「もうハードロックは卒業だぜ!とばかりにソウル、ファンク、フュージョンをミックスしたロックに突入したジェフ・ベック・グループの第3弾、第2期ジェフ・ベック・グループの始動です」Rough and Ready : Jeff Beck Group / ラフ・アンド・レディ : ジェフ・ベック・グループ

 「ラフ・アンド・レディ」は1971年にリリースされたジェフ・ベック・グループの3枚目のアルバムです。

ここからの2枚、「ジェフ・ベック・グループ=通称 “オレンジ” 」までが第2期ジェフ・ベック・グループと呼ばれます。

第1期ジェフ・ベック・グループと言われる1968年の「トゥルース」と1969年の「ベック.オラ」はロッド・スチュアートをヴォーカルに据えたハード・ロック・アプローチのアルバムでした。

ブルーズ、R&B、ロックンロールをヘヴィーなアレンジで再構築するサウンドはハードロックの先駆者であり、レッド・ツェッペリンよりリリースがほんのちょっと早かったことから、ある意味ツェッペリンの元ネタと感じられるところもありました。

そして1971年のこのアルバムでベックは早々にハードロックを捨てて、次に向かいます。
「きっとこのままではまた同じようなアルバムを作りそうだ、そういう自分が許せない」
とまるで変な強迫観念に囚われているようです。

ビートルズやボブ・ディラン以降のロック・ミュージシャンは基本こういうスタンスでした。
前作と同じようなアルバムはダサい、次々に変化して新しいことを開拓していくことこそがロックである、みたいな姿勢だったのです。
常に新しいことに挑戦して変化していくのがロック、そういう感覚は1980年代くらいまで続きます。

今回、ベックはなんとヴォーカルにボビー・テンチ、ベースにクライヴ・チェアマンというロック界ではほぼ無名の黒人ミュージシャンを採用しました。
そしてドラムにコージー・パウエル、キーボードにマックス・ミドルトンという布陣でニューグループを立ち上げます。

この時代ロックミュージシャン側からブラック・ミュージック界のミュージシャンを入れるのは珍しいことでした。

さらにジェフ・ベックとコージー・パウエルのウルフカット・ヘアーのコンビを除けば見た目が何ともロックぽくありません。

youtubeでこの時代のジェフ・ベック・グループ(1972年)がBeat Clubというテレビ番組に出演した動画があります。
35分にわたって「ラフ・アンド・レディ」と「ジェフ・ベック・グループ=通称 : オレンジ」から6曲も披露してくれています。
ナチュラル・フィニッシュのストラトキャスター(かなり内部を改造しているので通称 : フランケン・ストラト)もいい感じです。

https://www.youtube.com/watch?v=m1QChBaCaZw 

(オフィシャルではないのでダイレクトリンクは貼りません)
観客不在と思われ、みんな前を向かずに横のメンバーや後ろのコージーを見ながら演奏しています。
あ、そこのあなた。何とも微笑ましいくらいのB級感、なんかオーラが感じられ・・・などといってはいけません。

話を戻しまして、新規ジェフ・ベック・グループ、アルバムタイトルは「ラフ・アンド・レディ=粗製濫造」というものでした。

確かに次作の「オレンジ」と比較すると「オレンジ」の方が音がまとまってどっしりとした芯があって、「ラフ・アンド・レディ」の方は音がまとまっておらず、一見バンドサウンドが練り込まれていないような雰囲気があります。

ずっとこう思っていました。
コージー・パウエルはその後、リッチー・ブラックモアズ・レインボーでリッチー・ブラックモア、ロニー・ジェームス・ディオとともにハードロック界の3第巨頭政治などと言われるようになります。
かたや黒人ベースマンであるクライヴ・チェアマンと息を合わせて音を馴染ませるには相当な時間が必要なんだろうな。
だって経歴が・・・と調べていたらすごいことが書いてありました。

何とクライヴ・チェアマンはその後のキャリアにおいて、短期間ですがレインボーにも参加していたというではないですか。

クライヴさんはその手のジャンルも得意で、コージーのドラムに合わせる素養は元からあったみたいですね。(ただの勉強不足です)

もしかしたらレインボー参加については、首切り魔と言われたリッチーが手当たり次第にメンバーをクビにしてしまったので、しょうがなくコージーが昔のよしみで、とりあえずの代役を頼んだのかもしれませんけど。

そして今となってはアルバムタイトル「粗製濫造」に関しては、ベック側が(イギリス人らしく)自虐的にそういうタイトルにしたというふうに思えます。

というのも私の記憶では(1970年代の情報ですが)
「ベックは1969年の12月に交通事故で入院を余儀なくされ、予定していたBBAの結成ができなくなった。
それでもレコード会社の契約の関係でアルバムをリリースせねばならず、急遽作成したのがこの『ラフ・アンド・レディ』だった」
と聞いていました。
これだと「粗製濫造」も納得です。

しかしながら本当のところはこうです。

1970年初頭に回復したベックはBBAはとりあえず諦めて、コージー・パウエルとともにメンバー探しを始めました。
1971年4月までにキーボードのマックス・ミドルトン、ベースのクライヴ・チェアマン、ヴォーカリストにアレックス・リガートウッドという布陣が出来上がります。

4月下旬にロンドンのアイランド・スタジオでレコーディングを開始しました。
そして1971年5月にはレコーディング作業が終了しました。

そしてジェフ・ベックはアイランド・スタジオでのレコーディングテープを聞いたところ、“これじゃない感” が沸きあがったようです。

そして5月下旬に「ガス」というバンドにいたボビー・テンチを見つけ出し、グループに加えます。

そして7月上旬にまた全員でアイランド・スタジオに戻り、ベックはプロデュースを引き継いでアルバムを完成させました。

ようやくイギリスで1971年10月25日にリリースされることになります。

この流れを見るとベックは事故から復帰して10ヶ月ほど期間があり、マックス・ミドルトンの「マックス・チューン」を除いて全ての曲と詩を書いており、さらにはレコーディング終了後にヴォーカルを変更して歌ものテイクを全部再録音しています。

コージー・パウエルもドラムセットを新しくしたので録り直したい、などとも言ったそうです。

しかも想像するに、この時代のレコーディングは完全アナログの世界です。
今みたいにデジタルのマルチトラックでマイクとラインの数だけ好きにトラック数が増やせるものではありません。
何かと大変なんです。

メンバー全員再結集していることからも、もしかしたらヴォーカルだけ録り直すことも難しかったのかもしれません。

私はずっと、バンド全体がまだ馴染んでいなくて「オレンジ」に比べれば演奏にまとまりがかけている。
きっともうちょっとリハーサルをしてバンドの音をまとめたかったのだけど、急いで妥協しなければならなかったんだろう、と思っていたのですが、それは間違いでした。

ベックはこの音で良しとしたのです。

ではなぜ「オレンジ」とこうも質感が違うのかと考えたところ、こんなふうに想像されます。

サウンドのまとまりについては時間の制約ではなく、ジェフ・ベックのプロデュース力によるところなのでしょう。

ギターについては右に出る者がいない兄貴ですがサウンドプロデュースに関しては経験不足から「ちょっと・・ごめんね」という思いがあったのです。
そこで自虐的なタイトルにしたのかもしれません。(個人の感想です)

ちなみに次のアルバムでは敬愛するスティーヴ・クロッパーさんにお願いすることとなります。

ではこのアルバムは魅力がないかと言われればそうではありません。

きっとこの時ジェフ・ベックはスライ・アンド・ファミリー.ストーンなどを見て白人と黒人の混合バンドは斬新、面白いと思ったのでしょう。
そして鍵となるのはこの時代のジャズ、エレクトリック・マイルスの存在とフュージョンの台頭です。

そういう新時代の音楽に触れたジェフ・ベックは「もう、ハードロックは卒業だぜ!」とばかりにソウル、ファンク、フュージョンの世界に挑戦し始めたのでした。

これぞスタイルだけではないジェフ・ベックの本物のロック魂です。

そう、このアルバムのみんな超絶テクはあるのに、なんかサウンドがこなれていない感は、きっとこの時代のマイルス・ディヴィスを見習ってしまったからです。

しかしそれはそれで別の味わいがあって、何度聴いても新鮮さを失わない魅力と、聞くたびに新しい発見というものがあります。

このアルバム制作時、ベックはイメージしているギターサウンドがなかなか再現できないという意味のことを言っていたように思うのですが、いやいやジミヘンと同じくらいとんでもないことをやたらと平気でやってます。

そしてここからサウンドをブラッシュアップしてタイトなサウンドの「ジェフ・ベック・グループ=通称 : オレンジ」へ進化するのでした。

アルバム「ラフ・アンド・レディ」のご紹介です。

Amazon.co.jp: ラフ・アンド・レディ - ジェフ・ベック・グループ: ミュージック
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演奏
ジェフ・ベック  ギター、プロデュース
ボブ・テンチ  ヴォーカル
マックス・ミドルトン  キーボード、ピアノ
クライヴ・チェアマン  ベースギター
コージー・パウエル  ドラム

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Got the Feeling ガット・ザ・フィーリング

コージーの叩くドラムのファンキーなビートに合わせてワウ・ペダルを使ってファンキーにリズムを刻むジェフ・ベックです。
いきなりもうそこらへんのロックではない感が出て来ました。
ジェフお得意のギターによるリズム崩し、カウンターメロディが炸裂します。
ロックらしくないピアノもいい感じです。
マックス・ミドルトンって基本ジャズにしか興味がなかったんだろうなあと思います。

2,   Situation シチュエーション

ソウルっぽいイントロとともにソウルっぽい歌が始まります。

何気に歌詞がすごいのです。

人々は選択する基本的な権利のために戦う
失うつもりのない人生を生きるために
私たち全員が決断しなければならない時が来た
邪悪なやり方を改めるか、古いやり方を広めるか
戦争が国を解放するために行われるなんて誰が考えただろうか
基本的な状況から変えなければならない・・

公民権運動を連想します。

ジェフ・ベック兄貴にはこういう一面もあるのです。

3,   Short Business ショート・ビジネス

ソウル・バラード風な曲の割にベースが暴れまくってくれるのでとっても好きなナンバーです。
レスリー・スピーカーを通したギターもいい感じです。
このアルバムではベックはバックに回る時はワウペダルを使ったり、レスリースピーカーを通したりと凝っています。
最後はもうワンコーラス演るのかと思えば、そこはイギリスっぽく突き放すように終わります。

4,   Max’s Tune マックス・チューン

最初に聞いた時、ロック少年だった私は素直に「うわ、つまんねえ」と思いました。
数十年経ってマイルスやウエザー・レポートなどを経由すると違ってきてなるほどと頷けるようになりました。
そこらへんに思いを馳せると、この時代にすごいことやってるなと思うのです。

5,   I’ve Been Used アイヴ・ビーン・ユーズド

失恋の歌です。ここではベースは堅実で次作「オレンジ」につながる雰囲気もあります。
なんとなくスティーヴィー・ワンダーを感じます。

6,   New Ways / Train Train ニュー・ウェイズ / トレイン・トレイン

「この場所に長く良すぎた」、で始まる歌詞はジェフ・ベックの人生そのものを表しているようなナンバーです。
複雑な構成ですがやり切ってしまうところにバンドの相当なポテンシャルを感じます。
後半、ジミヘンがバラード演っている時のギターソロみたいなフレーズが出てくるところがまたいいのです。
学生の頃、ギターマガジンにこの曲の譜面が載っていたのですが、ギターを抱えながら「コレ無理、とんでもなく難しい」と思った記憶があります。
自然にこれが湧き出てくるベックの脳みそは普通ではありません。

7,   Jody ジョディ

最後はしんみりとソウル・バラードで始まり、フュージョンやファンキー・ソウルの世界に飛んだりします。
6分と割と長尺ですが音楽的密度が高く、4曲分くらい詰め込めれている感じです。

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