「今だからこそ見直されるべき名盤、ストーンズ1970年代ミック・テイラー期の集大成」It’s Only Rock n’ Roll : The Rolling Stones / イッツ・オンリー・ロックンロール : ザ・ローリング・ストーンズ

 この「たかがロックンロール」というシンプルにして単刀直入、なかなか潔いタイトルの1974年10月18日にリリースされたザ・ローリング・ストーンズのアルバムです。
リリースするとアメリカでは1位、イギリスでは2位と世界的にも大ヒットとなりました。

長い目で見るとこのアルバムの評価が時代とともにだいぶ変わってきた感があります。

その昔、1970年代の終盤くらいまではストーンズの代表的名盤の筆頭に上がるくらい評価が高いものでした。

「It’s only rock n’ roll, but I Like it」とミック・ジャガーが歌うその歌詞はまさにロックの、ローリング・ストーンズの音楽への愛情を象徴するものと言われていました。

ところがパンク、テクノ、ニューウェイブの波が押し寄せると途端に評価が萎んでいった印象です。

代わりに「メインストリートのならず者」などの評価が上がってきました。

個人的には、というより1970年代からリアルタイムでローリング・ストーンズが好きだった人にとってはまた印象が違います。

このアルバムは名曲が多く、聞き応えがあり、尚且つミック・テイラーのギターにも十分に浸れるという愛すべきアルバムです。

ここでその1980年代に入って受けなくなった、評価が下がった原因を分析してみようと思います。
と言ってもロックの顔役とも言えるザ・ローリング・ストーンズです。
評価が低いと言ってもそこら辺のロックバンドとはグレードが数段違います。
あくまでマキシマムなロックバンド、ローリング・ストーンズの中において、ということですけどね。

一つはこの後のロックからすると歌詞、タイトルが割と感傷的です。

「たかがロックンロール」とか「歳月人を待たず」とか「次に会うのはさよならの時」とか「本当の友達になりたいなら」とかですからね。
見方によっては「ちょっと大袈裟、ナルシストじゃね」とか「なんてくっさい歌詞の世界なんだよ」と感じられるかもしれません。

でもこれが1970年代だったのです。はい、それはもうそういう時代でした。

日本だってそのころは四畳藩フォークと言われる世界が流行っていましたし、みんな自然にそういう世界は受け入れていました。(それに比べれば、と言いたいところです)

その後1980年代になると、デジタル化とか打ち込みリズムとはMIDIとかで音楽のテクノロジーが激変しました。
そういう世界は極端に古臭く時代遅れに感じられたものでした。

逆にいうと今の時代の方が一回りしてかえって新鮮に感じられるかもしれません。

でもここで言わせて頂きたい。

このアルバムはリリースされた時代にリアルタイムで聴いていた世代にはまるっきり印象が違います。

その頃中学生、高校生だった身としては、リアルに心に刺さったものでした。
誰でも一度や2度は経験していると思いますが、友達に本心とは違う態度をとってしまったとか、いじめの対象にされそうになった、とか。
そういう時は私は心の中で「If you really want be my friend」なんて歌っていたものです。

次に、このアルバムでいつも感じていたことは曲順です。

オープニングの「イフ・ユー・キャン・ロック・ミー」はストレートなストロングスタイルでいいのですが、これで始まるよりもっとストレートにアルバムタイトルの「イッツ・オンリー・ロックンロール」で始まる方が流れがいいと思っていました。

まずはったりかましてツカミに行くには絶対これ「イッツ・オンリー・ロックンロール」です。
それから「イフ・ユー・キャン・ロック・ミー」に行くのがより自然な流れに感じます。

そのほかも、曲順を変えたいなんて思うところがいくつかありますが今更な話ですね。
(細かなところにイチャモンつけたがるファンの悪いクセです)

それともう一つ感じていたことがあります。
惜しむらくは音があまりよくない、というか抜けが良くないという感じなのです。

最初にLPレコードで買った時はストーンズの他のアルバムと比べても音の帯域が狭くて詰まり気味の音だと感じていました。
(厳密にいうとい「メインストリートのならず者」とこのアルバムは音が広がっていないと思っていました)

ところがさすがは天下のローリング・ストーンズです。
CD化され、リマスターが当たり前の時代になると他と比べて遜色ないくらいの音質となってきました。
ただ、それはそれで今度はドラムとベースの迫力不足を感じさせますけどね。

ただこれは私個人だけの印象かもしれません。

大体においてローリング・ストーンズを熱く語るのと同じように、オーディオも熱く語る私のような人種はなかなかいなかったしなあ。

ドラム、ベースの音などにどうしても時代を感じるものはありますが、だいぶ良くなってきました。
しなってグルーブする、キレのいい音になってきています。

ともあれ、何をおいてもこのアルバムも歴史に残るべく名盤と言えます。

1970年代に入ってブラック・ミュージックを自らにアップデートさせつつ、「山羊の頭のスープ」でヨーロピアン・デカダンスも取り入れたストーンズの集大成とも言えると思うのです。

前作「山羊の頭のスープ」に関してはキース・リチャーズはあまり気に入っていなかったらしく今回はプロデューサーのジミー・ミラーと縁を切ってセルフ・プロデュースとなりました。

ここから正式にミックとキースの「グリマー・ツインズ」が始動します。

ただ個人的には前作「山羊の頭」の味わいも捨てがたいものがありまして、あれもストーンズならではの魅力が詰まっていると思うのですが。

今回のアルバムの特徴としてはストーンズらしいハードなロックンロールとグルービーなロックンロール。
それと初期から一回りして戻ってきたようなポップス、歌謡曲みたいな世界もあります。
なんとなく初期の「テル・ミー」とか「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」の歌謡曲感を再度、1974年に合わせてアップデートしたようなメロディです。

また嬉しいことにモータウンの名曲「エイント・プラウド・トゥー・ベッグ」がカバーされています。
これも名カバーでアルバムの目玉の一つです。

また、これと同時にドビー・グレイによるソウル・スタンダード「ドリフト・アウェイ」とジミー・リードの「シェイム、シェイム、シェイム」もレコーディングされました。
以前から海賊版では有名でしたが、2021年に「刺青の男スーパー・デラックス・エディション」がリリースされて正式に聴けるようになりました。
特に「ドリフト・アウェイ」の解釈に素晴らしいものがあります。

これです。ちなみに邦題は「明日なきさすらい」だそうです。

このアルバムを最後にギタリストのミック・テイラーはストーンズを脱退しました。

ミッキ・ジャガーとキース・リチャードからしたら「レット・イット・ブリード」のライ・クーダー同様、搾り取れる養分はすべて搾り取って自分たちの養分にしたというところかもしれませんけど。(愛情表現です) 

ちなみにミック・テイラーの抜けた後、第2のギタリストをロン・ウッドに決めるまでにジェフ・ベック、ロリー・ギャラガー、スティーヴ・マリオットなどのオーディションをしたそうです。

誰が見ても、いや、きっとそいつらじゃあ長く続かないよ。と言いたいところですね。

特にスティーヴ・マリオットはキースが推薦したけどミックははっきりダメだと言ったそうです。
うん、ハンブル・パイを聞けば納得です。
マリオットのソウルフルなヴォーカルもレッド・ツェッペリンのロバート・プラントに影響を与えるくらい強烈なのです。

結局、2年後にはギタリストにロン・ウッドを正式に迎え入れて、ファンキーリズムを取り入れたハードボイルドな「ブラック・アンド・ブルー」へ突き進みます。

これまたおすすめです。

「イッツ・オンリー・ロックンロール」はベルギーの画家、ガイ・ベラードによるアルバム・ジャケットも印象的です。

古代ギリシャの衣装を着た女性たちに讃えられながら寺院の階段を降りてくるローリング・ストーンズのメンバー、を描いてあり、フランスの画家アンリ・ジェルベックスの絵画「ニコラ二世の戴冠式」をモチーフにしたものだそうです。
ガイ・べラードの作品は他にデヴィッド・ボウイの「ダイアモンドの犬」があります。(こちらは写真をもとにしたデザインだそうですが、ちょっと絵が大味な印象です)

アルバム「イッツ・オンリー・ロックンロール」のご紹介です。

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演奏
ザ・ローリング・ストーンズ
ミック・ジャガー  ヴォーカル、アコースティックギター(Tr.4)、エレクトリックギター(Tr.10)

キース・リチャーズ  エレクトリックギター、バックヴォーカル(Tr.1-6,8,9)、アコースティックギター(Tr.4,8)、ベースギター(Tr.1)

ミック・テイラー  エレクトリックギター(Tr.15,7-9)、アコースティックギター(Tr.4,5)、バックヴォーカル、シンセサイザー(Tr.5)、コンガ(Tr.7)、ベースギター(Tr.10)

ビル・ワイマン  ベースギター(Tr.2,4-10)、シンセサイザー(Tr.10)

チャーリー・ワッツ  ドラム(Tr.3を除くすべて)

ゲストミュージシャン

ニッキー・ホプキンス  ピアノ(Tr.4,5,6,8,10)

ビリー・プレストン  ピアノ(Tr.1,2,10)、クラヴィネット(Tr.2,10)

イアン・ステュアート  ピアノ(Tr.3,7,9)

レイ・クーパー  パーカッション(Tr.1,2,5,6)

ブルー・マジック  バックヴォーカル(Tr.8)

チャーリー・ジョリー  タブラ(Tr.10)

エド・リーチ  カウベル(Tr.2)

プロダクション

アンディ・ジョンズ  レコーディング・エンジニア

キース・ハーウッド  レコーディング・エンジニア、ミキシング

ジョージ・キアンツ  オーバーダヴ・エンジニア

グリン・ジョーンズ  ミキシング(フィンガープリント・ファイル)

ガイ・ペラート  カバーアートデザイン、ペイント

ボブ・クリアマウンテン  1994年リマスター

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   If You Can’t Rock Me イフ・ユー・キャント・ロック・ミー

ストレートでシンプルなローリング・ストーンズらしい曲です。決して悪い曲ではありませんが、個人的にはもっと迫力あるサウンドにできたと思います。そうすればよりアルバム全体が引き立ったのではないかと感じます。でも昨今のリマスターによって大分改善されてきたので、良い環境で大音量でこのしなるようなロール感をお楽しみください。

2,   Ain’t too Proud to Beg エイント・トゥー・プラウド・トゥ・ベッグ

モータウンナンバーでノーマン・ホイットフィールドとエドワード・ホランドの作品です。ストーンズはカバーのセンスも一級品と思わされる出来です。

3,   It’s Only Rock ’n Roll (But I Like It) イッツ・オンリー・ロックンロール

この曲だけはベーシックトラックがこちらの演奏となっています。

ケニー・ジョーンズ  ドラム
ウィリー・ウィークス  ベース
デヴィッド・ボウイ  バッキングヴォーカル
ロン・ウッド  12弦アコースティックギター、バックヴォーカル

基本的なアイデアは次の「ブラック・アンド・ブルー」から正式メンバーとなるロン・ウッドからのものだそうです。
「もし僕が心臓にペンを突き刺して、舞台に撒き散らしたら君は満足するのかい」という歌詞が刺さる時代だったのです。
でもこれがティーンエイジャーにとっては今でも普遍的なロックなんです。

4,   Till the Next Goodbye ティル・ザ・ネクスト・グッドバイ

珠玉のバラード第一弾です。この辺りはアメリカ南部を感じさせつつも前作「山羊の頭のスープ」から続く世界です。素直にいい曲だと思います。

5,   Time Waits for No Obe タイム・ウエイツ・フォー・ノー・ワン

ちょっと早めですが時計の秒針に合わせたようなリズムが刻まれる中、ミック・テイラーのフレーズが炸裂です。
見方を変えればめちゃくちゃ日本の歌謡曲に似ているとも言えます。

6,   Luxury ラグジュアリー

ほんのちょっとした贅沢をするため死ぬほど働くという歌です。内容は自虐的ですがサウンドはストーンズらしいノリのロックンロールです。

7,   Dance Little Sister Dance ダンス・リトル・システー・ダンス

これも1曲目同様、ストーンズならではのシンプルでハードなロックナンバーです。こういう曲はバンドがしっかりとした核となるグルーブを持っていないとできません。

8,   If You Really Want to Be My Friend イフ・ユー・リアリー・ウォント・トゥ・ビー・マイ・フレンド

珠玉のバラード第2弾です。ファルセット・コーラスなども入れてソウルフルに歌います。

9,   Short and Curlies ショート・アンド・カーリーズ

彼女に弱みを握られてなのか、好き過ぎてなのか、別れられずに言いなりになっている男の歌です。ただなんとなくそう言う苦労を楽しんでいるようにも感じます。逆だと非常に問題なんですが、まあそれでもいいかと思ってしまうところがズボラな男たちなのです。

10,  Fingerprint File フィンガープリント・ファイル

長尺のドラマ仕立ての曲で、指紋を取られて連邦警察に目をつけられ(多分ドラッグがらみ)電話も盗聴されている状況での恋人との会話です。
この最後の曲で一気に現実世界へ戻されます。
やれロックンロールだのダンスだの友達だの愛だの贅沢だの歌っていても、本当のところはFBIに目をつけられて怯えて暮らしているのさ、というリアルな終わり方が最高にファンキーでかっこいいと昔から思っていました。

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