「歴史的名盤というより、ジャズギターの名手による慈愛溢れる作品集」The Classic Roost Album Collection : Johnny Smith / ザ・クラシック・ルースト・アルバム・コレクション : ジョニー・スミス

 数年前になりますが、廉価版CDボックスセットを見ていたら「Classic Roost Album Collection」が見つかりました。
ジョニー・スミスの8枚分のアルバムをCD4枚に収めて、2,000円未満です。
ということはアルバム1枚250円程度で手に入ります。早速取り寄せて聞きました。

そこでとりあえずは一番有名な「バーモントの月」のご紹介です。

ジャズ 界で高名なギタリストというと、ウエス ・モンゴメリー、ジム・ホール、ケニー・バレル、パット・メセニー、ジョージ・ベンソンなどです。趣味的にグラント・グリーンとかジュリアン・ラージとかを思い浮かべる人がいるかもしれません。

でも日本ではほとんど出てこないギタリストがいます。
そう、このウエスト・コースト・ジャズのギタリスト、ジョニー・スミスです。
日本でのギタリストとしての評価、認知度はカウント・ベイシー 楽団のリズム・ギターに徹した “四つ切り” ギタリスト、フレディ・グリーン並ではないでしょうか。(ちなみに私はそういう超個性的なギタリストに惹かれます。フレディ・グリーンもいずれ紹介します。)

なのでジョニー・スミスは音楽雑誌でジャズの歴史とかギタリスト特集をやってもなかなか出てきません。そういう私も名前くらいは聴いたことがありましたが、ありきたりな名前のためかすぐに忘れて、あえて聴いてみたいと思うこともなく今まで来ました。

で、早速聴いてみました。
ギターの音はまろやかです。綺麗なハーモニクスで流麗に音を繋いでいきます。音に埋れていく時間です。

ふと、気付きました。いつも音楽を聴くときは常に真剣に向き合おうとしています。ある意味対決姿勢です。それでこそより深い理解、共鳴、感動が得られると思っているところがあります。真剣に慣れない音楽はただのBGMなので聞くことはあっても、聴くことはないと。・・・勝手に思っていました。

でもジョニー・スミスの場合、確かに聞き流せばBGMです。音質的に大きくしても邪魔にならない、神経が過敏に反応しない音ですので、ちょっと大きくして見ました。

そうすると音を聴くとか、楽しむとかそういうことではなく、ただただジョニー・スミスの作る音の空間に自分が居る。華麗なギターのハーモニクス音に飲み込まれて埋没している感覚なのです。
癒しの空間とかヒーリング・ミュージックとはちょっと違います。もっとリアルで真摯な存在を感じさせる音です。

スピーカーを挟んでアーティストと対峙せずに、ただただ音楽に埋もれる。
こういう聴き方のできる音楽もあるのですね。

そういうジョニー・スミスの紹介をします。と言っても情報が少ないので、WIKIからの受け売りです。
派手ではありませんが実に絵になる男の人生です。

来歴 

1922年6月25日、アラバマ州バーミンガムに生まれました。大恐慌時代であったため、引越しを繰り返して落ち着いたのはメイン州ポートランドにたどり着きます。
そこでスミスは質屋でギターのチューニングと調整をすることを条件にギターを練習させてもらいます。更に13歳で人にギターを教えていたそうです。

スミスに教えてもらっていた人が新しいギターを買った時、古いギターが要らなくなったのでスミスにあげました。これがスミスが初めて所有したギターだそうです。

・ギターの先生がギターを持っていなかったのですね。

スミスは地元のヒルビリーバンド「アンクル・レム・アンド・マウンテン・ボーイズ」に加入してメイン州をツアーして回ります。一晩で4ドル稼げるようになったスミスは高校を中退しました。

友人のパイロットから飛行機の操縦を教えてもらったスミスは米国陸軍航空隊に入隊します。
しかし生来、左目が完全な視力ではなかったため、パイロットのプログラムから外されます。
軍楽隊に行くか整備士になるかの2択を迫られたスミスは軍楽隊を希望しますが、楽譜も読めません。
何かと基準に満たない状況ですが、何とか2週間の猶予を与えられました。
バンドリーダーの勧めで読譜とコルネット演奏(練習はトイレでやった)をマスターして試験に合格しました。

・この人は楽譜も読めず、ギターも持っていないのに人に教えていたのですね。

除隊後は1946年から1951年までNBCのスタジオギタリスト、それから1958年まではフリーランスとしてソロからオーケストラまで様々な演奏に参加します。

ジョニー・スミスの作曲した有名な曲としてはチェット・アトキンス経由のザ・ヴェンチャーズで有名な「ウォーク・ドント・ラン」があります。

もっとも評価の高いアルバムとしては「バーモントの月 – Moonlight In Vermont 」が挙げられます。

1957年に奥さんが2番目の子供の出産時にともに亡くなってしまいます。スミスは長女と暮らすためにコロラド州コロラドスプリングスに移り住みます。音楽的にはニューヨークは好きだが、そこで暮らしたくないと答えています。

レコーディングは続けましたが演奏活動は依頼、招待を蹴って地元のパブなどの生活圏内だけにしました。
例外的に1977年にビング・クロスビーのツアーには参加しました。

2013年6月11日、コロラド州で亡くなられました。90歳です。

彼の名前をつけたギターがあります。デザイン、色合いからなんとなく彼の佇まいが想像されます。

引用元

The Guild and Gibson Johnny Smith Models | Vintage Guitar® magazine
The name “Johnny Smith” is synonymous with class, elegance, and style. Most guitar players are familiar, if not with the man or his music, certainly with the gu...

右 Gibson Johnny Smith Model
左 Guild Johnny Smith Award

演奏
ジョニー・スミス ギター 
スタン・ゲッツ テナーサックス Tr.1-4,9-12
ズート・シムズ テナーサックス 
ポール・キニシェット テナーサックス
ボブ・カーター コントラバス 
アーノルド・フィッシュカインド ベース 
エディ・サフランスキー ベース 
モーリー・フェルド ドラムス 
ドン・ラモンド ドラムス 

制作
マルコム・アディ マスタリング 
マイケル・カククーナ リイシュープロデューサー 
ボブ・ペアレント デザイン、写真 
テディ・レイグ プロデューサー 
パトリック・ロック リイシューデザイン 
ピート・ウエルディング ライナーノーツ 

曲目
曲目が若干違いますが、youtube音源をリンクさせていただきます。

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M-1 Where Or When / ホエア・オア・ホエン
(作 リチャード・ロジャース、ロレンツ・ハート)

1937年に発表されたミュージカルの曲です。なんとも和むような味わいです。終盤にスタン・ゲッツのサックスが登場します。

M-2 Tabu / タブー
(作 マルガリータ・レクオーナ、ボブ・ラッセル、アル・スティルマン)

早いパッセージの曲です。ホーンとユニゾンでフレーズを弾いていきます。みんなでソロを回して最後は始まりとは違ったフレーズで締めます。

M-3 Moonlight In Vermont / ヴァーモントの月
(作 ジョン・ブラックバーン、カール・ズースドルフ)

1944年に作られた曲です。愛しむように奏でます。

M-4 Jaguar / ジャガー
(作 ジョニー・スミス)

軽快に飛ばしていきます。でもいつものようにあまり前に出てこないギターがいい感じです。

M-5 I Don’t Stand a Ghost of a Chance With You / アイ・ドント・スタンド・ア・ゴースト・オブ・ア・チャンス・ウィズ・ユー
(作 ビング・クロスビー、ネッド・ワシントン、ビクター・ヤング)

1932年に発表されたスタンダードです。歌うギターが堪能できます。

M-6 Vilja / ヴィリア
(作 フランツ・レハール)

これもギターで歌い上げる曲です。

M-7 Sometimes I’m Happy / サムタイムズ・アイム・ハッピー
(作 アーヴィング・シーザー、クリフォード・グレイ、ヴィンセント・ユーマンズ)

1923年に発表された曲です。タイトル通りハッピーな気分とブルーな気分が表れています。

M-8 Stars Fell On Alabama / アラバマに星落ちて
(作 ミッチェル・パリッシュ、フランク・パーキンス)

1934年に発表されたジャズスタンダードです。

M-9 Nice Work If You Can Get It / ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット
(作 ジョージ・ガーシュイン、アイラ・ガーシュイン)

ガーシュインによるミュージカル曲です。この曲ではギターはそれほどでしゃばりません。

M-10 Tenderly / テンダリー
(作 ウォルター・グロス、ジャック・ローレンス)

いろんなジャズ・ミュージシャンがカバーしている1946年に書かれたスタンダードです。

M-11 Cavu / カヴー
(作 ジョニー・スミス)

ジョニー・スミスのオリジナルで軽快な曲です。航空用語でceiling and visibility unlimitedの略で「視界良好」という意味だそうです。

M-12 I’ll Be Around / アイル・ビー・アラウンド
(作 アレック・ワイルダー)

同じタイトルでスピナーズというヴォーカルグループのヒット曲があります。似ているけど作者が違うので違う曲なのでしょう。
こちらはだいぶメロウな感じで進みます。

M-13 Yesterdays / イエスタデイズ
(作 オットー・ハーバック、ジェローム・カーン)

これも有名なスタンダードです。1933年に書かれたミュージカル曲でバーブラ・ストライザンド、ビリー・ホリディ、マイルス・デイヴィス、オスカー・ピーターソンなどもカバーしています。

M-14 Cherokee / チェロキー
(作 レイ・ノーブル)

チャーリー・パーカーによるスタンダードです。

M-15 What’s New / ホワッツ・ニュー
(作 ジョニー・バーク、ボブ・ハガード)

これも有名なスタンダードです。ホーンで演ると歌い上げる感じになるのですが、ここではソフト・アンド・メロウにアレンジしています。

M-16 I Remember April / アイ・リメンバー・エイプリル
(作 ジーン・デ・ポール、パトリシア・ジョンストン、ドン・レイ)

1941年に書かれたポピュラーソングで、ジャズスタンダードとして多くのカバーがあります。

M-17 Lulaby of Birdland / バードランドの子守唄
(作 ジョージ・シアリング、ジョージ・デヴィッド・ワイス)

サラ・ヴォーンでお馴染みの名曲です。最後のこの曲はギターによるデュエットで演奏しています。

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