2023年現在、ローリングストーンズは今なお現役最強のモンスターバンドです。
ストーンズの60年の歴史を語るときに幾つかの重要な時期があります。
その代表とされるのがこの1968年リリースの「べガーズ・バンケット」です。
このアルバムによって1970年代のストーンズ中期の傑作群へと繋がっていくベースが出来上がりました。
このアルバムのコンセプトをベースに1970年代のロックを牽引していくことになります。
この後にリリースされるアルバムは「レット・イット・ブリード」「スティッキー・フィンガーズ」「メインストリートのならず者」とストーンズ黄金時代へ繋がり、ストーンズをロックにおける偉大なるイノヴェーターへと進化させました。
ではその前はどうだったかというと、それなりに質の高いアルバムをリリースしていました。「アウト・オブ・アワー・ヘッズ」や「アフターマス」など、ここまででも十分に歴史に名を残すような名作があります。
でも一瞬、自分を忘れて流行に合わせてしまいました。魔の1967年です。
「ビトウィーン・ザ・バトンズ」でちょっとおかしくなったと思ったら、何を勘違いしたのかビートルズの「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に対抗するようなサイケデリックなコンセプトアルバム「サタニック・マジェスティーズ・リクエスト」を作ってしまったのです。
これには世界中ドン引きです。
今でもストーンズを知れば知るほど、好きになればなるほど、聞いていてこっちが恥ずかしくなるような瞬間がいくつか出てきます。
何せテーマが「悪魔」魔王」「宇宙」ですから。
当然、「サタニック・マジェスティーズ・リクエスト」の評価は散々でした。
売り上げは今までの実績のせいか米国ビルボードで2位、英国で3位まで上昇しています。
しかしストーンズの汚点として残ることになります。
ただ、良かったことはミックもキースもこれには猛省しました。
「やっぱり俺らはブルーズやソウル、R&B、ファンクなどのブラック・ミュージックやカントリーなどの要素をうまく取り入れて、再構築した渋くてかっこいいロックじゃね」。と方向を明確にしたのです。
そうして出来上がったのがこの「べガーズ・バンケット」でした。
チャートでは米国ビルボードで5位、英国で3位と「サタニック・マジェスティーズ」の次であるにも拘らす健闘しました。何よりも評論家からの評判も上場でした。
その後、1970年代の猛進劇となるわけですから今となっては失敗と言ってもお釣りが来るほどの些細なことにできました。
そうしてこのアルバムは時間が経つほどにストーンズのアルバムの中でも重要視されていきます。
アルバム「べガーズ・バンケット」のリリース時、ライバルのビートルズは一月前に「ホワイト・アルバム」をリリースしています。
ストーンズとビートルズは実は裏で手を組んで、お互いの販売戦略に被らないようにしていたそうです。
そして長らくお蔵入りでロックファンからは都市伝説化していたストーンズの制作したテレビ番組「ロックンロール・サーカス」はこの「べガーズ・バンケット」のプロモーションでもありました。
ジョン・レノンは「ザ・ダーティ・マック」という即席スーパーバンドを組んで出演します。
ギターはエリック・クラプトン、ベースはキース・リチャーズ、ドラムはミッチ・ミッチェルというウレションもののメンツで「ヤー・ブルース」を演奏しています。
ここから “ただの売れるロックバンド” 以上の存在になった二組はここで完全に違う方向に舵を切ることになりました。
しかもストーンズはこの後も分解することなく生き残り続けます。それも正解です。
ストーンズメンバーのリリースしたソロアルバムとビートルズメンバーの解散後のソロアルバムを比べて考えると納得がいきます。
1+1が2以上になるバンドマジックを持っているのはストーンズの方なんです。
もう一つバンド的に重要なことがあります。
この頃からブライアン・ジョーンズは次第に影が薄くなって、というよりミックとキースのやろうとしていることに合わなくなってきています。
ブライアンは破滅型の天才だったため、瞬間風速はすごいのですが、ミックやキースのような長期的な戦略でバンドを見ることが残念ながらできませんでした。
ローリング・ストーンズの初期においてはバンドへの貢献も高かったブライアンですが、この頃になると薬物、アルコール依存の雰囲気がありありでした。
この頃のブライアンについてのキースのインタビューなどを見てもほとんど厄介者扱いです。
1968年のリリース「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のPVを見ても完全にストーンドしているように見えます。
次作の「Let It Bleed」にも名前は出ていますが、ほとんど参加していないようです。1969年7月3日に亡くなってしまいました。
悲しいことにブライアン・ジョーンズは芸術家でしたが薬物、酒に飲まれてしまった人でした。
それに比べるとオリジナルメンバーで現役のミック・ジャガー、キース・リチャードと残念なことに2021年に亡くなってしまったチャーリー・ワッツは完璧にミック、キース、チャーリーの役割を最初から演じ切っています。
なんだかんだ言ってもエンターテイナーとして大成功するとはそういう真面目で俯瞰的な視点が必要なのです。
「もしも」を言ってもしょうがないは承知で言わせてもらえれば、ブライアンがちゃんと生き続けていたら1+1+1は核融合したかの如くとんでもない数になっていたかも知れません。
今、べガーズ・バンケットのアルバムジャケットはその名も「便所の落書き」に落ち着いていますが、1984年まではこのデザインは使用禁止でした。
古くからのロックファンはみんなべガーズ・バンケットといえば薄い黄色地のベースに金色の縁取りがされ、筆記体でBrggars Banquetと格調高く書かれたものを思い出すはずです。
かくいう私もそのデザインの方が愛着があったりします。
便所の落書きデザインはこれまた都市伝説の類くらいにしか思っていなかったので、最初に見た時は「やっぱりそうだったのか」という感想でした。そこら辺はロックンロール・サーカスが本当にあったとか、ボブ・ディランのイギリスツアーで観客の「ユダ=裏切り者」発言が伝説ではなかったことを2000年代に入って確認した時と同じ感覚です。
演奏
ミック・ジャガー ヴォーカル、ハーモニカ
キース・リチャーズ ギター、リードヴォーカル Tr.10、バッキングヴォーカル、ベース Tr.1,6
ブライアン・ジョーンズ スライドギター Tr.2、ハーモニカ Tr.3,4,7、メロトロン Tr.5,8、シタール&タンブーラ Tr.6、バッキングヴォーカルTr.1
ビル・ワイマン ベース、バッキングヴォーカル&マラカス Tr.1
チャーリー・ワッツ ドラムス、クラベス Tr.2、タブラー Tr.0
ゲスト・ミュージシャン
ニッキー・ホプキンス ピアノ、オルガン、バッキングヴォーカル Tr.1
ロッキー・ディジョン コンガ Tr.1,8,9
リック・グレッチ ヴァイオリン Tr.9
デイヴ・メイソン シュナイ
バッキングヴォーカル
マイケル・クーパー、マリアンヌ・フェイスフル、アニタ・バレンバーグ
ワッツ・ストリート・ゴスペル合唱団
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, Sympathy for the Devil 悪魔を憐れむ歌
いきなり黒くファンキーでアコースティックなストーンズです。突き刺すようなギターソロも雰囲気満点です。今までと違うぜという挨拶がわりのこの始まり方でいきなり心が鷲掴みされます。
2, No Expectations ノー・エクスペクテーションズ
ドラムレスです。ブルージーなスライドギターで始まります。イナたさとかっこよさが見事に同居しています。
3, Dear Doctor ディア・ドクター
カントリー風味を取り入れたこれまたアコースティックな曲です。泥臭いカントリーがいい感じです。
4, Parachute Woman パラシュート・ウーマン
シャッフル・ブルーズでシカゴブルーズ・スタイルです。
5, Jigsaw Puzzle ジグゾーz・パズル
一見、明るいポップソングですが、演奏を渋く演っているので、ポップには聞こえません。この辺がストーンズならではの世界です。
6, Street Fighting Man ストリート・ファイティング・マン
アコースティックなのに大迫力という、音が飽和してハウリング寸前(してます)という演奏です。この後もライブで演奏を続ける名曲です。
7, Prodigal Son (Rev. Robert Wilkins) 放蕩息子
軽く息抜きみたいな感じですが、それでも味わい深いブルーズカバーです。作者はロバート・ウィルキンスという戦前(第2次世界大戦)前から活躍したブルーズマンです。と言ってもロバート・ジョンソンやブラインド・レモン・ジェファーソンのようにビッグネームでは全くありません。
こういうマニアックな選曲にストーンズの矜持が見えます。
8, Stray Cat Blues ストレイ・キャット・ブルーズ
エレキギターによるリフで始まるお得意のパターンがやっと出てきました。ライブで映える曲です。
最初、ジミ・ヘンドリクスみたいと思っていました。
9, Factory Girl ファクトリー・ガール
これはアメリカン・トラッド風、というよりボブ・ディランみたいでもあります。それでもストーンズの演奏には他にはない味わいがあるのです。
10, Salt of the Earth 地の塩
キースの他では体験できないくらいかっこいいヘタウマヴォーカルがまたいいのです。
この曲は次のアルバムレット・イット・ブリードの「無情の世界」へ繋がっていきます。
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