「前人未到のハードロック・ライヴ」Live At Leeds : The Who / ライヴ ・アット リーズ:ザ・フー


 ロックにおいて音楽の楽しさ、可能性を教えてくれたのはビートルズでした。ダイナミズムを教えてくれたのはレッド・ツェッペリンかも知れません。
そういう中でもライブパフォーマンスにおいて最高なのはザ・フー以外に考えられません。特にこのモッズを卒業してよりハードになっていく時期の「Live At Leads」は最高です。
この時期の映像として1969年のウッドストックと1970年のワイト島フェスティバルのステージパフォーマンスが残されています。全員で限界突破に挑戦しているようで神がかり的です。

ちなみに最初、ザ・フーはモッズ・バンドとしてデビューしました。
“モッズ” とはイギリスで発生したカルチャーでファッションやライフスタイルに異常に気を遣う若者文化のことです。1960年代に端を発し、イギリスを中心に流行は何度か繰り返されています。
気になる人はぜひ調べてみてください。特に若い人は自分のファッションセンスまで変わってしまう場合もあるという面白いものです。
元祖ミュージシャンとしてはザ ・フーとスティーヴ・マリオット率いるスモール・フェイセズが有名です。

モッズ・アイコンという立ち位置だった反動なのか、フーのギタリスト、ピート・タウンゼントはしばらく白のツナギとドクターマーチンのブーツを自分の制服にしました。スモール・フェイセズの中心、スティーヴ・マリオットもハンブルパイを結成して、ダンガリーシャツとジーンズファッションになり、お洒落にとことん気を使わなくなります。
モッズの象徴として存在するのは大変なことのようです。モッズの影響は60年代中期、ボブ・ディラン英国ツアー時のサングラスにスリムパンツファッションなどにもさらりと感じられます。

フーはモッズを卒業してからの1973年に、モッズを描いた映画「さらば青春の光」の原作「四重人格」というアルバムを作りました。ファンならばこの映画も必見です。

ザ・フーのライブの魅力とは

  • メインボーカルのロジャー・ダルトリー
    手足を伸ばしてマイクを振り回し、全身を使ってポーズを取るのに何故か目立たない、けど仕事熱心。
  • ギターのピート・タウンゼント
    意表を突くダイナミックなステージアクション、超絶ウインドミル奏法とたいしてうまくないコーラス(失礼な)
  • ドラムのキース・ムーン
    基本を無視した、リズムキープでなく歌うドラムとも違うハチャメチャなドラミング。(下手ではありません)
  • ベースのジョン・エントウィッスル
    動かず直立不動なのに、何気にすごいフレーズを弾いています。彼はいつもほかの3人がド派手なパフォーメンスという中で唯一動きがないので逆に一番目立ちます。そしていつも小馬鹿にしたような冷ややかな視線でステージ下手からバンドを定点観測です。さぞ「こいつら馬鹿だなあ」という態度かと思えばさにあらず、ピートの作ったビーチ・ボーイズ をパクったような変なコーラス曲でもキチンと真面目に参加してハモります。

このように超個性派揃い、常にバンドは分裂寸前、この時代の御多分にもれずみんなクスリでハイ状態。にも関わらずライブは終わりまで手抜きなしで完遂するのがまた凄いところです。なんせ視覚抜きの「ライブ盤」としても評価が高いのです。

アルバム「The Who Live At Leeds」のご紹介です。

演奏

ボーカル ロジャー・ダルトリー
ギター ピート・タウンゼント
ドラム キース・ムーン
ベース ジョン・エントウィッスル

アルバムジャケットはこの時代に話題になっていた(問題になっていた)海賊盤=ブートレッグを逆利用したデザインです。

直前にスタジオアルバム「Tommy=トミー」を発表しました。
「トミー」はロック界初のオペラ仕様のアルバムです。
ザ・フーは、というかピート・タウンゼントはこの時期オペラに興味を示していて、1966年リリースの2枚目のアルバムでもミニオペラと言われる「A Quick One」という曲を入れていました。

当時は初めてのロックオペラなどともてはやされましたが、オペラといってもこの数年後にデビューしたクイーンの完成度と比べると・・・なんか笑っちゃいます。
でもロックオリジネーターの視点から、クイーンを超えるものがいっぱい感じられます。

ザ・フーの場合は、特にライブではピート・タウンゼントとキース・ムーンのキャラクターによるところが多いのですが、常にみんなが期待しているものを完璧に提供するのではなくて、常にその期待以上のものを体験させてやるぜという意気込みを感じます。ときに聴衆は置き去りにされますが、そこがロックを感じるところです。


曲目(オリジナルLPフォーマット)
*参考までにyoutube音源と最後部に同時期のライブ動画をリンクさせていただきます。


1,    Young Man Blues ヤング・マン・ブルース

ロジャーのMCからピートのギターリフが飛び出します。キース・ムーンがピートと目を合わせて戯れている姿が無に浮かびます。ヴォーカルのバックは3人だけなのに音が厚いのに驚きます。
モーズ・アリソンという知る人ぞ知るR&Bの達人の作です。


2,    Substitute 恋のピンチヒッター

初期のヒット曲です。片思いでどうせ俺なんか本命の次、滑り止めだよという悔しさがテーマです。今までにない内容が受けて、若者の支持の多い曲です。ピストルズもカバーしてました。


3,    Summertime Blues サマータイム・ブルース

完全版だとロックオペラ、「トミー」を一通りやり終えての仕切り直しの曲です。ロックロールのハードロック・バージョンの最たる成功例だと思います。1970年以降、アマチェアロックバンドはみんなこのバージョンをコピーしました。


4,    Shakin’ All Over シェイキン・オール・オーバー

ヘヴィーなサウンドを目指していますが、キース・ムーンなのでツェッペリンにはならないのが面白いところです。オリジナルはジョニー・キッド&パイレーツが1960年にヒットさせました。


5,    My Generation マイ・ジェネレーション

ヘヴィーアレンジの「マイ・ジェネレーション」に始まり、「シー・ミー・フィール・ミー」へつなぎます。その後の展開はアドリブ、ジャム風ですがみんなで大きく強弱をつけて進行するので、バンドの絆を感じます。アルバム「トミー」収録の「スパークス」も登場します。


6,    Magic Bus マジック・バス

フーならではのボ・ディドリー・ビートのブギです。こういうシンプルな曲だと各自のアイデアの多さがわかります。どんな展開になっても余裕でついていきますので、ドライヴ感がハンパないです。


これはLPレコードの曲内容です。今は「スペシャル・エディション」とか「完全版」などが発売されており、曲目が増えています。でもこのオリジナルフォーマットの味も中々いいものです。

この頃の象徴的な音はピート・タウンゼントのギター「ギブソン SGスペシャル」のギターサウンドです。
ピックアップ(エレキギターのマイク)にP-90というシングルコイルタイプピックアップを使っていて、同じギブソンでもハムバッカータイプのピックアップを使った高名なレスポールやES-335とはまた違った歪み、トーンが得られます。

フーは日本には絶頂期に来日しなかったので、日本ではそれほど売れていません。売れてないから来日しなかったという説もありますが、海外での、特にライブの評価が高いので悔やまれます。

なぜかと考えると、フー には日本で受けるための必須の条件であるキラーチューン「ホテル・カリフォルニア」や「天国への階段」「クリムゾン・キングの宮殿」がなかったのです。それが足りませんでした。
新橋のガード下の飲み屋で、酔っぱらったサラリーマンのおっさんがギターソロを口づさむ、というくらいの超有名曲が必要なのです。

Bitly
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