

おお、ついにリミックスもここまでやる時代になったか!、でも正直なところ面白いけどちょっと複雑、と感じることがありました。
1973年にリリースされたエアロスミスのデビューアルバム「エアロスミス=邦題 : 野獣生誕」が今年2026年、最新リミックスによって再リリースされたのです。
今回のリリースの経緯と内容を説明しておきます
発売50周年を記念してエアロスミスの共同創設メンバー、スティーヴン・タイラーとジョー・ペリーがグラミー賞ノミネート経験のあるプロデューサー兼ミキサーのザック・サーヴィーニ(ブリンク182、ホールジー)と、グラミー賞受賞プロデューサーのスティーヴ・バーコウィッツの協力のもと、オリジナル音源およびテープを新たにリミックスし直し、バンドが本来描いていたヴィジョンを遂に実現する、という試みだそうです。
『野獣生誕[エアロスミスⅠ]- レジェンダリー・エクスパンディッド・エディション』には、オリジナル・アルバム(リマスター)、2024アルバム・ミックス、レコード・デビュー直後の1973年3月20日に地元ボストンのポールズ・モール公演の白熱したライヴ音源と、新たに発掘された未発表スタジオ音源で構成されています。
このデビューアルバムはリリース当時から物議をかもしてきました。
なんといってもセカンド以降のアルバムに比べるとなんとも下手な演奏に聞こえます。
どう見ても(聴いても)アマチェア・ガレージバンドの演奏です。
後になってわかったことは当のエアロスミスは訳もわからず、尚且つとっても緊張した状態でのレコーディングだったようです。
制作側は誰も彼らの可能性を予見できませんでした。
しかも最悪なことにレコード会社やプロデューサーにこの時点でエアロスミスのサウンドを理解している人はいなく、淡々と仕事をこなすだけの状況でした。
この時代ですからエアロからすればレコードデビューできるだけでもめっけものだったのかもしれません。
リリースされるとアルバムはさほどチャートの上位には上がりませんでしたが「ドリーム・オン」はラジオでヘビーローテーションでオンエアされ、この名曲は瞬く間にロックスタンダードな位置に座りました。
その後短期間のうちにエアロスミスはセカンドアルバム「ゲット・ユア・ウイングス=邦題 : 飛べ!エアロスミス」、サードアルバム「トーイズ・イン・ジ・アティック=邦題 : 闇夜のヘビーーロック」と徐々に、確実に売り上げを伸ばしていき、人気を得ていきます。
ついには1976年「ロックス」でクイーン、キッスと共に日本では3大ロックバンドと言われるようになります。
不思議なことにこの時、3年前にリリースしたこのデビューアルバムがビルボードホット100で21位になる珍事も発生しています。
エアロスミスの第1次ムーヴメントは1977年の「ドロー・ザ・ライン」あたりまでがピークでした。
その後はメンバーの脱退などで低迷期に入ります。
しかし1980年代中期に再度ブレイクすると押しも押されぬ大物バンドとして君臨するようになりました。
ちなみに1970年代は、キッス、クイーン、エアロスミスは “ロックの新御三家” と呼ばれていましたが、それ以前に “ロックの3大B” 、というのがありました。
普通に考えればザ・ビートルズ、ザ・ビーチ・ボーイズ、ボブ・ディランあたりかと思いますが、私の周りではビートルズ、ビーチボーイズ、ベンチャーズと言われていました。
そして「ベンチャーズは『V』だろうが」、というツッコミも必ずセットでした。
エアロスミスは現在はオリジナルメンバーに戻って活動していますが、多分にデビューアルバムは全員の黒歴史であり、エアロスミス史の汚点となっていたようです。
確かにピンク・フロイドの「狂気」などがリリースされる時代にこのサウンドでは正直可哀想です。
そこで多分生きている間に、というかこの技術の発達した現在では細やかなリミックスが可能になったので、あの時残したかった自分たちの望んだサウンドを再構築したいと思ったのでしょう。
こういう例は他にもあります。
有名なところではポール・マッカートニーです。
ビートルズの最後のアルバムとなった「レット・イット・ビー」のフィル・スペクターのプロデュース、アレンジはどうしても納得いかないものでした。
2003年になってポールはフィル・スペクターサウンドを排した「レット・イット・ビー・ネイキッド」をリリースしたのです。
他にもザ・バンドのギタリストであり中心的な存在だったロビー・ロバートソンは、1970年にリリースしたサードアルバム「ステージ・フライト」を50年後に本来、構想していた曲順に並べ替えてリミックスしたアルバムをリリースしました。
多分このエアロのファーストもそういう意味合いのものだと思われます。
さらには再録音、作り替えではないと言いたげにレジェンダリー・エクスパンデット・エディションでは旧バージョンのリマスターと新しくリミックスした音源を両方入れるという徹底ぶりです。
オマケでついているような当時のライブに関しては、勢いは感じられるものの、いかんせん音質が悪く、ギター、ベースが音が埋もれてあまり聞き取れません。
資料的価値はあるかと思いますが、繰り返し聴きたくなるとは言い難いものです。
ただ、「ライブ・ブートレッグ」にも入っていたジェームス・ブラウンの「アイ・エイント・ガット・ユー」「マザー・ポップコーン」のチャレンジ精神は流石です。(と言っておこう)
オルタネイト・テイクとジャム・セッションは結構楽しめました。

リミックス、リマスター技術が進んできた今になって再リリースした気持ちはわかります。
とは言いつつも個人的にはオリジナルも好きで私の中では高評価でした。
多少残念な演奏もやりたい事はわかるような気がして、脳内で勝手に再構築して聴いていたものです。
そして忘れられないエアロ体験があります。(本人たちに出会ったとか大層なものではありません)
高校生の頃、異常に「ロックス」推しの友達がいて影響され、遡(さかのぼ)ってエアロスミスのアルバムを全て聴いていました。
ロック初心者でもファーストアルバムのサウンドはお世辞にも上手とは思いませんでした。
しかしそこにあるアイデアとかセンスはいいものがあり、「ドリーム・オン」の名曲感も手伝ってそれなりにいいなとは思っていたのです。
そしてある時、私の最初のハードロック体験となる出来事がありました。
文化祭でバンドを演るためギターを買おうと計画しながらギターの達者な先輩と話していました。
先輩はディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」とかキッスの「ストラッター」「ブラック・ダイヤモンド」などのリフを弾いて見せてくれました。
初心者の少年(私です)はウルウルとした尊敬の眼差し(まなざし)で見ていました。
そしてエアロスミスの「ママ・キン」のリフを弾きながら
「これ、ハードロックの弾き方のパワーコードっていうのとチャック・ベリーから続くロックンロールの低音リフを合わせた弾き方なんだよ」
突然少年に電流が走りました。
「うわあ、これって『ストラッター』にも『スモーク・オン・ザ・ウォーター』にもないノリがあるんですね。
へえ、これがロックンロールの “ロール” っていうやつなんですか。
先輩、とんでもいなくカ、カッコいいっス。」
その時から少年は「クイーンよりキッスより不良バンドのエアロが好き」と言って憚(はばか)らなくなったのでした。
それから50年、2026年にあのファーストアルバムのリミックスがリリースされました。
これがまたすごい、というか面白いというかという感じです。
あのヘタクソ、アマチェア以下、オメーらにジェフ・ベックが好きとかいう資格はねえ!、(そこまでは言われてません)と言われた演奏がギリギリなところで再構築され、今聴いても違和感のないサウンドになっています。
もちろん当時ももっと時間をかけて慎重に緻密に作ればこれくらいのまとまった演奏にはなったのでしょう。
これこそがエアロスミスの演りたかった、残したかった音だと思います。
そういうことも含めて今までにない面白いリミックスです。
でもファンというものは「オリジナルのあのチープな音でも良いよ、演りたいことはわかるよ」というのもあるんですよね。
ということでこれはエアロスミス本人たちのための再リリースということでもあります。

アルバム「野獣生誕」のご紹介です。

演奏
エアロスミス
- スティーヴン・タイラー
リードボーカル、ハーモニカ、木製フルート、ピアノ、メロトロン - ジョー・ペリー
リードギター - ブラッド・ウィットフォード
リズムギター - トム・ハミルトン
ベース - ジョーイ・クレーマー
ドラム
ゲスト・ミュージシャン
- デイヴィッド・ウッドフォード – 「ママ・キン」でサックスを演奏
プロダクション
- エイドリアン・バーバー
プロデュース、エンジニアリング - バディ・ヴェルガ
制作アシスタント - キャリル・ウィーンストック
エンジニアリング - ボブ・ストートン
アシスタントエンジニア

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
- Make It メイク・イット
(スティーヴン・タイラー)
リミックス版は音圧高めで迫力が違います。途中のリードギターとヴォーカルがユニゾンで絡むところとかドラムのブレイクも「気持ちはわかるけどなんだかなあ感」がなくなっています。終わり方も「音間違えてんじゃね」と思っていましたが「これもアリ」になっています。 - Somebody サムバディ
(スティーヴン・タイラー、スティーヴン・エムスパック)
ロックンロールのリフが元になっています。と思ったらルート66が元ネタだそうです。 - Dream On ドリーム・オン
(スティーヴン・タイラー)
この曲だけは新人バンドらしからぬくらいにまとまっています。
スティーヴン・タイラーのヴォーカルの説得力が素晴らしい。 - One Way Street ワン・ウェイ・ストリート
(スティーヴン・タイラー)
アルバム中最長の7分を超える長さで、ローリング・ストーンズの「ミッドナイト・ランブラー」を参考にしているそうです。
こういう先達ロックバンドの影響を隠さないところも当時は親近感が持てたものです。
ギターソロもブルーズロックがいっぱい詰まっています。 - Mama Kin ママ・キン
(スティーヴン・タイラー)
LPレコードを買った時、1番の後半の歌詞が「I Been Dreaming, Fort Knox Dreaming」となっていて「なるほどアメリカ政府の準備金を狙っているのか。スケールがでかいなあ」などと考えていたことを思い出しますが、今はそうなってはいないしそうも聞こえません。
あれは何かのジョークだったのかな。
とあれ、この曲で私の中ではエアロはストーンズと並ぶくらいの存在になったのでした。
元ネタは「ブロドウィン・ピッグ」というマイナーなイギリスのブルーズロックバンドのナンバーらしいです。
珍しくサックスソロもフューチャーされています。 - Wright Me a Letter ライト・ミー・ア・レター
(スティーヴン・タイラー)
ブルーズロック・ナンバーです。演奏はエアロらしいというか安定しています。 - Movin’ Out ムーヴィン・アウト
(スティーヴン・タイラー、ジョー・ペリー)
スティーヴン・タイラーによるとジョー・ペリーと一緒に作ったこの曲ができた瞬間、エアロスミスはイケると確信したそうです。
エアロスミスのサウンド志向がよくわかります。
ハードでサイケでグラムも入ったロックンロールを目指していたんですね。 - Walkin’ the Dog ウォーキン・ザ・ドッグ
(ルーファス・トーマス)
R&Bスタンダードです。エアロのライブでの定番曲だったそうです。ここにもローリング・ストーンズの影響が感じられます。

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