プログレッシヴ・ロックの代表格キング・クリムゾン。
その長いキャリアの中でもかなり上位にランクされているのがこの「太陽と戦慄」です。
大体においてキング・クリムゾンのランク付をやっているのを見ると、ほとんどが1位が固定で「クリムゾン・キングの宮殿」、次点で「レッド」もしくはこの「太陽と戦慄」が登場します。
プログレッシブ・ロックの代表格と言われていた時代のクリムゾンの作品ですので、まことに時代を超えた名盤となっている次第です。
で、すいません、わたくしごとです。
学生の頃、初めてこのアルバムを聴いた時は戸惑いました。
さっぱり理解できませんでした。
まずタイトルです。
オリジナルは「Lark’s Tongues in Aspic」、そしてジャケットを見ると太陽と三日月がデザインされたイラストです。
邦題は「太陽と戦慄」で最初に思い浮かんだのは天変地異が起こる時、ひばりが舌を出して叫ぶのか、などと勝手なことを思っておりました。
辞書を引くとアスピックとは鶏肉などの肉汁を固めたゼリーとなります。
「ひばりの舌が入っているゼリー」です。
中国の宮廷料理にそういうのがあるとも言われています。
ますます訳がわかりません。
さらにサウンドがまた理解不能なのです。
統一感がなく「土曜日の本」とか「くだらないお金」とかタイトルを見ても、サウンドを聴いてもトータル性を感じるものがありませんでした。
次作の「暗黒の世界」とか「レッド」の方がまだ統一した意思が感じられると思いました。
そしてそのまま「太陽と戦慄」はしばらくの間、私の中では答えのないアルバムとなってしまっていました。
それからしばらく時間が経過します。
はい、そしてここから突如としてアルバムの凄さを発見したこと、それは今まで誰も言わなかった(と思う)そういう独自の、私なりの「太陽と戦慄」についての解釈に入ろうと思います。
と言いつつも怖い怖いプログレの世界。(偏見です)
きっと
「おい、テメェ、それちげーだろ」とか
「何を訳のわかんないことほざいてんだ」とか
「クリムゾンがわかっとらん」とか、
しまいには
「修行が足りん」
「語るに50年早いわ」
などと思われるクリムゾニスト(クリムゾン・ファン)もいらっしゃるかと思います。
そういう方はただの「珍説」くらいにして聞き流して(読み流して)いただければ幸いです。
それは30代半ばくらいの時でした。
私も会社員として中間管理職となっていました。
「そういえば最近はプログレなんて聞かないなあ、では久しぶりにキング・クリムゾンでも・・・」と思って「太陽と戦慄」を聴いてみました。
このとき突然何かが降りてきたのがわかりました。
(オカルトではありません、ストーリーが見えたということです)
そしてこう思いました。
「ああ、これってまるで今の自分を歌っているみたいだ。」
私は今のところ賞罰、前科なしのごく普通の一般庶民です。
学生時代にはわからなかったのですが、世に出て人に揉まれて初めて身に染みて感じることがあるものです。
そういうその時の自分にピッタリハマってしまっているのでした。
それをお話ししてみたいと思います。
まず、オープニング。アルバムタイトルの「太陽と戦慄 パート1」です。
これは非日常を表していると感じました。
大体において中国の宮廷料理などまず一生食べる機会なんぞ訪れません。
(食べてみたいとも思いませんが)
曲が始まるとパーカッションが中近東とか東尾アジアみたいな雰囲気(?)を出してきます。
しばらくするとバンド全体のサウンドになり、重くダイナミックに展開していきます。
それは映画を本を読むとか、映画を観る、音楽を聴く、というようなリアルな日常とは違ったエンターテインメントの世界ではないかと思いました。
それは2曲目、「土曜日の本」でわかります。
オープニングの「太陽と戦慄 パート1」は休日に呼んでいる本の内容なのです。
自分の休日と思いっきり重なっていました。
3曲目「Exile」は放浪者とか国外追放者とかならずものと訳されます。
その時に会社員であった私は「いつまでもヤンチャがやめられないやつ」とか「いくつになっても勝手な自分の夢を追い続けてるやつ」とか「30歳を過ぎても自分探しをしているやつ」というふうに感じました。
そういう人は周りの普通に、生活のために必死に働いている人から見ればただの「Exile」なんです。
ただそれを上から目線で否定するのではなく、この曲調にあるようにそういう人に対しても分かる、共感、同調する部分もあるんですね。
でもいつか、歳を重ねていくにつれ「そういうのを続けていると結局、何も残らないよ。より自分を苦しめることになるよ。変わっていかないと」という視点になります。
いくら夢や理想を持っていても自分の可能性、限界が否応なくわかってしまう時が誰でもやってきます。
それがわかっているので、イグザイルに対し優しくも悲しい気持ちになるのです。
所詮、人生は思い通りには進みません。
私にとってはまさにその時はそういう心境でした。
4曲目「Easy Money」、これはリアルな日常です。
サラリーマンをやっているとですね。
例えば営業です。
すごく時間をかけていい内容の素晴らしい、完璧とも思えるような企画と見積もりができたとします。
しかしそれは突然に政治的とか、業界の重鎮のツルの一声とかで理不尽に同業他社に取られたりすることもままあるのです。
内容に関係なくやっつけ仕事で持ってきた他の会社に負けてしまうのです。
技術で言えば、例えばある製品とかシステムなど出来上がったとして、開発者の努力や苦労などを間近で見ていて知っているとします。
自分もいくらか関係している場合もあります。
それを変な(技術的なことを全く理解していない)上司や顧客だのが、ちょっと自分の思い通りになっていないと「なんだこれ、使えねえ」などと一蹴、ポンコツ扱いしたりするのです。
コストや安定性などを考慮して誠心誠意がんばってきた人たちの前でも平気でそういう態度をとる人間もいるんですよね。
さらには権威を利用して周りに同調させたりします。
しかし社会に出てみれば、そういうことも含め結局は全て自分の責任です。
己の実力不足は否めません。
そういうストレスに何度も晒されていると「Easy Money=泡銭(あぶくぜに)」の怒りがわかるのです。
そしてアルバムは最後の「トーキング・ドラム」と「太陽と戦慄 パート2」に傾れ込みます。
「トーキング・ドラム」で心を整理、リセットしてより強い意志を持って日常に戻る。「太陽と戦慄 パート2」のハードで力強いアレンジはそう感じました。
これは普通の人がいろんなストレスや悩みを抱えて生活する中、休日に本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりすることで非日常の体験をして心をリセット、そしてより強く、新たな意志を持って現実に立ち向かっていく。
そういうことではないかと「太陽と戦慄」を聴いて感じたのでした。
(実はもう一つの感覚として「トーキング・ドラム」の最後は悲鳴のような音で終わり、間髪入れずに「太陽と戦慄 パート2」になだれこむのは、もしかしたら精神的にクリックして狂気に走ってしまったのでは、と感じる場合もあります。)
そういうことで一気にこのアルバムとの向き合い方が変わりました。
世間ではこのアルバムのサウンドはジャズの要素を全面に出した、とかクラシックにインプロビゼーションを加えた画期的な・・・などと評されます。
私にとってはこのアルバムの魅力はジャズっぽさでも即興音楽の妙味でもありませんでした。
現代に生きるごくごく普通の人(底辺の人かも知れません。はい、もう私のことです)が普通に生活していくことの強さ、素晴らしさを表現しているのではないかと思った次第です。
(ポジティブに受け取れば・・ということですが)
そう思った時にこのアルバムはすごい哲学的なコンセプトアルバムだと思ったのでした。
でも、そういうふうに解釈している人を見たり、文章を読んだりしたことはありません。
このアルバムを作った時、ロバートフリップは27歳、「うん、あり得るかもね」
と思った私の30年くらい前の話でした。
アルバム「太陽と戦慄」のご紹介です。
キング・クリムゾン
- デヴィッド・クロス
ヴァイオリン、ヴィオラ、メロトロン、ホーナー・ピアネット、フルート(Tr.3)、プロダクション - ロバート・フリップ
エレクトリックギター、アコースティックギター(Tr.3)、メロトロン、ホーナー・ピアネット、デバイス、プロダクション - ジョン・ウエットン
ベースギター、ボーカル、ピアノ(Tr.3)、プロデュース - ビル・ブルーフォード
ドラム、プロデュース - ジェイミー・ミューア
パーカッション、ドラム、「オールソーツ」(様々な拾得物と雑多な楽器)、オートハープ(Tr.1)、プロデュース
サポート、ゲスト
- リチャード・パーマー=ジェームス
歌詞
制作
- ニック・ライアン
レコーディング・エンジニア - タントラデザイン
カバーデザイン - ケトル、シモンズ&ウォルムズリー
機材
曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。
- Larks’ Tongues in Aspic, Part One (instrumental) 太陽と戦慄(パート1)
(デヴィッド・クロス、ロバート・フリップ、ジョン・ウエットン、ビル・ブラフォード、ジェイミー・ミューア)
異国情緒を感じるようなパーカッションで始まります。このアルバムにおいてはパーカッションのジェイミー・ミューアの存在は大きいと思います。
楽音と共に発せられるノイズが迫力や緊張感を増幅します。 - Book of Saturday 土曜日の本
(ロバート・フリップ、ジョン・ウエットン、リチャード・パーマーージェームス)
最初はオープニングナンバーとの落差に戸惑っていました。 - Exiles 放浪者
(デヴィッド・クロス、ロバート・フリップ、リチャード・パーマーージェームス)
タイトルからするとハードボイルドなサウンドをイメージしますが、ここでは優しく語りかけます。 - Easy Money イージー・マネー
(ロバート・フリップ、ジョン・ウエットン、リチャード・パーマーージェームス)
ハードなナンバーです。最初に聞いた時には「イージー・マネー」とサビを歌った後に「ぴよ~ん、ぽよ~ん」と聞こえるシンセの音が邪魔だと思いました。今では敢えてアホらしさを出しているようで納得です。 - The Talking Drum (instrumental) トーキング・ドラム
(デヴィッド・クロス、ロバート・フリップ、ジョン・ウエットン、ビル・ブラフォード、ジェイミー・ミューア)
タイトルを見るとアフリカのあの脇を絞ってトーンを変えながら叩くドラムが大活躍するのかと思いますが、全くそうではありません。
ゆっくりとリズムで心を整理していくようです。ただちょっと長い。(そこがクリムゾンらしいと言えばそうです)
本人たちも「ちょっとここは冗長だったかな」と言っていた記憶があります。 - Larks’ Tongues in Aspic, Part Two (instrumental) 太陽と戦慄(パート2)
(ロバート・フリップ)
キレのいいハードなアレンジでアルバムが締められます。
メンバーの意見を持ち寄って共作したナンバーが多いこのアルバムですが、ここはロバート・フリップ一人の名前しかありません。
きっと完璧主義者の視点で納得できるようにアルバムを締めたかったのだと思います。
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