5, Dancing in the Dark
タイトルに反してダンサブルな曲ではありませんがこの曲はキャノンボールの独壇場です。切々と歌い上げます。
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