「1978年リリース、世界中で注目され、ロックの歴史に大きな影響を与えたバンドのセカンドアルバム、その1」Don’t Look Back : Boston / ドント・ルック・バック : ボストン

 1978年、パンクロックが登場しニューウェイヴ、テクノ誕生前夜の時期というところに、米国と英国でとってもすばらしく歴史的にも重要なアルバムが2枚リリースされました。

2枚には共通点がありました。

一つはそのミュージシャン、バンドにとっての2枚目、セカンドアルバムであること、そしてこのアルバムで音楽性を確立し世界的になったこと、二つ目は自国では売れたが同じ英語圏であるにも関わらず他方ではそれほど売れなかったこと、そして結果的には未だに語り継がれる、世代を超えてファンを獲得している名盤であること、が一致しています。

1枚はボストンの「ドント・ルック・バック」、もう一枚はエルヴィス・コステロの「ディス・イヤーズ・モデル」です。
両方ともサウンド的には顕著な違いが見られます。

ボストンはいかにもな王道アメリカンロックで、コステロは正統派ブリティッシュビートなものとなっています。

思いっきりデフォルメすればヨコノリとタテノリのロックです。

さらに違うところはサウンドです。
まずボストンは完成度を高めるために編集、オーバーダビングなどポストプロダクションに時間をかけて丁寧に仕上げましたが、他方コステロはスタジオライブのほぼ一発録りでした。

ここで足場を固めた両者はその後、息の長い音楽活動をしていくことになります。
ニューウェイヴ、テクノポップ誕生前夜、デジタルオーディオ登場直前にこういう振幅差のある2枚のロックアルバムが登場したのに何か面白いものを感じます。

まず、ボストンの「ドント・ルック・バック」からご紹介します。

ボストンは1986年8月25日にファースト・アルバム「ボストン」をリリースし、デビュー作としては上場の売り上げを記録しました。
この時代の音楽業界というのはまだ基本的に大量消費、使い捨ての時代です。
ポップスなどは売れると思ったら飽きられるまでその路線で攻めて食い尽くす・・・ような消費ビジネス最優先の時代でした。

しかし音楽業界の見方が変わってきます。

1960年代の終わりにトータル・アルバムやプログレッシヴ・ロックなどが登場しました。
1970年代になるとレコーディング、編集に時間をかけるボストン、スティーリー・ダンなどが登場し、より内容を吟味したアーティストの目指すサウンド、世界観が重要視される時代となっていきます。
クリエイティブな音楽として、それまでの2年でアルバム3枚などの無謀と思えるような契約はなくなり、使い捨て時代は終わりを迎えたのでした。

と言いつつボストンの場合はみんなが想像した以上に寡作となっていくのですが。

デビューアルバム1976年、6作目が2013年という時代の流れもビジネスも無視したような活動ぶりです。
しかしリリースする都度にそれなりの売り上げがあり、固定ファンが増えていくという稀有なバンドです。

ともあれボストンはファーストアルバムから1年おいて1978年8月15日に本作「ドント・ルック・バック」をリリースします。

ファーストアルバムをより重厚に、ドラマチックにしたようなサウンドは世界中で受け入れられました。
これぞサービス満点の完全無欠なアメリカンロックというところです。

ただし、今までのアメリカンロックとは違っていました。
ブルーズなどのブラックミュージックに影響されたような感じがないことです。
カントリー、ヒルビリー、ゴスペルなどの要素も希薄です。

ではボストンの音楽的なベースは何かということになりますが、強いていえば映画、ドラマなどのストーリー性のある視覚的でポップでコマーシャルなものをベースにした音楽ということになります。

しかもこの分厚い音の洪水に身をまかすような快感は売れない訳がありません。
戦略的にハードロックやプログレッシブ・ロックの美味しいところをうまく取り入れたサウンドになっています。

アメリカではビルボード200で1位、イギリスでは売れなかったと言いましたが、ぎりアルバムチャートでトップ10内には入っています。

リリース当時はアナログの時代でしたが、トム・シュルツはデジタル化にもこだわりがあったようで、ボストンのCDは最初から驚くほど高音質でした。
しかも今聴いてもさほど古さを感じさせないほど練られた音になっているところは驚愕に値します。

ジャケットデザインもファーストより明るく、迫力のあるものになりました。
宇宙を飛行していた飛行船がどこかに到着したようなデザインです。
あえてリアルなイメージがつかないような、SFチックなものにしたと思われます。
その志向は2013年リリースの現時点での最新作、「ライフ、ラヴ&ホープ」まで貫かれています。
ラストリリースからまだ10年ちょっとしか経っていないので、そのうちまた新作が登場するかもしれません。そういう周期のバンドです。何せボストンですから。

サウンド的にはこれ以上ないくらいのドラマチックな曲の構成にギターのオーバードライブ中心のサウンドです。
エレキギターは歪ませすぎると音の強弱などの表情をつけにくい、オーバーダビングで音の輪郭が曖昧になり埋もれてしまう、などとなるものですが、ここでは全て計算された立体的でメリハリのあるギター・オーケストレーションが生まれています。
この辺の技術がエフェクターさえも自分で作ってしまう理数系天才の面目躍如といったところです。

そしてまたボストンらしく、この後サードアルバム「サード・ステージ」リリースまでには8年を要すことになります。

アルバム「ドント・ルック・バック」のご紹介です。

Amazon.co.jp: ドント・ルック・バック: ミュージック
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演奏

<ボストン>
ブラッド・デルプ  リードヴォーカル、ハーモニーヴォーカル、アコースティックギター、ピアノ、タンバリン

トム・シュルツ  ピアノ、オルガン、リードギター、エレクトリックリズムギター、アコースティックギター、12ストリングスギター、スペシャル・エフェクト・ギター、ベースギター、ハンド、カン

バリー・グードロー  スライドギター、リードギター(Tr.2,7,8, 1は共同)、パーカッション

フラン・シーハン  ベースギター、パーカッション

シブ・ハシアン  ドラムス、パーカッション

ゲスト
ロブ・ロザディ、シンディ・ショルツ、グロリア 3名  ハンド・アンド・カン

プロダクション
トム・シュルツ  プロデューサー、アレンジ、エンジニア、カバーコンセプト、デジタルリマスタリング

エリック・カー  アシスタント・エンジニア
デニス・コシア  アシステント・エンジニア
ロブ・ロザディ  アシステント・エンジニア
デヴィッド・dB・バトラー  ピアノ・レコーディング
ウォーリー・トラウゴット  キャピトル・マスタリング(オリジナル・マスタリング)
トニー・レーン  美術監督
ゲイリー・ノーマン  カバーアート
ロン・バウナル  カバーフォト

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

「パーティ」はブラッド・デルプと共作、「ユーズド・トゥ・バッド・ニューズ」はブラッド・デルプ作、その他は全部トム・シュルツ作です。

1,   Don’t Look Back ドント・ルック・バック

ギターカッティングに始まり、どったんどったんリズムにヴォーカルが入ってきます。
そしてメインリフが聞こえるともう何者でもないボストンの世界です。
イントロのフレーズが曲中に何回も登場しますが全部レベル、音色、強弱を計算ずくで変えてきています。

細かなところまでアレンジが行き届いてある意味この路線でこれ以上は望めないくらい完璧です。
アメリカンロックのカタルシスを感じます。

2,   The Journey ザ・ジャーニー

インストルメンタルです。これを入れることによって物語を感じさせます。

3,   It’s Easy イッツ・イージー

いかにもアメリカンロックな盛り上がりの曲です。
途中のブレイクも凝っていて、その後誰もが想像するようなギターソロに繋がります。
ここでも完璧なアレンジが光ります。

4,   A Man I’ll Never Be ア・マン・アイル・ネヴァー・ビー

お約束のバラードの時間です。もちろん悪いわけがありません。
泣きのギターオーケストレーションも堪能できます。
シングルカットもされましたが31位と大きなチャートアクションとはなりませんでした。
やっぱりアルバム単位で聴くべき、浸るべきバンドです。

5,   Feelin’ Satisfied フィーリン・サティスファイド

アメリカンロックとかアリーナロックとか産業ロックとかのツボを抑えた作りです。
そういう意味でも完璧です。

6,   Party パーティ

イントロでバラードを装い騙してきますが一転、そこからお約束のノスタルジック・ロックンロールの時間です。
もちろんこれも悪いわけがありません。

7,   Used to Bad News ユーズド・トゥ・バッド・ニューズ

煌びやかなサウンドで始まります。あとはいつもの安定のボストンサウンドです。
ここではキーボード大活躍でソロも入ります。

8,   Don’t Be Afraid ドント・ビー・アフレイド

ハードなリズムで始まります。途中、いかにもハードロックなブレイクが入ります。
細かいところまで行き届いたサウンドです。

こういうサービス満点のアルバムは終わると、なぜか祭りの後の寂しさみたいなものまで感じさせてくれるのでした。

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