「モダン・ブルーズの父、というよりすべてのロックギタリストの元祖」T-bone Blues : T-bone Walker / Tボーン・ブルーズ : Tボーン・ウォーカー

 ブルーズ、ロックンロール、ロックの流れで語るときに楽器ではギター、特にエレキギターの存在は欠かせません。
その起源と言える、残念ながら現在ではさほど名前を聞くこともなくなってきましたが、真に偉大なるイノベーターがいたのです。

それがTボーン・ウォーカーです。

Tボーンの音楽界に残した功績はものすごいものがあるのですが、彼の開発したスタイル、技法などが今では当たり前になりすぎて、悲しいことに逆にありがたさを感じなくなっているようです。
それはなにかといいますと、

*まず、ブルーズをエレキギターで演奏しました。

なんだ当たり前じゃんと思いますが1942年にはエレキギター を人前で使ったこと、それでブルーズを演奏したことは特筆すべきことです。
ジャズ界ではチャーリー・クリスチャンがエレキギタージャズの始祖と言われますが、お互いに知り合いで友達だったことは有名です。

*次にブルーズを演奏するのに誰でもソロが弾けるギター奏法を開発しました。

具体的にいうと例えばキーがAの場合、5フレットに人差し指、6フレットに中指、7フレットに薬指を置いて指板を横方向に使うのではなく、縦方向(1弦から6弦)を使って同じポジションでメロディを奏でる、ソロを取るような弾き方を始めます。
この利点はメロディが指板の横移動よりも楽に早く弾ける、いろんなキーに即対応できるということで瞬く間にフォロワーが増えていきます。
一番最初にTボーンがやったのではないよとか、そんなものは以前から普通にあったよとか、色々と本当はあるのでしょうが、一番効果的にアピールしたのはTボーンに間違いありません。
実際、その衝撃は凄まじかったようで、「ストーミー・マンデイ」を聴いてB.B.キングはギタープレイを天職と決めたと言ってます。

この演奏方法は速弾きが容易なことと、ゆっくりであれば音階が変化した際に時間的余裕ができます。それでやたらに深いハンドビブラートをかけることなど表情をつけることがが可能になります。ギターを歌わせる、泣かせる、チキン・ピッキンで鳥肌を立たせるなどの表情がつけやすくなります。

Tボーンに影響を受けたブルーズギタリストはB.Bキング、アルバート・キング、フレディ・キングなど筆頭にエレキギターを演奏するモダンブルーズのミュージシャンはほぼ全員です。
それを聴いたチャック・ベリーなどロックンロールギタリストはこぞってギターフレーズを取り入れました。
さらにそれを聴いた1960年代のロックギタリストはみんなこぞって模倣して、結局みんなそうなってしまいました。

ついでにもう一つ、薬指で7フレット3弦をベンドしながら5フレットの1、2弦を人差し指で押さえて3弦、2弦、1弦と3連で弾くフレーズは、早く繰り返して弾けばロックンロールのソロ、ゆっくり弾けばブルーズのソロの出だしやキメにドハマりなのですが、これも最初はTボーンらしいです。
また、複数弦を押さえて同時にベンドするのも初めはTボーンらしいです。
チャック・ベリーもエリック・クラプトンもしょっちゅうそうやって弾いてます。というより今やみんなの指ぐせです。

アコースティックギターに比べてエレキギターはベンディングしやすい、ビブラートで音を伸ばし易いので、そこを利用して様々なエレキギター用のギター奏法の確立したと言えます。

巷ではブルーズギターの代表とも思われるB.B.キングですが、彼を象徴するようなギター奏法、クリーンな音をハンドビブラートで思いっきり伸ばし、それでも尺が足りないと顔の表情でカバーする、という得意技もTボーンがいたからこそのものなのです。

*そしてTボーンはギターを弾きながら動きました。

音だけ聴いているとアーバンで都会的な感じもしないではないですが、意外にライブでは熱い男でアクションがすごかったそうです。
この時代のギタリストはジャズでも唄の伴奏でも基本じっと椅子に座っていました。
ギターアクションはロックンロール、ロックと進むにつれチャック・ベリーのダックウォークや大股びらき奏法とか、ジミ・ヘンドリクスの背中で弾く、頭の後ろで弾く、歯で弾くとかをやり始めますが、ギターを燃やす以外のことはすでにTボーンはやっていたと言われます。
のけぞる、ジャンプするなども当然です。
ギターアクションの始祖でもあります。その時代にスマホでもあればもっと有名になっていたことでしょう。
それをさらに発展させたのがピート・タウンゼンドだったり、ポール・スタンレーだったり、ヴァン・ヘイレンだったりするのです。

以上のことを踏まえると今、エレキギター を持ってロック、ポップスを弾いている人は全てTボーン・ウォーカーの影響下にあるといえます。
ただし今や当たり前になりすぎて、B’sの松本孝弘を目指して楽器店にやってきた少年に「基本はTボーンだよ」と言ったところで、「Tボーン・ウォーカー?、だれその人?、サブスクで聴ける?」なんて言われるのがオチです。
ええ、聞けますとも。でも聴いてもつまんないよ、きっと。

*最後にTボーンはブルーズの一つの型を作りました。

ブルーズ・スタンダードと言われる曲もいっぱい作りました。「ミーン・オールド・ワールド」「Tボーン・シャッフル」「ストーミー・マンデイ」などです。後世のブルーズ、ロック界では頻繁にカバーされています。
そこで何より「ストーミー・マンデイ」です。多くの人にカバーされています。ミュージシャンの間では曲の構成が「ストマン進行」で通ります。
ブルーズやクラシックロックのバンドでセッションする際に「次はブルーズやろう。Gでストマンね」となったとき、「すいません、なんすかそれ」なんて言ったらもう遊んでもらえないと思ってください。

ええっ! そんな・・・。

来歴

Tボーン・ウォーカーことアーロン・ティーボー・ウォーカーは1910年5月28日にテキサス州リンデンに生まれました。アフリカンアメリカンとチェロキー族の子孫ということです。
両親は共に音楽家であり、アーロンは幼い頃からウクレレ、マンドリン、バンジョー、ピアノを教わりました。
また小さい頃は近所の盲目のブラインド・レモン・ジェファーソン師匠の手をとってサポートしていたそうです。
ブラインド・レモンといえばブルース界のレジェンドとして間違いなく5本の指には数えられるであろう巨匠です。
当然ギターテクニックなどブルーズ に必要なことは師匠を見て、マスターしたのだろうと思います。

15歳の時にはロサンゼルスでプロのミュージシャンとして活動していました。
そして1940年、30歳くらいの時にエレキギターを使用し始めます。
1942年にシカゴに渡り、レコーディングを開始しました。紆余曲折ありましたが、その後1974年に脳卒中で倒れるまでに着実にキャリアを重ねていきます。
1975年3月、ロサンゼルスの自宅で亡くなりました。享年64歳でした。

フルアコのエレキギターを水平にして弾くTボーン・ウォーカーの勇姿はブルーズ・ギタリストみんなの憧れでした。


アルバム「T-Bone Blues」のご紹介です。

曲目、演奏
*参考までにyoutube音源をリンクさせていただきます。


1,    Two Bones and a Pick  トゥー・ボーンズ・アンド・ア・ピック

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  アール・パーマー
ベース  ジョー・コンフォート
ピアノ  レイ・ジョンソン
ギター  バーニー・ケッセル、R.S. ランキン
テナーサックス  プラス・ジョンソン
(1957年12月27日 ロサンゼルス録音)

軽快なブギで始まります。サックス入りです。ジャズっぽい曲でもあります。


2,    Mean Old World  ミーン・オールド・ワールド

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  オスカー・ブラッドリー
ベース  ビリー・ハドノット
ピアノ  ロイド・グレン
(1956年12月14日 ロサンゼルス録音)

4分ちょっとの曲ですが、2分20秒すぎたあたりからヴォーカル が入ります。それまでギターで歌います。後半、わざと崩したりもします。


3,    T-Bome Shuffle  Tボーン・シャッフル

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  リロイ・ジャクソン
ベース  ランサム・ノウイング
ピアノ  ジョン・ヤング
テナーサックス  エディ・チャンブル
バリトンサックス  マーク・イーストン
アルトサックス  ゴーン・ガードナー
(1955年4月21日 シカゴ録音)

ブラスもかっこいい有名な曲です。


4,    Stormy Monday Blues  ストーミー・マンデイ・ブルーズ

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  オスカー・ブラッドリー
ベース  ビリー・ハドノット
ピアノ  ロイド・グレン
(1956年12月14日 ロサンゼルス録音)

Tボーン・ウォーカーを代表する代表曲、普通のブルーズ とは奥行きが違います。


5,   Blues For Marili  ブルーズ・フォー・マリリ
    
ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  オスカー・ブラッドリー
ベース  ビリー・ハドノット
ピアノ  ロイド・グレン
(1956年12月14日 ロサンゼルス録音)

ゆったりしたリズムで、たっぷりギターが堪能できる時間です。


6,    T-Bone Blues  Tボーン・ブルーズ・

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  オスカー・ブラッドリー
ベース  ウィリー・ウィークス
ピアノ  ロイド・グレン
(1956年12月14日 ロサンゼルス録音)

基本的に前の曲と同じような感じですが、よりブルーズ っぽくなっています。
大袈裟な弾き方ではありませんが、ブルーズギターの教科書です。


7,   Shufflin’ The Blues  シャフリン・ザ・ブルーズ

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  オスカー・ブラッドリー
ベース  ビリー・ハドノット
ピアノ  ロイド・グレン
(1956年12月14日 ロサンゼルス録音)

攻めたギターフレーズがいっぱい出てきます。


8,   Evenin’  イヴニン
    
ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  アール・パーマー
ベース  ジョー・コンフォート
ピアノ  レイ・ジョンソン
ギター  バーニー・ケッセル、R.S. ランキン
テナーサックス  プラス・ジョンソン
(1957年12月27日 ロサンゼルス録音)

これはテキサスブルーズと言った感じです。ライトニン・ホプキンスにも近いです。


9,   Play On Little Girl  プレイ・オン・リトル・ガール

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  フランシス・クレイ 
ベース  ウィリー・ディクソン  
ギター  ジミー・ロジャース
ハーモニカ  ジュニア・ウェルズ
(1955年4月21日 シカゴ録音)

シカゴブルーズの巨匠、マディ・ウォーターズのバックバンドと演ってます。ということでやはりシカゴブルーズに近づいています。そういえば全編ブルーズ ハープ が頑張ってギターソロがない。Tボーンにしては珍しい形態です。


10,   Blues Rock  ブルーズ・ロック

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー 
ドラム  アール・パーマー
ベース  ジョー・コンフォート
ピアノ  レイ・ジョンソン
ギター  バーニー・ケッセル、R.S. ランキン
テナーサックス  プラス・ジョンソン
(1957年12月27日 ロサンゼルス録音)

一般的に言うブルーズロックとは趣が違います。ブラスも入ってますし。でもこの曲のギターの音は他と違います。アルバムのトラック1、8、10の日付ののロサンゼルス録音はギターがすごくバンドに馴染んでドライヴしています。これも良いなあ。


11,    Papa Ain’t Salty  パパ・エイント・サルティ

ギター、ヴォーカル  Tボーン・ウォーカー
ドラム  リロイ・ジャクソン
ベース  ランサム・ノウイング
ピアノ  ジョン・ヤング
テナーサックス  エディ・チャンブル
バリトンサックス  マーク・イーストン
アルトサックス  ゴーン・ガードナー
(1955年4月21日 シカゴ録音)

最後の曲はゴージャスな感じで終わります。
なかなか奥深いTボーン・ウォーカーの世界です。

Bitly

お得な5枚組ボックスセットです。

Bitly

バディ・ガイのバージョンのTボーン・シャッフルです。


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