さあ、この後悔と反省に満ちた表情の収監された囚人をご覧ください。・・・あっ、失礼いたしました。囚人などではございません。この人こそ『ファンクの帝王』、 『ファンクのゴッドファーザー』として恐れられた帝王ジェームス・ブラウンさまにございます。
すでに亡くなられてしまって20年ほど経ちましたが、帝王の威厳は落ちることなく、今だ誰も追従し得ない孤高の存在となっております。
ご存知の通り、王は1950年代の半ばから59作目となった2002年の最後のスタジオ・アルバム「ネクスト・ステップ」まで50年近く音楽の世界に君臨されておられました。
そしてゴッドファーザーの名の通り荒んだブラックミュージックの世界を立て直し、次々ち新しい改革を進められました。
R&B、ソウル、ファンクのみならずジャズやロック、いやいや音楽のみならずゲームや映画やテレビ番組、コメディの世界までも影響を与えておられます。
20世紀の芸能文化を牽引したと言っても過言ではございません。
王は最初から正当な王家の一族などではなく、身分の低い、極貧状態の一家に生まれました。そこから一代で王国を築き上げ、50年近くにわたって君臨することになります。
まさにゼロ状態から頂上まで上り詰める道のりは、持ち前の努力と根性と裏切りと陰謀・・・悪計、奸計全てを駆使する必要がありました。
小国が乱立するブラックミュージック界をまとめ上げ、不平等条約が当たり前であったブルーズ、ジャズ、R&Bの記録世界で苦しむ同胞に希望を与えました。
自ら不平等契約などに屈せず音楽で成功するためのビジネスモデルを示してみせたのです。
そこはもちろん全てが正攻法で突破できるはずもなく、時として悪魔になりきることも必要だったと思われます。
そして王は基本、ワーカホリックと言われるほどに活動的、いやもう暑苦しいまでにエネルギーの塊みたいな存在でした。
そういう王にはたくさんのニックネームがつけられました。
The Hardest Working Man in Show Biz = ショービジネス界の最も働く男
King of Soul = キング・オブ・ソウル
Godfather of Soul = ゴッドファーザー・オブ・ソウル
Soul Brother No.1 = ソウル・ブラザー・ナンバーワン
Minister of New Super Heavy Funk = 新スーパー・ヘビー・ファンク大臣
などなどです。
また王は側近に絶対的な服従と厳しい戒律を課しました。
遅刻したら罰金とか、気を抜いた演奏したら罰金などと、ユルさが当たり前という米国の音楽業界では今までになかったことでした。
この時代においては、と言いますか元々ブルーズ、R&Bのミュージシャンというものは真面目な勤労意欲など無く、お薬代と遊ぶ金欲しさに演奏活動する輩ばかりだったのです。(偏見です)
とりあえず快楽に走り、仕事は最低限というミュージシャンが一般的だったのですが(そうとうに偏見です)、そういう生ぬるい意思では到底ワーカホリック(仕事中毒)で偏執狂的完璧主義の王にはついて行けません。
バンドは大所帯であるものの篩(ふるい)にかけられ、次第に厳しい訓練と戒律を乗り越えた者だけの洗練された軍団となっていきました。
まるでアメリカ軍のネイビー・シールズかデルタフォース、ラグビーで言えばニュージーランド、オールブラックスみたいな集団です。
そういう鉄壁の布陣で君臨した1960年代後半から70年代初めまでの一番脂が乗り切っていた時期のコンピレーション・アルバムが1986年8月にリリースされた本作「イン・ザ・ジャングル・グルーヴ」です。
このコンピレーションの背景は当時流行中だったヒップホップでJBがやたらと人気を集めサンプリングされていたという事情があります。
そして30年近く経った今聴いてもJB流ファンクの魅力がたっぷり詰まった内容となっています。
当時もこのアルバムはJB流ファンクを極めた内容のものとして当時、かなり話題になりましたが、好評につき2年後には「マザー・ロード」という続編も制作されることになります。
これまたいい内容のアルバムですが、個人的に「イン・ザ・ジャングル・グルーヴ」に比べて音質がかなり変わったように昔から感じていました。
元ネタは同じ1960年代後半から1970年代にかけてレコーディングされたものですが、CDで聴くと良くも悪くもアナログ時代のファンクから80年代のデジタルの音になったような感じです。
これはこれで面白い音ですけどね。
いずれにしてもノリに乗っている時代のJBに浸れます。
まずメンツが最高です。聞きどころとなります。
ドラムのクライド・スタブルフィールドとジョン・“ジャボ”・スタークス
クライド・スタブルフィールドは「ファンキー・ドラマー」というタイトルになるほどの逸材です。
そのリズムパターンは世界中で最も多くサンプリングされたセグメントの一つ、と言われています。
ポップミュージックの4/4拍子のリズムを千通りもの巧妙なシンコペーションに分解する能力は並外れており、ファンクだけではなくヒップホップのほとんどの基礎を築いた、と2014年の時点でLAウイークリー誌に掲載されました。
2016年にはロックの殿堂入りもしています。2017年2月18日に腎不全により73歳でお亡くなりになられましたが、直後にウィスコンシン大学マジソン校から名誉美術博士号が送られました。
このアルバムに登場するもう一人のドラマー、ジョン・“ジャボ”・スタークスも同様でファンクドラミングの創始者の一人であるとされ、スタブルフィールドと同じく最もサンプリングされているドラマーの一人と言われています。
ドラムについては独学でジョン・リー・フッカーやボビー・ブランド、B.B.キングやハウリン・ウルフなどとの共演してきました。
スタブルフィールドのバックグラウンドにはソウル、ジャズがあり、スタークスのバックグラウンドはブルーズがあるという感じです。
ベース、ブーツィー・コリンズ
この時期のJBバンドを経由して、ファンキー・ベースといえばこの人、と言われるくらい有名になりました。(もちろん他二人、チャールズ・シェレルもフレッド・トーマスも素晴らしい仕事をしています)
JBのバンドで高い評価を受けたあと、後はPファンク関連の自身のバンド「ブーツィーズ・ラバー・バンドやパーラメント、ファンカデリックといったとんでもいなく泥沼のファンク・バンドでも活躍しています。
(このあたりになるとジョージ・クリントン師匠が理解できないとついて行けません。黒人の髭面のおっさんが女装して出てきてもなんら違和感を感じないくらい達観してないとダメなのです。はい、そういう私もまだまだ未熟者です。)
ギタリスト、フェルプス・“キャットフィッシュ”・コリンズとジミー・ノーレン
“キャットフィッシュ”・コリンズはブーツィー・コリンズの兄で同じくパーラメントやファンカデリックでも活躍しました。
そしてもう一人は「セックス・マシーン」に代表される「チキン・スクラッチ・ギター」で神と崇められるようになったジミー・ノーレンです。いまだに数多くのギタリストに影響を与えています。
JBホーンズ
テナーサックスのメイシオ・パーカー、トロンボーンのフレッド・ウエズリーなどの猛者が揃っています。
ジャズの演奏と違うところはその全員一丸となった脅威のアンサンブル能力です。
ライブなどで長尺フレーズも全員で一糸乱れぬように紡いでいきますが、それがまた感動的で、きっと全員心臓の鼓動までバッチリ合っているのではないかと思えるほどです。
というところで中身に入っていきます。
アルバム「イン・ザ・ジャングル・グルーヴ」のご紹介です。
演奏
ジェームス・ブラウン – オルガン、ボーカル、プロデューサー
ボビー・バード – オルガン、ボーカル
ロバート・リー・コールマン – ギター
フェルプス・キャットフィッシュ・コリンズ– ギター
アルフォンソ・カントリー・ケラム – ギター
ハーロン・「チーズ」・マーティン – ギター
ジミー・ノーレン – ギター
ブーツィー・コリンズ – ベース
スウィート・チャールズ・シュレル – ベース
フレッド・トーマス – ベース
ジョン・ジェイボ・スタークス – ドラム
クライド・スタブルフィールド – ドラム
メルヴィン・パーカー – ドラム
ジョニー・グリッグス – コンガ
アート・ロペス – コンガ
ラッセル・クライムズ – トランペット
ジョセフ・デイヴィス – トランペット
リチャード・”クッシュ”・グリフィス – トランペット
クレイトン・“チキン”・ガネルズ – トランペット
ダリル・ハサーン・ジェイミソン – トランペット
ジェローン・「ジャサン・サンフォード」・メルソン – トランペット
ロバート・マコロー – テナーサックス
メイシオ・パーカー – テナーサックス
エルディー・ウィリアムズ – テナーサックス
ジミー・パーカー – アルトサックス
セントクレア・ピンクニー – バリトンサックス
ルイス・ティルフォード – バリトンサックス
フレッド・ウエズリー – トロンボーン
ダニー・クリヴィット – エディター
JC コンバーティーノ – エンジニア
ティム・ロジャース – プロデューサー、ミキシング
ハウィー・ワインバーグ – マスタリング
デニス・M・ドレイク – エンジニア、デジタルマスタリング
ジェフ・ファヴィル – デザイン
クリフォード・ホワイト – プロデューサー、ライナーノーツ
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
1, It’s a New Day イッツ・ア・ニュー・デイ
(作 ジェームス・ブラウン)
「用意はいいか」という掛け声と共にポップなファンキーチューンが始まります。ドラムはメルヴィン・パーカー、ベースはチャールズ・シュレルというリズムセクションです。ジミー・ノーレンのギターカッティングも素敵です。
2, Funky Drummer ファンキー・ドラマー
(作 ジェームス・ブラウン)
ファンキードラマー、クライド・スタブルフィールドを象徴するファンキー・チューンです。
ドラムソロのところなんか特に派手になるわけでもないのですが聴き惚れてしまいます。
ちょっと遠鳴りののたうち回るチャールズ・シェレルとのベースとの絡みも最高です。
最後はJBの「ファンキー・ドラム」の絶叫リフレインの後、ドラムソロでフェイドアウトしていきます。
3, Give It Up or Turnit a Loose (Remix) ギブ・イット・アップ・オワ・ターニット・ア・ルーズ
(作 チャールズ・ボビット)
ちょっとしたリズムの変化で音の風景が変わってしまうところが聴きものです。
こういうのを聴いているとやっぱりJBは唯一無二の存在だと痛感させられます。
4, I Got to Move (Previously unreleased) アイ・ガット・トゥ・ムーヴ
(作 ジェームス・ブラウン)
コンガを全面に出してちょっと雰囲気を変えてきました。テンポを落としたナンバーです。
スタブルフィールドさんはこういうのもイケてます。
最後はベースとドラムだけでフェイドアウトして行きます。(控えめなホーンも入りますが)
5, Funky Drummer (Bonus Beat Reprise) ファンキー・ドラマー(ボーナス・ビート・リプライズ)
(作 ジェームス・ブラウン)
基本、ドラムとJBの掛け声だけのナンバーです。
途中と最後に1音だけのホーンが入ります。ドラムだけで十分聴かせます。
こういうのを残しておいてくれてありがとう、と素直に思います。
6, Talkin’ Loud and Sayin’ Nothing (REmix) トーキン・ラウド・アンド・セイン・ナッシング
(作 ジェームス・ブラウン、ボビー・バード)
ちょっとポップな感じのファンキーチューンです。全員が余裕でいい仕事をしています。
後半、ブレイクの後にお約束のJBとボビー・バードの掛け合いが出てきてもうそれだけでも満足です。
7, Get Up, Get into It, Get Involved (Mono) ゲット・アップ、ゲット・イントゥ・イット、ゲット・インバルブド
(作 ジェームス・ブラウン、ボビー・バード、ロン・レンホフ)
モノラルで速いリズムのファンキーチューンです。
ボビー・バードさんもブースト気味の音圧で大活躍。珍しく粘っこいギターソロも聴かれます。
8, Soul Power (Re-edit) ソウル・パワー
(作 ジェームス・ブラウン)
これも「セックス・マシーン」と双璧をなすJBを代表するファンクナンバーです。
ドラマーはジョン・スタークスさんです。この人も味わいがあります。
ベースはウイリアム・アール・コリンズさんとなっています。
9, Hot Pants (She Got to Use What She Got to Get What She Wants) ホット・パンツ
(作 ジェームス・ブラウン)
このワンコードでひたすら押しまくるスタイルが快感です。ドラムはジョン・スタークス、ベースはフレッド・トーマスのコンビです。
最後のところでスタークスさんのハイハットとJBだけになるところがまたいいんだよなあ。
10, Blind Man Can See It (Extended) ブラインド・マン・キャン・シー・イット
(作 ジェームス・ブラウン)
オリジナルは9曲で、ボーナストラックとなります。トラック9に引き続きジョン・スタークスとフレッド・トーマスのリズムセクションです。
ギターはジミー・ノーレンとハーロン・マーティン。
JBの演奏するキーボードと共に若干肩の力を抜いたようなノリが味わい深いナンバーです。
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