1993年にリリースされたアメリカのミュージシャン、シェリル・クロウのデビューアルバムです。
拙としてはなんとなく1980年代にはデビューしていたようなイメージだったのですが、1990年代のデビューでした。
シェリル・クロウデビュー当時から良い意味で出来上がっていた感じがありました。
ファースト.セカンドを聴いて感じるのは「きっとこういう人って人間関係に恵まれて全て順調に人生を送ってきたんだろうなあ」でした。
いわゆる「持ってる人」です。
しかし実際は違いました。
ミズーリ州ケネット出身の彼女は若い頃、大学生の時から音楽活動を続けていましたが紆余曲折あって(我ながらすごいハショリようです)この「チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ」でデビューできたのは30歳を超えてからでした。
シェリル・クロウは誰が聴いても一眼で(ひと聴き)でわかるような強烈な個性の声、サウンドではありません。
アルバムや曲によってカントリー風だったり、パンキッシュだったり、舌足らずなアイドル風だったり、ソウルミュージック風にしたりと変幻自在にスタイルを変えていきます。
それでも一貫して感じるのは音楽に対する真剣さ、真面目さです。
詩の世界は時に内省的だったり、うまくいかない状況をテーマにしたりしたものが多くあります。
サウンドも歌詞も何かと1960年代や70年代の音楽のエッセンスを感じさせるのですが、そういうことも含めて嫌味にならず、彼女のキャラクターになっているのも素晴らしいところです。
手前かってながら、日本のラヴ・サイケデリコやザ・ブリリアント・グリーンといったセンスがいいなあと思うバンドを聴いていると、シェリル・クロウの影響を感じることがままあります。
そういう意味でもSSW系には影響力の大きいアーティストだと思います。
デビュー以降は以降は順調に実績を残していくことになりました。
活動を続けていくにあたり、彼女の音楽性がカントリー、ブルーズ、R&Bに根差していることもあって、1960年代、70年代から活躍している大物ロック・ミュージシャンからも可愛がられている感があります。
その集大成が2019年リリースの豪華アーティストとのコラボレーション・アルバム「スレッド」です。
シェリル・クロウはもう30年以上にわたって音楽界の第一線で活躍していますので大御所と言える存在なのですが、そんなに多作な方ではありません。
どのアルバムもその時々の彼女の嗜好に合わせて凝っていて、聞き応えのあるものになっています。
ただ最近思うのはシェリル・クロウの音楽は1960年代や70年代の音楽を知っている人にはハマるのですが、それはアルバムを通して聴いて感じるものだったりするのです。
特に2005年にリリースした「ワイルドフラワー」なんかはアコースティックで一見(一聴)地味ながらアルバムを通しての感じや終わった時の余韻が最高に心地良いのです。
しかるに現代の曲が始まって20秒以内にツカミがないとすぐ飛ばされるようなサブスク全盛の今では、そういう音楽が注目を浴びるのは難しいのかもしれません。
そういうのを見越してか、超豪華なゲストを呼んでコラボした「スレッド」をリリースしたときに「もうニューアルバムはリリースしない」宣言をしたりもしています。(実際は撤回したかたちですけど)
ということでデビューアルバム「チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ」に戻ります。
実はこのアルバム以前、1990年にA&Mレコードと契約したシェリルはプロデューサー、ヒュー・パジャムのもと、1992年9月22日にファーストアルバムをリリースする予定でレコーディングを終えていましたが、A&Mより発売を無限延期とされてしまいました。
シェリル自身がOKしなかったという話もあります。
ビッグ・アーティストとなった今でもリリースされないことを考えると相当出来に満足していなかったと思われます。
その頃シェリルはミュージシャン、プロデューサー、作詞作曲家のケヴィン・ギルバートが主催する即興音楽グループ(ジャムバンド)「チューズデイ・ミュージック・クラブ」で活動していました。
1993年になってこのメンバーで共作した曲でビル・ポットレルがプロデュースのもと「チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ」でやっとデビューすることになります。
仲間に恵まれた、と感じるのは、活動期間や年齢は別にしてこういう背景があるからだったのですね。
デビューアルバムが成功したことで、以降現在に至るまでアーティストとして素晴らしいアルバムを現在までリリースしていくことになります。
シェリル・クロウの魅力は歌のうまさとか演奏技術ということではなく(下手ではありません)、カントリーやロックのエッセンスをうまくミックスしたセンスの良さで勝負しているように思います。
そこには音楽に対しては真摯な姿勢が感じられます。
そして何より、見方によっては美人なのですが、実はオトコ顔でパンツスタイルしか似合わないヤンキー姉ちゃん、という “オトコマエ” なところも最高っす。
(すいません、これ褒めてるつもりなんですけお)
アルバム「チューズデイ・ナイト・ミュージック・クラブ」のご紹介です。
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Run, Baby, Run ラン・ベイビー・ラン
(ビル・ボットレル、デヴィッド・ベアウォルド、シェリル・クロウ)
ヒッピーで麻薬中毒の母とバーミンガムへ行進してプロテスト・ソングを歌う父のもとに生まれた少女が、心身ともにある程度成長した時に(父の影響もあり)環境や人間関係から逃げろと自分に歌いかける内容です。
彼はイギリスの作家、哲学者であるオルダス・レナード・ハクスリーが亡くなった1963年11月22日に生まれたと歌い始めます。
(ここら辺は詳しく時代背景を知っていないと特に日本人には意味がわかりません)
1993年にシングルカットされた時は大ヒットとはなりませんでしたが、1995年に再リリースされイギリスではチャート24位まで上昇しました。
2, Leaving Las Vegas さらばラスベガス
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル、デヴィッド・ベアウォルド、ケヴィン・ギルバート、デヴィッド・リケッツ)
ラスヴェガスでダンサーをしている女性が、ラスヴェガスという街の生活に虚しさを感じ始めて出ていくという内容です。
ゆったりした重厚なリズムで演奏されています。
真偽ははっきりしませんが、ジョン・オブライエンの小説をもとに書かれており、結局彼は自殺してしまうというこの曲にまつわる悲劇的な出来事もあってようです。
3, Strong Enough ストロング・イナフ
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル、デヴィッド・ベアウォルド、ケヴィン・ギルバート、デヴィッド・リケッツ、ブライアン・マクロード)
4枚目のシングルとしてリリースされビルボード・ホット100で5位まで上がりました。
信仰心を感じるような内容です。
4, Can’t Cry Anymore キャント・クライ・エニモア
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル)
タイトル通りギターのカッティングも気持ちいい海保的なナンバーです。
日本のラヴ・サイケデリコも影響を受けているのが実感できます。
5, Solidify ソリディフィ
(シェリル・クロウ、ケヴィン・ハンター、ビル・ボットレル、デヴィッド・ベアウォルド、ケヴィン・ギルバート、デヴィッド・リケッツ)
ファンキーナンバーです。バックの演奏もみなさん達者です。
6, The Na-Na Song ナ・ナ・ソング
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル、デヴィッド・ベアウォルド、ケヴィン・ギルバート、デヴィッド・リケッツ、ブライアン・マクロード)
なぜか1970年代を彷彿させます。
リズムに合わせたラップ調のお祭りソングです。
歌詞にビートルズ、マドンナ、スティーリー・ダンなどが登場します。
7, No One Said It Would Be Easy ノ・ワン・セッド・イット・ウッド・ビー・イージー
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル、ケヴィン・ギルバート、ダン・シュワルツ)
弾き語り風のしっとりとしたナンバーです。
壊れた人間関係の修復の難しさを歌います。
8, What I Can Do for You ホワット・アイ・キャン・ドゥ・フォー・ユー
(デヴィッド・ベアウォルド、シェリル・クロウ)
プリテンダーズの「ドント・ゲット・ミー・ロング」を思い出します。
語り口調とタイトなリズムが心地良いナンバーです。
9, All I Wanna Do オール・アイ・ウォナ・ドゥ
(ワイン・クーパー、シェリル・クロウ、ビル・ボットレル、デヴィッド・ベアウォルド、ケヴィン・ギルバート)
ブレイクスルーとなった大ヒット曲です。
ボブ・ディランみたいな語り口調でサビ以外はメロディを感じないような曲ですが、なんといっても素晴らしいのはファンキーなベースとスティール・ギターです。
昔よくエンドレスで聴きながら一緒にスライドギターを弾いていたのを思い出します。
内容は昼間からバーでバドワイザーを飲んで時間を過ごすしかないという自堕落な状況を謳っています。
10, We Do What We Ban スイング・ジャズを聴きながら
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル、ケヴィン・ギルバート、ダン・シュワルツ)
変わって重苦しい雰囲気で歌われる感情的なナンバーです。
途中後半、ダイナミックに変化します。そあひてまた戻流という起伏の激しいナンバーです。
11, I Shall Believe アイ・シャル・ビリーヴ
(シェリル・クロウ、ビル・ボットレル)
最後はオルガンとコーラスとゆっくりとしたリズムで、讃美歌のような信仰を感じるナンバーです。
演奏
- シェリル・クロウ
ボーカル、ピアノ、オルガン - ビル・ボットレル
ギター、ペダル・スティール、キーボード、ベース、ドラムス - デヴィッド・ベアウォルド
ギター、オルガン - ダン・シュウォルツ
ベース、アコースティック・ギター - デヴィッド・リケッツ
ベース、アコースティック・ギター - ケヴィン・ギルバート
ドラムス、ギター、オルガン - ブライアン・マクロード
ドラムス、パーカッション - ウェンデル・クロウ
トランペット
コメント