「“ロックンロールは決して死なない”という歌詞と共に後世へ大きな影響を与えた、ニール・ヤングの1970年代を締めくくる名盤」Rust Never Sleeps : Neil Young With Crazy Horse / ラスト・ネヴァー・スリープス : ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース

 偉大なるロックレジェンド、ニール・ヤングの1979年、6月22日にリリースされた10枚目のアルバムです。
ある意味ニール・ヤングの中でも一番ロック魂を感じさせてくれるアルバムです。

ニール・ヤングは以前から、というかバッファロー・スプリングフィールドを解散した時から、ソロやCSN& Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤング)、およびクレイジー・ホース名義などといろいろな形態で活動してきました。

アコースティックでフォーキーな面とエレクトリックでハード、ラウドな面の両極を併せ持つ不思議な存在です。
そこまでジャンルも演奏形態も手広く活動している人は他に知りません。

ソロではナイーヴな感性を前面に出して、CSN&Yでは良質のアメリカンロックを演奏し、クレイジー・ホースではとんがった感性でロックする。
そういうことが許されるのも実績があってコンスタントに良質な音楽が提供できて、売り上げも期待できるということです。

バンド、クレイジー・ホースについては1975年のアルバム「Zuma」の後、ギタリスト、ダニー・ウィッテンがアルコールと抗不安薬ジアゼバムのオーバードースでなくなってしまい、活動休止を余儀なくされます。
ニールも含めかなりショッキングな出来事で、バンドは解散状態となっていましたが、ようやくフランク・サンベドロを新しくギタリストとして迎え入れ、再結成となりました。

そしてこのアルバム「ラスト・ネヴァー・スリープス」を新生ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース名義でリリースします。

1969年の最初のクレイジー・ホースとの共演「エブリバディ・ノウズ・ディス・イズ・ノーホェア」の時からずっとバンド名が「With」で「And」とか「Neil Young’s」といったつなぎにしないところにニール・ヤングのこだわりを感じます。

アルバム「ラスト・ネバー・スリープス」はビルボードのチャートで8位まで上昇し、ニール.ヤングのイメージをさらに広げるものとなりました。

というのもここに収録されたオープニング曲「My My Hey Hey (Out of the Blue)」で「ロックンロールはここに生きている」「消え去るより燃え尽きる方がいい」という始まりと共にブリティッシュ・パンクの立役者、セックス・ピストルズのジョニー・ロットン(のちにジョン・ライドンに改名)について歌詞で言及しています。

アメリカのビッグなアーティストがブリティッシュ・パンクに言及することは珍しいことでしたが、タイトルの「錆びつけ、決して眠るな」というメッセージ性の強い言葉と相まって若い世代に共感されました。

この歌の最後は「ロックンロールは永遠に死なない」「写真には目に見える以上のものが隠されている」でハーモニカソロに入って終わります。

フォーク・シンガー的イメージもあるニール・ヤングですが、こういうパンキッシュでとんがった部分もある人、ということを知らしめ、自分より若い世代への理解もあることを示しました。

1994年、ニルヴァーナのカート・コバーンは遺書でこの歌詞を引用しました。
カート・コバーンの死後、ニール・ヤングは2度とこの曲を演奏しないと誓いましたがニルヴァーナの他のメンバーの要請で撤回しました。

そういう世代を超えて一目置かれる存在、アルバムであり続けています。

オリジナル・フォーマットであるLPレコードでいうA面はニール・ヤングによる弾き語りです。
面白いことにこの人はアコースティックギターとハーモニカだけでもロックを感じられるのです。
そして歌詞は独りよがりのお気持ち表明みたいな内容ではありません。

B面はクレイジー・ホースと共にライブ感覚でぶちかましています。
実際、ライブ音源をもとに作っているそうです。
この後、同年11月に「ライブ・ラスト」という続編みたいな2枚組ライブアルバムもリリースします。

「Rust Never Sleeps」「Live Rust」というアルバムタイトルはグーグル翻訳の直訳になると「サビは決して眠らない」「生きたサビ」となるところにまたまた「いとをかし」を感じるのでした。

アルバムジャケットでわかるようにこの時期のステージには巨大なアンプ模型のステージセットがあったりしていかにもラウドなロックな感じがしています。

今思うとこの時代は大規模ロックフェス「ウッドストック」から10年、まだSR技術も確立されていなくてパワー競争の真っ只中です。
音質などはミキシング・エンジニアの耳だけが頼りの時代でした。

明らかに「ソフトウェア」であるところの、ミュージシャンの考える、表現したい音世界には「ハードウェア」である音響機材などがまだ追いついていない時代だったのです。
ここらあたりからハードウェアが追いついてきたような時代になりました。
そして面白いことにハードウェアが追いつけばより際限がなくなり、素晴らしい、感動的な音楽ができるかというと、そこはまた違う話となるんですねえ。

今だから言える話ですが、限界や制約が多い方がより個性的なものが作られるような気もするのです。
人の心に訴えられるのです。
そこらがクラシックロックと呼ばれる時代のロックの生命力が強いところかもしれません。(個人の感想です)

1945年にカナダのトロントで生まれたニール・ヤングですが音楽活動を始めたのはアメリカで今では押しも押されぬアメリカン・ロックの第一人者となっています。

ニール・ヤングはこの後、黄金期の1970年代を経てボブ・ディランと同じように昏迷の1980年代となっていくわけですが、これまたディランと同じように2000年代に入ってまた素晴らしいアルバムをリリースし続けていくことになります。

昔から、若い時から相当に個性的な風貌でしたが、最近は加えて髪の毛も薄くなり、さらに迫力を増してきています。もはや “生き神様” の域に入ってそうです。

アルバム「ラスト・ネバー・スリープス」のご紹介です。

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演奏

ニール・ヤング  ヴォーカル、ギター、ハーモニカ、オルガン、パーカッション、プロデュース

Tr.5 「Sail away」
ニコレット・ラーゾン  ヴォーカル
ジョー・オズボーン  ベース
カール・T・ヒンメル  ドラムス

クレージー・ホース (Tr.6,7,8,9)
フランク・「ポンチョ」・サンペドロ  エレキギター、バックヴォーカル
ビリー・タルボット  ベース、バックヴォーカル
ラルフ・モリーナ  ドラムス、バックヴォーカル

デヴィッド・ブルッグス、ティム・マリガン  制作

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,   My My Hey Hey (Out of the Blue) マイ・マイ・ヘイ・ヘイ(アウト・オブ・ザ・ブルー)

ニール・ヤングらしい、彼にしか表現できないような世界です。この緊張感と哀愁を併せ持つ声は唯一無二です。手放しでパンクを迎合しているのではないことも重要です。

2,   Thrasher スラッシャー

ソロアルバム的な弾き語りの優しい感じの曲です。タイトル含めて歌詞が意味深でニール・ヤングの詩の深さが窺えます。グランド・キャニオンなどアメリカ大陸を旅する歌です。ずっと昔は素晴らしかったが今は必要なものは何も見つからない、どうして友達を失ってしまったのか。と歌います。

3,   Ride My Liama ライド・マイ・リアマ

ラマに乗って、ということから南米、アンデス、インカ帝国などを連想します。南米を旅する歌です。高度だったアンデス文明と宇宙人が結びついて語られることがままありますが、それに引っ掛けているような詩です。

4,   Pocahontas ポカホンタス

今度はネイティヴ・アメリカンとオーロラです。ここでは北米を旅しています。アメリカ先住民へのヨーロッパからの侵略を侵略を非難し、自然と共存するネイティヴ・アメリカンの思想を受け入れているかのようです。(個人の感想です)

5,   Sail Away セイル・アウェイ

ここでいよいよ海原の彼方へ出港します。ただ動き始めることを歌いますが、具体的な目的地、目的についてはわかりません。チャレンジする人生の大切さを歌っています。

6,   Powderfinger パウダーフィンガー

“粉にまみれた指” というタイトルからしてすごいのですが、超絶名曲です。引き金と粉、すなわち銃と麻薬から子供を守れ、と言いたいのだと思います。アメリカンロック、というか牧歌的にさえ聞こえますがヘビーアレンジも容易です。ウー、アーというパンク的なコーラスも出てきます。うねるようなノリが心地よく、20代の頃はバンドで演ってみたい曲の一つでした。

7,   Welfare Mothers ウェルファー・マザーズ

パンクバンドのノリです。これもニール・ヤングの魅力なんです。

8,   Sedan Delivary セダン・デリバリー

引き続きノリノリで始まります。今曲はテンポの強弱で聴かせます。歌詞は難解です。今の世の中、タフでないと生きていけないぜ、ということか。最後はバッサリと終わります。

9,   Hey Hey My My (Into the Black) ヘイ・ヘイ・マイ・マイ(イントゥ・ザ・ブラック)

オープニングのアコースティックギターのフレーズを今度はまんまファズをかけまくったエレキギターで演ってます。多分新人バンドがレコーディングスタジオでこの音を出しても「キミ、そんな音じゃダメだよ」とNGをくらいそうです。ニール・ヤングくらいになると「この音が必要なんだ」で通りそうなところがすごいですね。

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