01.初めに

 1960年初めの頃、ジャズ評論家のアイラ・ギトラーは「ブルースは音楽の背骨である」という言葉を残しました。それに遅れること20年、私もそれを実感することとなりました。

そしていろんな音楽を聴く楽しみが増えていったのです。

10代の頃にはロックとポップスばかり聴いていました。ジェームス・ブラウンなんてコテコテでやたらと暑苦しいし、コルトレーンとかマイルスも聞いて見たけど、ジャズってなんか “もったらもったら” やっているだけにしか聞こえないんだよね。
世間の評価は高いけどこれらのどこがいいのだろう、などとお気楽にロック、ポップス以外はほとんど受け付けませんでした。

10代も終わりの頃、ローリング・ストーンズやビートルズ、クラプトン、ツェッペリンなんかを聞いている中で、ブルーズをきちんと聞いてみようと思い立ちました。

これは1970年代にギターを持ってロックを聞いている男子にはありがちな話です。
その時代の有名ロックギタリストは大なり小なりブルーズやブラックミュージックに影響されていました。
のめり込みがちな性格も災いして(?)それから2年ほどひたすらブルーズ のレコードを集めて聴き漁るという生活をしました。

なぜかと言うと非常に私的な理由になります、「お金がもったいないからどうせ聴くなら一生つきあえる音楽を趣味にしよう」・・・なんとも未来あるティーンエイジャーなのに貧乏性丸出しです。
「ブルースならいくつになっても聞いていられる。さすがに30歳をすぎてロック、ましてや高校生の頃から好きなパンクのセックス・ピストルズなんて聞いていられるわけがない。
そんな奴は世間的に見ればただの社会不適合者、イタい厄介者だよね」とその頃は考えていました。

1970年代、その時代はロックはあくまで若者の音楽でした。というよりロックミュージシャンにまだ年寄りはいないのです。

しかし時代は変わるものです、2020年代の今となっては、「セックスピストルズはよかったね。」と白髪混じりのお爺さんでも堂々と言える時代になっています。
逆に大人になって聞いていたら恥ずかしいはずだったパンク、ニューウェイヴもロックとしては重要な歴史の一つとなり、今思えばリアルタイムで体験できたことは貴重なことでした。

話を戻しまして、とにかくお勉強という感じでブルーズ界の大御所マディ・ウォーターズやエルモア・ジェイムス、ライトニン・ホプキンス。戦前のロバート・ジョンソンからその時最新のスティービィー ・レイ・ヴォーンまで聴き漁りました。
よく友達と「5人の盲目のカントリー ・ブルースマンの名前が言える?、俺は楽勝だぜ。」とか「ブラインド・ウィリー・ジョンソンとゲイリー・デイヴィスはブルーズマンか?」みたいな会話で盛り上がっていました。(オタクです)

そういう中である日ふとジャズのテナーサックス奏者、ソニー・ロリンズ を聴いたら、なんかほんとにスッと体に入ってきたのです。
「あ、これはメチャいい感じではないか。思ってたよりリアルで迫力あるしかっこいい、しかもなんか妙に奥深い。
やばい、ここにも聴くべき音楽があったのだ」となってしまったのです。

立て続けに聴いてみたジェームス・ブラウン、マイルス・デイヴィス、ユッスー・ン ・ドゥールからボブ・マーリー、チーフタンズからシスター・ロゼッタ・サープまで、自分の中では1本の線となりました。

このようににブルーズ を中心に音楽を聴いてみるとロック、ジャズ、ソウル、ゴスペル、ワールド・ミュージックなどにジャンルが自然に広がりました。
そうなるとよりオーディオに凝ってみたり、趣味で演っていたバンドの音楽性も変わっていったりするものです。

そういう中でも一つのこだわりがありました。
やはり時代に関係なく残る強い音楽、普遍的な音楽が好きなのです。
それともう一つ、心に訴える音楽であることです。

ということで、それはやはり「ブルーズを感じる音楽」ですね。

それをベースに名盤やオーディオと音質などについてご紹介がてら語ってみようと思います。
具体的には1950年代以降のジャズ、リズム&ブルース、1960年代以降のロック、ソウル、ファンクなどを対象にした「いわゆる名盤」と言われるものの話です。

単純に歴史的に有名なアルバム紹介だけではきっと胃がもたれます。
聴いて楽しい、癒される、希望が持てる、疲れが取れる、気合いが入る、というようなアルバム、ニッチな世界の埋もれた名盤などもご紹介できれば本望です。

また、よくある話ですが楽器をいじっていると評論家さんとは違った見方が出てきます。
私からすれば一般的に大したことないと言われるミュージシャンでも、楽器演奏、アドリブにおいては神様みたいな存在だったりします。

実際に楽器を練習したり、バンドをやってみたりすると困ったことに「やりたい音楽」と「できる音楽」の差が解ってしまうのものです。
最初から持っているものが違いすぎて、会社勤めの傍(かたわら)の練習なんぞでは到底カバーできない壁が見えてしまいます。
時にはそういう理想と現実を突きつけられると落ち込んだりもするものですが、結局はどちらの音楽も愛おしくなるものです。

なので時々、演奏者目線、エンジニア目線の話も登場します。

でも断っておきますが、“まずブルーズを知らなければ音楽はわからない” などと上から目線で言うつもりは全くありません。

私は一つの見方として「ブルーズを背骨に(ベースに)音楽を聴いてみたよ」からいろんなジャンルの音楽につながりました。
そして、いろんな音楽を聴いていると好きな音、気に入った音、素晴らしい音で聴くことの重要性にも気づいたのです。オーディオと音にも自分なりにこだわるようになりました。

また個人的に心地よい音というだけではなく、アーティストが表現したかった音を探ることも私にとっては勝手な課題となっています。

まだまだ発展途上ですが(謙遜します)、今から私が経験した素晴らしい音と音楽を話してみたいと思います。

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