「2025年6月9日、ファンク・ミュージックの重要人物、スライ・ストーンが天に召されました。ピーク時の大傑作『スタンド!』をご紹介いたします」Stand! : Sly & The Family Stone / スタンド! : スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン

 2025年6月9日、ブラックミュージックのみならずロックやジャズなど多方面に影響を与えた奇才、スライ・ストーンが亡くなりました。
享年82歳でした。

スライ・ストーンといえば1960年代後半、「スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン」というグループで現れ、ロック、ファンク、ソウルなどのジャンルを軽く飛び越えた音楽で一世を風靡、その後の軽音楽に大きな影響を与えた人物です。

特にファンクの歴史においてはジェームス・ブラウンと並び重要人物として語られます。
ジャズのマイルス・ディヴィスはこの時期は「エレクトリック・マイルス=電化マイルス」と言われ、新しいジャズを開拓していた時期です。
ジャズのエレクトリック化に伴いファンクのリズムを取り入れようとジェームス・ブラウンやこのスライ・ストーンの音楽を研究していました。

のみならずその後に登場するマイケル・ジャクソンもプリンスもスライの影響なしには語れません。

そのスライ・アンド・ファミリー・ストーンが一躍世界中の注目を集めたのは1969年に開催された大規模イベント、ウッドストック・ミュージック・フェスティヴァルです。
このイベントは1960年代を総括する出来事として今でも語り続けられることになります。

もう50年近い昔の話になりますが、私もウッドストックの映画を映画館で見ました。
スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンはザ・フー、ジミ・ヘンドリクス、サンタナらと並んで映画のハイライトでした。
「へえ、これがファンクか、・・コイツら、なんか、もうめちゃくちゃ、もうスゲーとしか言いようが・・・」と感じたのを思い出します。

スライはジミヘンと並んでウッドストック・フェスティバルのテーマだった「愛と平和」そして人種統合などが理想であった時代の寵児となりました。

曖昧な思い出ですが、スライは映画の中で「モーターサイクル、モーターサイクル、モーターサイクル、ホンダ」と連呼していたという記憶があります。
しかし最近見た動画ではそういう歌詞はありません。
もしかしたら権利の関係で消されたのか(おもいっきり固有名詞だし)、もしくは他の映像なんかとの記憶違いか。
その辺がもう曖昧です。

何はともあれファンク・ミュージックを世界に知らしめた、ウッドストック1969の中でも屈指のライブを披露してくれました。

スライは基本、ヴォーカル兼キーボーディストなのでキーボードに向かい座って演奏します。
ファンク・バンドとしてはその体勢ではダンスなどのアクションが限られてしまいますが、そんなことにはめげずにアフロヘアーにラメシャツという派手な格好でキーボードに座るファンク・ボーカリストというのも面白いところです。

ザ・ファミリー・ストーンという名のバックバンドは1960年代の公民権運動などでナイーヴな時代においては珍しく、白人、黒人混合バンドでした。

このメンバーの中で最も重要人物はスラップ奏法(わたくしの年代としてはチョッパーベースと申します)を生み出したと言われる歌うベーシスト、ラリー・グラハムです。
1980年代からはギター、ベースのワイヤレス化も当たり前になったのですが、その昔はライブ中に異常に長いシールド(ベースとベースアンプを繋ぐケーブル)を使って客席に乱入しては練り歩いておられました。(グラハム・セントラル・ステーション時代です)

スライ・アンド・ファミリー・ストーンのアルバムでとりあえずは押さえていただきたいのはこの「スタンド!」と次作の「暴動」です。
それまでは業界内での評価は高いものの、なかなか売り上げに直結できなかったのですがこのアルバムで大ブレイクとなりました。

曲を聴くとわかりますがリーダーで作詞、作曲のスライ・ストーンはただのダンスミュージックが好きなだけのパリピではなく、ものすごく繊細な感覚を持っていたように感じられます。
芸術家特有の破滅型の人でもありましたが、繊細さが良い方向へ作用したのかオーバードースなどで破滅することなく平均寿命あたりまで人生を全うしました。

(「暴動」のジャケットです)

経歴をさらっておきますと、スライ・ストーンは本名はシルヴェスター・スチュアートといい、1943年3月15日にテキサス州ダラスで生まれました。
そhしてすぐにカリフォルニア州ヴァレーホに移住します。

父は教会の助祭でした。そして父はギターを弾き、母はゴスペルグループで歌っていました。

高校生時代からバンドを組んだりして音楽活動を始めます。
コミュニティ・カレッジに進み音楽理論を学びました。

1963年、卒業するとサンフランシスコのラジオ局KSOLでDJとして働きます。

1967年に幾つかのバンドから選ばれたメンバーでスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンを結成します。

1967年にファーストアルバム」あたらしい世界」をリリース。評価は高かったものの売り上げはトホホなものでした。
1968年ぼセカンドアルバム「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」は英米ともにトップ10ヒットになったものの、同年リリースのサードアルバム「ライフ」はビルボード200でかろうじて195位とまたコケてしまいます。

しかしここから転機が訪れます。

1968年11月にシングル「エブリデイ・ピープル」が初のナンバーワンヒットとなり、その勢いで1969年5月リリースのアルバム「スタンド!」につながります。
このアルバムはビルボード200で13位、R&Bチャートで3位となり、300万枚以上売り上げる大ヒットとなりました。

そして夏にはウッドストック・フェスティバルで圧倒的なパフォーマンスを披露することとなります。

大きな成功、そこに原因の一つもあるのでしょうが、スライはこの時代のミュージシャンらしく麻薬関係にハマっていました。
商業的に成功して有名になると次の作品へのプレッシャーとかブラック・パンサー党からの圧力(白人は排除しろ、黒人のために活動しろとか)などでさらに深みにハマって行ったようです。

そういう状況の中、それでも引退したり復帰したりしながらも音楽活動は続けます。
そういう浮き沈みが激しく不安定な状況でもあったため、ピーク時を超えるような名作は残していません。
今の視点で見れば音楽的なピークは1973年の「フレッシュ」までで、それ以降は内容、売り上げ共に大きく成功することはありませんでした。

しかし音楽界への大きな影響力とピーク時の珠玉の作品群は消えることはありません。

今なお彼らの功績は評価され、フォロワーも生まれ続けています。

アルバム「スタンド!」のご紹介です。

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演奏
スライ・ストーン  ヴォーカル、ギター、キーボード、ハーモニカ

フレディ・ストーン(スライの弟)  ヴォーカル、ギター

ローズ・ストーン(スライの妹)  ヴォーカル、キーボード

シンシア・ロビンソン(高校時代からの友人)  ヴォーカル

ラリー・グラハム(シンシアの親戚)  ベース

ジェリー・マルティーニ  サックス

グレッグ・エリコ  ドラムス

リトル・シスター(ヴェット・スチュアート、メアリー・マクリアリー、エイヴァ・ムートンからなるゴスペルグループ)  バッキングヴォーカル

作曲  シルヴェスター・スチュアート(スライ・ストーンの本名)

プロデュース、アレンジ  ストーン・フラワー・プロダクション(スライ・ストーン名義)

レコーディング  パシフィック・ハイ・レコーディング・スタジオ(サンフランシスコ)

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。(スペシャル・エディションです)

1,    Stand! スタンド!

ソウルフルでもあり「立ち上がれ、そしてやり遂げろ」という賛歌です。いろんな面でロックにも影響を与えたであろう名曲です。
ここで注目していただきたいのはジェームス・ブラウンのように真っ黒で汗臭い、むせかえるようなゲットーの臭いのサウンドではないことです。なぜかデヴィッド・ボウイが歌ってもおかしくない感じと昔から思ってました。

(別テイクです)

2,   Don’t Call Me Nigger, Whitey ドント・コール・ミー・ニガー・ホワイティ

どストレートに「ホワイティ(白人の蔑称)、ニガー(黒人の蔑称)って呼ぶんじゃねえぞ」という歌でございます。逆も歌います。もちろんアメリカではラジオでオンエアできるようなものではありません。
昔、タモリ倶楽部の空耳アワーで「どこ見てんじゃあ、ワレ」というのがありました。57秒のところが一番そう聞こえます。

3,   I Want to Take You Higher アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイアー

サービス満点、完全無欠のファンクナンバーです。ライブで盛り上がらないわけがありません。

(ライブです)

4,   Somebody’s Watching You サムバディズ・ウォッチング・ユー

あまり黒っぽさを感じさせない軽快なメロディのポップ・ロックな曲です。

5,   Sing a Simple Song シング・ア・シンプル・ソング

UFOやアル・ジャロウもカバーしています。ニューオリンズ・ファンクのミーターズを意識したような曲調です。
浮き沈みもあるけどシンプルな歌を歌っていれば気分も良くなるかもしれないよ。というスライらしい歌です。

(Alternate Mixです

6,   Everyday People エブリデイ・ピープル

キャッチーなメロディで誰でも知っていそうな曲です。この曲のヒットのおかげで勢いがつきました。
いろんな奴がいるけど一緒に生きていくしかないのさ、というこれもスライの人種差別に対するもので、人生観が出ています。

(J.Period Editです)

(アニメバージョンです)

7,   Sex Machine セックス・マシーン

ファンクの巨匠ジェームス・ブラウン様にも同じタイトルのナンバーがありますが、こちらはスライ・ストーン作のインストの曲です。
13分を超える長尺のナンバーで延々とファンキーチューンが続いていきます。
最後はドラムソロ、次第にテンポを落として行って機関車のエンジンが止まるイメージで終わるところがまたいいんだよなあ。

8,   You Can Make It If You Try ユー・キャン・メイク・イット・イフ・ユー・トライ

これも当時の社会情勢、人種差別についての歌で「あなたもやってみればできるかもしれないよ」という歌です。

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