「シカゴ・ブルーズの首領(ドン)と呼ばれた男」The Best of Muddy Waters : Muddy Waters / ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ : マディ・ウォーターズ

 1950年くらいになると、アメリカ南部のミシシッピ 川流域で定着していたデルタブルーズを北部の都市に持ち込み、エレクトリック化して人気を得たブルーズマンもが出てきました。
その代表がシカゴブルーズの首領(ドン)と呼ばれ、海を隔てたイギリスのスーパーバンド、ローリング・ストーンズの生まれるきっかけともなったマディ・ウォーターズです。

来歴

本名はマッキンリー・モーガンフィールド、1913年4月4日にミシシッピ州イサケーナ郡に生まれました。
「Muddy Water=泥水」いうのはすごいネーミングですが子供の頃、泥水で遊ぶのが好きだったのでそういうニックネームで呼ばれたそうです。

アメリカでは1940年代あたりから、工業の発達とともに南部で農業に従事していたアフリカン・アメリカンが北部の都市、シカゴやデトロイトに移り住むようになります。
都会のクラブで演奏するようになるとより大きい音が好まれるようになり、ブルーズもエレクトリック化されていきます。
それがシカゴ・ブルーズなるジャンルを作っていくのですが、そのレコードにおける中心レーベルが「チェス・レコード」であり、そこの中心人物が「マディ・ウォーターズ」です。

マディは1930年はじめ頃からミュージシャンとして活動を始めます。といってもビッグ・ジョー・ウィリアムスというデルタブルーズのミュージシャンに同行してハープ(ハーモニカ)を演奏していました。伝説のロバート・ジョンソンに師事していた時期もあったそうです。
そして1943年にシカゴに移ります。

はじめはご当地シカゴの人気ブルーズマン、ビッグ・ビル・ブルンジーに世話してもらいます。
そうしてシカゴでウィリー ・ディクソンやリトル・ウォルター、ジミー・ロジャース、オーティス ・スパンなどとバンドを結成しシカゴのクラブで評判となり、成功します。

成功といっても当時のブルーズ・コミュニティ内のことです。
この時代のブルーズマンは一様に「音楽で財を成す」とまではいかなかったようです。
真価が理解されるのは1960年代になってロックの著名ミュージシャンたちからリスペクトを受けるようになってからです。

1960年代に入るとイギリスでアメリカのロックンロール、ブルーズが若者の間で流行していました。
同じ電車に乗っていたミック・ジャガーとキース・リチャーズ少年は、ミックがチャック・ベリーやマディ・ウォーターズのアルバムをもっていたことで知り合いになります。
意気投合した二人は念願のバンドを結成するにあたり、バンド名にマディ・ウォーターズの歌詞の1節を取り入れて「ザ・ローリング・ストーンズ」としました。
レコードデビューを果たし、ミュージシャンとして成功したストーンズは憧れのマディ・ウォーターズに会いに行きます。
そのとき彼は仕事がないのでペンキ塗装の職人をやっていたという逸話があります。

ブルーズを象徴しているミュージシャンを3人挙げろと言われれば、私の場合はマディ・ウォーターズ、ライトニン・ホプキンス、ロバート・ジョンソンが思い浮かびます。
好き嫌いは別にして(好きですが)タイプは違うけれどアフリカン・アメリカンの意識、生活感、そして何よりブルーズの「タフ=したたかさ」を象徴している3人と思っています。

この「The Best Of Muddy Waters」はLPレコードが制作され始めた1958年発売ですが1948年から1954年までのシングル集になります。
いろんなブルーズ の評論家、愛好者の皆さんも押し並べてブルーズ の代表的なアルバムとして絶賛しています。
聴けば全くもってその通りで否定しようのない大名盤です。

ブルーズの一般的なイメージである「苦悩、悲しみを唄うブルーズ 」とは違って、堂々たる態度、歌い方、演奏に驚きます。
さぞかし親分肌でみんなから尊敬されていたんだろうと思います。
シカゴ・ブルーズはバンドスタイルでもあるので、この後生まれるロックとの相性も抜群です。

1960年代は若干時代に合わせた音楽を演ってみたり、イギリスのロックミュージシャンとセッションをしたりして活動しました。
1970年代に入るとジョニー ・ウインターが支えて、というか行動を共にして活動しました。
晩年もいろんなミュージシャンから尊敬され、白人聴衆相手に(今となってはこういう表現もどうかと思いますが)活躍しました。
1983年4月30日イリノイ州ウエストモントにて、70歳でご逝去されました。

アルバム「ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」のご紹介です。

演奏

マディ・ウォーターズ  ヴォーカル、ギター
アーネスト・ “ビッグ”・クロフォード  ベース Tr. 2,3,4,9,12
ウィリー・ディクソン  ベース Tr. 1,6,7
リトル・ウォルター  ハーモニカ Tr. 1,2,3,6,7,8,10  ギター Tr. 11
ウォルター・ “シェイキー”・ホートン  ハーモニカ Tr. 9
ジミー・ロジャース  ギター Tr. 1,4,6,7,9,10
オーティス・スパン  ピアノ Tr. 1,6,7,9,10
フレッド・ビロウ  ドラムス Tr. 1,6,7
Elgin Evans  ワッシュボード Tr. 3  ドラムス Tr. 9,10
レーナード・チェス  バスドラム Tr. 8,11


曲目
*参考としてyoutube音源をリンクさせていただきます。ライヴ動画も含めてお楽しみください。


1,   I Just Want To Make Love To You  アイ・ウォント・トゥ・メイク・ラヴ・トゥ・ユー

力強く、堂々と言いたいことを言う、このことが当時の抑圧されたアフリカン・アメリカンに響きました。今聴いてもすごい説得力です。マディ・ウォーターズを象徴する曲です。


2,   Long Distance Call  ロング・ディスタンス・コール

スライドギターが独特です。ブルーズ ハープ との相性もバッチリで切々と歌い上げます。



3,   Louisiana Blues  ルイジアナ・ブルーズ

これもなんともいえないギターソロです。大きく分ければローリン・アンド・タンブリン調です。Mojo Handというブルーズのキーワードが出てきます。


4,   Honey Bee  ハニー・ビー

大きなリズムで曲が進行する中、音程崩しのスライドギターソロが出てきます。これがたまりません。



5,   Rollin’ Stone  ローリン・ストーン

エレキギター弾き語りです。フリーキーです。ミックもキースも聴き狂ったであろうブルーズです。これも他にはないマディ・ウォーターズの世界です。CDでは曲はなぜか唐突に終わります。



6,   I’m Ready  アイム・レディ

ドラムも入ってリズミカルなダンスチューンです。やはりシカゴブルーズにはハープが似合います。


7,   (I’m Your ) Hooch Coochie Man  (アイム・ユア)フーチ・クーチ・マン

これもマディの代表曲です。シカゴブルーズの古典です。



8,  She Moves Me  シー・ムーヴス・ミー

ドラムセットではなくチェス・レコードのオーナーが叩くバスドラのみです。ブルーズバンドの初期形態です。


9,  I Want You To Love Me  アイ・ウォント・ユー・トゥ・ラヴ・ミー

フーチ・クーチ・マン調の曲です。リズムがスカスカで別の味わいがあります。


10,  Standing Around Crying  スタンディング・アラウンド・クライング

出だしのギターだけで力が抜けていきます。いいなあ。


11,  Still A Fool スティル・ア・フール

力強いヴォーカルです。マニッシュ・ボーイ風でもあります。


12,  I Can’t Be Satisfied アイ・キャント・ビー・サティスファイド

曲のフレーズにあまり共通点はありませんが、ローリング・ストーンズの「サティスファクション」のイメージの元はこれだと思います。


13,  Rollin’ Stone (Alternative Take) ローリン・ストーン(オルタネートテイク)

オリジナルに比べるとギターのトーンがやや明るいです。悪くはありませんがこちらの方が初期バージョンと思われます。


14,  Hooch Coochi Man (Alternative Take) フーチ・クーチ・マン(オルタネートテイク)

トラック13の「ローリン・ストーン」と同じ質感です。



15,  Rollin’ And Tumblin’ Part1 ローリン・アンド・タンブリン・パート1

これもマディ・ウォーターズらしい曲です。


16,  Rollin’ And Tumblin’ Part2 ローリン・アンド・タンブリン・パート2

こちらは素晴らしいギターソロが出てきます。


17,  Baby Please Don’t Go ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー

ブルーズスタンダード、シカゴブルーズの古典です。完成されたスタイルになってます。



18,  Manish Boy マニッシュ・ボーイ

「フーチ・クーチ・マン」と並び代表曲です。マセガキの唄です。全員ノッてます。強く生きていくにはハッタリも必要なんです。興奮したバックの奇声も聞こえます。ライブでは受ける曲です。



19,  Look What You’ve Done ルック・ホワッツ・ユーヴ・ダン

まずらしくどブルーズという歌い方ではありません。バックは安定のシカゴブルーズスタイルです。


20,  Got My Mojo Workin’ Part2 ガット・マイ・モジョ・ウォーキン・パート2

この曲がないとライブが終われません。という定番の曲です。この凄まじい盛り上がりの中で終焉を迎えます。

内容が違うものもあるようですが、私の持っているものは全20曲、怒涛の名曲が並びます。

演奏はシカゴ・ブルースの基本であるバンド編成でギター、ベース、ドラムス、ピアノ、そしてハープが加わる形態となります。

男気に溢れたボーカルとズンドコなバックビートのリズムに合わせて、エレキギターで超絶スライド奏法をします。
私がギターで全く同じことをやってもただのヘタと一笑に付されてしまいそうですが、マディのはそのリズムや音程のズレまで含めて聴く人の神経、脳味噌をかきまわし、何かものすごい説得力を持って迫ってきます。4曲目の「Honey Bee」のスライドがまさにそれです。

これが好きなってしまった貴兄には次に「リアル・フォーク・ブルース」もおすすめです。この抗うことができないような超個性は結構病みつきになるかもしれません。

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