「ブルージー、ファンキー、グルーヴィー。R&Bテナーの名手、キング・カーティスの絶頂期の名ライブ」Live at Fillmore West : King Curtis / ライブ・アット・フィルモア・ウエスト : キング・カーティス

 R&B、ソウル、ファンク好きの必須アイテムとなっている1971年8月リリースのキング・カーティスと彼のバンド、ザ・キングピンズとメンフィス・ホーンズによるサンフランシスコ、フィルモア・ウエストでのライブ盤です。
実はこのアルバムリリースの1週間後にマンハッタンの路上で刺殺されてしまいました。
このアルバムの充実度を見ているとこういう不条理は本当に悔やまれます。
しかし彼の業績はいろんなレコードに残っており現在でも評価され愛される存在です。

キング・カーティスというテナーサックス・プレイヤーはちょっと不思議な存在の人です。
演奏する曲はほとんどがヴォーカルなしのインスト曲ばかりで、コンパクトな演奏が身上です。
非常に聞きやすいのですが極上のソウル、ファンクを感じます。
特徴としていってしまえばスタジオアルバムはほとんどがキングカーティスのテナーがヴォーカルの役目をしている感じです。
テナーサックスの腕は確かで独特の音も持っているのですが、ジャズ・プレイヤーとは言われません。
バックバンドの音が基本的には歌伴型で4ビートではないということもあります。
ただしこのバンドのすごいところはジャズもやろうと思えばいつでも極上のジャズがプレイできるのだろうと思えるところです。

そのバックバンドはトップ・ピンズと言われています。
メンバーは若干の入れ替わりはありますが、この紹介するフィルモア・ウエストのライブではギターはコーネル・デュプリー、ベースはジェリー・ジェモット、ドラムはバーナード・パーディー、それにビリー・プレストン、パンチョ・モラレス、トゥルーマン・トーマスと続いて、さらに鉄壁のメンフィス・ホーンズが加わります。
もうソウル、R&Bが好きな人にはたまらないメンツなのです。

同時期にアレサ・フランクリンのフィルモア・イースト・ライブがありますがバックはこのメンバーで同時期の録音です。
第一部キング・カーチス・バンド、第二部アレサ・フランクリン、バックはキング・カーティス・バンドだったのです。
両方ともアルバムとしてリリースされ、時代を超えて名ライヴアルバムになっているということはノリにノリまくっている充実期だったいう証拠です。

そしてメインのキング・カーティスは歌うテナーサックスです。
というと昔はやった「歌のない歌謡曲」を連想してしまう年配の、60歳以上の貴兄も多いかも知れません。

そういえば日本にも歌謡曲や映画音楽を得意とするサム・テイラーという黒人のテナーサックス・プレイヤーが1970年前後に活躍していました。
個人的な話ですが小学生の頃、叔父の車でドライブに行くとエンドレスでサム・テイラーが流れていた記憶があります。
おぼろげな記憶によると、その頃はカーオーディオに普通のカセットテープはまだ普及しておらず、8トラのテープというものでした。

詳細は分かりませんが、そのサム・テイラーさんとキング・カーティスさんは仕事を通じての知り合いだったそうです。
それが1950年台の後半くらいのことで、ツーテナーで仕事をしたこともあるとか。
その後はサム・テイラーは日本に活動場所を移したのだと思われます。
wiki情報によると「ムード・テナーの帝王」と呼ばれていたそうです。納得です。

話をキング・カーティスにもどします。

彼からはサムさんと違ってムードテナーという要素は少なく、ファンキー、ブルージー、アーシーというフレーズが思い浮かびます。
以上をまとめるとジャズではなくてR&Bのテナーなのです。

特にトップピンズと一緒にレコーディングしたものはファンキーでこの上ない心地よいグルーヴに包まれます。
カーティスのアルバムの中にはオーケストラをバックに吹いているものがありますが、どうしてもムード歌謡寄りになってしまうため個人的にはお勧めしません。
でももしかしたら今の若い人には新鮮でそのB級感が新しくてたまらなく好きという方もいらっしゃるかも知れません。

キング・カーティスは平気で(?)当時のヒット曲のカバーを演奏します。
このライブアルバムでもプロコル・ハルムの「青い影」とかレッド・ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」とかジェリー・ジェフ・ウォーカーの「ミスター・ボージャングル」などをカバーしています。

他のアルバムでは「明日にかける端」「レット・イット・ビー」「ザ・ウェイト」など相当に無節操なものです。

見方によってはファンクの入り口にちょうどいいのかも知れません。

オリジナルが好きな人はそれをファンキーに、ソウルフルにアレンジするとどうなるか、また新しい世界が見えるかも知れません。

でもキング・カーティスは根っからのファンク、ソウルマニアでも楽しめるというなかなか得難いミュージシャンなのです。

だってパーディーやコーネル・デュプリーがいるのですから。

私がキング・カーティスを聴きたくなるのはとにかくシンプルで無駄のない、曲そのものを味わいたいという時です。
ブッカーT・アンド・ザ・MGsもそういう傾向はありますが、カーティスはテナーサックスメインのため、より肉声に近いものがあります。
アレサ・フランクリンとかレイ・チャールズが歌うと大したことない曲でも名曲となる場合がよくありますが、それと同じかも知れません。

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演奏
キング・カーティス  テナーサックス
コーネル・デュプリー  エレキギター
ジェリー・ジェモット  ベースギター
パンチョ・モラレス  コンガ
ビリー・プレストン  ハモンドオルガンB3
バーナード・パーディー  ドラムス
トルーマン・トーマス  エレクトリックピアノ

<メンフィス・ホーンズ>
ジャック・ヘイル  トロンボーン
ロジャー・ホップス  トランペット
ウエイン・ジャクソン  リード・トランペット
アンドリュー・ラブ  テナーサックス
ジミー・ミッチェル  バリトンサックス

曲目
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。

1,   Memphis Soul Stew メンフィス・ソウル・シチュー
(作 カーティス・オースリー)

名刺がわりの代表曲です。挨拶とメンバー紹介で始まります。このベースとドラムのイントロを聴いただけで失禁してしまう貴兄も多いのではないでしょうか。

2,   A Whiter Shade of Pale 青い影
(作 ゲイリー・ブルッカー、キース・リード、マシュー・フィッシャー)

オルガンの音が入るともうこの曲しか浮かびません。
この曲のオリジナルであるプロコル・ハルム・バージョンは2009年の時点でイギリスで過去75年間に最も多く再生された曲となっています。

3,   Whole Lotta Love 胸いっぱいの愛を
(作 ウィリー・ディクソン、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、ジョン・ポール・ジョーンズ、ジョン・ボーナム)

ハードロックの名盤、レッド・ツェッペリン2ndアルバムのオープニングを飾った曲です。初めて聴いた時は後半に行くと「へえー、こうなっちゃうんだ」と驚いたものです。

4,   I Stand accused アイ・スタンド・アキューズド
(作 ジェリー・バトラー)

サザン・ソウルの名門スタックスの主要人物アイザック・ヘイズで有名なソウル・バラードです。ワウ・テナーがベタなバラードではなくしています。

5,   Them Changes ゼム・チェンジズ
(作 バディ・マイルス)

1970年リリースのバディ・マイルスのアルバム・タイトルにもなっている曲です。アップテンポでファンキーなナンバーです。
割と有名なフレーズは誰でも一度くらいは聴いたことがあるのではないでしょうか。後半に我慢できなくなって次第にヴォリュームを上げてくるコーネル・デュプリーのファンキー・ギターが最高です。

6,   Ode to Billie Joe オード・トゥ・ビリー・ジョー
(作 ボビー・ジェントリー)

SSW、ボビー・ジェントリーの曲です。渋く始まりますが後半は徐々にファンキーになっていきます。

7,   Mr. Bojangles ミスター・ボージャングル
(作 ジェリー・ジェフ・ウォーカー)

1970年にニッティ・グリッティ・ダート・バンドがヒットさせた名曲です。この曲はメロディの良さを活かして最後までしみじみとしたアレンジで聴かせます。

8,   Signed, Sealed, Delivered I’m Yours サインド、シールド、デリヴァード・アイム・ユアズ
(作 リー・ギャレット、ルーラ・メイ・ハーダウェイ、スティーヴィー・ワンダー、シリータ・ライト)

1970年にスティーヴィー・ワンダーがヒットさせた曲です。余裕のファンクナンバーです。

9,   Soul Serenade ソウル・セレナーデ
(作 ルーサー・ディクソン、カーティス・オースリー)

カーティスの代表曲で、1964年リリースの同名アルバムに収録されています。いよいよおしまいなんだだなあと思わせる曲調です。
その雰囲気がいいのですが、CDだとボーナストラックが5曲ほどついていて、この後ジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」が出てきます。

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